28 / 29
愛しき傷
愛しき傷(6)
しおりを挟む
枕元でスマホが震える。無意識に電話をとって、画面表示は、やっぱりな、御堂か。時間は午前5時、相変わらず、早朝から物騒な世の中だ。コールはそのまま切れて、薄暗いベッドの中で、まだ眠る聡子の寝顔を確認した。俺の腕で眠る聡子は、微かに寝息をたてて、すこし、マスカラが落ちている。
「おはよう」
耳元で囁いて、軽くキスをして、そっと腕を抜いた。電話を持ってバスルームに移動すると、また震え始める。はいはい、出ますから。
「はい、辰巳」
「おっはよー、ご機嫌いかが?」
「この電話に起こされたとこだ」
「今どこ?」
「ホテルに決まってんだろ」
「へえ、てことは、聡子ちゃんも一緒なわけ?」
「他の女と一緒だと問題だろう」
御堂は軽く口笛を吹いて、現場の住所を送ると言った。
バスルームは思ったより遥かに豪華で、ガラス張りのジャグジー。ああ、聡子と一緒に入りかたったなあ……まあ、これからいくらでも入れるか。熱いシャワーで眠気と酒を抜いて、さあ、仕事だ。ヒゲも剃って、髪も整えて。鏡に映った俺は、やっぱりいい体。俺もまだすてたもんじゃないか? なんてな。
ああ、そうだ、聡子のこと、また送ってやれないな、タクシー代、置いていくか。ここなら絶対気がつくだろう。バスタオルの下に挟んで、メモにタクシー代って……書かなくていいか、後でメールでもすればいいよな。
部屋のドアを静かに開けると、聡子がベッドに座っていた。
「ごめん、起こしたか?」
「ううん……目が覚めたらいないから、夢かと思ったの」
「夢じゃないよ、ほら、指輪もある」
ほんとだって笑って、俺たちは、初めての、おはようのキス。
「お仕事?」
「そうなんだよ、ごめんな、送ってやれなくて。まだ早いからゆっくりしてなよ」
「うん……寂しいけど、仕方ないよね」
聡子はガウンを羽織って、いつものように、いってらっしゃいのキスをしてくれた。
「気をつけてね」
「ああ、いってきます。そうだ、部屋、どんなとこがいいか考えといて。それと……またゆっくり話すけど、もう仕事、辞めなよ」
「でも……」
「体もつらいだろう。しばらくゆっくりして、体調もよくなったら、なんか好きなことすればいい。そんな顔するなって、大丈夫、贅沢はさせてやれないけど、普通に生活するくらい、俺も稼いでるんだぜ? たまに、こんなスペシャルくらいはできるから」
俺は笑ったけど、聡子は少し曇った顔をした。
「一真……」
「なんだ?」
「ずっと一緒よね」
「もちろんだよ、ずっと一緒だ」
その時は、なぜそんなことを聡子が言ったのかはわからなかった。
「よかった、いってらっしゃい」
「そうだ、風呂、すげえから、絶対入っほうがいい」
うん、と笑って、もう一度キスを交わして、俺は現場へ。さあ、これからはひとりじゃない。仕事も頑張らないとな。
現場に着くと、相変わらず、パワフル中津の怒鳴り声が聞こえる。ああ、こいつももういなくなるのか……頼りにしてるってのもあるけど、やっぱり、長い仲間だからな……
「中津、ご苦労」
「ああ、おはようさん、ひどいもんだよ、抗争だな、拳銃でめった撃ちだ……って、なにそのカッコ! 御堂のコスプレ?」
そうだった、昨日のままだ。
「どうだ? 今日からニュー辰巳になった」
「ニュー? なんだそれ。でもまあ、なかなかいいじゃん、女ができると変わるもんだね」
「……昨日、プロポーズした」
「そう、それで?」
「まあな……中津、許してくれるか……」
「まだそんなこと言ってんの? 女々しい男だね! そうだね、私に悪いと思うなら、彼女のこと絶対に幸せにしてやりな、私みたいに、ひとりにすんじゃないよ」
中津は笑って、おめでとう、と言ってくれた。
「でも、おまえとはこの現場で終わりだな、寂しくなるよ」
「あー、そのことなんだけどさ……異動の話、なくなったわ」
「えっ、なんで。決まってたんじゃないのか?」
「警察学校には、旦那が行くことになった。子供もさ、刑事じゃないママはかっこ悪いとか言い出して、全く、なんなんだろね」
「じゃあ……いてくれるのか」
「これからも、よろしくお願いします、辰巳班長」
照れくさそうに敬礼をして、鑑識に指示を出しに行った。
そうか、よくわかんねえけど、よかった、ほんとによかった。
「辰巳くん」
「お、おお、御堂か」
「うまくいったみたいだね」
「当たり前だろうが、俺を誰だと……」
にやにやと笑って、御堂はスマホの画面を見せた。
「俺に感謝しろよ」
こ、これは!
