41 / 52
第一章
嗤う王女
しおりを挟むサンマリア国の一室にて。
「のぉ。そなたは、ちゃんと妾の言う事を聞いておったのか」
両手の指先に長い付け爪をした王女は、左手の小指の分だけ床に投げ捨てる。
よくよく見れば、ソレはマニキュアが少しはみ出ていた。
床に這いつくばるようにして、一人の侍女は泣きながら許しを請う。
「ゾフィア王女様! どうかどうか、お赦し下さい! もう二度とミスはしませんから!!」
ふん。
ゾフィアと呼ばれた王女は、鼻で嗤うだけだ。
ーー只の死罪では、つまらん。
最近のゾフィアは非常に機嫌が悪い。
ただでさえ、残虐な一面のある彼女だったが、クロードがエルシアとの婚約を発表してからは、いつもイライラしているのだ。
「妾が、クロード様と結婚するはずだったのに」
そう、そうなのだ。
父王が、ゾフィアに言ってくれたのだ。
サンマリア国産の小麦もだいぶ行き渡り。
いずれ病でも流行れば、あっという間にクロードはサンマリア国の属国の王子になる。
そうなれば、クロードはゾフィアの物だと。
「……エルシアと言う女は、邪魔じゃ」
ゾフィアは苛つきに任せて、侍女を蹴飛ばす。
おまけに、エルシアの弟とやらが黒死麦の遺伝子に気付き。
国王が、サンマリア国を脅して来たのだから計画は頓挫したのだ。
ーー父王は何か、考えて下さるのかの
「だが、あまり期待は出来まい」
ゾフィアは呟く。
父王の関心は、どうやって計画を再び成就させるかにある。
クロードの事など、二の次なのだ。
ーーああ、そうか。妾が乗り込むと言うのも手よの
ゾフィアは、どうやって父王を説得するかウンウンと考え込む。
コンコン
「ゾフィア様、失礼致します」
王女の思考を遮る者がいた。
ゾフィアの親衛隊が入室して来る。
彼は一目見て、侍女の失態に気付くと。
ぎゃあっ
這いつくばる侍女が、まるで見えないかの様に踏みつけた。
ゾフィアは冷めた目で見るだけ。
「……泥棒猫が国境で、国外追放?」
親衛隊の報告に、ゾフィアの眉はピクリと動いた。
「ほんに、使えない猫であったの」
彼女は、マリーが黒死麦を広める間、親衛隊の力で捕まらない様に手を貸していた。
だが、そのせいでクロードが倒れたと聞けば、話は別である。
「始末は如何、致しましょうか」
マリーなど、とうに興味を失ったゾフィアは面白く無さそうに呟いた。
「……猫は猫に処分させれば良い。あの子のオヤツくらいにはなるであろう」
その言葉に、踏みつけられている侍女は戦慄する。
ーーゾフィアの言う猫とは、彼女の飼っている虎なのだから。
「畏まりました。して、次は何を致しましょう」
親衛隊の問に珍しく、ゾフィアは問い直した。
「……どうすれば、良いと思う?」
ゾフィアとしては、さんざんクロードに自分の好意をアピールしてきたつもりなのだ。
だが、そんなゾフィアに気付かないから、クロードは別の女を婚約者に据えたのだろう。
「ゾフィア様の控え目で上品な行いを、あの国の者は理解出来なかったのでしょう」
「……なるほどのぉ」
ゾフィアは、少し考え込みながら親衛隊に踏みつけられている侍女をジッと見る。
そして、何か閃いたのか口元に歪んだ笑みを浮かべた。
ーー確か、遥か異国では慕う男に女が小指を贈ると聞いたの
ゾフィアは屈み込んで、侍女と視線を合わせ嬉しそうに嗤うとこう言った。
「のぉ。そなた、不始末を許して欲しいのだろう? ならばそのかわり、妾に小指を寄越せ」
「い、いやぁーー!! お許しを!」
ブチン
ゾフィアは、血濡れた小指の爪に捨てた付け爪を貼り付ける。
そして、それを丁寧に宝石をあしらったケースに納めると、親衛隊に手渡した。
「これを、クロード様に渡して参れ。妾の付け爪は良くご存知のはずじゃ。きっと、気付くであろう」
「……畏まりました。もし理解しない時は?」
親衛隊の言葉に、ゾフィアは面白く無さそうに気を失っている侍女を指さした。
「その時は、この女の指がもう一本無くなるだけじゃ」
「御意」
親衛隊の男は、ケースを胸元にしっかりとしまうと。
急いで馬を走らせる。
ゾフィアはその姿を満足そうに見送ると、いそいそと父王の部屋に向かった。
無論、クロードを手に入れる為だ。
こうして、無事に一連の事件が解決したかと、胸を撫で下ろしていたクロード宛に。
災いを呼ぶ、一つの贈り物とサンマリア国からの親書が少しづつ近付いて来るのであった。
……………………………………………………………………………………
ご愛読頂きありがとうございました。
これで、第一章完とさせて頂きます。
次回からは、第二章が始まります!
よろしくお願いします(*´ω`*)
1
あなたにおすすめの小説
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる