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五十六話
しおりを挟むアティスは悔しげな顔をしながらもなお、立ち上がった。
「……貴様、まさかとうとう切れたのか。先程までの威圧感が嘘のように消し去った。間違いない。
貴様はもう、俺の敵ですらない」
「そのようですね。ですが……それでも諦めるわけにはいきません」
敵に魔法が切れてしまった事がバレてしまった。
力の差は圧倒的。勝てる確率など皆無に等しい。どう足掻いても、勝てない。マリアの強化魔法が無くなった今勝てるわけがない。
理解している。
強化魔法が無くなった自分は、目の前の敵と比べ圧倒的に弱い。
だがそれでも、このまま黙って殺されるわけにはいかない。今、この化け物の前に立っているのは自分だけなのだ。例え、勝てる確率が低くとも諦めるわけにはいかない。
(私が、何とかしなければならない)
アティスは剣を下段に構えて、化け物に接近する。
接近しながら、アティスは改めて数十秒前の自分と比べて格段に弱くなってしまっている事を痛感した。
全力で地を蹴っているはずなのに、先程と比べるとスピードが比較にならないほど遅くなっている。
「遅いな。本来の貴様の実力はその程度か」
下段から切り上げるようにして迫る剣を、易々と受け止める。
マリアの魔法が無くとも、アティスの剣速はこの世界の中でもトップクラスの速度を誇る。
だが、その程度の速度では化け物には届かない。
「諦めろ。今の貴様では天地がひっくり返っても俺に勝つ事は出来ん。
大人しく死ね。抵抗しないのなら一撃で逝かせてやる」
アティスの頭部目掛けて振り下ろされる剣を間一髪で受け止める。
激しく火花をが散ったと同時に剣を伝って耐え切れないほどの力が地面に向かって流れる。
地に膝を着きそうになりながらも耐え切った。
そう思った次の瞬間。
アティスの身体は宙に浮いていた。
鳩尾に蹴りを入れられ、身体はくの字に曲がりながら一直線に飛んでいく。
何とか数回剣を突き立て減速し、地面を転がった。
「うっ、あぁ……」
身体中に激痛が走る。
骨折が数カ所に全身打撲と言ったところだろう。
たった一撃でアティスの身体は戦闘不能に限りなく近づいた。もう一撃喰らって仕舞えば立ち上がる事さえ困難になる。そんな一撃だった。
剣を支えにして何とか立ち上がる。
「何故そこまでして立ち上がる? どう足掻いても勝てないのは貴様にも分かっているはずだ」
「……守るものがある……帰らなければいけない場所がある。それだけだ」
全身の痛みに耐えながらもう一度走り出す。
地を蹴り、ギルアスカに肉迫しようとしたその時。アティスの手の甲の網様が光り輝いた。
アティスの身体は瞬きよりも速く、ギルアスカに接近した。
そして、力任せに剣を振るう。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
完全に油断していた。
身体強化の魔法が無くなったアティスは敵では無く、例え自分に刃が迫った直前からでも対応できるはずだった。
現に、先程の一撃は何の脅威でもなかった。
負けるはずがなかった。
アティスの剣がギルアスカを両断しようと迫る。
防御に動くが、間に合わない。
敵の刃は自分の首に届く事はない。そう油断していた。だから、力が戻ったアティスへの防御が遅れた。
その遅れは、油断は、隙は致命的だった。
そして、力を取り戻したアティスの剣がギルアスカ両断した。
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