聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

文字の大きさ
64 / 68

事実は小説よりも奇なりだ

しおりを挟む

ベッドに仰向けになりながらスマホを持ち上げる。

「相変らずの圏外……」

私はそのままスマホを振る。

「振ってもやっぱり圏外」

そのまま起き上がる。

「起きてもやっぱり圏外」

そして、再びベッドに仰向けになり、ごろりと一回転する。

「回転しても圏外……これ何度繰り返すんだよ、私。ってこのセリフもさっき言ったか」

もうこの動作、帰ってから三十回くらい繰り返している気がする。
落ち着きがなさすぎるって、私。

私は一度深呼吸し、部屋の掛け時計を見た。

9時42分。

「あと18分」

私はがばっと起き上がり、今か今かと扉に向かってベッドに腰掛ける。
そろそろだ。あともう少しでちょっと習慣になりつつあった変な動作ともおさらばできる。

「おっと、夏芽を起こさないと」

夏芽は王宮に戻ってこの賓客の間のベッドに下ろしてから現在、ずっとぐーぐー寝ている。

今日還るってことわかってるよね、夏芽。

私は思いっきりばんばんと夏芽の体を叩く。

「ちょっと夏芽、そろそろ……ていうかいい加減起きなって」

「……」

「あと少しで10時なんだから。王宮に還った時、説明されたの忘れたの?」

「……」

あ、夏芽は寝てたから聞いてないか。

「私、もう夏芽を背負うのヤダからね」

「……」

起きない。こうなったら最後の手段。

「マヨネーズはもういいんだね?還ったらマヨネーズ食べ放題だよ……うおっ!?」

マヨネーズの話題を言った途端、夏芽はがばっと勢いよく起き上がった。
さすがマヨラー。起きるのに2秒もかかってなかった。

「……マヨ……起きる……還る」

「夏芽、わかってる?あと数分で大司教が迎えに来るよ。10時までに召喚された場所にいかなくちゃいけないんだから」

「……ん、還る」

夏芽はふらふらと今にもベッドにダイブしそうなくらいにうつらうつらしている。
私の声が届いているのか届いていないのかわからないが、一応今夜還るってことはわかっているみたい。

夏芽を背負って王宮に着いたのは17時30分。リオンと一緒にいるところを見られたら面倒なので、リオン君には私が王宮に入った後、5分後に入るように言った。

こっそりと王宮を抜け出せたからこっそりと戻ってもバレないだろうと思った。
そう思っていた私の見通しが甘かった。抜け出していたことがバレていた。

さすがに帰還の準備に勤しんでいる理由の二人が数時間も賓客の間から居なくなって気づかないほど王宮の連中はマヌケじゃなかったみたい。マヌケでよかったのに。

王宮の連中、物凄い形相してたな。
『なんでいなくなったのか』『どこに言っていたのか』と連射攻撃の嵐だった。

めちゃくちゃうざかったけど、そりゃ私ら二人がいなかったら焦るか。何時間もかけて帰還の儀を準備したのに肝心な双子がいなかったら、全部台無しになるからね。

最後の最後くらいは連中の小言を少しは受けてやろうとは思ったけど、あまりにもくどい連射攻撃に十秒で飽き、これ以上しつこく聞こうものならぶん殴るぞという意味を込めてひと睨みしたら予想に違わず連中はすぐに黙り、それ以上追及はされなかった。

