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十一話 そして
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「ごめんな、嫌な思いさせて」
電車にガタガタと揺らされるなか、俺は開口一番、そう謝った。
「別に、海斗は悪くないじゃん」
庭理はそう言いながら前髪を弄る。
俺達はあの後、東京に居続けたくなかったので、電車で帰ることにした。
しかし、それでも腹は空いたままなので、駅弁と言うやつを買った。俺の膝の上には、庭理の分も入った袋が置かれている。
「庭理、あのさ」
重苦しい雰囲気の中、俺は庭理に内緒にしていたことを打ち明けた。
いや、内緒にしていたわけではなかった。ただ言うタイミングが掴めなかっただけだ。
「あのさ、俺、父親殺したって言っただろ?でもあれには、もうちょっとだけ続きがあるんだよ」
微妙な時間なのと、神奈川に入ったからか、この車両には、俺と庭理しかいなかった。
「俺さ、警察に嘘ついたんだ。向こうが殺しにきたから殺したって。そしたら本当に正当防衛で無罪になったわけだよ」
「でも、永沢って人はそのこと......」
「あー、多分知らねぇよあいつは。適当なこと言って俺達を別れさせたかったんだろ」
すると、庭理は俺の袖をぎゅっと掴んだ。
なんだか、それが嬉しかった。
「永沢か......」
俺は、小学生の時いじめを受けていた。
主犯は永沢だ。
永沢が俺が父親を殺したことを言いふらし、皆を見方にして俺に嫌がらせをしてきた。
次の年、俺は別の学校に転校することになったため、期間的には半年くらいだが、辛い時期だった。
そう言えば、あのときは誰も俺のことを助けてくれなかったな。
「庭理」
庭理が俺を見つめる。
「ごめんじゃなくて、ありがとうだな」
俺はぎこちなく笑った。
「海斗っ......」
庭理が涙目になる。
「次海斗を悪く言う奴がいたら、またそいつを罵ってあげるから。論破してあげるから……!」
庭理が俺の肩に額をつけ、泣きそうになりながらそう言う。
「ありがとう、庭理」
俺は右手で庭理の頭を撫でた。
「海斗は大丈夫なの?」
庭理が顔を上げ、聞いてくる。
「あ、あぁ。大丈夫だよ。俺のことは気にするな」
そう言いながら、俺は頭を掻いた。
すると、電車は俺達の目的地に着いた。
「さ、帰って駅弁食おうぜ」
「うめー」
駅から帰るのに多少時間がかかるため、俺達は近くの公園で食事を済ますことにした。
所々ペンキの剥がれたベンチに横並びに座り、駅弁を食べている。
「なんか子供いないね」
あまり大きい公園ではなかったが、ブランコやジャングルジム等はあるので、ちゃんとした公園のはずだ。
「皆家ん中でゲームしてんだろ」
俺が皮肉ぎみにそう言う。
「なんか、ちょっと寂しいな」
庭理が卵焼きを頬張りながらそう言う。
「まぁ時代の流れは残酷だーみたいな話も聞いたことあるしな」
いつ、誰にという部分を省き、そんなどうでもいいような返事をした。
「わー、なんかテキトー」
「そりゃ寒いからだな」
子供がいない理由もそれかもな。と脳内で呟きながら、白飯を口に頬張ると、真横から視線を感じた。
「な、なんでしょうか?」
思わず敬語になってしまった俺に、庭理はジト目で俺を睨む。
「やっぱなんかテキトーなんだよなぁ。ねぇ、海斗。もしかして……ボクと一緒にいるの、飽きちゃった……?」
突然の言葉に、まず困惑。そして言葉の意味を理解し、憤懣。しかし、それを表に出さずに一旦落ち着き、苦手ながらも自分の意思を言葉にして伝える。
「何かさ、庭理とは、もう好きとかそうじゃないとか、そういう次元じゃないような気がする」
俺の話を聞いて庭理が、必死に何を伝えようとしているのか見透かそうと頑張っている様子を見て、やはり自らの言語力の無さに半ば失望するのだった。
俺は一度咳払いし、話を続ける。
「なんか、一緒にいて当たり前というかさ、庭理以外の人が俺の隣にいるってのも、想像出来ないしさ、まぁ、つまり、飽きたりだとかもっと好きな女とかもこれから出来ないから、んなの杞憂だって話だ」
庭理は少しの間俯いた。
「ごめん。海斗がボクのこと飽きちゃったとか、そんなことを本気で考えてた訳じゃなくて、ええとつまり、意地悪したくなっちゃったー、みたいな」
「えー、俺あんなに頑張って真面目に話したのにー。まぁ、可愛いから許す!」
「やたー」
そんな軽口を言い合っている間に、二人の弁当箱は空になっていた。
「よし、じゃあ帰るか」
「うん」
俺達がベンチから立ち上がると、急に空風がびゅうと音をたてて吹き、もう数枚しか残っていない落ち葉を舞い上がらせた。
