聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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「君、そんなんだからいじめらるんだよ」

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庭園に出て、私は空を見上げる。

「今日は帰還するのになんて………微妙な天気なんだろう」

鉛のような空に太陽を覆った大きな灰色の雲。
曇りと雨の中間ぐらいの空模様だ。

別に天気にいちいちいちゃもんつけようとは思わないけど、せっかくの帰還日なんだから晴れ模様がよかった。昨日の天気と今日の天気を入れ替えてほしい。
まぁ、いいや。天気の愚痴はここまでとしよう。

私たちはリオン君を探すために庭園に出ていた。

「えっと、あの二人が言うには西側にある低い木の陰によくいるって言ってたよね」

私は辺りを見回す。そして歩きながらスマホを掲げ、色とりどりの花々が咲き誇っている庭園の景色を一枚、また一枚撮った。

「この庭園とも見納めか」

スマホは使えないわ、娯楽はないわ、家電はないわ、美味しくない料理を食べなきゃいけないわの散々尽くしの滞在だった。でも、このおとぎ話の舞台になるようなメルヘンチックな庭園はそれなりに気に入っていた。もう二度とこの異世界にお呼ばれなんてされたくないのは間違いないが、もうこの庭園を見て回ることがないと考えるとちょっぴりだが、名残惜しくもあった。足を進ませていくと、そこかしこにあった花々はちらほらしか見えなくなり、ついには常緑樹の低木と高木だけしか見えなくなっていった。私はそれをカメラ機能越しでずっと庭園を眺めていた。しばらくは緑一色の景色だったが、ふと一際目立つオレンジ色の何かをカメラで捉えた。
一瞬、オレンジ色の花だと思ったが、すぐにその考えを打ち消した。

私はスマホを下げる。

「いた」

私たちは木を背にして座りながら、白いロープに金の糸で刺繍をちくちくと入れているリオンを見つけた。
リオン君は刺繍に夢中で私たちに気づいていない様子。

「おおすっごい細かくて、きれい。刺繍が得意ってマジだったんだ」

ひょいとリオン君の手元にある魔法陣の刺繍を除いた私は無意識に声を出した。

「わっ!」

私の声に驚いたリオン君は針を落としそうになった。

「え、ナツメさま、ミフユさま?」

「こんちわ、リオン君」

顔を上げ、私たちと目を合わせたリオン君はやりかけていた刺繍のローブを横に置き、立ち上がった。

「すごいね、それ。もうすぐ完成っぽいじゃん」

私は未完成の刺繍を見て心の中で拍手した。下地もないのに、まったくいびつになってない。あの円の部分なんて見事としか言いようがないわ。たった一日でやるなんて、マジですごい。

そんなちまちまとした作業、私だったら絶対できない。
生きてきた中で裁縫なんてやったことがないから、感服してしまう。

「あ、ありがとうございます」

「私ら、リオン君を探してたんだ。それでさ―」

「あの!」

リオン君が私の言葉を遮った。

「お二人は今日、元の世界に還られるんですよね?」

「うん、そうだけど」

「あ………あの、あの」

リオン君は縋るような表情で私を見上げてきた。私たちに懇願するみたいにぎゅっと力いっぱい手を組む。私たちにどうしても伝えたいことがある、とわかりやすいくらい態度に出ている。
その内容はとうにわかっている。

二人にリオン君のことを聞きだしたから。

よっぽど口に出すことを躊躇っているのか口を開いては閉じて、開いては閉じてをずっと繰り返していた。そして、一呼吸を置いたリオン君はやっと言葉を綴ろうとする。

「あの、本当によかったです。お二人が元に世界に還られることができて」

………あ、そっちにするんだ。さんざん言い淀んだ結果、「いい子」を選ぶんだ。
わざとらしい満面な笑みに鼻で笑いそうになった。

予想通りとはいえ、やっぱりリオン君ってそういうタイプなのね。

私はちらりと夏芽の様子を窺ってみた。夏芽は無言でリオン君を見下ろしている。じっと品定めするかのように見つめ続けられているリオン君は、どこか居心地の悪さを感じているらしく夏芽とはできるだけ、目を合わさないようにしている。