気がちっちゃい奴らで助かったわ。説明とか言い訳とかの余計な面倒や手間が省けるから。

私は改めて、帰還の儀についての説明をされた。

帰還の儀は召喚の儀と同じ場所である王座の間で執り行われる。その時刻は夜の10時。これも召喚の儀のときと同じ時刻。でも、詠唱呪文の唱え方は召喚の儀のときとやり方が少し違うらしい。召喚の儀は魔力の核となる筆頭召喚者である大司教が聖典に記されている詠唱を何時間も唱えている間、土台の陣に魔術師や神官が魔力を注入し続けていた。対して帰還の儀の詠唱呪文は召喚の儀よりも短いらしい。その分、魔術師や上級神官が召喚の儀の倍の時間を使って、陣に魔力を注ぎ込まなければいけないみたい。
聞いた話によると、今日の早朝からもうそれは始まっていた。本来なら魔術師や上級神官だけで帰還の儀を執り行えるのだが、今回はあまりにも性急に大司教からの命令で事を進められたため、神官はともかく魔術師は既定の人数を集めきらずにいたため、帰還の儀に必要な魔力が足りなかった。王都に張っている結界を一時的に解いて、帰還の儀の陣に注ぎ込めば十分に魔力を補えるらしいが、前回その一時的のせいでモンスターが入り込んだため、絶対に解くことはできないと判断された。
結界を解かずに魔力を補うための方法は召喚の儀で裏方に徹していた、神官や魔術師の見習いたちも帰還の儀に参加させるということ。とはいっても見習いたちの未熟な魔力量では数時間もの魔力を陣に注ぎ込むことはできない。そのため、リオン君のような見習いたちの参加は帰還の儀の1時間前からと決められた。

ちょっとやり方が雑っぽい感じがしないでもないけど、私らは還してくれるなら雑だろうがなんだろうがなんでもいい。

つまり、帰還の儀で私らを還す手順はこうだ。現在進行形で数十人の神官や魔術師、そして双方の見習いたちが魔力を注いでいる陣の中に私と夏芽は10時直前に入り、10時ぴったりになったら魔力の核となる大司教が詠唱呪文を唱えはじめる。すべての詠唱呪文を大司教が唱えた頃には私たちは元の世界に還れる、という説明を受けた。

私ら二人は現在、賓客の間で大司教が迎えに来てくれるのを待っている。
たしか、15分前に来ると言っていた。

私は時計を再び、ちらりと見た。
9時45分。

……45分だぞ。来ないじゃんか。

私は扉を睨んだ。おいおい、15分前だってば。なんで来ないの。ていうか、普通だったらこういうとき指定の時間の5分前くらいに来るもんじゃないの?本当に私らを今日、還してくれるんだよね。

……って、待てよ。まさか、土壇場で緊急事態が起きて還れなくなったなんて言わないよね。
漫画やアニメではこういう土壇場で厄イベが起こることがセオリーだ。フィクションだけの話、なんて馬鹿にはできない。だって、実際私たち二人の身に起こっていることがフィクションみたいなものだから。ていうか、すでにこの世界で何度も何度もフィクションのセオリーみたいなイベントが起こっているからね。事実は小説よりも奇なりだ。

このタイミングの土壇場って何?まさかまた大司教が記憶喪失?それとも魔力が足りない?それとも今さら私らを還すのやめよう意見が出てきてる?

マジ勘弁してよ。もう私は心も体も今夜還る気マンマンなのに。
それがここにきて還れない?

もし、還れないなんて言って来たら夏芽以上にブチ切れる自信ある。

………あと1、2分であの扉が開かなかったら私、あの扉蹴り破ってそのまま――………。

コンコンコン。

なんてどす黒いことを考えていると、扉をノックする音が耳に入った。

「遅くなってしまい申し訳ありません、帰還の儀の準備が整いました」

大司教の声だ。この言葉のおかげで激高寸前だった私の頭が一気に冷えていった。

マジでよかった。ここにきて還れないなんてことにはならないみたい。
それにしても、もっと早く来てよね。あと1分で誰も来なかったら危うく死人がゴロゴロ出ていたはずだよ。まぁ、いいや。とりあえず、ウトウトしてる夏芽の目を覚まさせるために一発引っ叩くとするか。

「夏―……ってあれ?」

隣りでまだウトウトしていると思っていたのに。
さっきまで眠たそうにしていたのが、嘘のようにスタスタと扉の方に歩いて行ってる。

そして扉の前に立つと振り返った。

「早く、還る。クズクズすんな」

「………」

まぁ、別にいいけどさ。せっかく還れるのに、いちいち文句言って時間に遅れるのもバカみたいだしね。理性的なお姉ちゃんに感謝しなっての。

「還るけど自分の分のバックは持ちなよ」

私もベッドから下りた。この賓客の間も今日で見納めか。

おっと、還る前に1枚記念に。

私は部屋全体が写るように一枚写真を撮った。
ばいばい、王宮の中で唯一、ベッドだけは良いと思ったよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...