「これ、いつのまに!」
「印鑑の電話したろ?」
印鑑……そうか、なんかおかしいと思ったんだよ。
そこには御堂と聡子のメッセージのやり取りがあって、なんとも……
『デート、楽しんでる?』
『うん、とっても。なんか、今日の一真、違う人みたいなの。服もカッコいいし、なんか御堂さんみたい』
『そう、ところで、一真、なんか言ってる?』
『ううん、でも、なんかソワソワしてる』
『そっか、今夜はさ、聡子ちゃんから誘ってやりなよ、あいつ、そういうの苦手だから』
『誘うって?』
『帰ろうとしたら、一緒にいたいって、そう言えばいいから』
「どうせおまえのことだから、言えないと思ってさ」
よ、余計なことを……まあでも……
「こ、今度メシでも奢ってやるよ」
「俺もセミスウィートでお泊りしたいなあ」
「バカか! キモいこと言うな!」
なんて2人でやってると、中津に遊んでんな、って怒られてしまった。
「そうだ、中津、こっちに残ってくれるって。よかった、マジで。でも急にどうしたんだろうなあ」
「知らないの?」
「なんかあったのか?」
「実地研修で怒鳴ったら、それはパワハラだって言われて、上とケンカしてそのままらしい」
なるほど、あいつらしいな。俺たちは思わず笑ってしまって、また怒られてる。
「班長、おはようございます!」
そうだった、こいつはまだいるんだった……
「死亡推定時刻は昨夜の3時ごろのようです」
「そう、で、ガイシャの足取りは?」
「夜中なので、誰も見てないと思います」
「防犯カメラの解析したのか?」
「ああ……えーと……」
「さっさとやれ! トロトロしてんな、殺すぞ!」
あっ、しまった、つい……
「は、はい、すぐにやります!」
なんだ、できんじゃねえか。甘やかすからダメなんだよ!
「一真、ちょっとちょっと!」
御堂が嬉しそうに耳打ちしてきた。
「なんだよ」
「課長がさ、今のはパワハラだって騒いでるよ」
うるせえ、もう昨日までの俺じゃない。何がパワハラだ、仕事のできないやつを鍛えて何が悪い!
「どうする?」
「知るか、どうでもいわ。それより、中津、遺留品は?」
「鑑識にまわした。それよりあんたさ……」
「なんだよ」
「ニューじゃなくて、復活じゃん」
復活か……そうか、どうやら俺は、随分長い間、冬眠してたらしい。
「やっと目が覚めたよ」
中津はふふっと笑って、耳元で言った。
「惚れてた頃のあんたに戻ってくれて、嬉しいよ」
えっ、えー!
「ほら、御堂と聞き込み行けよ! トロトロしてんな、殺すよ!」
な、なんだ、今のは……そうだったのか、全然わからなかった、けど、今となっては、あいつは信頼できる仲間のひとりだからな。
ふとスマホを見ると、聡子からメッセージが来ていた。
『バスタオルの下にお金があったの。なんだろう』
あ、いけね、忘れてたわ。
『それ、タクシー代。送ってやれなくてごめんな』
すぐに返事が来て、写真もついてる。
『こんなにいらないよ、電車で帰るし。今度のデート代においとくね』
そして画像は……こ、これは! 入浴シーンじゃないか! こんな写真送ってきて、ほかの男に見られたらどうするんだ!
