妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由

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五十七話 イオン時点

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 「……何故だ」

 王城をでて、少し歩きながら自分自身に問いかける。

 「どうしてこうなった……」

 ミアと婚約し、国王になった。
 全て順調だったはずなんだ。
 何処で、何処で間違えた?

 もっと早くに対処していれば間に合ったか?
 もっと早くミアの嘘に気付くべきだったか?
 もっと早く帝国に助けを求める判断をするべきだったか?

 いや、あいつか。
 マリアとの婚約を一方的に破棄した事か。あそこだ、あそこから全てが狂ったんだ。

 私はマリアよりもミアの方が好きだった。
 別に最初からマリアが嫌いだったと言うわけではない。ただ、好きでもなかった。

 ミアは姉であるマリアの事を良く思っていなかった。ミアとの婚約の為に、切り捨てられるくらいの存在だった。

 だけど、もう少し何が違う方法があったのかもしれない。
 言葉であったり、態度であったり、行動であったり。何か少しでも変えていればこうはなっていなかったかもしれない。

 「もう考えても仕方のない事か……」

 少しずつ、少しずつ歩く。
 騎士や冒険者が命をかけて街を守っているだろう前線の方角へ。

 「子供……?」

 貴族街を抜けそうになったあたりで、十歳ほどの少女が前方から走ってくる姿が視界に映った。

 全力で走っている少女は何かから逃げているようだった。

 そして、少女の後ろから追ってくる魔物の姿が私の目からも確認できた。

 「ゴブリンか、何故こんな場所に?」

 前線はもっと先だったはずだ。
 前線を抜けてしまう魔物も出てしまうだろうが、ここまで魔物が来るなど有り得ない。

 帝国軍と王国軍が防衛している前線が崩れ始めているのか?

 「クソっ!」

 皇太子はこの状況の原因を突き止めに行ったが、まだ帰還していない。
 それよりも先に前線が崩れてしまえば王都は終わる。

 あぁ、本当に、頭が痛くなってくる。

 辺りを見回す。

 ここでも戦闘があったのか、いくつかの武器が目に入った。

 一番近くに落ちている剣を拾い上げる。
 騎士ならこんな剣は片手で持ててしまうのかもしれないような剣だが、少し重い。
 両手で構える。

 私は王族だ。
 物心ついた頃から色々な事をやらされてきた。その中には剣術だって含まれている。
 辛くて一年もたたずに投げ出してしまったが、魔物の中でも最底辺と言っても過言ではないゴブリン相手だ。
 負けはしないだろう。

 少女が走っていくのを確認した後、ゴブリンの進行方向を塞ぐ。

 腰を落として、タイミングを見計らって剣を振った。

 恐らく、隙だらけの横薙ぎだっただろう。
 だが、ゴブリン相手ならその程度でも当たる。

 そう、思っていた。

 ゴブリンはタイミングよく上に飛び上がり、剣戟を回避した。

 驚いて、上を見上げると石で作られた斧のようなものを持っているゴブリンの姿が見えた。

 数年の長いブランクがあるからか、ゴブリンであろうと本物の魔物と戦った経験が皆無だったからなのかは分からないが、身体が動かなかった。

 (あぁ、私はここで死ぬのか……)

 そう思った。

 ここで生き延びたとしても、王国が滅びて死ぬか、今回の騒動の原因として責任を取らされて処刑されるかしか道はない。
 どう転んでは恐らく死ぬことは確定か……

 皇太子から聞いた話では王国に近い位置の帝国領土にも問題の魔物が出現しているらしい。

 自国だけならまだ何とかなったかもしれないが、他国にまで影響を及ぼしてしまったら終わりだ。
 それに、今回の騒動で街が幾つか壊滅状態にあるらしい。帝国に助けを求めるような事態だ。国王として、何らかの責任は取らなければならないだろう。

 「イオン殿下ァァァアッ!」

 死を覚悟した直後、ゴブリンの姿が視界から消える。

 すぐ後には、足を振り抜いた形のルファルスがいた。

 「殿下! 何故こんなところに? 早く城へお戻りください」

 「……すまない。少し考えごとをな。すぐに戻るよ」

 どんどんと悪い方向にばかり進む報告を聞かされたことで、少しおかしくなっていたのかもしれない。
 そう、ルファルスに言って私は王城へと戻った。

 
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