そして、俺は何故かその光景を見て、儚いと思ってしまったのである。
電車にガタガタと揺らされるなか、俺は開口一番、そう謝った。
「別に、海斗は悪くないじゃん」
庭理はそう言いながら前髪を弄る。
俺達はあの後、東京に居続けたくなかったので、電車で帰ることにした。
しかし、それでも腹は空いたままなので、駅弁と言うやつを買った。俺の膝の上には、庭理の分も入った袋が置かれている。
「庭理、あのさ」
重苦しい雰囲気の中、俺は庭理に内緒にしていたことを打ち明けた。
いや、内緒にしていたわけではなかった。ただ言うタイミングが掴めなかっただけだ。
「あのさ、俺、父親殺したって言っただろ?でもあれには、もうちょっとだけ続きがあるんだよ」
微妙な時間なのと、神奈川に入ったからか、この車両には、俺と庭理しかいなかった。
「俺さ、警察に嘘ついたんだ。向こうが殺しにきたから殺したって。そしたら本当に正当防衛で無罪になったわけだよ」
「でも、永沢って人はそのこと......」
「あー、多分知らねぇよあいつは。適当なこと言って俺達を別れさせたかったんだろ」
すると、庭理は俺の袖をぎゅっと掴んだ。
なんだか、それが嬉しかった。
「永沢か......」
俺は、小学生の時いじめを受けていた。
主犯は永沢だ。
永沢が俺が父親を殺したことを言いふらし、皆を見方にして俺に嫌がらせをしてきた。
次の年、俺は別の学校に転校することになったため、期間的には半年くらいだが、辛い時期だった。
そう言えば、あのときは誰も俺のことを助けてくれなかったな。
「庭理」
庭理が俺を見つめる。
「ごめんじゃなくて、ありがとうだな」
俺はぎこちなく笑った。
「海斗っ......」
庭理が涙目になる。
「次海斗を悪く言う奴がいたら、またそいつを罵ってあげるから。論破してあげるから……!」
庭理が俺の肩に額をつけ、泣きそうになりながらそう言う。
「ありがとう、庭理」
俺は右手で庭理の頭を撫でた。
「海斗は大丈夫なの?」
庭理が顔を上げ、聞いてくる。
「あ、あぁ。大丈夫だよ。俺のことは気にするな」
そう言いながら、俺は頭を掻いた。
すると、電車は俺達の目的地に着いた。
「さ、帰って駅弁食おうぜ」
「うめー」
駅から帰るのに多少時間がかかるため、俺達は近くの公園で食事を済ますことにした。
所々ペンキの剥がれたベンチに横並びに座り、駅弁を食べている。
「なんか子供いないね」
あまり大きい公園ではなかったが、ブランコやジャングルジム等はあるので、ちゃんとした公園のはずだ。
「皆家ん中でゲームしてんだろ」
俺が皮肉ぎみにそう言う。
「なんか、ちょっと寂しいな」
庭理が卵焼きを頬張りながらそう言う。
「まぁ時代の流れは残酷だーみたいな話も聞いたことあるしな」
いつ、誰にという部分を省き、そんなどうでもいいような返事をした。
「わー、なんかテキトー」
「そりゃ寒いからだな」
子供がいない理由もそれかもな。と脳内で呟きながら、白飯を口に頬張ると、真横から視線を感じた。
「な、なんでしょうか?」
思わず敬語になってしまった俺に、庭理はジト目で俺を睨む。
「やっぱなんかテキトーなんだよなぁ。ねぇ、海斗。もしかして……ボクと一緒にいるの、飽きちゃった……?」
突然の言葉に、まず困惑。そして言葉の意味を理解し、憤懣。しかし、それを表に出さずに一旦落ち着き、苦手ながらも自分の意思を言葉にして伝える。
「何かさ、庭理とは、もう好きとかそうじゃないとか、そういう次元じゃないような気がする」
俺の話を聞いて庭理が、必死に何を伝えようとしているのか見透かそうと頑張っている様子を見て、やはり自らの言語力の無さに半ば失望するのだった。
俺は一度咳払いし、話を続ける。
「なんか、一緒にいて当たり前というかさ、庭理以外の人が俺の隣にいるってのも、想像出来ないしさ、まぁ、つまり、飽きたりだとかもっと好きな女とかもこれから出来ないから、んなの杞憂だって話だ」
庭理は少しの間俯いた。
「ごめん。海斗がボクのこと飽きちゃったとか、そんなことを本気で考えてた訳じゃなくて、ええとつまり、意地悪したくなっちゃったー、みたいな」
「えー、俺あんなに頑張って真面目に話したのにー。まぁ、可愛いから許す!」
「やたー」
そんな軽口を言い合っている間に、二人の弁当箱は空になっていた。
「よし、じゃあ帰るか」
「うん」
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そして、俺は何故かその光景を見て、儚いと思ってしまったのである。
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