妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由

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五十五話

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 金属がぶつかり合い、甲高い音が響く。

 何十、何百回と剣と剣が交錯する。
 その度に激しく火花を散らす。

 人外の力を持って争う両者の実力は拮抗していた。戦闘開始から数十分が経っても両者共に致命的な傷は負っていない。

 だが、致命的な傷は無くともアティスの身体には複数の切り傷がつけられていた。
 どの傷もそれほど深く無く、カスった程度の傷が多いが、それでも傷口からの出血量は無視できないほどのものになっていた。

 それに対してギルアスカの身体には一つとして傷はついていない。

 たとえ擦り傷程度と言えど、その傷が増え続ければいつかは限界が来る。無傷のギルアスカに対峙するのは何十という切り傷を負ったアティス。誰の目から見ても、このまま斬り合えばアティスが敗北するであろう事は容易に想像できるだろう。

 「……ハァ……ハァ、隙がない」

 「貴様は隙だらけだがな」

 マリアの強化魔法で身体能力を大きく底上げされたアティスの力はギルアスカにも匹敵する。両者の実力は拮抗していると言ってもいい。
 だが、アティスは焦っていた。


 自分よりも明らかに格上の敵。化け物と言っても過言ではないような敵と対等に出来てしまう身体強化。マリアの負担は大きいだろう。長く続かない事は分かっている。
 もし、この身体強化が切れてしまえば、アティスに勝機はない。
 この身体強化の魔法が無くならない内に目の前の敵を倒さなければいけない。
 だが、タイムリミットは分からない。

(だから、1秒でも早く目の前の敵を片付ける!)

 その焦りが、アティスの動きに微かな隙を生んでいた。ギルアスカはそれを見逃すような敵ではない。
 だが、化け物ギルアスカにも匹敵する身体能力で何とか致命傷だけは負わずに済んでいた。

 アティスは恐るべき速度で迫り来る深紅の剣を、正面から受けずに受け流し、一瞬で複数の剣戟を叩き込む。

 「どうした! そんなものでは、私に傷をつける事はできないぞ!」

 「クッ……黙れッ!」

 一瞬で放たれた複数の斬撃をいとも容易く弾き返し、アティスから距離をとる。
 そして、余裕な笑みを浮かべて言った。

 「隙を探しているのだろう? 残念だが貴様が俺を斬り殺せるほどの隙は生まれん。それよりも先にその魔法が切れる方が早いだろう?
 貴様の剣が俺に届くことはない。諦めろ」

 「……諦めろと言われて、はいそうですかと諦められるはずないでしょう」

 距離をとった、ギルアスカに向かって走り出す。

 だが途端、アティスが地面に転がった。

 「ぐっ…! ……ッ」

 「……!? なんだ!?」

 ギルアスカから少し離れた位置で苦しげな声を上げる。一瞬、何が起こったのか理解できなかった二人。
 そして、一拍。先に事を理解したのはアティスだった。

 自分の身に起こった事を正確に理解した。

 身体強化の魔法が解け、元の身体能力まで戻ってしまったという事を。
 
 もう戦闘開始から二十分近くが経過している。いつ訪れてもおかしくなかったのだ。

 (こんな……ところで……)

 
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