聖女として召喚された性悪双子は一刻も早く帰還したい

キリアイスズ

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我慢は体によくないから

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大司教についていく形で夏芽と私は長い廊下を歩く。

「お待たせして申し訳ありません。見習いの神官たちの指導に少々ごたついておりました。本当ならもっと早い時間にお迎えに伺う予定だったのですが、なにぶん見習いたちの大半は魔力注入は初めてなので……」

「うん、もっと早く来てほしかった」

「申し訳ありません」

「まぁ、いいや。早く王座の間に行こう」

廊下を見渡しながら歩いていると、ある光景をふと思い出す。
そういえば、召喚されたその日にこの廊下を渡って王座の間に向かって行ったんだよな。
ついこの前のことなのに、なんだが懐かしい。あの時はモンスターを倒せだの、歌えだの、大変だった。大変だったけど、思い返せば面白いと思えるようなことがあったし、いい写真も撮れた。
実はモンスターに蹴りを入れていた時、スカッとしたんだよね。人間相手に蹴りを入れていた時とはまったく違う感触だったから。
あんな人外と戦うなんて、きっともう一生ないだろう。そう思うとモンスターと戦っていた時、もっと感触を噛みしめておけばよかったかも。

変なの。ずっと還りたい還りたいって思っていたのにいざ還れるとなぜかほんのり名残惜しく感じる。この長い廊下を渡って王座の間に入るのも今日で終わりか。


◇◇◇


私らは長い廊下を渡り終え、目的の場所である王座の間に到着する。

この王座の間も久しぶりだな。うわぁ、すごい人数。
召喚の儀の時もたくさんいたけど、その比じゃない。数十人の魔術師や神官が魔法の陣を取り囲むようにして、目を瞑りながら手を組んでいる。その全員の体から白く光り輝いているものが放出され、陣にすべて吸い込まれている。たぶんあれが魔力であり、大司教が言っていた魔力注入なんだろう。そのほとんどがリオン君が昼頃、金色の糸で刺繍を入れていたローブを纏っている。きっと、その白いローブを纏っている人間が神官見習いなんだろうな。あの中のどこかにリオン君がいるはず。

「お二方、十時まであとわずかです。どうか陣のそばに立ち、お待ちになってください」

そう大司教に魔法陣のそばに立つよう言われる。
私は歩きながら今一度、王座の間をぐるりと見回した。

おお、よくよく見れば神官と魔術師だけじゃない。貴族や騎士、メイドや従者がちらほらといる。
そりゃ、そうか。国の機密である聖女の帰還の儀なんだから。
国のトップたちがそれを見届けようとしているんだろう。
ということは王様もいるということか。

私は天幕がついた壇上に目をやる。

やっぱり、いた。そしてやっぱり姿が見えない。
王様は依然と同じ、数人の騎士を前に並べていた。

はっ、なんだよ。最後の最後まで姿を見せない気?そのスタンスを貫くってこと?
今すぐ並んでいる騎士どかして、いまだに臆病風に吹かれている情けないおっさんの姿を拝んでみたいわ。きっと、お腹がよじれるほどのアホ面をしてるんだろうな。
今すぐ、走ってスマホで面白おかしく撮ってやりたい。

撮ってやりたいけど……我慢だ。ここでそんな行動起こして台無しにするほど私も馬鹿じゃない。
なんか我慢することが多いな。さっきは名残惜しいとか思ってたけどやっぱり早く還りたい。
我慢は体によくないから。

「おい」

後ろから声がして振り向くとそこにいたのは長髪王子と影薄王子がいた。
なんか、めちゃくちゃ久しぶりな気がする。

相変らず、長髪王子の私らを見る目は吊り上がってる。

「僕は悪かったなんて、言わない!そして還れてよかったとも絶対言わないからな!」

「あ~そうかい」

開口一番、喧嘩腰なのも相変わらずだ。
長髪王子はあからさまな舌打ちをする。

「……それにしても大司教様も短絡過ぎではないのか。王宮内を巻きこむ儀式をたった一日で準備して執り行おうとするなんて。こんな二人に申し訳ないなんて思うことないのに。だいたい、副神官長の記憶喪失の件だってこの二人が何かしたに決まってる。こんなにすんなり還すなんて父上も腑抜けたものだ。僕は何度も進言したんだ。王宮内を陥れ、騒がせた何らかの罰を与えるべきだと。でも、父上もその他の貴族たちもまったく聞く耳をもってくれなかった」

ぶつぶつと最後の最後までうるさいな。それは独り言?それとも私らに対する文句?

「僕は歯痒かった。王子であるにも関わらず、お前たち二人をどうすることもできなかったのだから……悔しいが僕はお前たち二人に何もできない。だからせめて……」

「せめて?」

長髪王子は意を決するように一歩私たちの前に出た。

「謝れ!」

「……は?何……もう一回言ってくれる」

「謝れって言ったんだ!お前たちは曲がりなりにも聖女だ!最後くらいは相応の誠意を見せるべきだ!僕は誰もが心の中で思っていることを代弁している!謝れ!王宮内を侮辱し続けたことを謝れ!それで許してやる!」

「はっ」

「なっ!?今鼻で笑ったな!」

まさかこの私ら二人に直球で謝れ、なんてね。
そんなことヤンキーにすら言われたことがないって。

一周回って笑えてくるわ。
リオン君とは違う意味で物怖じしないその根性に拍手を送りたい。

「ふざけるな!本来だったらいまだに伏せっておられる兄上に一番に謝るべきところなんだぞ!わかってるのか!」

「……兄?伏せっている?………あ~、いたな、そういえばそんなのが」

いたいた、そうだそうだ。この二人以外にももう一人王子がいたんだった。
この二人の兄である第一王子であるイケメン王子改め不能王子がね。

割とマジで、ガチで忘れていた。

……あれ?そういえばどういう顔してたっけ?
イケメンってことだけは覚えてるけど、記憶の彼方から浮かび上がってくる顔の造形は正直ぼやっとしている。たぶん私にとって第一王子イコールイケメンじゃなく、不能王子に定着しちゃったんだろうな。

不能王子か。勝手にそう呼んでるけどやっぱり笑えるあだ名だわ。
当分忘れられそうにない。

「まさか、兄上のこと忘れていたなんてことはないよな?」

「まさかまさか、忘れるはずないって。たかだかアレが勃たないだけで部屋に籠もっている不能王子でしょう?」

「おまえ――!!」

長髪王子は今にも掴みかかってきそうな勢いで私に詰め寄ってきた。

「その辺にしておくんだ」

そんな長髪王子を影薄王子がたしなめるように手で制した。

「兄上……」

「もうそろそろ時間だ。父上からも言われているだろう。二人を長く足止めするなと」

「でも、兄上この二人は……!」

「それにこれ以上、兄上の顔に泥を塗るような真似はやめろ。兄上が思い悩んでいることをそんな大声で言うもんじゃない」

「……!!」

ハッとした様子に長髪王子は顔を真っ赤にしながら押し黙った。

さっきまでキャンキャンキャンキャン吠えていたのに今はしゅんとした様子で下を向いている。
マジで犬みたい。これが犬だったら耳が思いっきり垂れてるだろうな。

ふふん、やっぱり面白いなこいつ。
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