他の何よりアイが欲しい。R15

勇崎シュー

文字の大きさ
20 / 25

二十話 凩吹く頃に

しおりを挟む
 結局、俺には手紙の内容は分からなかった。
 いや、別に庭理が見せてくれなかったからではないけど。
 まぁ、俺が見て良いものでは無さそうだし、気にしないようにしよう。
 そんなこんなで、冬休みも終わりだ。
 殆どバイトしてた冬休みだったけど、今年は結構充実したと思う。
 それは、きっと全て、庭理のおかげだ。
 俺は目の前で朝食を食べている庭理を見て、ニコッと笑う。
「何笑ってるの?気持ち悪いよ」
 俺は笑顔をひきつらせた。

「おーっす二人とも。あけおめ」
 いつかのように、後ろから百合木が俺達に声をかける。
「おー、百合木。あけおめ」
「明けましておめでとう」
 俺達も百合木に挨拶をする。
「いやー、今日から学校かぁ。まぁ、結構楽しいから良いんだけどな」
 百合木がニコニコしながらそう言う。
「そうか?俺は怠くてしょうがないよ」
 そんなことを言い合っていると、偶々校門前を歩いていた日比野と目があった。
「あ、美園君おはよう」
「おう、あけおめ日比野」
 なんだこのデジャヴ。
 てか気まずい。
 俺は過去に、いや過去って言っても数ヶ月前の話だが、俺は一度、日比野をふったことがある。
 あの日から気まずくてずっと喋ってこなかったが、久しぶりに日比野の声を聞いたな。
 すると、庭理が俺の腰の辺りを小突いてきた。
「な、なんだよ庭理」
「べつに」
 そう言うと庭理はそそくさと下駄箱へ向かった。
 ......俺と百合木を置いて。
「松芝に嫌われちゃったな」
「うっせ」
 俺達も下駄箱へ向かった。

 今日は始業式と、担任が云々いって、午前中で学校は終わった。
 帰宅した俺達は、昼飯はどうするか話し合う。
「やっぱボクが作るよ」
「いやいや、それはなんかわるいって、俺がなんか奢るからさ、牛丼とか食いに行こうぜ」
 庭理と俺で意見が割れ、なかなか会話が前進しない。
「なんかわるいってさー、ボクは料理するの楽しいし、そんな気を使わなくてもいいのに」
 庭理がぷくりと頬を膨らます。
「わかったよ。こういう時は男が折れるもんだってどっかで聞いたし。シェフに任せます」
「畏まりました」
 可愛らしくニコッと笑う庭理が、キッチンへ向かう。
「ふぅ」
 俺が息を吐きながら、庭理の母親について考える。
 あの日、庭理は手紙を読んで泣いていた。
 次の日からいつも通りに接していたが、きっと庭理の心の中はいつも通りじゃない。まぁ、なんとなく俺がそう思っているだけだが。
 しかし、それを追及すると、庭理を傷つけることになるかもしれないと、とくに聞いたりしなかった。

 ......庭理は今、どう思っているのだろう。

 幾分かの時がすぎ、庭理に食事を運ぶよう言われる。
 今日のメニューはペペロンチーノだった。
 具材はベーコンと玉ねぎだけの簡易的なものだったが、うちのシェフはそれでも絶品料理を作ることが出来る。
「よし、じゃあ食べよっか」
 エプロンを外しながら庭理がそう言う。
「「いただきます」」
 何でこんな毎度毎度旨い飯を作れるんだうちのシェフは。と、俺は今日も感心した。
 そんなシェフを見てみると、庭理は納得したように頷きながらペペロンチーノを食べている。
 ふと、エプロンが目に入った。
 庭理が二年間使い続けている、藍色のエプロンだ。
 そろそろ新しいのを買った方が......あっ。
 俺はとある名案を頭に思い浮かべた。
「海斗、何にやにやしてるの?」
 あれ?この台詞今朝も聞いたような......?
 またデジャヴってやつか?
「シェフの料理が最高だからだよ」
「......ボナペティ」
 庭理がほんのりと顔を赤くしながらそう言う。
 なんか色々違う気がするが、まぁ、気にしないようにしよう。
 いつものように完食した俺達は、食器をキッチンのシンクへ運ぶ。
 この時と皿洗いする時のみ、俺は厨房に入ることを許される。
 まぁ、庭理に監視はされているけど。
 そういえば、やけにここら辺厳重だよな。

 ......何か秘密でもあるのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...