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にゃんにゃんと忍者の日
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今日は二月二十二日。忍者の日にして猫の日である。猫はともかく、今年は忍者が家にいるひなかなのであった。
「そー……」
彼女はあることを思いついて、百均で猫耳を買って来た。食洗器に食器を入れている鼓へ抜き足差し足で忍び寄り、作戦を決行。相手はおそらく本物の忍者だ。少なくとも運動神経や耳の良さはその辺の一般人を凌駕する。少しの物音や殺気でバレてしまう可能性が高い。
「うわっと……」
そんなことを言っている間に、うっかり猫耳カチューシャを落としてしまう。音が出た上に声まで普通に出してしまったが、幸いバレていない。
(忍者とは……?)
これだけの物音で気づかないとは、忍者であることを疑いたくなる鈍さだ。いや鼓のことだ。主の悪戯を見逃しているだけかもしれない。
(よし)
鼓に猫耳を付けて、一通りの達成感を覚える。しばらくして彼は頭に違和感を覚えたのか、猫耳を触ってひなかの方を振り向く。
「主殿?」
「……!」
髪に合う様に黒いものを買っていたが、戸惑いながら上目遣いでこちらを見つめる姿は不覚にも可愛いと思ってしまった。
(顔はいいのよね……芸能界なら食べていけそうだけど、生放送には絶対出せないだろうし……)
顔の良さすら台無しにするポンコツぶりは一緒に暮らして十分味わったので、そういう今やナイーブな業界では難しいと勝手に思ってしまう。今時は人の良さと顔の良さで食っていけないので世知辛いのだ。
「今日って忍者の日なんだけど、流石に誕生日じゃないよね?」
ひなかは興味本位で鼓の誕生日を聞いてみた。
「たんじょうび、ですか?」
「生まれた日よ」
鼓は誕生日という言葉を知らなかった。まぁそのくらいではもう驚かないのだが。
「えーっと、たしか如月の……月が替わる八日前くらいですかね?」
「ふーん……」
ひなかはスマホで調べる。如月は二月。つまり二十日くらいだろうか。
「二十日ね……さすがに忍者の日ではなかったか……」
「あ、いえ……拙が生まれた月は大の月でしたので二十二日です。小の月でも二十一です」
「え、何それ?」
桁の違う田舎者だと思ったら、どうやらカレンダーの概念も違うらしい。
「ていうか今日じゃん!」
「え、今日みたいですけど……まだ元服の歳ではないので……」
そして見落とすところであったが、鼓の誕生日は恐らく今日である。
「ゴメン! 何にもないけどおめでとうってだけ言わせて!」
「え? あの、何かおめでたかったんですか?」
「いやあんたの誕生日!」
根本的に価値観が異なるせいか、全く話が通じない。そこでひなかはなんとか話題を取り付ける。
「でもこの前、今十三歳って言ってなかった? 今日元服じゃん?」
「いえ……あれは今年に十三歳になるということで、ややこしくて申し訳ない……」
「そうでなくても麓の街では誕生日はおめでたいの」
誕生日がめでたいものだという常識さえ通じない。
「ほら七五三とか祝うでしょ? 祝わない?」
「たしかに七つまで生きる子は稀有でしたが……拙はその、あまり……」
なんとか七五三は通ったが、鼓は言葉を濁す。単に風習が違うだけではなく、個人としてもあまり祝ってもらえなかったのかもしれない。用意は特にないし、今からせこせこしても妙に自己肯定感の低い彼のことだ。却って重く感じてしまうかもしれない。
なので今すぐ出来る準備をしてお祝いをすることにした。
その辺にあった本を持ち、マフラーを巻いて完了だ。
「祝え!」
「主殿?」
もう勢い任せである。
「とりあえずその猫耳をプレゼントだと思っておいて」
こんなものでいいのか悩んだが、まずは誕生日という文化を習得させねばならない。この先どこかに身を落ち着けるにしても、現代文化に慣れないと苦労するだろう。
「あ、ありがたき幸せ……。この身に余る栄誉です」
「いや、百均の玩具でそこまで……」
膝を付き、礼を言う鼓。演技でもなさそうな辺り、彼は単なる田舎者というよりそれ以上の闇を抱えてそうに感じてしまう。
(とりあえず先生にも頼んだし、何とかなるといいかな)
彼自身は悪い奴には見えないので、平穏無事にこの一件が解決することを祈るひなかであった。最初は変な奴かつ若干ウザかったが、一緒に暮らす間に情でも沸いたのだろうか。
「そー……」
彼女はあることを思いついて、百均で猫耳を買って来た。食洗器に食器を入れている鼓へ抜き足差し足で忍び寄り、作戦を決行。相手はおそらく本物の忍者だ。少なくとも運動神経や耳の良さはその辺の一般人を凌駕する。少しの物音や殺気でバレてしまう可能性が高い。
「うわっと……」
そんなことを言っている間に、うっかり猫耳カチューシャを落としてしまう。音が出た上に声まで普通に出してしまったが、幸いバレていない。
(忍者とは……?)