『お風呂めっちゃいい! 今度は一緒に入ろうね♡』
うむ、厳重に保管しておこう。
『早く一緒に暮らしたいよ』
『私も、楽しみだね』
家族か、ついに俺にも家族ができたのか。もうひとりじゃない、俺には、聡子がいる。死んでも守らねえとな。
「そうそう、この前さ、バーで声かけた女の子さあ、実は男だったんだよ。びっくりしたよ、ほんと」
「でもそのままOKなんだろ?」
「まあね、俺の愛は平等だから」
相変わらずだな、こいつも。こいつも、いい友達だ。
まもなく、俺たちは一緒に暮らし始めて、季節も夏に変わろうとしている。聞き込みの帰り、例のラーメン屋で550円の昼飯を食べている。
「指輪、できたんだ」
「やっとだよ、注文してから二か月もかかったんだぜ、仕事が遅すぎるだろう」
「籍、入れたの?」
「いや、なかなかな……上から承認がおりないままだ。聡子は内縁でいいって言うけど、俺は納得できない」
「辞めるとか言わないよね?」
御堂は、不安気に、ちらりと俺を見た。
「辞めても構わないとは思ってる。ただ、そうなると聡子がまた気にするから……難しいところだ」
ふうん、と御堂は言って、スポーツ新聞を広げた。
「辞めてどうすんの」
「昔の同僚が探偵事務所やってる。一緒にやらないかとは言われてるな」
「探偵かあ……それもいいかもね。もし行くなら、俺も誘ってよ。かなりいい仕事すると思うよ」
人懐こく笑って、新聞をたたんだ。
「俺はずっと一真と一緒だから」
なんだよ、こいつ……優しいやつだ。
「キモい言い方すんなって」
パトカーに戻ると、無線が入った。
「こちら辰巳」
「たてこもり事件発生。拳銃の使用許可が出てる、現場に急行」
「了解」
拳銃か……あれ以来、訓練だけだ。腕は鈍ってないはずだけど……
「御堂、行くぞ」
「拳銃、持てるの?」
「ああ、もう逃げるのはやめるよ」
罪を償えなかったのは、俺が逃げてたからだ。
逃げるのは、もう終わりにする。
「おはよう」
耳元で囁いて、軽くキスをして、そっと腕を抜いた。電話を持ってバスルームに移動すると、また震え始める。はいはい、出ますから。
「はい、辰巳」
「おっはよー、ご機嫌いかが?」
「この電話に起こされたとこだ」
「今どこ?」
「ホテルに決まってんだろ」
「へえ、てことは、聡子ちゃんも一緒なわけ?」
「他の女と一緒だと問題だろう」
御堂は軽く口笛を吹いて、現場の住所を送ると言った。
バスルームは思ったより遥かに豪華で、ガラス張りのジャグジー。ああ、聡子と一緒に入りかたったなあ……まあ、これからいくらでも入れるか。熱いシャワーで眠気と酒を抜いて、さあ、仕事だ。ヒゲも剃って、髪も整えて。鏡に映った俺は、やっぱりいい体。俺もまだすてたもんじゃないか? なんてな。
ああ、そうだ、聡子のこと、また送ってやれないな、タクシー代、置いていくか。ここなら絶対気がつくだろう。バスタオルの下に挟んで、メモにタクシー代って……書かなくていいか、後でメールでもすればいいよな。
部屋のドアを静かに開けると、聡子がベッドに座っていた。
「ごめん、起こしたか?」
「ううん……目が覚めたらいないから、夢かと思ったの」
「夢じゃないよ、ほら、指輪もある」
ほんとだって笑って、俺たちは、初めての、おはようのキス。
「お仕事?」
「そうなんだよ、ごめんな、送ってやれなくて。まだ早いからゆっくりしてなよ」
「うん……寂しいけど、仕方ないよね」
聡子はガウンを羽織って、いつものように、いってらっしゃいのキスをしてくれた。
「気をつけてね」
「ああ、いってきます。そうだ、部屋、どんなとこがいいか考えといて。それと……またゆっくり話すけど、もう仕事、辞めなよ」
「でも……」
「体もつらいだろう。しばらくゆっくりして、体調もよくなったら、なんか好きなことすればいい。そんな顔するなって、大丈夫、贅沢はさせてやれないけど、普通に生活するくらい、俺も稼いでるんだぜ? たまに、こんなスペシャルくらいはできるから」
