27 / 29
愛しき傷
愛しき傷(5)
しおりを挟む
一緒にいたいってことは、アレか、その、そういうこともいいってことか、いや、そうじゃなくて、まずはアレを決行しねえと。
「朝まで……一緒にいたいな」
唇を尖らせて呟く聡子の手を握って、エレベーターのボタンを押した。
「予約、してるんだよ」
「予約? なんの?」
「その……部屋の……」
「部屋? お部屋、とってくれてるの?」
「ああ、俺も一緒にいたくて」
心臓が止まるんじゃないかってくらいバクバクいってる。
「嬉しい!」
「お、おい、こんなとこで……」
抱きついた瞬間、エレベーターのドアが開いて、降りてきた客が気まずそうに会釈していく。
「いいじゃない、早く行こうよ」
予約した部屋は、公務員の俺、ギリギリのセミスウィート。おおー、テレビでしかみたことなかったけど、こんな部屋なのか、すげえな、泊まるだけなのに、こんなにスペースいるか?
「わあ、素敵……夢みたい。こんなお部屋初めて!」
俺だって初めてだよ。泊まるとしたらベッドとデスクしかないビジネスホテルだからな。
「気に入ってくれた?」
「うん、とっても! ありがとう、ほんとに嬉しい!」
興奮した様子でキスをくれて、ベッドに身を投げた。
「ねえみて、寝転んだまま、夜景が見えるよ」
思わず体を重ねそうになるけど、ダメだ、まだそうじゃない。俺にはまだやるべきことがある。
「のど渇いちゃった、お水、飲んでいい?」
そうだ、泊まるならもうちょい飲んでもいいかな……
「なんか頼もうか、シャンパンとか」
「ルームサービス? なんか贅沢すぎない?」
「たまにはいいだろ、いつも安い店しか連れてってやれてないしさ」
なんて、ルームサービスなんて頼んだことあるわけない。予習しておいてよかった、御堂先生、ありがとう。
「ルームサービスでシャンパンなんて、プリティウーマンみたいね」
それ、なんだっけ、聞いたことあるけど……
「悪と戦うやつ?」
「戦わないよ、ラブストーリーだもん。映画だとね、シャンパンとイチゴなのよ」
なんだその洒落た組み合わせは! そもそも、酒には塩っ辛いものだろう。
「リチャードギアがね、美味しいよって勧めるんだけど、ジュリアロバーツはふうんって感じなの」
なんのことかさっぱりわからん。たぶん、俺も、ふうん、だな。
「あっ、チョコレートがある。ねえ、チョコ食べたい」
酒と甘いものか……俺にはない味覚だ。
しばらくして、ボーイがシャンパンとチョコレートを持ってきた。派手にシャンパンを開ける様子を、聡子は大喜びで動画を撮って、パキッといきそうなグラスで乾杯。
「美味しいね」
聡子はチョコレートを美味しそうに口に放り込んで満足そうに笑う。その顔、たまんないなあ。
「はい、あーん」
あーん、をすると、口にチョコレートを入れてくれたけど、あ、甘い……こんな甘いもん、よくバクバク食えるな。シャンパンで流し込んで、空になったグラスに、聡子が注いでくれる。待て、これ以上はダメだ。酒がまわり始めてる。先に、アレを……
「うーん、幸せ~」
幸せか、俺も幸せだよ、だけど、これからはもっと幸せにしてみせる。聡子、絶対、幸せにするからな。
「聡子、話がある」
「うん? なあに?」
酔いがまわっているのか、呂律が甘い。
「はい、あーん」
「チョコレートは、また後で……大事な話だから、聞いてくれ」
俺のトーンに、聡子はふと俯いて、耳を塞いだ。
「嫌な話なら、聞きたくない」
「そうじゃないよ、聡子……そんな話じゃない」
聡子は渋々手を離して、シャンパンを飲み干した。
