S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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エピソード スフィア・フロイア

第百二十四話 閑話 事後処理(中編)

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「絶っ対にお断りします!」

ダンッと机を叩き立ち上がるのはスフィア。
その表情は憤慨していた。

「スフィアくん?」
「なんですか?」

アーサーは両肘を机に着いて両の手を口元に送る。

「発言がある時は挙手をして、と先程ロランにも伝えたはずだよ?」

勤めて冷静な口調で口を開いた。

「なっ!? い、いえ!そんなことよりも!どうして私が小隊長になるという話になってるのですか!」
「いやいや、ほらっ、私もいつも時間があるわけではないからだね。それに、あくまでも私が忙しくてどうしても顔を出せない時に限っての話だからね?」
「ならどうして――」

小隊長を兼任すると言い出したのか。

アーサーの提案、それは今後自分が忙しくて手が離せない時に、この小隊の隊長を代理で行うのをスフィアに一任するということだった。

「はいっ!たいちょー!」

そこで元気よく手を挙げたのはアスタロッテ。

「アスタロッテくん、発言を許可する」
「あたしは隊長の意見に全面的に賛成します!」
「ア……アスティ!あなたって子は!」

目が合うアスタロッテはどうみてもこの展開を歓迎している笑みを浮かべている。

「(な、なら!)」

このままでは配属翌日に小隊長(仮)に任命されかねない。
いくらなんでもそんなことになれば、アスタロッテはまだしも他の騎士達からの反感を買うのは必然だろうと脳内を過る。

そうなるとこれからの騎士生活の居心地が相当に悪くなるのは容易に想像出来た。

「アルスさんやマルスさんたち先輩を差し置いて私が小隊長になるなんてできません!」
「ん?」

スフィアの言葉を聞いたアーサーは首を傾げて不思議そうにして笑う。

「いやいやいや、それを言うなら私はどうなのだい?今君の前にいる私は並み居る先輩たちを差し置いて中隊長に着任しているのだが?」
「(そ、そういえばそうだった…………)」

返ってきた言葉に何も言い返せない。
何があってこの若さで中隊長に就任しているのか知らないが、年齢や経験はこの人の前では意味を成さないのだった。

「――あの……」

そこで差し込む様に恐る恐る手を挙げるのはアルス。

「(そうだわ、この人達自身の言葉で言って貰えれば)」

隊長に意見をするなどと、よっぽどの勇気を必要とするだろうと考えるのだが、今はその勇気に期待するしかなかった。

「アルス、発言を許可する」

「僕は……私はスフィアさんが小隊長に就任するのを賛成します」
「……えっ!?」

その言葉にスフィアは思わず耳を疑う。

「私もスフィアさんの小隊長就任に賛成します」

聞き間違いではなかった。
アルスの横のマルスも続けて同意を示している。

双子の二人、同じ顔の二人で二度同じことを言ったのだから。

「ふむ。理由を聞いてもいいかい?」

「はい。私は今回班長に任命され、その職務を全うしようとしていましたが、正直な所実力不足を痛感しました。それに――」

そこでアルスはチラリとスフィアとアスタロッテを見る。

「覚えている限りでは、僕たちは彼女に命を救われました。魅了された状態だったとはいえ、どうしようもない程の下衆に成り下がった僕たちを彼女は命がけで助けてくれました。そんな彼女の下になら喜んで付きたいと思います」

自分の言葉でアルスは語り、マルスも小さく頷いた。
記憶があるからこそ、一層の情けなさと謝意を織り交ぜた感情をその表情から滲ませている。

「そこに騎士としての気持ちはあるのかね?」
「あります!」

問い掛ける様に尋ねるアーサーの言葉に、アルスは即答した。
そしてアルスはマルスと目を合わせると、グッと息を呑み立ち上がる。

二人ともに胸に手を当てて口を開いた。

「「騎士の誇りとこの身命にかけて誓います!」」

堂々と言葉を放つ。
アスタロッテがその様子に目をキラキラとさせて「おおーっ」と小さく拍手をしていた。

「うむ。気持ちのこもった良い返事だ」

アーサーは満足そうな笑みを浮かべ、チラリとスフィアに視線を戻す。

「さて、今の言葉を聞いても尚断るかね?」
「で、ですが――」

スフィアとしても、二人の気持ちは確かに伝わって来た。
それでも果たして受けてもいいものなのかどうなのか。

「自分も賛成します」
「えっ?」

声を発したのはロシツキー。

「あっ、すいません。挙手をしていませんでした」
「構わないよ。続けたまえ」
「ありがとうございます。 アルスとマルスの気持ちはよくわかります。自分も遅れながらですが同じ気持ちであります。それだけです」

ロシツキーが立ち上がり答える。

「そうか、わかった。他に何か言いたい事がある者はいるかい?」

ロシツキーの着席を確認したアーサーは全体を見回した。

「では自分も一つだけ」
「ではバリス」
「はい。 今回の件、自分は冒険者としての経験上、確実に死者を出していたと断言できます。それどころかそれほどの異常性を持ったサキュバスであるならば自分も死んでいたと思われるので、正直話に聞いたところ、そこに自分がいなくて良かったと心底ホッとしています」

バリスの発言に対してそれぞれ思うところはあるのだが、アーサーの表情を窺う限り変化は見られないのでほっと胸を撫で下ろす。

「君はいつも正直に話すからいいねぇ」
「ありがとうございます。ですので、そんな中で被害を最小限に抑えた彼女らの活躍は称賛に値すると考えています」

そこでバリスは座る。

「さすがバリスちゃんは良い事言うねぇ!」
「アスティ、あなたねぇ……」

アスタロッテの機嫌がすこぶる良くなっていくのがわかった。
理由は明確。このままいけばスフィアの小隊長(仮)が確定する。

「ライオット、きみはどうだい?」
「自分は隊長の判断に従います」
「うん、わかった。では他に何か言いたいことがある者はいるかい?」

「はい、では私も!」

そこで手を上げたのはスネイルだった。

「しまった!こいつがいた!」

小さく不満気な声を上げるアスタロッテに対して、スフィアは内心でその人物を応援することになる。

「(頑張ってスネイルさん!)」

まさか彼に期待することになるとは思ってもみなかった。

「ではスネイル。発言したまえ」

スネイルがゆっくりと立ち上がり、スフィアと目が合うとどう見てもいやらしい笑みを浮かべている。
いつもなら嫌悪感を抱くのだが、ことこの場面に於いてはどんな斜め上の提案だとしてもそれを後押しする準備は出来ていた。

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