俺は笑ったけど、聡子は少し曇った顔をした。
「一真……」
「なんだ?」
「ずっと一緒よね」
「もちろんだよ、ずっと一緒だ」
その時は、なぜそんなことを聡子が言ったのかはわからなかった。
「よかった、いってらっしゃい」
「そうだ、風呂、すげえから、絶対入っほうがいい」
うん、と笑って、もう一度キスを交わして、俺は現場へ。さあ、これからはひとりじゃない。仕事も頑張らないとな。
現場に着くと、相変わらず、パワフル中津の怒鳴り声が聞こえる。ああ、こいつももういなくなるのか……頼りにしてるってのもあるけど、やっぱり、長い仲間だからな……
「中津、ご苦労」
「ああ、おはようさん、ひどいもんだよ、抗争だな、拳銃でめった撃ちだ……って、なにそのカッコ! 御堂のコスプレ?」
そうだった、昨日のままだ。
「どうだ? 今日からニュー辰巳になった」
「ニュー? なんだそれ。でもまあ、なかなかいいじゃん、女ができると変わるもんだね」
「……昨日、プロポーズした」
「そう、それで?」
「まあな……中津、許してくれるか……」
「まだそんなこと言ってんの? 女々しい男だね! そうだね、私に悪いと思うなら、彼女のこと絶対に幸せにしてやりな、私みたいに、ひとりにすんじゃないよ」
中津は笑って、おめでとう、と言ってくれた。
「でも、おまえとはこの現場で終わりだな、寂しくなるよ」
「あー、そのことなんだけどさ……異動の話、なくなったわ」
「えっ、なんで。決まってたんじゃないのか?」
「警察学校には、旦那が行くことになった。子供もさ、刑事じゃないママはかっこ悪いとか言い出して、全く、なんなんだろね」
「じゃあ……いてくれるのか」
「これからも、よろしくお願いします、辰巳班長」
照れくさそうに敬礼をして、鑑識に指示を出しに行った。
そうか、よくわかんねえけど、よかった、ほんとによかった。
「辰巳くん」
「お、おお、御堂か」
「うまくいったみたいだね」
「当たり前だろうが、俺を誰だと……」
にやにやと笑って、御堂はスマホの画面を見せた。
「俺に感謝しろよ」
こ、これは!
「これ、いつのまに!」
「印鑑の電話したろ?」
印鑑……そうか、なんかおかしいと思ったんだよ。
そこには御堂と聡子のメッセージのやり取りがあって、なんとも……
『デート、楽しんでる?』
『うん、とっても。なんか、今日の一真、違う人みたいなの。服もカッコいいし、なんか御堂さんみたい』
『そう、ところで、一真、なんか言ってる?』
『ううん、でも、なんかソワソワしてる』
『そっか、今夜はさ、聡子ちゃんから誘ってやりなよ、あいつ、そういうの苦手だから』
『誘うって?』
『帰ろうとしたら、一緒にいたいって、そう言えばいいから』
「どうせおまえのことだから、言えないと思ってさ」
よ、余計なことを……まあでも……
「こ、今度メシでも奢ってやるよ」
「俺もセミスウィートでお泊りしたいなあ」
「バカか! キモいこと言うな!」
なんて2人でやってると、中津に遊んでんな、って怒られてしまった。
「そうだ、中津、こっちに残ってくれるって。よかった、マジで。でも急にどうしたんだろうなあ」
「知らないの?」
「なんかあったのか?」
「実地研修で怒鳴ったら、それはパワハラだって言われて、上とケンカしてそのままらしい」
なるほど、あいつらしいな。俺たちは思わず笑ってしまって、また怒られてる。
「班長、おはようございます!」
そうだった、こいつはまだいるんだった……
「死亡推定時刻は昨夜の3時ごろのようです」
「そう、で、ガイシャの足取りは?」
「夜中なので、誰も見てないと思います」
「防犯カメラの解析したのか?」
「ああ……えーと……」
「さっさとやれ! トロトロしてんな、殺すぞ!」
あっ、しまった、つい……
「は、はい、すぐにやります!」
なんだ、できんじゃねえか。甘やかすからダメなんだよ!
