聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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バッチ―ン!!

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部屋が見事なまでにぐちゃぐちゃになっていた。
椅子やテーブルはひっくり返り、カーテンはびりびりに破かれ、飾られていた花瓶は粉々になって床に散らばり、歴史書がぎっちりと並んでいた本棚は倒され、その本は倒された衝撃で床にあちこちに転がっている。私たちが居心地よく座っていたベッドもナイフか何かで切り裂かれたのか、中身の羽や綿が床にまで飛び散っていた。

泥棒に入られたような最悪な惨状だった。
しかし、私があんぐりと無意識に口を開いてしまった要因は部屋がぐちゃぐちゃになっていたことだけではなかった。むしろ、もう一つの要因が私の目をくぎ付けにさせた。

実は部屋の中は無人ではなかった。

メイド三人、令嬢一人、そして夏芽がいた。
夏芽はその令嬢の胸倉を無表情で両手で掴み上げ、軽い宙ぶらりん状態にしている。

「う、ぐぐ、うぐ」

令嬢は呻き声を上げながら、足をバタバタと動かしていた。メイド3人は恐怖で体が硬直しているようで、その場にへたり込んでいる。想定外の光景に私は5秒ほどぽかんと口を開けた。

「………何この面白すぎる光景」

頭にすぐに浮かんだ感想がこれだった。私はもう二度と良いシャッターチャンスは逃がすまいと思い、スマホを持ち上げ、部屋の中にいる全員がフレームに収まるようにすると、シャッターボタンを押した。

カシャン、とした音に驚いた全員が一斉に私のほうに振り向く。
夏芽もだった。

夏芽は驚いた拍子に令嬢の胸倉をパッと離す。

「ごほっ、ごほっ」

「お、お嬢様!」

せき込む令嬢にハッとしたメイド三人は駆け寄る。

さて、この状況は一体なんだろうね。
私は状況を把握するために部屋の中に進んだ。

ん?そういえばあの令嬢、どこかで見たような………。

目がチカチカするほどの金色のドレス、高そうな宝石、ドリル巻きのツインテール。

ああ、そうだよ。なんですぐにわからなかったんだろう。
バルコニーで取り巻きたちに囲まれていた、あのコロネ令嬢だ。

へぇ、コロネ令嬢ってこんな顔してたんだ。茶色の吊り上がった瞳を持ったきつめの印象を抱かせる美人。所謂、典型的な「悪役令嬢系顔」だった。

このメイド三人もあの庭園にいたような、いなかったような………。
まぁ、いいや。たぶん、このメイドたちはこのコロネ令嬢専属のメイドなんだろう。

「ねぇ、これは一体何事?」

私はムスッとした顔でコロネ令嬢を見下す夏芽に近寄った。
私も夏芽と同じようなムスッとした顔を向ける。

「部屋の中ぐちゃぐちゃじゃん。夏芽が暴れるのは勝手だけど、この部屋で暴れるのは勘弁してほしかったな。私だってこの部屋で寝るんだからね。後片付けは一人でやってよ」

「違う」

夏芽は私のほうを見ずにきっぱりと言い放った。

「違う?」

夏芽はビシッとメイド3人とコロネ令嬢を順番に指差した。

「あ、この部屋をこんな有様にした犯人ってこの人たちってこと?」

「扉を開けた瞬間、こいつらが椅子をひっくり返してた」

夏芽はスッと目を細める。視線を向けられている四人は一切否定をしない。
つまり、図星ということだ。

「マジかい。ひっどい嫌がらせ。一応、王宮で保護の対象になっている聖女の部屋をこんなに荒らしちゃ駄目なんじゃないの?ここまでされるほどあんたらに恨まれるようなことしたっけ?」

バルコニーで視線を交わしたことを除けば、このコロネ令嬢とは初対面のはず。
いろいろやらかしてきた自覚はあるけど、この令嬢に部屋の中をめちゃめちゃにされるほどの個人的な恨みを買った覚えはなかった。

「…………な、何が聖女よ」

コロネ令嬢は地の這うような声でぼそりと呟く。

「おお、しゃべった」

コロネ令嬢はバッと顔を上げ、立ち上がった。その吊り上がった目には涙が溜まっている。

「何が聖女よ!私はあなたたちが聖女なんて絶対認めないわ!ああ、もう、やっぱり私の思っていた通りだったわ!召喚の儀の時、ひと目で野蛮な娘たちって思ったんだから!そもそも、異世界人が聖女なんて得体のしれないものに頼るのが間違いだったんだわ!もっと、お父様にそう進言すべきだった。そうすれば、あの方だってあんな目に遭わずに済んだんだから!」

