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十二話 調べの理に
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11月も終わりを迎え、木々の煽りも感じなくなる頃。
和気藹々とした声が調理室を包む。
今日は家庭科の調理実習の日だ。
「ぬぬぬ...」
俺は震える手で人参を切る。
「美園君ー、手が震えてるじゃなーい。大丈夫ー?」
同じ班の宮崎が、鮭に小麦粉をつけながら煽ってくる。
「料理は苦手なんだよ」
ちくしょう。震えだけじゃなく冷や汗まで出てきやがった。
「ちょっとこれ、繋がっちゃってんじゃん!誰これ切ったの!」
別の班で怒鳴っているのは、なんと庭理だった。
普段学校じゃ寡黙なのに、料理となるとあんな風になるんだな。
「あら、松芝さんお料理上手ね。将来良いお嫁さんになれるんじゃない?」
家庭科の原田先生が、庭理を誉め始めた。
「お嫁さんって、ボクは男ですよ」
「ふふ、冗談よ。でも最近は主夫やってるって人もいるじゃない」
良かった。どうやら先生が庭理の性別に気づいた訳じゃなかったみたいだ。
「ちょっと美園君、何よそ見してんのよ!」
俺はその怒号で、思わず右手に力が入る。
すると、俺は人差し指を包丁で少し切ってしまった。
「いってー」
「な、何やってんのよあんた!」
「あら、大丈夫?美園さん。まぁ、結構切っちゃったわね。保健室に行ってきなさい」
俺は先生に言われた通りに保健室へ向かった。
そう言えば、この高校の保健室に行くのは初めてだな。
そんなことを思っている内に、保健室の前にたどり着いた。
俺は二回ノックをし、失礼しますと保健室に入った。
「あらあら、どうした少年」
保健室にいた先生は、若めの女性の先生だった。
「調理実習中に指先を切っちゃいました」
俺は人差し指を見せる。
「こりゃまた結構ぱっくりいったわね」
先生がそう言いながら顔をしかめる。
「じゃ、そこ座って」
俺は言われた通り椅子に座る。
「はい、じゃあまずは消毒っと」
先生が向かいの椅子に座り、傷口に半透明の液体をかける。
じわりと痛みがきたが、耐えられない程ではない。って当たり前か、只の消毒液なんだから。
その後綿みたいな布で液体を拭き取られ、器用に絆創膏がはられた。
「わっ、先生絆創膏はるの上手いですね」
「そう?まぁ、伊達に保健室にいないってことね」
俺が昔自分で絆創膏をはった時は、それはもうぐちゃぐちゃになったものだ。
料理の件といい、どうやら俺は不器用らしい。
「あ、そうそう。そこの記録用紙に名前とか色々書いといて」
先生はそう言うと、奥の机にある椅子に座り、パソコンを操作し始めた。
俺は卓上に置かれた紙を見る。
そこには保健室に来た時間やどういう怪我をしたのか等を書く欄があった。
近くに置かれていたボールペンを手にし、俺がまず名前を書ことすると、保健室の扉がひらかれた。
「失礼します」
「あれ、庭理なんでここに」
「海斗の様子見に来た」
平然と庭理がそう言う。
「お前、まさか授業抜け出してきたのか?」
「あら、それはちょっと戴けないわね。いくら友達が心配だとしても」
先生がパソコンを弄りながらそう言う。
「大丈夫です。速攻で料理終わらせてきたので」
マジかすげぇな。
「つっても只の切り傷だぞ。そんな心配して見に来なくても」
「だって心配だったんだもん」
庭理がぷくっと頬を膨らます。
すると、先生が突如立ち上がった。
「あなたたち、そういう関係なの?」
「「は?」」
俺と庭理が同時に声を発する。
まさか、庭理のことがばれた?
「良いじゃない。男同士でも、好きなら仕方ないのよ。そう、仕方ないの」
あれ?
