【完結】婚約破棄された伯爵令嬢、今度は偽装婚約の殿下に溺愛されてます

ゆーぴー

文字の大きさ
17 / 52
第一章

元婚約者との再会

しおりを挟む
 
 ザワザワザワ

 クロードにエスコートされたエルシアが会場に姿を現すと。

 貴族たち、主に令嬢たちの間から刺すような視線がエルシアに向けられた。



ーーねぇ? 殿下の婚約者がエルシア様だなんて。信じられませんわ


ーー私もショックで寝込みそう。カザルス様から捨てられたのではなかったの? 不釣り合いにも程があるわ



 身の程知らず。殿下を誑かした女狐。


 直接こちらに何かを言ってくるわけではない。

 だが、エルシアに聞こえるような声で罵倒しておきながら、いざクロードと挨拶に向かうとにこやかに祝いの言葉をかけてくる令嬢達。


(こわい こわい こわい)

 なんとか視線を前に、作り笑顔で答えるエルシアであったが緊張が止まらない。

 

「クロード殿下、こちらにいらっしゃいましたか」

「これは、サンマリア国王陛下。お久しぶりです」

 隣国の国王が王女を連れて声をかけて来た。

「こちらがお噂の婚約者殿、ですな?」

「ええ。エルシアです」

 クロードは、にこやかにエルシアを紹介するが。

 ジトーーー


 国王は値踏みするような視線でエルシアを観察してくる。
 耐えられなくなったエルシアは、軽く頭を下げて自己紹介をした。



「初めまして。婚約者のエルシアと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

 キッッッ

 すると、国王の隣に控えていた王女からあからさまに睨みつけられたのだ。


(……うっ)


 射殺す様な視線を向けられて、肩が震える。

 彼女は両手を握りしめて自分を鼓舞した。


(しっかり! しっかりするのよ、エルシア)


 クイッ

 だが、そんな彼女の肩をクロードはギュッと抱き寄せる。


「これからは、俺も彼女のためにより公務に精進します。王族に恥じない行動を、ね」


 そう言ってクロードが視線を王女に向けると、さすがに居心地が悪かったのだろうサンマリア国王は娘を連れて去って行く。



「嫌な思いをさせて悪かった、エルシア」

「いいえ。助けて頂いてありがとうございました」


 
(殿下はすごい人なんだな……)

 改めてエルシアは思う。

 見上げればすぐ隣にいるこの人とは、やっぱり住む世界が違う。

 ひっきりなしに繰り返れる挨拶も、人脈も。

 エルシアには縁がなかった世界だ。


 何だか少し寂しい気持ちになった彼女に、一人の男性が声をかけて来た。


「クロードを少し借りてもいいかい?」


 クロードの長年の友人だと言う近隣国の王子は、友人同士で積もる話をしたいと言う。


「エルシアを一人にするわけには……」

「大丈夫ですわ、殿下。ちょうど、少し風に当たりたいと思っていた所ですもの」


 エルシアを気遣い断ろうとするクロードの背中を、彼女は優しく押し出した。


(こんな機会でもないと、他国の友人には中々会えないものね)

 

「すぐに戻るから。危ない人について行っちゃあいけないよ!」


 クスクス

 友人に連れて行かれるクロードの物言いが、子供への注意のようで笑ってしまう。


(さて、と。少し庭園でも散歩しようかしら)



ーー見えない位置から護衛も付いているはずだし。



 正直、ずっと緊張し続けて疲れていたので一人になれるのはありがたかった。

 パーティー会場にいれば、次期王太子妃と言う肩書き目当ての人達に囲まれてしまうのは目に見えている。

 

 エルシアは扉を開けて廊下に出た。



「おい、マリー! その手を離せよっ」

「いやぁ~~。カザルス様の薄情者!!」
 

 廊下の離れた先から、遅れて会場に向かう男女が言い争う声がする。


 ズキッ

(この声はーー)


 思わず見つめた先で、決して会いたくない人達と目があった。


「お前! エルシアじゃないかっ」


ーーやっぱり、カザルス様とマリー男爵令嬢、よね
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

処理中です...