ひよこクスマ

第47話 ジェフの恩返し

秘境探索を終え、チームはようやく久しぶりの、のんびりとした休日を迎えていた。

しかし早朝、きのこ寮の静寂は、ドアを破壊しかねないほどのけたたましい呼び鈴の音によって破られた。

クスマはようやく目を覚まし、眠たげな眼でドアを開けに行った。しかし、ドアの外にいる訪問者を見た瞬間、残っていた眠気は完全に吹き飛んでしまった――そこに立っていたのは、彼らが最も関わりたくない、頭にバナナを乗せたドラ息子のジェフだった。

「よう、もやし野郎」

ジェフは、自信過剰でやや下品な笑みを浮かべていた。彼はクスマの拒絶に満ちた視線を完全に無視し、ずかずかと寮に上がり込むと、テーブルの上に革袋を「パンッ」と音を立てて放り投げた。

（……好意には裏がある）

クスマは心の中でそう思った。

「俺様は恩返しに来たんだ」

ジェフは見下すような口調で言った。

「この中の金貨は、お前への礼だ。だがまあ、お前とお前の仲間には、ちょっとした手伝いをしてもらわにゃならん」

「――うるせえぞ！」

クレイの怒声が二階の部屋から響いてきた。いつも不機嫌な彼の声は、今この時は叩き起こされたことによる苛立ちを帯びていた。

「誰だ？！ 真っ昼間からギャーギャー喚きやがって！」

─ (•ө•) ─

すぐに、クレイ、みぞれ、ふゆこの三人が階下に下りてきた。

彼らはリビングの中央に立つ招かれざる客と、テーブルの上の革袋を見て、クスマと全く同じ「困惑」と「警戒」に満ちた表情を浮かべた。

クスマがこの「ちょっとした手伝い」がどれほど面倒なことになるかと思いを巡らせていると、ジェフの顔に、本人は「照れ」だと思っているが、他人から見れば極めて下品な赤みが突然浮かび上がった。

「実は……俺様、最近好きな奴ができたんだ」

もじもじしながら彼は言った。

「……は？」

最初に、クレイが喉の奥から嫌悪に満ちた声を絞り出した。その声は、うっかり口の中に飛び込んできた蝿を追い払うかのようだった。

「お前らに頼みたいんだ」

ジェフの声はさらに小さくなった。

「史上最高のロマンチックな告白を計画して、あの子のハートを射止められるように手伝ってほしい！」

「待て」

クスマが彼を遮った。いつも冗談めかしている彼の瞳に、天下の混乱を望むかのような、「悪戯」と「とぼけたひらめき」の複雑な光が宿った。

「まさか……」

彼は「驚愕」に満ちた大げさな口調で、冗談めかして言った。

「みぞれのことか？」

クスマがその冗談を口にした瞬間、寮全体の温度が、まるで十度も下がったかのようだった。

いつもは穏やかな水面のようなみぞれの澄んだ瞳に、初めて、まるで死体でも見るかのような冷たい殺意が宿り、クスマの体に突き刺さった。

クレイも「サッ」と音を立てて立ち上がり、いつも燃えている彼の瞳は、今この時、未だかつてない怒りの炎を燃え上がらせていた。彼は拳を固く握り締め、骨が軋む乾いた音は、まるでクスマの葬式のために前もって奏でられる哀悼の調べのようだった。

一方ふゆこは、とっくにこの一触即発の雰囲気に怯え、数歩後ずさり、その小さな体はほとんど壁に張り付いていた。

クスマが恐怖のあまり土下座して命乞いをしようとした、その時――

ジェフはまず、隣であからさまに嫌悪感を浮かべているみぞれをちらりと見て、口元に「考えすぎだ」と言わんばかりの、軽蔑的な嘲笑を浮かべた。 

それから、彼は再び視線をクスマへと戻した。

「違うに決まってるだろうが！」 

ジェフは即座に反論し、「なんでそんな馬鹿な考えが浮かぶんだ」と言いたげな目でクスマを見た。

「俺様が好きなのは、俺のチームメイト――ローザだ！」

この驚天動地の発言に、その場にいた全員が呆然とした。

一方みぞれは、ジェフからその侮辱に満ちた視線と嘲笑で「拒絶」された後、一瞬固まった。
その冷たい殺意も、同時に音もなく消え去っていた。

取って代わったのは、優しく、非の打ち所のない、完璧な微笑みだった。ただ、その優しい笑みの下で、彼女の額には、抑えきれずに、かすかな青筋が一本、ぴくりと浮き出ていた。