「それだけ?」

「え?」

「それだけ?私らに言いたいことって」

「は、はい………………あの、さっきは話を遮ってごめんなさい。僕を探していたんですよね。あの、あの、なんでも言ってください………あ、いえ、ごめんなさい。すぐには無理かもしれません。僕にはまだ、仕事が残っているので。できるだけ早く、仕事を終わらせますので。だから、あの―――」

「すっごい、早口。そして『あの』が多すぎ」

「え」

「君、そんなんだからいじめらるんだよ」

「………………え」

「だから、私が言いたいのは――」

「マヨネーズ」

おお、びっくりした。急にしゃべったから。
今度は夏芽が私の言葉を遮った。私とリオン君はパッと同時に夏芽を見る。

夏芽はリオン君に一歩近づき、再び口を開いた。

「マヨネーズ作れ」

「マヨネーズ………ですか?あの、一昨日作った――」

夏芽はまた、一歩近づいた。夏芽とリオン君の距離は数センチだ。

「マヨネーズ」

数センチの距離で見下ろしている夏芽に圧倒されたのか、リオン君は一歩距離を取った。

「ご、ごめんなさい。さっきも言いましたが今すぐは無理です。僕にはまだ、仕事が残ってて」

「知るか、作れ、今、命令」

「………で、でも」

「………」

あ~あ夏芽、イライラし始めてる。夏芽だけじゃ、埒が明かないな。

私はリオン君の後ろにある地面に置かれた、やりかけの刺繍の入った白いローブに目をやった。よく見ると、そのすぐ傍に白いロープが二枚積み重なっている。
上のロープは下にあるロープより一回り小さく、すでに刺繍入れが完成したものだとすぐわかった。そして、小さいロープがリオン君のものだとも。

「上のローブ、リオン君のでしょ?できてるじゃん。だったら、今からマヨネーズ作りできるじゃん」

「たしかに僕の分は終わりましたけど、あと二枚まだローブに刺繍を入れなくてはいけなくて」

「それ、本来だったら君の仕事じゃないでしょう?あいつら二人の仕事でしょう?」

「え、あいつらって」

「さっき会った。気分が悪くて裁縫できないからリオン君に頼んだらしいね。あの二人、まったく気分悪そうにしてなかったよ。むしろ、おしゃべりしてた」

「そう………ですか」

あまり驚かないんだね。ていうか、予想していたみたい。
二人がサボるってわかっているくせに、なんで代わりにやろうとするんだろう。
おバカだね。

「二人に君がここにいるって聞いたの。で、もうすぐその二人がここにくるから」

「え」

「言ったんだ。私らリオン君に大事な大事な用があるから、ローブの刺繍は自分らでやってって。だから、安心してマヨネーズが作れるよ」

もうすぐとは言ったけど、あと十分くらいはかかるかな。
ほんのちょっと私ら二人で顔と体にバチンとボコッを5発くらい入れちゃったから。

いや、7発だったな。じゃあ、三十分か。

「………え………え」

リオン君は困惑気味に私と夏芽の顔を交互に見る。そんなリオン君に私とずいっと顔を近づけた。

「言っとくけど、君に他の仕事があろうがなかろうが私らのことを優先してもらうよ。これは決定事項だから。だって、私らもう還るんだよ。還る私たちを何よりも優先するのは普通のことだよ。優先して、ていうか見習でも神官だったら聖女の私たちを優先しなさい」

「………で、でも」

さらに私はずずい、と顔を近づけた。
もうおでこがくっつくんじゃないかと思うほどの近さ。
うわぁ、子供と言えど男のくせにやっぱり肌きれいだな、それにまつ毛も長い。
くっそ、なんだか憎たらしくなってきた。

「早く首を縦に振って。私らをこれ以上イライラさせないで」

「あ………は、はい」

「よし」

無意識的だろうが気圧されたせいだろうが、頷かせればあとはこっちのものだ。
私たちは二枚のローブをその場に残し、一緒に移動した。
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