「はぁ?あの方?」

「殿下のことよ!私はあの方の婚約者なの!あなたたちのせいで殿下は伏せっておいでになるの!私にも会ってくださらないのよ!絶対に許さないんだから!!」

「ああ、そゆこと」

だから、バルコニーで目が会った時にあんなに睨んでたんだ。
ていうか、いたんだこのコロネ令嬢。召喚された、あの場に。

まったく、覚えてないけど。王子の婚約者ってことは爵位はかなり上の令嬢なのかな。

「だから、メイドと一緒になってこういう嫌がらせを私らにしようって考えたんだ?」

「そうよ!聖女だからといっていつまでもいい気になるんじゃないわよ!あなたたちのような異世界人にはこの部屋がお似合いなのよ!」

「ちっ、うるせーな」

コロネ令嬢のキャンキャンうるさい喚き声に夏芽は私にしか聞こえない声で苛立ち交じりに呟いた。

気持ちはわかるけど。ちょっとだけ我慢して。
コロネ令嬢に聞きたいことがあるから。

「もしかして、王宮内で変な噂を流したのってあなた?」

「ふん、だったらなんだっていうのよ!私は本当のことを言っていただけよ!仕返しでもするつもり?私に何かしたらいくら聖女と言えど宰相公爵である父が黙っていないわよ!」

コロネ令嬢はまったく悪びれる様子もなく、言い放った。

うわぁ、開き直ったこのチョココロネ頭。
ていうか、公爵令嬢だったんだ。

ふぅん、この令嬢が噂をあることないこと噂を振りまいてたんだ。
なるほどというか、やっぱりというか。

変だと思ったんだよ。たとえ、異世界人に偏見を持っていても、一応聖女は国にとって重要な存在。そんな聖女を愚弄するということは、聖女を匿っている王族を愚弄するにも等しい。あの令嬢たちがそれをわかっていたのかいなかったのかはわからないけど、あまりにも聖女を軽く扱っているように見えた。

なんでかな、とちょっと思っていたけど合点がいった。

公爵家の令嬢がいの一番にそういう扱い方をしたからだろう。公爵って、たしか爵位のトップに位置する身分だったはず。そんな人間の言葉ってかなりの影響力があると思う。聖女の話を聞かされた人間がコロネ令嬢の取り巻きだったら、尚更ご機嫌取ろうと話に乗っかろうとするだろうね。

学校のカースト制度と似ているかも。トップカーストのボスが一人のクラスメイトの陰口をいえば、瞬く間にクラス中に広がり、腫れもの扱いされる構図と。トップカーストに目を付けられると、腫れ物扱いしなくちゃいけないという空気ができあがる。

人の陰口を言っているときが一番盛り上がるっていうところは、異世界だろうがどこでも同じなんだね。

「一応、私らの存在って秘匿しなくちゃいけないことなんでしょ?それなのにペラペラペラペラ人にしゃべっちゃ駄目なんじゃない?」

「私は間違ったことなんてしていないわ!私は殿下の婚約者よ!未来の王妃に意見なんて誰もしないはずだわ!」

傲慢な言い方に微妙に鼻につく。

「私は殿下の、いいえ王宮のためにしているのよ!秘匿なんてするべきじゃないわ!もっともっとたくさんの人間にあなたたちの悪行の数々を知らせるべきなのよ!」

コロネ令嬢はわめき続ける。私はちらりと夏芽の様子を窺う。

あ~らら、コロネ令嬢そろそろやめといたほうがいいと思うよ。

「聖女がただのごく潰しの双子だって王宮中に知れ渡れば、追い出すことだってできるはず!私は知っているわ!あなたたち双子が本来、召喚されるべき聖女ではないことを!そして、異世界に帰還させる方法を神官や貴族たちが協議していることを!でも、私はこう思うの!あなたたちなんかのために神官や魔術師の魔力を浪費するなんてもったいないって。なんで、王宮の人間があなたたちのために動かなくちゃいけないのよ!還さなくても、違う聖女を召喚する方法はきっとあるはずよ!それよりも、まずは王宮内に害悪を振りまいている双子を追い出すことを考えるべきなのよ!」

あ~あ、やめなって。これ以上は限界っぽいよ。

「絶対に追い出してやるんだから。お父様の力があれば今日中にも―」

バッチ―ン!!

おお、私よりもいい音。
夏芽はコロネ令嬢を目にもとまらぬ速さでビンタした。




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