しかし、その微笑みは、クスマの目には、先ほどの純粋な殺意よりも百倍恐ろしい寒気となって、彼の四肢百骸を駆け巡り、その魂を震え上がらせた……。

ジェフは彼らの驚きを全く意に介さず、独り言のように、懐から壊滅的な美的センスの落書きで埋め尽くされた設計図を取り出した。

「見ろよ」

彼は図に描かれた999本のバナナでできた巨大なハートを指さし、興奮気味に言った。

「これが俺様の初期告白プランだ！ お前らには、これを実行するのを手伝ってもらう！」

─ (•ө•) ─

ジェフは言うが早いか、「ジャラッ」と音を立てて、テーブルの上の革袋を開いた。そして、彼は革袋の底を掴むと、わざと、中に詰まった、きらきらと魅力的な光を放つ金貨を、まるでゴミでも捨てるかのように、全てぶちまけた。木製のテーブルの上には、金貨の小山ができた。

「俺様を手伝ってくれるなら」

彼は顎で金貨の山を指した。

「この金貨100枚は、全部お前らのもんだ」

その小山を見た瞬間、クスマの目は輝き、隣にいるクレイの「侮蔑」に満ちた視線を完全に無視して、真っ先に名乗り出た。

クレイは仕方なさそうにため息をつき、隣にいたみぞれは、ジェフのこれみよがしな態度に、不快そうに眉をひそめた。

「ジェフ君」

クスマの表情は、今この時、この上なく荘厳でプロフェッショナルなものに変わっていた。

「君の悩み、しかと聞き届けた。安心したまえ、この件は私に任せるんだ！」

彼は即座にこの依頼を引き受け、「恋愛マスター」として一つ咳払いをすると、ジェフに対し、彼独特のスタイルに満ちた「恋愛講座」を始めた。

「まず」

クスマは真剣な顔で、ジェフのバナナだらけの設計図を、二つに引き裂いた。

「な、何しやがるんだ？！」

ジェフの顔は瞬く間に真っ赤になり、驚きと怒りで、いつもは下品な笑みを浮かべている彼の顔が、少し歪んだ。

しかし、クスマは彼の怒りを全く意に介さなかった。彼はただその二つの紙切れを、こともなげに床に放り投げると、まるで救いようのない病人でも見るかのような、「慈悲」に満ちた眼差しでジェフを見つめた。

「君を救っているんだ！」

クスマの声には、有無を言わせぬ、「恋愛マスター」としての荘厳さが満ちていた。

「君のそのプランは、初めから間違っている。浅はかで、それに、中身がなさすぎる！」

「私の分析によれば」

彼は大真面目に、ジェフに青い惑星からの、もっともらしいが怪しげな恋愛理論を伝授し始めた。

「ローザ嬢のように、見た目は強気だが、内心は脆いかもしれない女性に対してはだね、そんな幼稚なアプローチではなく、もっと強引で、拒絶させないスタイルで、彼女の心理的防衛線を徹底的に打ち破る必要がある！ 我々はこれを――『覇道総裁』と呼ぶ！」

初め、ジェフの顔には、まだ「何を言ってるんだ、こいつは」という疑いの色が浮かんでいた。
だが、クスマの理論が深まるにつれて、ジェフの表情も、徐々に「疑い」から「驚愕」へと変わり、最終的には、未だかつてない、「開眼」と「なるほど」に満ちた狂信的な光へと変わっていった！

