S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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碧の邂逅

第 四百七 話 閑話 サナ達への依頼①

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「二人ともギルドカードは作っているのか?」

林間学校から帰って来ての二日後。
授業を終えた中でのユーリの問いかけ。

「ああ。まだDランクだがな」
「そうか。それなら問題ないな」
「ユーリとサナは?」
「私とユーリはCランクよ」

ニコリと笑顔で答えるサナ。
二学年になった学生の半数はDランク。極少数の優秀な者はCランクに到達しており、ユーリとサナもギリギリCに上がっていた。

一学年時は基本的な魔物に関する知識や戦闘技術、魔法に関する基礎知識や実践が中心。
二学年からは課外授業や遠征。それとより実戦形式での模擬戦。

「ほんとうナナシーっていつも楽しそうね」

パーティーとしての活動をするため、ギルドに向かう道中。
王都内の街並みをルンルンと笑顔で辺りを見回しているナナシーの楽しそうな表情を見ていると、出会った当初の印象とは大きく違う。

「だって凄いじゃない。こんなに色々作れるのよ? 毎日見ていても飽きないわ」
「オレにはいい迷惑だけどな」

その温度差。ナナシーのお目付け役として同行しているサイバル。

「ねぇ見てこれ!」

ふと立ち止まるナナシーが呼び寄せるその店。
ガラスケース越しに見えるのは小さな動物や花などのガラス細工がいくつも並べられていた。

「綺麗ね」
「ねぇ。人間ってこういうの作れるからすごいと思うの」

自然との調和を主にするエルフにはおよそ縁のない物の数々。建造物、小物細工、加工品、衣類にしても多種に渡るからこそ興味が尽きない。

「どうやったらこんなの作れるの?」
「そうね。お父さんから言わせれば職人魂らしいけど、私にはよくわからなかったわ」

木彫り細工職人であるサナの父親もよく凝った物を作っていた。

「これ買ってもいいの?」
「今はそんなことしている暇はないだろう」
「えー!? 相変わらずサイバルはケチねぇ」
「ケチではない。不必要だと言っているだけだ」

微妙に膨れっ面になりながらも歩き出すナナシーにサイバルがため息をつく。
その二人の様子を見ながらサナは疑問が浮かんだ。

「ねぇナナシー?」

隣を歩き、小さく声を掛ける。

「なに?」
「サイバルくんとナナシーって、その……――」

問いかけを微妙に躊躇しているとナナシーは首を傾げた。

「サイバルがどうかしたの?」
「あっ、ううん。えっと、サイバルくんとの仲ってどうなのかなって?」
「ただの幼馴染だけど? 仲も別に悪いつもりもないし、あっ、ごめんもしかしてそういう風に見えてた?」

いつも通りの会話をしているだけのつもりだったのだが慌てて謝罪する。

「あっ、違うの」
「え? じゃあどうして?」
「その…………好き、とか、そういうのは?」

二人だけのエルフ。それも幼馴染。

「私がサイバルを?」
「……うん」

問いかけの意図を理解したナナシーは目をパチパチとさせる。

「あはははははっ!」

次には大きく笑い出した。

「ど、どうしたの?」
「ないない。何を言っているのよ。私がサイバルを好きだなんて、ねぇサイバル?」

後ろを向き、笑い涙を拭いながら声を掛ける。

「ああ。そもそも俺たちエルフは人間のような色恋沙汰にそれほど敏感ではない」

長寿であるからこそ種族繁栄のための意識が人間程に強いわけではない。個人差はあるのだが、基本的には五十歳前後でそういったことを徐々に考え始める。

「そうなんだ」
「だから私たちのことは気にしなくていいよ。それこそそういう意味ではサナとユーリはどうなの?」

返すナナシーの問いかけにサナとユーリは顔を見合わせた。共に苦笑いを浮かべる。

「いや」
「私たちもそういうのはないの」
「ふぅん」
「ただ別々に好きな人がいるのだけどね」
「へぇ。そうなの? じゃあ二人とも上手くいくといいわね」
「そうね。二人とも一筋縄ではいかないけどね」

そうして王都の街並みを眺めながら冒険者ギルドに着く。

(ん?)

冒険者ギルドに入ろうとしたところでナナシーは自分たちに向けられる視線を感じ取った。

王都内を歩くときは特に注意している事。
過去のエルフと人間の歴史が証明しているように、ナナシーも全ての人間を信用しているわけではない。常日頃から自分たちに向けられる周囲の気配を探知している。

(……違うわね)

しかし、ギルドの角から見られている視線に悪意は感じない。

(でもどういうつもりなのかしらあれ)

僅かに疑問を抱きながらギルドの中に入っていった。

「相変わらずすごい活気ね」

ギルドの中に入るといつも目にする光景。依頼書が貼り出されている掲示板で依頼を見繕っている冒険者や日が沈むよりも前に酒場で盛り上がっている姿。

「それで、依頼はどうする?」
「そうだな」

ユーリとサイバルが話しながら依頼書のいくつかに指を向け確認する。

「そういえばもうDランクなのって?」

王都に来て間もないのにEではなくDであることに対して浮かぶ疑問。

「私たちを王都に連れて来てくれた人が口を利いてくれたの」
「そうなんだ」
「あ、あのっ!」

待っている間に不意に声を掛けられた。

(あっ、さっきの)

ナナシーの視線の先は下に向かっている。
そこにはギルドに入る前に感じた視線の主。

「ね、姉ちゃん達は冒険者学校の人達だよな!?」

明らかにギルドとは不釣り合いな小さな、ボロのローブを纏った赤髪の男の子が立っていた。

「そうだけど、あなたは?」

膝を折り、身を屈めてサナが問いかける。

「お、俺はキッドっていうんだけど。そ、その、姉ちゃん達にお願いしたいことがあって……」
「お願い?」
「う、うん」

たどたどしい口調ながらも、小さな男の子、キッドは真剣な眼差しで真っ直ぐにサナを見ていた。

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