「なに?」
「……聡子、ずっと、ずっと考えてたんだけど……」
不安な目で俺を見て、両手を握りしめてる。
「一緒に暮らさないか」
「一緒に?」
「ああ、一緒に……そうすれば、もっとふたりの時間も増えるだろう。寂しい思いをさせてるってわかってる。デートもろくにできないし、いつも仕事で聡子のこと、ほったらかしになってる。悪いと思ってるんだよ」
俺は、どこかで、聡子はうん、と、嬉しいって俺に抱きついて、喜ぶって確信してたのかもしれない。でも、聡子は俯いたまま、首を横に振った。
「それは、できないわ」
う、嘘だろ……まさか、こんな展開になるとは……
「ま、まだ、早いか……」
「時間とか、関係ない。このままでいい」
見たことのないくらい、険しい横顔で、聡子はそう言った。
「聡子、言ったよな、俺は本気だって。本気だから、ケジメはつけたいと思ってる、遊びの恋愛は……」
「私は殺人犯なの。知ってるわ、今でも、一真が職場でいろいろ言われてること。生活を一緒にするなんて、絶対ダメよ、これ以上、あなたに迷惑はかけられない。もう、私のせいで大切な人を傷付けたくないの、人生を奪いたくないの。私とあなたでは、やっぱり……」
唇を噛み締めて、震えた声で続ける。
「私もね、ずっと考えてた。やっぱり……ダメだって、一真に甘えてばっかりで……私……もう、いない方がいいって」
「俺とは、やっていけないってことか」
「そうじゃない! そうじゃないの……でも……私、一真にもらってばっかりで、何も返せない。それどころか迷惑かけて……わかってるのよ、前科があると、警察官とは……ダメなんでしょう……ごめんなさい、やっぱり、別れた方がいい」
握りしめた両手はガタガタと震えて、必死で涙を堪えてる。バカだな、ほんとに。中津が言ってたっけ、似たもの同士って。そうかもしれないな、変なとこで頑固で、ひとりで背負い込んで……でも、聡子、俺たちはもう、ひとりじゃない。俺たちは、ふたりなんだよ。
「俺とじゃ、幸せになれないか」
「……わかんない」
「なあ聡子、おまえといると、俺……ああ、これが幸せなんだなって、初めて……おまえが教えてくれたんだよ。おまえと、ふたりでいたいんだよ」
「私、ひとりでいいの。ふたりなんて……ひとりの方が気楽なの」
「なんでそんな強がるんだよ」
「強がってなんかない!」
「強がってるよ、聡子、おまえは、そんなに強くない。いつも寂しくて、怖くて、ひとりでなんか生きられない、そうだろう?」
「私は……幸せになっちゃいけないの」
「俺も同じだと言っただろう……俺たちは、それぞれバカみたいに重い十字架を背負ってる。これからはさ、おまえのその十字架、俺にも背負わせてくれよ。かわりに、俺の十字架も、背負ってくれないか」
ジャケットのポケットから、やっと、アレを差し出した。
「一緒に生きようか」
「これ……」
「開けてよ」
震える火傷の痕の指で、聡子はリボンを解いて、ケースを開けた。
「一真が選んでくれたの?」
「まあな」
ダイヤと小さなルビーがデザインされた、プラチナリング。御堂は別のデザインがいいって言ったけど、俺は絶対、これだけは譲らなかった。
「聡子に似合うと思って。受け取ってくれ」
「でも……一真、立場が……もっと悪くなるよね……」
「そんな立場、いつでも捨ててやるさ。覚悟はあると言っただろ? おまえを失うくらいなら、警察官なんていつでも辞めてやるよ」
「本当にいいの? もらっていいの? 私、目も見えないし、体も傷だらけだよ……犯罪者だよ」
