櫻と蒲公英。

空々ロク。

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櫻と蒲公英。

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彼女に初めて出会った時、桜が満開だったことを覚えている。
偶然訪れた公園の奥の桜並木。
そこで彼女に出会ったのだ。
桜の下で佇む彼女は可憐で美しかった。
少し小さな彼女は朗らかな雰囲気を纏っていて、見る者を捉えて離さない──そんな不思議な魅力を持っていた。
他にはない、唯一無二の存在。
僕は一目見て彼女に恋をしたのだと思う。
(あれから1年か)
もうすぐ桜が満開になる。
今年も彼女に会えるだろうか。
──期待して「その日」を待ち続けた。

迎えた「その日」は快晴だった。
(晴れて良かった)
最寄り駅から電車に乗って数分。
件の公園はその駅にあった。
電車の中でも僕は彼女のことを考えていた。
今年もその場所で会えると確信していたし、また会える喜びに胸を弾ませていた。
駅から公園への道は1年前より賑やかになっていた。
(寂れた町だったのに、1年で変わるものだな)
だいぶ都市開発が進んだのだろう。
駅前には大きな商業施設が立ち、寂れていた商店街も活気づいていた。
1年という時間の長さを思い知らされる。
それでも彼女は変わらないはずだ。

商店街を抜けた先、公園は変わらずあった。
ペンキが剥がれかかった遊具に小さな噴水、広々としたベンチ。
ここだけは1年前と何も変わっていない。
その事実に安堵する。
環境が変わっていなければ彼女も変わらずそこにいてくれるはずだから。
暖かい日差しを浴びながら公園の奥へと進む。
徐々に桜の木が見え始め、同時に桜の花びらが舞い始める。
ひらりひらりと舞い落ちる桜の花びらは見ていて飽きない。
掴もうと手を伸ばしてもなかなか掴めないところも愛しかった。
ゆっくりと桜並木を進み、初めて彼女に出会った桜の下に辿り着く。
「タンポポ」という名前を持つ彼女は変わらずそこにいた。
「久しぶり」
しゃがみこんで声を掛ける。
春の日差しを浴びた彼女は今年も凛と咲き誇っていた。
1年経っても変わらない──彼女は美しかった。
元気いっぱいに咲いているという事実だけで僕は幸せだ。
「ありがとう」
小声で呟き、立ち上がる。
少し離れてから振り返ると彼女は桜の花びらが降ってくるのを楽しんでいるように見えた。
桜の木の下に咲いた一輪のタンポポ。
それは些細なものかもしれない。小さな存在かもしれない。
だからこそ出会えて良かったと心から思う。
当時の自分はちょうど鬱々と悩んでいた時期だった。
自分の存在理由が見い出せず、何もかも嫌になっていた。
そんな時に出会った彼女の可憐さと力強さに僕は力をもらったのだ。
もう一度前を向こうと思ったのは他でもない彼女のおかげだった。

また来年も会いに来よう。
その時は付き合い始めたばかりの彼女を連れてくることになるかもしれない。
タンポポを見て「私の恋敵!」と騒ぐことだろう。
彼女は少し変わっているから。
そしてそんなところが僕は好きだから。
来年の春を楽しみに、桜並木を戻る。
「ありがとう」
声が聞こえた気がして振り返る。
少し遠くからでもよく見える黄色い花はやはり特別なのかもしれない。
少なくとも僕にとっては特別だ。

君に会えて良かった。
君を見つけることが出来て良かった。
この世界には何処にでも美しいものが存在するのだと知ることが出来たから。
「……ありがとう」
もう一度呟いてから歩き始める。

──桜吹雪が舞う中、僕は満足気に帰路に着いたのだった。
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