これだけの物音で気づかないとは、忍者であることを疑いたくなる鈍さだ。いや鼓のことだ。主の悪戯を見逃しているだけかもしれない。
(よし)
鼓に猫耳を付けて、一通りの達成感を覚える。しばらくして彼は頭に違和感を覚えたのか、猫耳を触ってひなかの方を振り向く。
「主殿?」
「……!」
髪に合う様に黒いものを買っていたが、戸惑いながら上目遣いでこちらを見つめる姿は不覚にも可愛いと思ってしまった。
(顔はいいのよね……芸能界なら食べていけそうだけど、生放送には絶対出せないだろうし……)
顔の良さすら台無しにするポンコツぶりは一緒に暮らして十分味わったので、そういう今やナイーブな業界では難しいと勝手に思ってしまう。今時は人の良さと顔の良さで食っていけないので世知辛いのだ。
「今日って忍者の日なんだけど、流石に誕生日じゃないよね?」
ひなかは興味本位で鼓の誕生日を聞いてみた。
「たんじょうび、ですか?」
「生まれた日よ」
鼓は誕生日という言葉を知らなかった。まぁそのくらいではもう驚かないのだが。
「えーっと、たしか如月の……月が替わる八日前くらいですかね?」
「ふーん……」
ひなかはスマホで調べる。如月は二月。つまり二十日くらいだろうか。
「二十日ね……さすがに忍者の日ではなかったか……」
「あ、いえ……拙が生まれた月は大の月でしたので二十二日です。小の月でも二十一です」
「え、何それ?」
桁の違う田舎者だと思ったら、どうやらカレンダーの概念も違うらしい。
「ていうか今日じゃん!」
「え、今日みたいですけど……まだ元服の歳ではないので……」
そして見落とすところであったが、鼓の誕生日は恐らく今日である。
「ゴメン! 何にもないけどおめでとうってだけ言わせて!」
「え? あの、何かおめでたかったんですか?」
「いやあんたの誕生日!」
根本的に価値観が異なるせいか、全く話が通じない。そこでひなかはなんとか話題を取り付ける。
「でもこの前、今十三歳って言ってなかった? 今日元服じゃん?」
「いえ……あれは今年に十三歳になるということで、ややこしくて申し訳ない……」
「そうでなくても麓の街では誕生日はおめでたいの」
誕生日がめでたいものだという常識さえ通じない。
「ほら七五三とか祝うでしょ? 祝わない?」
「たしかに七つまで生きる子は稀有でしたが……拙はその、あまり……」
なんとか七五三は通ったが、鼓は言葉を濁す。単に風習が違うだけではなく、個人としてもあまり祝ってもらえなかったのかもしれない。用意は特にないし、今からせこせこしても妙に自己肯定感の低い彼のことだ。却って重く感じてしまうかもしれない。
なので今すぐ出来る準備をしてお祝いをすることにした。
その辺にあった本を持ち、マフラーを巻いて完了だ。
「祝え!」
「主殿?」
もう勢い任せである。
「とりあえずその猫耳をプレゼントだと思っておいて」
こんなものでいいのか悩んだが、まずは誕生日という文化を習得させねばならない。この先どこかに身を落ち着けるにしても、現代文化に慣れないと苦労するだろう。
「あ、ありがたき幸せ……。この身に余る栄誉です」
「いや、百均の玩具でそこまで……」
膝を付き、礼を言う鼓。演技でもなさそうな辺り、彼は単なる田舎者というよりそれ以上の闇を抱えてそうに感じてしまう。
(とりあえず先生にも頼んだし、何とかなるといいかな)
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