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第一章
婚約指輪が選べませんっ!
しおりを挟む「……婚約指輪、ですか?」
「ああ。好きなデザインで作らせよう」
エルシアと二人で自室にいる、という緊張感ともうすぐ彼女を家に帰さなければならないという寂しさからクロードは二人のこれからに関わる話を始めた。
「そんな物を頂くわけには。契約上の関係ですし……」
(それに、わたくしカザルス様からも婚約指輪なんて貰ってませんし)
エルシアは元婚約者のカザルスを思って溜め息をつく。
カザルスから私的に渡された物は何もない。
誕生日等には細々とした物が公爵家から贈られてきたし、婚約指輪は公爵夫人のお下がりを頂く予定だった。
特にそれを不満に思ったこともなかったが、今にして思えば不信に思うべきだったのだ。
(わたくし、本当に愛されてなかったわねぇ)
そんなエルシアの憂鬱を遠慮だと思ったクロードは話を続ける。
「エルシア、婚約指輪は俺が贈りたいんだ。契約上とは言え婚約者になるのだし、君さえ良ければ貰って欲しいんだがーー」
ふふふ
チラチラとエルシアの顔色を伺うクロードが何だか大きな犬みたいで可愛い、と彼女は思わず微笑む。
嫌われているとばかり思っていたのに、偽装婚約の契約を交わしてからエルシアの中で彼の印象は変わりつつあった。
(殿下は、いつも一生懸命でいらっしゃるわ)
長身でイケメンで、と言った風貌は変わらないのに私生活に触れたからだろうか。
「では、お気持ち程度の物でをお願い致しますわ、殿下」
エルシアは控え目な物を、というつもりで言った言葉であったが、気持ち程度、という言葉はクロードの心に火をつける。
「ありがとう、エルシア! 必ず納得いくものを見つけよう。では早速、王宮専属の宝石商に頼んでくる!」
「は、はい」
思いの丈を指輪に込めよう、と光の速度で去って行くクロードであった。
★
後日。
「こちらは、この国最高峰のダイヤでございます。そしてこちらは、東洋から取り寄せた貴重なルビーでございまして……」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
テーブルの上にこれでもか、と並べられた宝石はそのどれもが超一級品であることは説明されなくても伝わってくる程の大きさと輝きである。
「ん? ああ。エルシア、デザインはこれから職人と相談して変えることも出来るから心配いらないよ?」
(そういう意味じゃないってばぁ~~)
腰が引けるエルシアはなんとか抗議の声を出す。
「で、殿下さすがに、これは……」
「俺のエルシアへの気持ちだからな!」
これで気持ちは伝わるのでは、と爽やかに笑うクロードとは反対に益々ワケが分からなくなるエルシアである。
(え、気持ち? 偽装婚約の慰謝料的な?)
「あの、もう十分良くして頂いておりますので……」
なんとか受け取らずにしようとしているエルシアを見て、さすがのクロードも気が付いた。
ーーこれは断ろうとしている、と。
だが、気持ちだとエルシアに言われた婚約指輪を受け取って欲しいクロードは言葉を連ねる。
「その、何だ。それなりの物でないと周りに不信に思われる。特に、ご令嬢達は目ざといだろう」
(うぅぅ……そう言われると、確かにそうかも)
咄嗟にひねり出した、偽装婚約がバレないようにと言う言い訳はエルシアを納得させたようである。
彼女は困った顔をしながらもコクン、と頷いた。
「よかった……!! エルシアが好きな物を選んでくれ」
(好きな物を……)
エルシアは好きな物を選べ、と言われることに戸惑いを隠せなかった。
彼女は家族から愛されて育った自覚はある。
だが、幼い頃より実家の経済状況を理解していた彼女は、好みよりも体裁を整えることに重きを置いてきた。
勿論、カザルスから好きな物を選んで、と言われた事もない。
「……分かりませんわ、殿下。選べませんの」
何だか無性に寂しい気持ちになったエルシアは、涙目でクロードを見つめたのであった。
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