他の何よりアイが欲しい。R15

勇崎シュー

文字の大きさ
11 / 25

十一話 そして

しおりを挟む
「ごめんな、嫌な思いさせて」
 電車にガタガタと揺らされるなか、俺は開口一番、そう謝った。
「別に、海斗は悪くないじゃん」
 庭理はそう言いながら前髪を弄る。
 
 俺達はあの後、東京に居続けたくなかったので、電車で帰ることにした。
 しかし、それでも腹は空いたままなので、駅弁と言うやつを買った。俺の膝の上には、庭理の分も入った袋が置かれている。

「庭理、あのさ」
 重苦しい雰囲気の中、俺は庭理に内緒にしていたことを打ち明けた。
 いや、内緒にしていたわけではなかった。ただ言うタイミングが掴めなかっただけだ。
「あのさ、俺、父親殺したって言っただろ?でもあれには、もうちょっとだけ続きがあるんだよ」
 微妙な時間なのと、神奈川に入ったからか、この車両には、俺と庭理しかいなかった。
「俺さ、警察に嘘ついたんだ。向こうが殺しにきたから殺したって。そしたら本当に正当防衛で無罪になったわけだよ」
「でも、永沢って人はそのこと......」
「あー、多分知らねぇよあいつは。適当なこと言って俺達を別れさせたかったんだろ」
 すると、庭理は俺の袖をぎゅっと掴んだ。
 なんだか、それが嬉しかった。
「永沢か......」
 俺は、小学生の時いじめを受けていた。
 主犯は永沢だ。
 永沢が俺が父親を殺したことを言いふらし、皆を見方にして俺に嫌がらせをしてきた。
 次の年、俺は別の学校に転校することになったため、期間的には半年くらいだが、辛い時期だった。
 そう言えば、あのときは誰も俺のことを助けてくれなかったな。
「庭理」
 庭理が俺を見つめる。
「ごめんじゃなくて、ありがとうだな」
 俺はぎこちなく笑った。
「海斗っ......」
 庭理が涙目になる。
「次海斗を悪く言う奴がいたら、またそいつを罵ってあげるから。論破してあげるから……!」
 庭理が俺の肩に額をつけ、泣きそうになりながらそう言う。
「ありがとう、庭理」
 俺は右手で庭理の頭を撫でた。
「海斗は大丈夫なの?」
 庭理が顔を上げ、聞いてくる。
「あ、あぁ。大丈夫だよ。俺のことは気にするな」
 そう言いながら、俺は頭を掻いた。
 すると、電車は俺達の目的地に着いた。
「さ、帰って駅弁食おうぜ」

「うめー」
 駅から帰るのに多少時間がかかるため、俺達は近くの公園で食事を済ますことにした。
 所々ペンキの剥がれたベンチに横並びに座り、駅弁を食べている。
「なんか子供いないね」
 あまり大きい公園ではなかったが、ブランコやジャングルジム等はあるので、ちゃんとした公園のはずだ。
「皆家ん中でゲームしてんだろ」
 俺が皮肉ぎみにそう言う。
「なんか、ちょっと寂しいな」
 庭理が卵焼きを頬張りながらそう言う。
「まぁ時代の流れは残酷だーみたいな話も聞いたことあるしな」
 いつ、誰にという部分を省き、そんなどうでもいいような返事をした。
「わー、なんかテキトー」
「そりゃ寒いからだな」
 子供がいない理由もそれかもな。と脳内で呟きながら、白飯を口に頬張ると、真横から視線を感じた。
「な、なんでしょうか?」
 思わず敬語になってしまった俺に、庭理はジト目で俺を睨む。
「やっぱなんかテキトーなんだよなぁ。ねぇ、海斗。もしかして……ボクと一緒にいるの、飽きちゃった……?」
 突然の言葉に、まず困惑。そして言葉の意味を理解し、憤懣。しかし、それを表に出さずに一旦落ち着き、苦手ながらも自分の意思を言葉にして伝える。
「何かさ、庭理とは、もう好きとかそうじゃないとか、そういう次元じゃないような気がする」
 俺の話を聞いて庭理が、必死に何を伝えようとしているのか見透かそうと頑張っている様子を見て、やはり自らの言語力の無さに半ば失望するのだった。
 俺は一度咳払いし、話を続ける。
「なんか、一緒にいて当たり前というかさ、庭理以外の人が俺の隣にいるってのも、想像出来ないしさ、まぁ、つまり、飽きたりだとかもっと好きな女とかもこれから出来ないから、んなの杞憂だって話だ」
 庭理は少しの間俯いた。
「ごめん。海斗がボクのこと飽きちゃったとか、そんなことを本気で考えてた訳じゃなくて、ええとつまり、意地悪したくなっちゃったー、みたいな」
「えー、俺あんなに頑張って真面目に話したのにー。まぁ、可愛いから許す!」 
「やたー」
 そんな軽口を言い合っている間に、二人の弁当箱は空になっていた。
「よし、じゃあ帰るか」
「うん」
 俺達がベンチから立ち上がると、急に空風がびゅうと音をたてて吹き、もう数枚しか残っていない落ち葉を舞い上がらせた。
 そして、俺は何故かその光景を見て、儚いと思ってしまったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...