俺は庭理と顔を見合わせる。
「それなのになんで法律は同性愛を認めないのかしら!しょうがないじゃないお互い好きなんだからそれなのにそれを認めて上げなくてどうするのよ!」
あぁ、そうか、この先生。
腐ってやがる。
俺と庭理は、未だ熱弁を続ける先生をよそに、保健室を抜け出した。
「あっぶね。ばれたかと思った」
「ボクも」
授業が終わるのは、あと10分後くらいか。
「じゃ、戻ろうぜ」
「うん」
俺達が調理室にもどると、全ての班が調理し終わっていた。
...俺の班を除いて。
「聞いてくれ美園君!宮崎さんが君がいなくなった後、鮭を落とすわエプロンに火をつけるわで大変だったんだよ!」
俺と同じ班の基山が、泣きながら俺にすがり付く。
俺は冷めた目で宮崎を見つめた。
「...何よその目は」
「......フッ」
「あっ!こいつ鼻で笑った!」
「じゃ、さっさと生き残ってる鮭でムニエル作るぞー」
俺は他のメンバーの二人と息をあわせて、何とか時間内で調理を終えた。
まぁ、俺は殆ど何もやらなかったが。というか不器用過ぎてなんの役にもたてなかった。
「ううっ...ぐすっ」
宮崎が顔を伏せながら、悔しそうに泣く。
それも無理ない。なぜなら自分の分の鮭を食えなくしたんだからな。
「おい、宮崎」
宮崎は俺を睨むように顔を上げた。
「半分やるよ」
流石に可哀想過ぎたので、俺は半分分け与えた。
宮崎は、ぐずぐずしながらもムニエルを完食した。
和気藹々とした声が調理室を包む。
今日は家庭科の調理実習の日だ。
「ぬぬぬ...」
俺は震える手で人参を切る。
「美園君ー、手が震えてるじゃなーい。大丈夫ー?」
同じ班の宮崎が、鮭に小麦粉をつけながら煽ってくる。
「料理は苦手なんだよ」
ちくしょう。震えだけじゃなく冷や汗まで出てきやがった。
「ちょっとこれ、繋がっちゃってんじゃん!誰これ切ったの!」
別の班で怒鳴っているのは、なんと庭理だった。
普段学校じゃ寡黙なのに、料理となるとあんな風になるんだな。
「あら、松芝さんお料理上手ね。将来良いお嫁さんになれるんじゃない?」
家庭科の原田先生が、庭理を誉め始めた。
「お嫁さんって、ボクは男ですよ」
「ふふ、冗談よ。でも最近は主夫やってるって人もいるじゃない」
良かった。どうやら先生が庭理の性別に気づいた訳じゃなかったみたいだ。
「ちょっと美園君、何よそ見してんのよ!」
俺はその怒号で、思わず右手に力が入る。
すると、俺は人差し指を包丁で少し切ってしまった。
「いってー」
「な、何やってんのよあんた!」
「あら、大丈夫?美園さん。まぁ、結構切っちゃったわね。保健室に行ってきなさい」
俺は先生に言われた通りに保健室へ向かった。
そう言えば、この高校の保健室に行くのは初めてだな。
そんなことを思っている内に、保健室の前にたどり着いた。
俺は二回ノックをし、失礼しますと保健室に入った。
「あらあら、どうした少年」
保健室にいた先生は、若めの女性の先生だった。
「調理実習中に指先を切っちゃいました」
俺は人差し指を見せる。
「こりゃまた結構ぱっくりいったわね」
先生がそう言いながら顔をしかめる。
「じゃ、そこ座って」
俺は言われた通り椅子に座る。
「はい、じゃあまずは消毒っと」
先生が向かいの椅子に座り、傷口に半透明の液体をかける。
じわりと痛みがきたが、耐えられない程ではない。って当たり前か、只の消毒液なんだから。
その後綿みたいな布で液体を拭き取られ、器用に絆創膏がはられた。
「わっ、先生絆創膏はるの上手いですね」
「そう?まぁ、伊達に保健室にいないってことね」
俺が昔自分で絆創膏をはった時は、それはもうぐちゃぐちゃになったものだ。
料理の件といい、どうやら俺は不器用らしい。
「あ、そうそう。そこの記録用紙に名前とか色々書いといて」
先生はそう言うと、奥の机にある椅子に座り、パソコンを操作し始めた。
俺は卓上に置かれた紙を見る。
そこには保健室に来た時間やどういう怪我をしたのか等を書く欄があった。
近くに置かれていたボールペンを手にし、俺がまず名前を書ことすると、保健室の扉がひらかれた。
「失礼します」
「あれ、庭理なんでここに」
「海斗の様子見に来た」
平然と庭理がそう言う。
「お前、まさか授業抜け出してきたのか?」
「あら、それはちょっと戴けないわね。いくら友達が心配だとしても」
先生がパソコンを弄りながらそう言う。
「大丈夫です。速攻で料理終わらせてきたので」
マジかすげぇな。
「つっても只の切り傷だぞ。そんな心配して見に来なくても」
「だって心配だったんだもん」
庭理がぷくっと頬を膨らます。
すると、先生が突如立ち上がった。
「あなたたち、そういう関係なの?」
「「は?」」
俺と庭理が同時に声を発する。
まさか、庭理のことがばれた?
「良いじゃない。男同士でも、好きなら仕方ないのよ。そう、仕方ないの」
あれ?
俺は庭理と顔を見合わせる。
「それなのになんで法律は同性愛を認めないのかしら!しょうがないじゃないお互い好きなんだからそれなのにそれを認めて上げなくてどうするのよ!」
あぁ、そうか、この先生。
腐ってやがる。
俺と庭理は、未だ熱弁を続ける先生をよそに、保健室を抜け出した。
「あっぶね。ばれたかと思った」
「ボクも」
授業が終わるのは、あと10分後くらいか。
「じゃ、戻ろうぜ」
「うん」
俺達が調理室にもどると、全ての班が調理し終わっていた。
...俺の班を除いて。
「聞いてくれ美園君!宮崎さんが君がいなくなった後、鮭を落とすわエプロンに火をつけるわで大変だったんだよ!」
俺と同じ班の基山が、泣きながら俺にすがり付く。
俺は冷めた目で宮崎を見つめた。
「...何よその目は」
「......フッ」
「あっ!こいつ鼻で笑った!」
「じゃ、さっさと生き残ってる鮭でムニエル作るぞー」
俺は他のメンバーの二人と息をあわせて、何とか時間内で調理を終えた。
まぁ、俺は殆ど何もやらなかったが。というか不器用過ぎてなんの役にもたてなかった。
「ううっ...ぐすっ」
宮崎が顔を伏せながら、悔しそうに泣く。
それも無理ない。なぜなら自分の分の鮭を食えなくしたんだからな。
「おい、宮崎」
宮崎は俺を睨むように顔を上げた。
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