クスマがその『覇道總裁』理論を注入し終えると、彼はすぐにジェフの肩を叩き、「理論は実践と結びつけなければならない」という、極めて真剣な口調で言った。

「よし、理論の授業は終わりだ。これより、我々の実践授業を始める！」

彼はあたりを見回し、恐怖で隅に縮こまっている、最も完璧な「練習相手」を見つけると、すぐにふゆこをジェフの前に突き出した。

「さあ！」

クスマはふゆこに言った。

「今、君がローザだ！」

そしてジェフの方を振り向いて言った。

「ジェフ君、まずは彼女に、先ほど私が教えた、威圧感たっぷりの『壁ドン』をやってみたまえ！」

クスマは言うと、もったいぶって、一つの記録水晶を取り出した。

ジェフはその記録水晶を見ても、何の疑いも抱かず、むしろクスマに、「分かってるじゃないか」と言わんばかりの、称賛に満ちた眼差しを送った。

「いいじゃねえか、もやし野郎」

ジェフの顔に、自信に満ちた、独り善がりな笑みが浮かんだ。

「なんで分かったんだ？ 俺様がスポットライトを浴びてこそ、実力を発揮できるタイプだってことをよ」

「えっ？ええ――？！」

ふゆこはこの突然の展開に怯え、その小さな頭は、「ボンッ」という音と共に、一瞬で真っ白になった。彼女は無意識に一歩後ずさり、いつもは不安げなその澄んだ瞳は、今この時、極度の恐慌によって大きく見開かれ、まるで狩人に隅に追い詰められた、途方に暮れる兎のようだった。

一方ジェフは、本当に深呼吸をすると、努力して、口角を自分が最も邪悪で、最もクールだと思う角度に歪め、そして、『覇道總裁』に満ちた足取りで、ふゆこの方へ、一歩、また一歩と、迫っていった。

（師匠の「期待」に応えなきゃ……耐えるんだ、師匠をがっかりさせないために！） 

ふゆこは心の中で何度も何度もそう唱えていた。

ほとんど溢れ出しそうな涙をこらえるため、彼女は爪が手のひらに深く食い込むほど握り締め、その痛みで溢れ出しそうな感情を紛らわした。彼女は下唇を固く噛み、その場で凍りついたように、完璧な「練習相手」を演じようと努めた。

「そうだ！その気迫だ！もっと声を低く！」

クスマは隣で手足をばたつかせて指導しながら、ふゆこの顔が真っ赤になり、その瞳がすでに涙で潤んでいることには全く気づいていなかった。

数回の「眼光が鋭くない」「口調が断定的でない」という失敗を経て、ジェフはようやく一度、セリフと動きをそれらしくこなすことができた。

「素晴らしい！」

クスマは満足げに手を叩いた。

「あとは家に帰って鏡に向かって感覚を掴めば完璧だ！」

お墨付きを得たジェフは、安堵の息を漏らし、興奮気味にクスマの方を向いた。

「クスマ、君は天才だ！君のおかげだよ！」

そう言うと、彼はついでに思い出したかのように、隅にいるふゆこに向かって頷いた。

「ああ、ふゆこ、今日はご苦労だったな」

その後、彼は軽やかな足取りで去っていった。

ドアが「カチャリ」と静かに閉まり、廊下の音を遮断した。

クスマが「授業の成功」を祝おうと準備し、得意げな笑みを浮かべていたその時、背後からのかすかな、抑えきれない嗚咽に、その動きを止められた。

彼ははっと振り返り、その笑顔は瞬時に凍りついた。

見ると、ふゆこの抑えつけられていた悔しさが、「任務」が終わった瞬間、ついに発散の出口を見つけていた。

彼女の小さな体は、壁にもたれた姿勢を保ったまま、まるで溶けたアイスクリームのように、ゆっくりと、力なくずり落ちていった。彼女は床にうずくまり、翼で顔を固く覆った。

次の瞬間、長らく抑圧されていた嗚咽は、まるで決壊した洪水のように、完全に制御を失った。

「うわああ――ん！」

大きな泣き声が壁を突き抜け、この茶番の張本人であるクスマは、目の前の光景を見て、いつもは「天才的」なアイデアに満ちているその頭脳も、初めて、完全にフリーズしてしまった……。

彼がフリーズしている間に、みぞれはすでに真っ先に駆け寄り、ふゆこの震える肩をそっと抱きしめていた。クレイは前に進み出ると、クスマの後頭部めがけて、躊躇なく平手打ちを一発食らわせた。

「この馬鹿野郎！なんてことをしてくれたんだ！」