他の何よりアイが欲しい。R15

勇崎シュー

文字の大きさ
10 / 25

十話 交錯

しおりを挟む
「今日から三連休か」
 俺は朝食を貪りながらそう呟く。
「そうだね。まぁ、ボクらはバイトばっかりだろうけど。あれ、そう言えば今日はシフト入れないでって海斗言ってたけど、なんで?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた。これを見よ!」
 俺は足元に隠してあった通帳を見せびらかす。
「えっと、ん?じゅ、十万円!?どっから持ってきたのこれ!?」
「バカ、自分で稼いだ分だよ。今年は私服以外全部貯めてたからな」
 庭理は成る程と頷く。
「この金でさ、東京行こうぜ東京!」
「いいけど、なんで東京?」
「スカイツリー見たい」
 俺が正直にそう言うと、何故か庭理はぷっと吹き出した。
「なんで笑うんだよぉ!」
「だってスカイツリーって、はははっ」
 ま、庭理も楽しそうだしいっか。
 俺は笑う庭理をよそに、食器をキッチンに運んだ。
 その後庭理も食べ終わり、食器を運ぶ。それを俺がせっせと洗う訳だ。
 滑りひとつ残さず洗い終えた俺は、隣の寝室へ入る。
「キャー、海斗さんのえっちー」
 着替え中の庭理が、棒読みでそんなことを言ってきた。
「あ、悪い」
 俺はそう言いながら着替え始める。
「あ、もう気にしないんだこういうの」
 庭理が苦笑しながらそう言ってきた。
 俺はタンスに向かい適当な服を選び着る。
 黒いティーシャツに青と黄色のチェックのシャツを上に着る。下はジーンズを穿いた。
「庭理ー、着替え終わったか?」
 一応、庭理には背を向けた状態で着替えたので、庭理が着替え終えているか確認した。
「うん。今終わった」
 振り向くと、水色のワンピースを着た庭理がそこにいた。肩には革のバッグを提げている。
「じゃ、行くか」
 俺は煉瓦色のコートを、庭理は薄花色のカーディガンを羽織った。これで寒さ対策も大丈夫なはず。
「海斗、なんかダサくない?」
「え?結構可愛いと思うけど」
「いや、ボクじゃなくてさ......」
「え、俺......?」
 俺は自分の服を見てみる。
「そうか?」
 庭理は冷めた目で俺を見ていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━

「凄かったね、スカイツリー」
 俺は庭理にそうだなと頷く。
 いや、正直本当に凄かった。
 日本晴れのおかげで遠くまでくっきり見えたし、まぁ、その分長く並ばされたけど。
 とにかく、スカイツリーの中も近未来的でびっくりしたし、エレベーターはめっちゃ早かった。
「海斗、このあとどうするの?」
「あー、ソラマチで適当に食べて帰ろうぜ」
 俺達がソラマチへ向かおうとすると、後方から声がかけられた。
「お、美園クンじゃーん!懐かしー」
 俺は振り向き、その顔をみたとたん、顔をしかめた。
「永沢......」
 この少しふっくらしたこいつは、永沢優ながさわゆう。俺が転校する前の学校の同級生だ。
「え?誰その子?え、え?彼女?まじかよ!すげぇな美園クン」
 馬鹿にしたように騒ぐ永沢に腹をたてながらも、俺はぐっと堪えた。
「じゃ、俺もう行くから」
「いや、待てって美園クン」
 永沢が俺の手を掴んできた。振りほどきたくて仕方なかったが、折角のデートを壊したくないので、永沢になんか用かと聞く。
「もっと話しようぜー、せっかく会えたんだしよぉ」
「......てか、なんでお前がここにいんだよ」
「別にそんなん勝手じゃーん」
「なぁ、もういいだろ。俺達行くから」
 俺が庭理の手を引き、離れようとすると、
「ねぇ、彼女サンは美園クンの秘密知ってんの?」
 俺はその足を止めた。
 庭理は俺のことを知ってるから良かったけど、もしも知らなかったらどういうつもりだ。
 いや、こいつは単に、俺達を引き離そうとしてるのだろう。こいつはそういうやつだ。
 遊び感覚で、他人の人生を狂わせる。それが楽しくて堪らないんだろう。
 こいつは昔から、何一つ成長してないんだな。
「美園クンはさぁ!昔自分の父親を殺した、犯罪者なんだぜぇ!」
 ぷつりとなにかが切れた音がした俺は、殴りかかろうと永沢に振り向き、
「ねぇ」
 庭理が声を出した。
「なんでそのことを君が言うの?普通彼女がいる前でそういうこと、言う必要ないよね?」
 庭理は、それはもう激昂していた。
「君って、凄く最低な人間なんだね」
 気圧されたのか、若干冷や汗を流していた永沢だったが、すぐ反論してきた。
「はっ?犯罪者の方がずっと最低野郎だと思いますけどぉ?」
「海斗は仕方なくやったことだけど、君は違うでしょ?そんな風に誰かを面白半分で傷つける人間の方が、ずっとずっと最低だよ」
「何言ってんだよ。自分の父親を殺したんだぞそいつは。しかも当日小学三年生。どう考えてもこいつのが頭イカれ......」
「永沢」
 俺は静かに、そう呟く。
「もう黙れ」
 俺は永沢が身を固めている内に、庭理の手を引き歩き出した。
 その後、我を取り戻した永沢は、怒鳴り付けてきた。
「お前みたいな殺人者が、しゃしゃってんじゃねぇぞ!」
 その後も道のど真ん中で怒鳴り散らす永沢と、その視線の先にいる俺達は、周囲の注目を集めた。
 その大半は、永沢の言葉を鵜呑みにし、哀愁の視線を注いできた。
 残りは、訳のわからないことを怒鳴り散らす変人への、差別的な視線だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...