「全部知ってるさ。聡子、結婚しよう。ふたりで……幸せになろう」
聡子は俺の胸に顔を埋めて、うん、と頷いた。
「顔見せて」
ずっと流れる涙を拭って、左の薬指に指輪を通してやった。
「よく似合うよ」
「キレイ……とっても……ダイヤなんて、私にダイヤなんて……まだ信じられない」
「愛してる、聡子」
ゆっくりキスを交わして、シャンパンで乾杯。
「写真、撮ろうか」
「あっ、ダメ、メイクなおさないと」
「そのままでいいよ、充分、きれいだから」
俺たちは、あかくなった目で、写真を撮った。スマホの中の聡子は、まるであの古い写真の少女のように笑っていて、俺も……やばいな、俺、こんな顔して笑うんだ。
「ありがとう、一真……私……幸せよ」
「そうか、よかった。これからは、もっと幸せにするからな」
ふと、聡子は指輪を見つめて、目を閉じた。たぶん……他の誰かのことを思い出したんだろう。
付き合い始めてわかったけど、聡子は無意識に、あの昔の恋人と俺を重ねている。もしかすると、俺はあいつの代わりなのかもしれない。俺とよく似た、あの男と……それでも構わない。聡子が笑うなら、幸せだと思ってくれるなら。
「夜景、見たいな」
小声で呟いて、恥ずかしそうに、俺の手を握った。
「いこうか」
抱き上げた聡子は、思った以上に軽い。ベッドに下ろすと、ロングスカートが少しめくれて、足の傷が見えた。
枕元には夜景が広がる。ゆっくりと体を重ねて、長く、深く、キスを交わす。
「聡子……」
ファスナーに手をかけた俺に、聡子は、躊躇うように言った。
「……体中にね、火傷の痕があるの……」
「見せてくれ」
痩せた白い肌には、赤い火傷の痕が目立つ。
「気持ち悪いでしょ……」
「そんなわけないだろう」
ひとつひとつ、傷にキスをする。そのたびに、聡子の悲しみが伝わってくるようで、俺は聡子が愛おしくて、どうしようもなくなっている。
「この傷も、過去も今も未来も、全部、愛してるから」
最後に、光を失った左目にキスをして、俺たちは肌を合わせる。あの夜は、感情任せだったけど、今夜は違う。壊れそうな聡子を優しく、でも、熱く。仔猫のように甘える聡子を、これから何度抱くんだろう。
「ねえ……」
「うん? なに……」
「……ずっとしてないの」
「そう……優しくする……力抜いて……」
聡子の中で、聡子を感じる。セックスって、こんなによかったのか、ろくでもないセックスしかしてなかった俺は、最高に聡子を感じている。
「かわいいよ、もっと甘えて」
俺の言葉に、聡子は強く俺の背中を抱きしめて、掠れた、甘い声で聞いた。
「一真……私のこと、好き?」
あの夜は、ちゃんと答えられなかったけど、今は違う。今は、はっきり、自信を持って言える。
「好きだよ、聡子、愛してる」
聡子は色っぽく微笑んで、半開きの唇で呟いた。
「私も……一真……愛してる……」
「朝まで……一緒にいたいな」
唇を尖らせて呟く聡子の手を握って、エレベーターのボタンを押した。
「予約、してるんだよ」
「予約? なんの?」
「その……部屋の……」
「部屋? お部屋、とってくれてるの?」
「ああ、俺も一緒にいたくて」
心臓が止まるんじゃないかってくらいバクバクいってる。
「嬉しい!」
「お、おい、こんなとこで……」
抱きついた瞬間、エレベーターのドアが開いて、降りてきた客が気まずそうに会釈していく。
「いいじゃない、早く行こうよ」
予約した部屋は、公務員の俺、ギリギリのセミスウィート。おおー、テレビでしかみたことなかったけど、こんな部屋なのか、すげえな、泊まるだけなのに、こんなにスペースいるか?
