【完結】婚約破棄された伯爵令嬢、今度は偽装婚約の殿下に溺愛されてます

ゆーぴー

文字の大きさ
9 / 52
第一章

ご褒美にナデナデをお願いされました

しおりを挟む

「ふぅーー。疲れた……」


「殿下、手が止まっていますよ。次はこちらの決裁を」

 ケインが手元の書類をクロードの机に移動させる。

「お前、鬼畜だな」

 ヤサグレた目で睨むクロードであったが、ケインはニンマリと笑うだけだ。



「そうですか? もう少し頑張れば、ご褒美がありますよ」

 その言葉を聞いたクロードは、机に突っ伏した。

「フン。お前の褒美なんかいるもんか」

 彼は拗ねている。


 何故なら、エルシアが手伝いに通って来てくれなくなったからだ。
 だが、それはクロード自身が言い出したことであった。

 エルシアにゆっくり過ごして欲しいのは勿論のこと。
 指輪の代金を労働で払っている現状、彼女に手伝いを頼むのは嫌だったからだ。


 コンコンコン

 クロードは突っ伏したまま、扉を叩く音を聞く。
 いつもなら代わりにケインが入室の許可を出すのに、扉付近まで迎えに行く気配に違和感を覚えたクロードが顔を上げるとーー。


「殿下、お身体は大丈夫ですか!?」

 突っ伏した彼を心配するあまり、顔を青くしたエルシアが居たのだった。


「あ、え? エルシアだ……」


(大変! だいぶお疲れなんだわ)

 朦朧としたクロードの様子にアタフタするエルシア。

「ケインさん! すぐにお医者様を!!」

「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ、エルシア嬢。殿下の限界は把握しているつもりです」

 サラリと限界まで働かせる気満々の台詞を口にするケインであったが。

 そんな言葉も耳に入らないくらいに歓喜に満ち溢れたクロードは、ひたすらエルシアを見つめている。

「でも、殿下は固まっていらっしゃいますわ。きっと疲労で……」

「これはエルシア嬢に会えた喜びで固まっているだけですよ」

 ふふ、と笑うケインを疑わし気にエルシアは睨む。

(そんな冗談を言っている場合ではないのに……!)

 彼女は次期公爵としての仕事をカザルスから全て丸投げされていた。
 だから、過労でおかしくなる気持ちが分かるのだ。

 事実、業務に慣れるまで何晩も徹夜した朝は、人が二重に見えたものである。
 それからは疲労回復剤がお友達であった。


(わたくしがお医者様を呼びに行かなくてはっ)

 クロードの異常を心配したエルシアが、医者を呼びに部屋から出ようとした瞬間ーー。


「エルシア! 待ってくれっっ」

 クロードは彼女が居なくなってしまう危機にあって、覚醒した。

 そして、小走りでエルシアの元に駆け寄る。

「俺は大丈夫だ。ケインの言った通りだから心配ない」

 だが、エルシアは首を横に振る。

「殿下、無理してはいけませんわ。倒れては元も子もありません」

 クロードは事実を言ったまでだが、エルシアには疲労を隠しているようにしか見えない。

 それでも、どうしても医者を呼んでくれるな、と言うクロードに押されてエルシアは渋々了承する。



「……では。せめて、わたくしにもお手伝いさせて下さいませ?」 


 長身のクロードを見上げるエルシアは、知らずに上目遣いになる。
 その天然の可愛さに悶えながらも、クロードは申し出をきっぱりと断った。

「それも駄目だ、エルシア。この仕事は俺がやり遂げなければ格好がつかない」

「そんな……わたくしに出来ることは仕事しかありませんのに」
 
 シュン、と項垂れるエルシア。

 そんな彼女に罪悪感が一杯になったクロードは『エルシアが俺の生き甲斐だ』とか『女神なんだ』とか、本人も何が言いたいのか分からない言葉を連ねる。

 見兼ねたケインが口を挟んだ。

「エルシア嬢。殿下は貴女からご褒美を頂ければ体調も良くなり、もっと仕事も頑張れるそうです」

「……そんな馬鹿な」

(わたくし、前は殿下に嫌われているのかと思っていたくらいの関係性なのに)



 だが、エルシアの心中に反してクロードは大きく頷いた。

「ああ! ケインの言った通りだ!!」

 エルシアがその言葉に驚いている内に、クロードは夢にまで見た憧れをここぞとばかりに口にする。


「エルシアに、髪を撫でて欲しい……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

処理中です...