ひよこクスマ

プロトン

文字の大きさ
50 / 58

第50話 能力の質的変化

しおりを挟む
翌日、彼らはいつものように、学院の活気に満ちた練武場で、退屈な「基礎武器技術」の授業を受けていた。

しかし、今日練武場に立つふゆこは、どこか違う感じがした。彼女は手に持った何の変哲もない木の棒を握りしめ、初めて、自分の能力とこの普通の木の棒との間に、あるようなないような、まるで血が繋がっているかのような奇妙な繋がりを感じていた。

授業の基礎的な組手稽古で、ふゆこは自分よりもずっと体格のいいひよこの男の子と組むことになった。

「よう、チビちゃん」

そのひよこの男の子はにやりと笑い、自分では格好いいと思っている表情を浮かべた。

「後で手加減してやるから、泣くんじゃないぞ」

ふゆこはただ緊張して頷くだけで、まともな一言も発することができず、両手で固く木の棒を握りしめ、その手のひらには汗がびっしょりだった。

「はあっ!」

そのひよこの男の子の力強い斬り下ろしに直面し、ふゆこの脳裏に、無意識に、みぞれの、まるで流れる水のような、優雅な受け流しの姿がよぎった。彼女はその「柔よく剛を制す」技術を真似しようとしたが、その不器用な体は、全く頭の思考についていくことができなかった。

風を切る音を立てる木の棒が、まさに自分の頭上に振り下ろされようとしたその時、極度の緊張と「自分を守りたい」という本能に駆られて――

「――『鋭利』!」

ふゆこは自分が何をしたのかさえ意識しておらず、ただ本能的に、その魂の奥底から湧き出る力を、手の中の木の棒へと注ぎ込んだ!

次の瞬間、全ての新入生の驚愕に満ちた視線の中、ふゆこの手の中の普通の木の棒は、相手の力強い木の棒と、正面から激突した。

何の激しい音もしなかった。

そのひよこの男の子の木の棒は、まるで鋭利な刃で切られた豆腐のように、音もなく、滑らかに、真っ二つになった。そしてふゆこの木の棒は、勢いを失うことなく、そのひよこの男の子の、すでに恐怖で固まり、呆然自失となった顔の前で、ぴたりと止まった。

木の棒の先端は、彼の鼻先から、一センチにも満たない距離にあった。

そのひよこの男の子は、斬り下ろしの姿勢を保ったまま、硬直して動かずにいること、実に三秒。そして、そのいつもは自信に満ちている瞳が、ゆっくりと白目を剥き、口から一筋の白い煙を吐き出すと、まっすぐに、実に潔く、後ろへと気絶した……。

「……」

場内は、しんと静まり返った。

「……嘘だろ?」

と、場外に立っていたクレイが驚きの声を上げた。

「まさかふゆこが、緊張のあまり能力を使っちゃうなんて……」

と、隣にいたみぞれが呆れたように言った。

「……」

一方、「師匠」であるクスマは、腕を組み、「こうなると分かっていた」と言わんばかりの、深遠な表情で、得意げに頷き、まるでその全てが、彼の天才的な計算の内であったかのように振る舞っていた。

(……俺は今、何を見たんだ!?)

もちろん、これらは全て、彼が自身の「師匠」としての威厳を保つために、無理やり演じていることに過ぎなかった。実際には、彼の内心は、他の者たちと同様、今まさに「なんてこった」という名の超大型台風が吹き荒れていた。

それと同時に、周りで見物していた新入生たちの中からも、ひそひそ話が巻き起こった。

「おい……見間違いじゃないよな? あの灰色のチビちゃん、クスマの弟子だろ?」

「ああ……でも、あいつの今の一撃……なんだか、あの師匠よりずっと強い気がしないか?」

「お前に言われてみれば……マジだな」

これらの不大不小な議論の声は、鋭利な刃のように、一本一本、必死に「師匠」の威厳を保とうとしている、クスマの脆いプライドへと突き刺さった……!