「一真、ちょっとちょっと!」
御堂が嬉しそうに耳打ちしてきた。
「なんだよ」
「課長がさ、今のはパワハラだって騒いでるよ」
うるせえ、もう昨日までの俺じゃない。何がパワハラだ、仕事のできないやつを鍛えて何が悪い!
「どうする?」
「知るか、どうでもいわ。それより、中津、遺留品は?」
「鑑識にまわした。それよりあんたさ……」
「なんだよ」
「ニューじゃなくて、復活じゃん」
復活か……そうか、どうやら俺は、随分長い間、冬眠してたらしい。
「やっと目が覚めたよ」
中津はふふっと笑って、耳元で言った。
「惚れてた頃のあんたに戻ってくれて、嬉しいよ」
えっ、えー!
「ほら、御堂と聞き込み行けよ! トロトロしてんな、殺すよ!」
な、なんだ、今のは……そうだったのか、全然わからなかった、けど、今となっては、あいつは信頼できる仲間のひとりだからな。
ふとスマホを見ると、聡子からメッセージが来ていた。
『バスタオルの下にお金があったの。なんだろう』
あ、いけね、忘れてたわ。
『それ、タクシー代。送ってやれなくてごめんな』
すぐに返事が来て、写真もついてる。
『こんなにいらないよ、電車で帰るし。今度のデート代においとくね』
そして画像は……こ、これは! 入浴シーンじゃないか! こんな写真送ってきて、ほかの男に見られたらどうするんだ!
『お風呂めっちゃいい! 今度は一緒に入ろうね♡』
うむ、厳重に保管しておこう。
『早く一緒に暮らしたいよ』
『私も、楽しみだね』
家族か、ついに俺にも家族ができたのか。もうひとりじゃない、俺には、聡子がいる。死んでも守らねえとな。
「そうそう、この前さ、バーで声かけた女の子さあ、実は男だったんだよ。びっくりしたよ、ほんと」
「でもそのままOKなんだろ?」
「まあね、俺の愛は平等だから」
相変わらずだな、こいつも。こいつも、いい友達だ。
まもなく、俺たちは一緒に暮らし始めて、季節も夏に変わろうとしている。聞き込みの帰り、例のラーメン屋で550円の昼飯を食べている。
「指輪、できたんだ」
「やっとだよ、注文してから二か月もかかったんだぜ、仕事が遅すぎるだろう」
「籍、入れたの?」
「いや、なかなかな……上から承認がおりないままだ。聡子は内縁でいいって言うけど、俺は納得できない」
「辞めるとか言わないよね?」
御堂は、不安気に、ちらりと俺を見た。
「辞めても構わないとは思ってる。ただ、そうなると聡子がまた気にするから……難しいところだ」
ふうん、と御堂は言って、スポーツ新聞を広げた。
「辞めてどうすんの」
「昔の同僚が探偵事務所やってる。一緒にやらないかとは言われてるな」
「探偵かあ……それもいいかもね。もし行くなら、俺も誘ってよ。かなりいい仕事すると思うよ」
人懐こく笑って、新聞をたたんだ。
「俺はずっと一真と一緒だから」
なんだよ、こいつ……優しいやつだ。
「キモい言い方すんなって」
パトカーに戻ると、無線が入った。
「こちら辰巳」
「たてこもり事件発生。拳銃の使用許可が出てる、現場に急行」
「了解」
拳銃か……あれ以来、訓練だけだ。腕は鈍ってないはずだけど……
「御堂、行くぞ」
「拳銃、持てるの?」
「ああ、もう逃げるのはやめるよ」
罪を償えなかったのは、俺が逃げてたからだ。
逃げるのは、もう終わりにする。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる