他の何よりアイが欲しい。R15

勇崎シュー

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十八話 幸せのダンボール

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 1月2日、埼玉県。
 俺は庭理と共に、庭理のお母さんが住むこの地に足を踏み入れた。
 東京程都会という訳ではないが、かなりの田舎とも呼べない外見だった。
 まぁ、俺達の県とあんまり大差ないな。
「てかさ、庭理ってどんなとこに住んでたんだ?」
 隣で歩く庭理に聞く。
「ん?ダンボールの家だよ橋の下に作ってそこに住んでたんだ」
 ダンボールの家か。
 まぁ、予想が付かなかった訳ではないが、ちょっと寂しい気持ちになるな。
 そういや、俺はトタン屋根のボロ家に住んでたっけ。
「あ、見えた。あそこの橋だよ」
 庭理が指を差す方向を見ると、まぁまぁでかめの橋がそこにあった。
「あそこの下か」
 俺と庭理は河川敷を歩き、そこへ向かう。
 橋の先端に着いた所で、階段を降りた。
「...っ」
 庭理が辛そうな表情をする。
「大丈夫か?」
 俺はぽんと庭理の肩を叩いた。
「うん...」
 この先に、本当にすぐ近くに、母親がいる。
 きっとそれは、庭理にとって只嬉しいものではないのだろう。
 そういえば、俺も庭理も同棲を始めてから、実家に帰省したことは無かったな。
 つまり、庭理は二年ぶりの再会ということになる。
「よし」
 庭理が意を決して、橋の下を覗く。
 俺も庭理に続いた。すると、
「えっ」

 そこには何も無かった。

 ダンボールの家処か、塵一つ落ちていない。
「庭理、これって......」
 庭理は顔を伏せ、前髪をいじくり始める。
「きっと、仕事がうまくいって、お金が稼げるようになったんだよ。それで、今は別のアパートとかに暮らしているんじゃないかな。いや、それは都合良すぎか。多分警察か管理者とかに何か言われて移住したと......」
「庭理」
 庭理は、はっと顔を上げた。
「向こう岸にはダンボールの家がある。庭理の勘違いで本当は向こうだったかも知れないし、どちらにしろ、そこに住んでる人がなにか知ってるかもしれない。行ってみようぜ」
 俺は庭理の手を引き、連れていく。
 この季節の風は、異様に冷たい。
 それがなんだか、俺達を責めているように感じた。
 こつこつと音をたて、橋を渡る。
 結構長い橋だが、意外と早く渡りきれた。
「庭理、大丈夫か?」
 庭理はうつむきながらも、こくりと頷く。
 さっきは前向きなことを言っていたが、きっと本当は、よからぬ想像をしているのだろう。
 俺は向こう側同様、階段を降り、ダンボールの家に向かった。
「すいませーん」
 庭理を俺の後ろに隠し、ダンボールの家に声をかけた。
 しかし、反応はない。
「すいませーん。向こう岸に住んでた者の知り合いなんですが」
 まぁ、本当は面識なんてないが。
 俺がそう言うと、ダンボールから一人の老人が出てきた。
「なんだ。警察かなんかだと思ってたよ」
 老人がため息をつきながらそう言う。
 やはりそうだったか。
「あの、向こう岸に住んでた人は、どうしたんですか?」
 俺が向こう岸を指しながらそう聞く。
「なぁ、その前に、その後ろの子は誰だ?」
 庭理がびくりと震える。
 どうする。隠した方がいいか?
「あの、あそこに住んでた、松芝琴夜まつしばことよの娘です」
 庭理がおずおずと前へ出て、本当の事を話す。
「......」
 老人は黙って庭理を見つめた後、俺を一瞥する。
「そうか、ちょっと待ってろ」
 そう言うと、老人はダンボールの家に入り込む。
 すると、数秒の後、ひょこっと顔を出した。
「ほらよ」
 庭理に何かを差し出す。
 見てみると、どうやら手紙のようだ。
「ありがとう、ございます」
 庭理が一礼し、その場から離れる。
 俺も庭理に付いていく。
 階段の麓で、庭理がちらりと手紙を見る。
「これ、お母さんの字だ」
 庭理が驚きと寂しさを混ぜたような声でそう呟く。
 庭理は手紙をすぐたたんだ。
「読まないのか?」
「うん。家に帰ってから読む」
 庭理が前髪を弄りながらそう言う。
「そっか」
 俺達は不安が残りながらも、帰宅することにした。

━━━━━━━━━━━━━━

 父は、トイメーカーの社長だった。
 そのせいでは無いだろうが、自宅には沢山のダンボールが置いてあった。
「ダンボールマン!参上!」
 ボクの兄は、ヒーローに憧れていた。
 そのせいか、兄はよく、ダンボールでコスチュームを作っていた。
「大丈夫か?庭理」
 ボクが困ると、いつもダンボールマンが助けてくれた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「いや、お兄ちゃんじゃなくて、俺はダンボールマンだ」
「ありがとうダンボールマン」
 ダンボールマンの時の兄にそう言うと、いつも照れた顔をする。
 けれど、その顔を見ることは、もう出来ない。

 帰宅したボク達は、居間にて手紙を読もうとしていた。
「ふぅ」
 一つ、息を吐く。
 ボクは隣で不安そうに見守る海斗を尻目に、手紙を黙読し始めた。
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