「わあ、素敵……夢みたい。こんなお部屋初めて!」
俺だって初めてだよ。泊まるとしたらベッドとデスクしかないビジネスホテルだからな。
「気に入ってくれた?」
「うん、とっても! ありがとう、ほんとに嬉しい!」
興奮した様子でキスをくれて、ベッドに身を投げた。
「ねえみて、寝転んだまま、夜景が見えるよ」
思わず体を重ねそうになるけど、ダメだ、まだそうじゃない。俺にはまだやるべきことがある。
「のど渇いちゃった、お水、飲んでいい?」
そうだ、泊まるならもうちょい飲んでもいいかな……
「なんか頼もうか、シャンパンとか」
「ルームサービス? なんか贅沢すぎない?」
「たまにはいいだろ、いつも安い店しか連れてってやれてないしさ」
なんて、ルームサービスなんて頼んだことあるわけない。予習しておいてよかった、御堂先生、ありがとう。
「ルームサービスでシャンパンなんて、プリティウーマンみたいね」
それ、なんだっけ、聞いたことあるけど……
「悪と戦うやつ?」
「戦わないよ、ラブストーリーだもん。映画だとね、シャンパンとイチゴなのよ」
なんだその洒落た組み合わせは! そもそも、酒には塩っ辛いものだろう。
「リチャードギアがね、美味しいよって勧めるんだけど、ジュリアロバーツはふうんって感じなの」
なんのことかさっぱりわからん。たぶん、俺も、ふうん、だな。
「あっ、チョコレートがある。ねえ、チョコ食べたい」
酒と甘いものか……俺にはない味覚だ。
しばらくして、ボーイがシャンパンとチョコレートを持ってきた。派手にシャンパンを開ける様子を、聡子は大喜びで動画を撮って、パキッといきそうなグラスで乾杯。
「美味しいね」
聡子はチョコレートを美味しそうに口に放り込んで満足そうに笑う。その顔、たまんないなあ。
「はい、あーん」
あーん、をすると、口にチョコレートを入れてくれたけど、あ、甘い……こんな甘いもん、よくバクバク食えるな。シャンパンで流し込んで、空になったグラスに、聡子が注いでくれる。待て、これ以上はダメだ。酒がまわり始めてる。先に、アレを……
「うーん、幸せ~」
幸せか、俺も幸せだよ、だけど、これからはもっと幸せにしてみせる。聡子、絶対、幸せにするからな。
「聡子、話がある」
「うん? なあに?」
酔いがまわっているのか、呂律が甘い。
「はい、あーん」
「チョコレートは、また後で……大事な話だから、聞いてくれ」
俺のトーンに、聡子はふと俯いて、耳を塞いだ。
「嫌な話なら、聞きたくない」
「そうじゃないよ、聡子……そんな話じゃない」
聡子は渋々手を離して、シャンパンを飲み干した。
「なに?」
「……聡子、ずっと、ずっと考えてたんだけど……」
不安な目で俺を見て、両手を握りしめてる。
「一緒に暮らさないか」
「一緒に?」
「ああ、一緒に……そうすれば、もっとふたりの時間も増えるだろう。寂しい思いをさせてるってわかってる。デートもろくにできないし、いつも仕事で聡子のこと、ほったらかしになってる。悪いと思ってるんだよ」
俺は、どこかで、聡子はうん、と、嬉しいって俺に抱きついて、喜ぶって確信してたのかもしれない。でも、聡子は俯いたまま、首を横に振った。
「それは、できないわ」
う、嘘だろ……まさか、こんな展開になるとは……
「ま、まだ、早いか……」
「時間とか、関係ない。このままでいい」
見たことのないくらい、険しい横顔で、聡子はそう言った。
「聡子、言ったよな、俺は本気だって。本気だから、ケジメはつけたいと思ってる、遊びの恋愛は……」
「私は殺人犯なの。知ってるわ、今でも、一真が職場でいろいろ言われてること。生活を一緒にするなんて、絶対ダメよ、これ以上、あなたに迷惑はかけられない。もう、私のせいで大切な人を傷付けたくないの、人生を奪いたくないの。私とあなたでは、やっぱり……」
唇を噛み締めて、震えた声で続ける。
「私もね、ずっと考えてた。やっぱり……ダメだって、一真に甘えてばっかりで……私……もう、いない方がいいって」
「俺とは、やっていけないってことか」
「そうじゃない! そうじゃないの……でも……私、一真にもらってばっかりで、何も返せない。それどころか迷惑かけて……わかってるのよ、前科があると、警察官とは……ダメなんでしょう……ごめんなさい、やっぱり、別れた方がいい」
握りしめた両手はガタガタと震えて、必死で涙を堪えてる。バカだな、ほんとに。中津が言ってたっけ、似たもの同士って。そうかもしれないな、変なとこで頑固で、ひとりで背負い込んで……でも、聡子、俺たちはもう、ひとりじゃない。俺たちは、ふたりなんだよ。
