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木陰の昼ごはん
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昼ごはんにしよう、橙山のその一言で、笹井たちは公園の木陰に集まっていた。
「ひや~これひょこれ」
笑顔の橙山がごくりと飲みこむ。食べかけのおにぎりを太陽にかざした。
「一働きした後はやっぱりおにぎり!宿で買っておいてよかった~」
「橙山さん、もしかしてそれ全部ですか」
鮭おにぎりを食べ終えた笹井が、両腕を後ろに伸ばしながらビニール袋を見た。Lサイズのそれいっぱいに黒い影が詰められている。
「うん。ほら、腹が減っては~……えと……ど忘れしちゃった……。ここまで出かかってるんだけど」
橙山が首をとんとんと軽くチョップした。一番早くサラダチキンを食べ終えていた八旗が、アキレス腱を伸ばしながら助け舟を出した。
「『戦はできぬ』、でしょう」
「それ!腹が減っては戦はできぬ!笹井君、ほら、イクラあるよ」
「え、遠慮します、いま食べ終わったばっかで」
「そう?じゃあいただきます」
温かな日差しは、空の天辺からまだらに三人を照らしている。笹井は前に両腕を突き出し、ぐっと伸びた。手が太陽に透けて赤く脈打った。
「さて八旗君、情報収集の結果はどうだったかな」
「全然駄目でした」
「だよね~」
「閑散どころじゃない。異常なほど誰も出歩いていません。まあ、この事実が一つの情報といえるかもしれませんね」
「確かに、夕べのご婦人の事を考えると、外つまり空間に危険があるのかもしれない。その条件を探る必要がありそうだね。昨日の状況を考えると……あの緑色の夕暮れかな」
昨日の事というのに遠い昔に感じる。笹井はやけに鮮やかなエメラルド色の夕陽を思い出し、消えた婦人と霧を思い出し、それを退けた後に浮き出た血管を思い出した。
あれから、針で刺すような小さな頭痛が続いている。ふと、暗闇の中で走っている情景が頭に浮かんだ。
(これは……昨夜、夢を見たような……?)
「笹井君はどうだったかな」
声に視線を上げると、橙山がこちらを見ていた。後ろで八旗がスクワットをしている。
「あ、僕は……」
パーカーのポケットにしまっていた、スーツの男性にもらった紙を見せた。橙山は顎に手をやりながらそれに目をやる。
「男の人にモツレンサマについて聞いたら、これを渡されました。『会いに行ったらいい』、と」
八旗も息一つ乱さず覗いてきた。
「その人が言ったのはそれだけか」
「それだけ」
「それでスッとそれを渡してきたのか?」
「うん」
「なるほど。怪しいな」
すぱっと言い放った八旗の真っすぐな視線に、笹井はしきりに瞬きした。
「な……」
「その人は書き留めることもなく、準備していたみたいに紙を渡したんだろ?新入りが何を聞こうとしていたか、はたまた誰であるか、知ってたみたいじゃないか」
「そうだね、覚えていた方がよさそうな人だ。私も話を聞いてみたい、また会ったら教えてほしいかな」
「あ、はい……」
さてと、と橙山が立ち上がったその時、鞄から何かがするりと落ちた。笹井が拾うと、それは錠剤だった。一錠無くなっている。
「あ、ありがとう」
「いえ」
橙山はにこ、と受け取って、辺りと地図を見比べてみる。
「しかし、私も八旗君と同じく誰にも会わなかったから、この情報はありがたいね。この読みは七條さん、かな?行ってみよっか!……笹井君?」
「……あ、いや、今行きます!」
ベンチで呆けていた笹井は、おにぎりを包んでいたビニールをポケットに突っ込み、急いで追いついた。
成果を持って帰れたことにウキウキしていた、なんて言葉は、胸の奥にそっとしまっておいた。
「ひや~これひょこれ」
笑顔の橙山がごくりと飲みこむ。食べかけのおにぎりを太陽にかざした。
「一働きした後はやっぱりおにぎり!宿で買っておいてよかった~」
「橙山さん、もしかしてそれ全部ですか」
鮭おにぎりを食べ終えた笹井が、両腕を後ろに伸ばしながらビニール袋を見た。Lサイズのそれいっぱいに黒い影が詰められている。
「うん。ほら、腹が減っては~……えと……ど忘れしちゃった……。ここまで出かかってるんだけど」
橙山が首をとんとんと軽くチョップした。一番早くサラダチキンを食べ終えていた八旗が、アキレス腱を伸ばしながら助け舟を出した。
「『戦はできぬ』、でしょう」
「それ!腹が減っては戦はできぬ!笹井君、ほら、イクラあるよ」
「え、遠慮します、いま食べ終わったばっかで」
「そう?じゃあいただきます」
温かな日差しは、空の天辺からまだらに三人を照らしている。笹井は前に両腕を突き出し、ぐっと伸びた。手が太陽に透けて赤く脈打った。
「さて八旗君、情報収集の結果はどうだったかな」
「全然駄目でした」
「だよね~」
「閑散どころじゃない。異常なほど誰も出歩いていません。まあ、この事実が一つの情報といえるかもしれませんね」
「確かに、夕べのご婦人の事を考えると、外つまり空間に危険があるのかもしれない。その条件を探る必要がありそうだね。昨日の状況を考えると……あの緑色の夕暮れかな」
昨日の事というのに遠い昔に感じる。笹井はやけに鮮やかなエメラルド色の夕陽を思い出し、消えた婦人と霧を思い出し、それを退けた後に浮き出た血管を思い出した。
あれから、針で刺すような小さな頭痛が続いている。ふと、暗闇の中で走っている情景が頭に浮かんだ。
(これは……昨夜、夢を見たような……?)
「笹井君はどうだったかな」
声に視線を上げると、橙山がこちらを見ていた。後ろで八旗がスクワットをしている。
「あ、僕は……」
パーカーのポケットにしまっていた、スーツの男性にもらった紙を見せた。橙山は顎に手をやりながらそれに目をやる。
「男の人にモツレンサマについて聞いたら、これを渡されました。『会いに行ったらいい』、と」
八旗も息一つ乱さず覗いてきた。
「その人が言ったのはそれだけか」
「それだけ」
「それでスッとそれを渡してきたのか?」
「うん」
「なるほど。怪しいな」
すぱっと言い放った八旗の真っすぐな視線に、笹井はしきりに瞬きした。
「な……」
「その人は書き留めることもなく、準備していたみたいに紙を渡したんだろ?新入りが何を聞こうとしていたか、はたまた誰であるか、知ってたみたいじゃないか」
「そうだね、覚えていた方がよさそうな人だ。私も話を聞いてみたい、また会ったら教えてほしいかな」
「あ、はい……」
さてと、と橙山が立ち上がったその時、鞄から何かがするりと落ちた。笹井が拾うと、それは錠剤だった。一錠無くなっている。
「あ、ありがとう」
「いえ」
橙山はにこ、と受け取って、辺りと地図を見比べてみる。
「しかし、私も八旗君と同じく誰にも会わなかったから、この情報はありがたいね。この読みは七條さん、かな?行ってみよっか!……笹井君?」
「……あ、いや、今行きます!」
ベンチで呆けていた笹井は、おにぎりを包んでいたビニールをポケットに突っ込み、急いで追いついた。
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