─ (•ө•) ─

「基礎武器技術」を教えているのは、鋭い眼光の先生だった。頭の上には、かんざしのように、一房のライチが挿してあった。 

ふゆこの驚くべき一撃を見て、彼女はすぐに全ての組手稽古を中断させた。

「全員、その場で休憩!」

彼女の声は大きくなかったが、有無を言わせぬ威厳があり、練武場の喧騒は、瞬く間に静まり返った。
気絶した生徒がただ気を失っているだけで、命に別状がないことを確認した後、彼女は隣にいた、呆然としている二人のひよこの男の子に言った。

「君たち二人、彼をそこの日陰まで運んで、寝かせておきなさい」

その後、彼女はゆっくりとふゆこの前に歩み寄り、吟味するような、驚きに満ちた眼差しで、地面からその半分に折れた木の棒を拾い上げた。

彼女は指で、その鏡のように滑らかな切り口をそっと撫で、そのいつもは古井戸のように波一つない瞳に、初めて、隠しきれない震撼の色がよぎった。

ライチ先生は顔を上げ、その鋭い瞳は、初めて、真に、真剣に、目の前の、目立たず、臆病そうに見える灰色のひよこを吟味し始めた。

「君……名前は?」

ライチ先生は、この目立たない生徒に対し、これまでにない、濃厚な興味を抱いた。

「ふ、ふゆこ……」

ふゆこはその強大なオーラに圧倒され、緊張のあまり言葉もはっきりせず、その小さな体は、また制御不能に震え始めた……。

─ (•ө•) ─

「お嬢ちゃん」

ライチ先生の声は、初めて、全ての厳しさを脱ぎ捨て、かすかな感心の響きを帯びていた。

「君は良い才能を持っている。能力は『鋭利』だろう? しかも熟練度は、『開花』にまで至っている」

その突然の褒め言葉に、ふゆこは全身が固まり、下意識に、手中の木の棒をさらに強く握りしめ、ありがとうの一言さえ緊張で言えなかった。
 
「これが君の最初の能力だろう? 私の最初の能力も、『鋭利』だった。私も初めは、この能力は役に立たないと思っていた」

彼女はそう言いながら、自分の頭の上にある、伴生植物であるライチを指さした。

「ごらん、こんなに小さい一粒では、小刀にさえなりはしない。だがこれは、今や私の最強の能力の一つだ」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、一粒の、鮮やかで瑞々しいライチが、彼女の手の中に現れた。練武場の空気は、まるでその一瞬、凍りついたかのように、全員の視線が、その何の変哲もなさそうに見える果物に引きつけられていた。

「よく見ておきたまえ」

ライチ先生はふゆこにそう言うと、二本の指で、そのライチのヘタをそっと『つまみ』、そして、無造作に、遠くにある練習用の木人に向かって、宙を薙いだ。

何の音もしなかった。

しかし、次の瞬間、全員の驚愕の視線の中、あの硬い木人は、まるで鋭利な刃で薙がれたかのように、真ん中から、音もなく、滑らかに、真っ二つになった!

「マジかよ……」

クレイが最初に、堪えきれずに、驚愕と興奮に満ちた低い声を上げた。

「ら、ライチで木人を斬りやがった?! カッコよすぎだろ!」

周りで見物していた新入生たちも、それに続いて、信じられないといった驚きの声を上げた。

「私の『鋭利』は、熟練度がすでに『結果』している」

ライチ先生は平淡な口調で、この奇跡のような現象を説明した。

「能力が質的変化を遂げた時、私は伴生植物の『鋭利』の魔力を、『投射』することができるようになった」

彼女は振り返り、そのいつもは古井戸のようだった瞳は、今や「先輩」としての、期待に満ちた穏やかな光を宿していた。

「同じ能力でも、一人一人が『結果』する時、生じる質的変化は、唯一無二のものだ」

「私は興味がある」

ライチ先生はふゆこを見つめ、ゆっくりと言った。

「君の『鋭利』が、『結果』した後、どのような姿になるのかを」

その場全体の雰囲気が、この伝承を思わせる言葉によって、この上なく神聖で感動的なものになった、その時――

一本の黄色い翼が、おずおずと、しかしどこか当然のように、ゆっくりと持ち上げられた。
クスマは一つ咳払いをすると、全員(特にライチ先生)の困惑に満ちた視線の中、言った。

「あの……先生……私の記憶では……学院の規定によると、練武場の公共施設を破損させた場合は、価格に応じて賠償しなければならないはずですが……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...