「俺とじゃ、幸せになれないか」
「……わかんない」
「なあ聡子、おまえといると、俺……ああ、これが幸せなんだなって、初めて……おまえが教えてくれたんだよ。おまえと、ふたりでいたいんだよ」
「私、ひとりでいいの。ふたりなんて……ひとりの方が気楽なの」
「なんでそんな強がるんだよ」
「強がってなんかない!」
「強がってるよ、聡子、おまえは、そんなに強くない。いつも寂しくて、怖くて、ひとりでなんか生きられない、そうだろう?」
「私は……幸せになっちゃいけないの」
「俺も同じだと言っただろう……俺たちは、それぞれバカみたいに重い十字架を背負ってる。これからはさ、おまえのその十字架、俺にも背負わせてくれよ。かわりに、俺の十字架も、背負ってくれないか」
ジャケットのポケットから、やっと、アレを差し出した。
「一緒に生きようか」
「これ……」
「開けてよ」
震える火傷の痕の指で、聡子はリボンを解いて、ケースを開けた。
「一真が選んでくれたの?」
「まあな」
ダイヤと小さなルビーがデザインされた、プラチナリング。御堂は別のデザインがいいって言ったけど、俺は絶対、これだけは譲らなかった。
「聡子に似合うと思って。受け取ってくれ」
「でも……一真、立場が……もっと悪くなるよね……」
「そんな立場、いつでも捨ててやるさ。覚悟はあると言っただろ? おまえを失うくらいなら、警察官なんていつでも辞めてやるよ」
「本当にいいの? もらっていいの? 私、目も見えないし、体も傷だらけだよ……犯罪者だよ」
「全部知ってるさ。聡子、結婚しよう。ふたりで……幸せになろう」
聡子は俺の胸に顔を埋めて、うん、と頷いた。
「顔見せて」
ずっと流れる涙を拭って、左の薬指に指輪を通してやった。
「よく似合うよ」
「キレイ……とっても……ダイヤなんて、私にダイヤなんて……まだ信じられない」
「愛してる、聡子」
ゆっくりキスを交わして、シャンパンで乾杯。
「写真、撮ろうか」
「あっ、ダメ、メイクなおさないと」
「そのままでいいよ、充分、きれいだから」
俺たちは、あかくなった目で、写真を撮った。スマホの中の聡子は、まるであの古い写真の少女のように笑っていて、俺も……やばいな、俺、こんな顔して笑うんだ。
「ありがとう、一真……私……幸せよ」
「そうか、よかった。これからは、もっと幸せにするからな」
ふと、聡子は指輪を見つめて、目を閉じた。たぶん……他の誰かのことを思い出したんだろう。
付き合い始めてわかったけど、聡子は無意識に、あの昔の恋人と俺を重ねている。もしかすると、俺はあいつの代わりなのかもしれない。俺とよく似た、あの男と……それでも構わない。聡子が笑うなら、幸せだと思ってくれるなら。
「夜景、見たいな」
小声で呟いて、恥ずかしそうに、俺の手を握った。
「いこうか」
抱き上げた聡子は、思った以上に軽い。ベッドに下ろすと、ロングスカートが少しめくれて、足の傷が見えた。
枕元には夜景が広がる。ゆっくりと体を重ねて、長く、深く、キスを交わす。
「聡子……」
ファスナーに手をかけた俺に、聡子は、躊躇うように言った。
「……体中にね、火傷の痕があるの……」
「見せてくれ」
痩せた白い肌には、赤い火傷の痕が目立つ。
「気持ち悪いでしょ……」
「そんなわけないだろう」
ひとつひとつ、傷にキスをする。そのたびに、聡子の悲しみが伝わってくるようで、俺は聡子が愛おしくて、どうしようもなくなっている。
「この傷も、過去も今も未来も、全部、愛してるから」
最後に、光を失った左目にキスをして、俺たちは肌を合わせる。あの夜は、感情任せだったけど、今夜は違う。壊れそうな聡子を優しく、でも、熱く。仔猫のように甘える聡子を、これから何度抱くんだろう。
「ねえ……」
「うん? なに……」
「……ずっとしてないの」
「そう……優しくする……力抜いて……」
聡子の中で、聡子を感じる。セックスって、こんなによかったのか、ろくでもないセックスしかしてなかった俺は、最高に聡子を感じている。
「かわいいよ、もっと甘えて」
俺の言葉に、聡子は強く俺の背中を抱きしめて、掠れた、甘い声で聞いた。
「一真……私のこと、好き?」
あの夜は、ちゃんと答えられなかったけど、今は違う。今は、はっきり、自信を持って言える。
「好きだよ、聡子、愛してる」
聡子は色っぽく微笑んで、半開きの唇で呟いた。
「私も……一真……愛してる……」
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる