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六十話
しおりを挟む私の胸元に迫っていたナイフはギリギリのところで、イオンがミアの腕を掴んだことにより静止していた。
「イオン!? 何するの! 話してよ!
お姉ちゃんが殺せないでしょ!?」
「何言ってるんだ? 殺すってどう言うことだよ、ミア……?」
「どう言うことってそのままの意味よ!
お姉ちゃんを殺さないといけないの!
魔物が攻めてくるのも、私がこんな目に遭ってるのも全部お姉ちゃんのせい。お姉ちゃんがいなくなれば全部上手くいくの!
だから、殺さないと!」
「落ち着け、ミア!」
イオンはミアを私から引き離す。
「マリアを殺しても意味はない。
こんな状況の中だ。疲れてるんだよ。
少し冷静になろう」
イオンがミアの肩を掴んで説得する。
私はその隙に逃げ出そうとする。
だけど、身体をうまく動かすことができずベットから転げ落ちた。
逃げないと。
身体をゆっくりと引きずりながら移動する。
「何言ってるの!?
イオンこそ冷静になってよ!
お姉ちゃんを殺せばいいって、なんで分からないの!」
「ミア! 頼むから落ち着いてくれ!
マリアを殺してもこの状況は変わらないし、何も上手くいかない!」
「……ねぇ、なんで? なんでなの?」
ミアが何かを諦めたような顔をする。
「イオンは私のこと好きなんだよね?」
「……あぁ、もちろんだ」
「なら、なんで分かってくれないの?
お姉ちゃんを殺せばいいって。
今がチャンスなんだよ? 今なら殺せるんだよ?」
「だから、ミア。落ち着いて——」
「落ち着くのはイオンの方だよ。
こんな簡単なこともわからないなんて、冷静じゃないよ。
街のほとんどが壊滅状態。王都もいつ前線が崩れるか分からないくらい危険な状況。
イオンが疲れてるのは分かるけど、こんな時こそ冷静になろうよ」
一瞬、イオンが後ずさった。
イオンから見てもあのミアは異常なのだろう。
だが、すぐにミアに顔を近づけ懇願する様に言った。
「み、ミア! 頼むから! 頼むから落ち着いてくれ!」
「……分かった。分かったよ、イオン。
イオンも少し休めば冷静になれるよ」
「うっ、……」
ミアがいいながら、拳をイオンの鳩尾に叩き込む。
崩れ落ちるイオンを辛そうな目で見つめてから、ナイフを握りしめて私の方に向かってくる。
分かっていたことだ。
イオンがミアを止めてくれて「もしかしたら」そう思ったけど、やっぱり無理だった。
ミアはイオンのことが好きみたいだし、イオンの説得で踏み止まってくれるかもしれないと思ったけど、イオンの説得ですら止まれないほどミアの私への殺意は大きいみたい。
ミアがイオンの説得で止まってくれなかった時の結果は予想していた。
イオンは王子だ。
王子として昔から数多くの事をやらされてきた。その中には剣術や魔法、自分の身を守れるものもある。
だけど、イオンはそのほとんどを途中で投げ出していると聞いたことがある。
つまりイオンは多少の剣術や魔法は使えるかもしれないが、ある程度のレベルがある相手から身を守る事は出来ない。
ミアは私と同じ聖女の資格を持っていただけあって、魔術師としては優秀な部類に入る。
魔術師は身体強化が苦手な人間が多いけど、出来ないわけじゃない。
優秀な魔術師なら、イオンを無力化する程度に身体能力を上昇される事は造作もないだろう。
私の目の前にミアが立つ。
動かない身体で必死に逃げようとしたけど、間に合わなかった。
後ろに逃げようとしても、壁があって進めない。
「もっとちゃんと、やっておいて下さいよ……」
最後に、少し大きめの言葉でイオンに恨言を言ってみる。
私の胸に再度ナイフが振り下ろされる。
今度こそ、本当にどうすることも出来ない。
目を閉じた。
次に私の耳に届いた音は、自分の肉が切り裂かれる音。ではなく、甲高い金属音だった。
目を開けると、ミアのナイフは宙を舞い、ミアから私を庇うように一人の後ろ姿が見えた。
「ぁ……アティスさん」
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こちらで見つけたのは偶然でしたが、良かった〜。
さすがにイオンも殺害は止めるわな、髪飾りの破壊の冤罪を着せた件だけでも立場不利なのに状況がより悪化するのは容認出来ないでしょうね(と言うかミアを他国に追放してもその国を抱き込んで騒動起こしそうだし)