S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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紡がれる星々

第五百十五 話 木片

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ヨハン達が地上で起きた事態について説明が行われる頃、学生達には待機の指示が出ていた。

「ねぇニーナ、こっそり見にいこっか」

しばらくの時間を待つものの、モニカは暇を持て余してしまっている。

「やめなさい。あなたたちの評判が悪くなっても知らないわよ?」
「でもカレンさんも気になるでしょ?」
「そりゃあもちろん、この子と同じ種族なんて滅多にいないしね」
「だったら、ね。ご飯はレインが作ってくれるんだし」

軽く片目を瞑るモニカ。その様子を見るカレンは溜め息を吐いた。

「しょうがないわね。今回は教師ではなく、仲間だから目を瞑ってあげるわよ」
「やった! 話がわかる」
「まったく。ニーナはもちろんだけど、あなたもとんだお転婆よねモニカ。ちゃんとバレないようにしてよね」
「あれ? カレンさんは行かないの?」

目をパチパチとするニーナ。その潤んだ瞳。

「わ、わかったわよ! だからそんな顔しないで」
「やたっ。さすがカレンさん」
「まったく。ほんとしょうがないのだからこの子は」

結局折れる形になるカレンを見るレインは鍋にかかる火を横目に内心で思う。

(なんだかんだこの人こういうところは優しいもんな)

比較対象は皇女と公女。多少の立場の違いはあるが大きくは大差がない。事あるごとに悪態を吐いてはけなしてくる少女とは大違いだと。公女――マリンであれば目くじらを立てて怒ることは目に見えていた。
そうしてその場に残されるのはナナシー達。

「そういえばサナ、さっきヨハンからもらったやつちょっと貸してみて」

サナに向けて軽く手を差し出す。

「え? これ?」

地下から持ち帰った木片。預かったまま。

「ナナシーわかるの?」
「これでも一応エルフだし、とりあえず調べてみよっかなって」

手渡されるなりジッと見つめると、次にはギュッギュッと感触を確かめる。

「どう? 何かわかった?」
「んー。どういう植物なのかはわからないけど、魔力の通りがかなりいいわね」
「それってつまり?」
「つまり……えっと、こういうの人間の言葉だとどう言ったらいいのかな?」
「半導体だ」
「へ?」

不意に横からサイバルによって言葉を差し込まれる。

「だから、人間の世界でそういう物のことを半導体というらしい。魔道具の魔力伝達機能のことをそう言うのだろう?」
「そういえばそんな物があったような……」

指を顎に持っていき思案に耽るナナシーの横でサナはこれまでの授業内容の中にあった魔道具についてのことを思い出していた。

「半導体……確かにそれなら納得できるわ」

魔石を介して扉を開く、話にあった地下の巨大な扉が要は巨大な魔道具なのだと。

「ふぅん。サナがわかればそれでいいのだけど、でもどうしてサイバルがそんなこと知ってるの?」
「別に自然と覚えただけだ。人間の世界を学んでいたらわかるだろう? 日頃何を覚えているのだ?」

その言葉を聞いた途端、サナとナナシーは互いに顔を見合わせる。

「「ぷっ!」」

数瞬の間を空けて共に笑いが漏れ出た。

「ど、どうして笑う!?」
「だ、だってサイバルくんの口からそんな言葉聞けるなんて」
「そうよね。あ、の、サイバルが人間の世界を勉強だなんて言うのだものね」

元々人間の世界に興味のあったナナシーであればまだしも、全く興味を示していなかったサイバルにしてこうなのだから。意外でならない。

「い、いいだろ別にそれぐらいは。とりあえず、その木片が本来の機能を有しているのであればこの地下にあったことにも納得できるのではないか?」
「あっ…………ああぁー。なるほどね。だったらサナのお父さんに頼めないの?」
「うーん、話してみないとわからないけど」
「じゃあヨハン達が戻って来たら相談しようよ」
「……そうね」

浮かない表情をするサナ。相反する感情がせめぎ合っている。

(ど、ど、どどうしよう……――)

父に話を持ち掛けること自体は問題ない。

(――……このままだと本当にヨハンくんがうちに来ちゃう!)

だが問題はそこではなかった。昂る感情。

(でも、もし約束を果たせたのだとしたら……――)

妄想が膨らんで仕方ない。

『――お父さん、お母さん、約束通り、彼氏のヨハンくんを連れて来たよ』
『サナ。彼氏だなんて、もっときちんと紹介して欲しいな』
『で、でも……』
『ううん。ごめんね、サナに言わせることじゃなかったね。やっぱり最初は誠意を示さないといけなから僕から言わせてもらうね。お義父さん、お義母さん、突然の訪問申し訳ありません。サナさんとは婚約させてもらっています。本当ならきちんとご挨拶にお伺いしてからでしたが、お互いもうすぐ成人する身。将来を近いあった仲です。必ずサナさんのことは幸せにしますのでこれからは僕に預けてください』
『よ、ヨハンくん、そんなはっきりと……――』

ぽけーっと、上の空で笑顔を浮かべてしまう。

「えへっ、えへへ」
「ちょっとサナ、聞いてる!?」
「えっ? ヨハンくんは?」
「何を言ってるのよ。そのヨハンが変な人連れて来たわよ!?」

ナナシーが示す方向を見やると、ヨハンを先頭にして後ろを歩くモニカとエレナにスフィア。それに加えて見知らぬ蒼い鎧を着ている人と見るからに毛深い獣人の男。

「んんっ!?」

わけもわからないのは鎧の男が肩に担いでいる少女。どうやら気を失っている様子。

「あれ、ニーナちゃん?」

どうしてそのような状況になっているのか、全く理解できなかった。

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