S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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廻り合い、交差

第百五十七話 円卓会議

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ヨハン達を座る様に促したあと、マルクスがローファス王を呼びに行っている。
椅子に座りながらドルドと目が合うとニヤリと笑われたのだが意味がわからない。

「あの――」

「どうやら全員集まったようだな」

どうしてここにいるのか尋ねようとしたところ、奥に通じるドアからローファス王が姿を見せた。
思わず聞きそびれたと感じながら別に今すぐでなくともいいので後で聞くことにする。

「さて、早速本題に入ろうか。今回そこにいる学生がしたことは皆耳にしている事とは思うが、それについて今後の方針を決めんといかなくなった」

椅子に座りながらローファス王が口を開いた。

「方針……ですか?」
「ああ」

これだけの人数が座ってもその席にはまだ空席がある円卓。ローファスが見せている顔はエレナの父としてのローファスでもなく、王としての威厳を出しているローファス。

「(あれ? 今更だけど、俺何でこんなとこにいるんだ?)」

と、いつもの感じで気軽に来たものの、レインにはどうにも疑問でならない。
そもそも飛竜を討伐したのは今回ヨハン一人だけ。関係ないのでは、と考える。
横目にチラッと見るモニカとニーナの表情からはそんな疑問やこの場に於ける緊張は見えず、落ち着いている様子を見せていた。

「(よくよく考えると、ニーナってすげぇよな)」

この場に平常心で堂々と座っているなどということができるのは世間知らずだからこその図太さなのかと考える。普通の学生ならばこの場に座っている面々を見て緊張して当たり前。しない方がどうかしていた。

「(ほんとどういう子なんだろな?)」

放任主義の父親、その癖に戦う術だけは心得ているその特殊な家庭事情、その出自に改めて疑問を抱く。


「ではまず情報を整理しようとするか」

そんなレインの疑問も今は関係なく、ローファスが全体を見渡した。

「マクスウェル、マルクス。それとシェバンニよ。現状どうなっているか話してくれ」

ローファスに名前を挙げられた人物はそれぞれ王都の中で特定の場、マクスウェルは騎士団、シェバンニは冒険者学校、マルクスは市勢を担っている。

「ではまず私からいきましょうか」

マクスウェルが立ち上がり、手元にあった紙を持ち内容を読み上げ始める。

「えー、まず。騎士団内部及び各衛兵や兵士、そしてジャン殿の管轄でもある近衛兵団とここには代表がおりませんが魔術師団に於いて、ヨハン殿の情報は既に皆の耳に入っております」

マクスウェルがチラリとヨハンに視線を向けた。

「だろうな」
「もちろん十分に噂にもなっておりますね。ただし、実際に目にした者以外は信じられないといった程度に留まり、未だに信じられない者もいるぐらいです」
「そうか。まぁそりゃあそうだろうな。それだけそこの学生が行ったことが偉業だということだな」
「ええ。私も報告書を見た限りではとても信じられるものではありませんでしたよ」

「……だが、それも時間の問題だな」

そこでローファスがアマルガスを射抜くようにして見た。
マクスウェルもローファスの視線の意図を察する。

「はい。何故ならその場には騎士団大隊長アマルガスもおりましたので」

そこで全員がアマルガスの方を向くのだが、アマルガスは僅かに申し訳なさそうにしていた。
騎士団大隊長でもあるアマルガスがその場に居合わせた上でこの話を一笑に付さないということはそれを事実たらしめるということを差している。

「まぁその辺りアマルガスを責めるというのも酷というものだ。元々の原因はラウルにあるのだからな。ラウルがそこの学生を仕向けたというじゃないか」
「いやいや、アマルガスが自国民で対応するっていうからだな」
「それについてはもういい。過ぎたことだし、確かにラウルが対応してしまえば民意がラウルに傾いてしまうのもわからないでもない」
「ならいいじゃないか」
「だからといって学生を仕向けるお前の感性も疑うがな」

一切の悪気を見せることのないラウルの態度にローファスは呆れてしまう。

「そんなことよりも、影響の方はどの程度だ?」
「そうですね。この点に関しては一様にどうと言えるわけではありませんが、今後の対応としては自分達の存在意義を再度問い質すつもりですね」
「ふむ。わかった。ならそこは任せるとする」
「はい」

そう話すのは、無名の学生に王都へ迫った脅威を取り払ってもらったこと。
本来現場に居合わせた騎士団が率先して対処しなければならなかった事態。

「では私からは以上です」

一通り話し終えたマクスウェルが着席したところで次に口を開いたのはマルクス。

「王都の方は新しい英雄候補が現れたと騒ぎになっているでおじゃる」
「ふむ。で、影響の方はどうだ?」
「市勢に影響するようなことは特にないでおじゃる。一体どんな学生なのかと興味本位で騒いでいるぐらいでおじゃるね」
「そうか」
「どちらかと言うと貴族連中のほうが問題でおじゃるね」
「だろうな。それだけの実力を有する者であるならば今の内に囲い込みたいという算段が透けて見えるな」

「(あっ、だから――)」

その話を聞いてヨハンの脳裏を過った人物、カトレア侯爵が朝早くから訪れたのかと思ったのだが、同時にすぐに疑問を抱く。

「(あれ? でもそういう風に見えなかったけどな?)」

不機嫌な顔をされ、特に目立った会話をしたわけでもない。勧誘や囲い込むつもりであるならば普通は愛想良くするもの。それに、担当メイドが話した人物像がそのままであるならばそういうことをするような人物にも思えない。

「……そうだな、貴族連中か…………」

顎に手を送り、ヨハンの顔を見ながら思案気な様子を見せるローファス。

「その辺はカールスにでも睨みを利かせてもらうことにするか」
「カトレア侯爵でおじゃるか? 確かに侯爵であればその辺り毛嫌いするでおじゃろうが水面下で画策する連中を抑えきれるでおじゃるか?」
「んー、まぁその辺は俺から直接話をするさ」
「……? はいでおじゃる」

微妙に納得をしきれない様子を見せているマルクスなのだが、王の決めたことにそれ以上口出しすることなく報告を終える。
貴族の動き、爵位に応じて有する権力は様々であるが、宰相だからといってその全てを掌握できているわけではない。貴族に関する情報量としてはカトレア侯爵の方が持っている。

「最後に、シェバンニ」
「はい」

シェバンニが立ち上がりヨハン達を見るのだが、睨みつけるわけではなくどこか目の奥に迷いを見せていた。

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