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① 異世界転移してからこじらせるまで
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この世界に降り立ってから早8年の月日が流れ、一人で生きていく覚悟を固めないとなぁ…と、思い始めた日のことだった。
「んっんっ…ぁあんっ! やっ…やぁんっ! そこダメっ!グリグリしないで!」
「ダメって言ってもな……、随分美味しそうに俺のモノ締め付けてるぜ?
ここがイイのか? ……ふは…やべぇな……良すぎてあんま我慢できそうにない…」
ナニユエ私は、あられもない声を上げながら自宅の寝室の壁に立ったまま両手をつき、知り合ったばかりの白虎の獣人に腰を支えられたまま、パンパンと破裂音を立てるほど後ろから激しく貫かれているのだろうか。
「やだっやだっ…あんっ…何かクる…ぁあっ」
これが人生で数回目の性交だと思えない程、深い部分まで抉る快楽に背を仰け反らせ、喉が枯れんばかりの嬌声を上げると、背後から遠慮容赦無く蜜孔を穿つ男の腰の動きは勢いを増していく。
同時に、Bカップのささやかな胸を弄られ、ピンと尖った先っぽを摘まれて捏ねられれば、その都度キュンっと下腹部が締め付けるように感じるのがわかった。
「いいぜ、イッちまえよ。俺も一緒にイッてやる……」
男は腰の動きを早めたまま、私の背を覆い被さるように逞しい腕の中に抱き込むと、耳元で鼓膜に響く低音で囁いた。そして、ぐっと顎を後ろ側に反らせて唇を合わせると…蜜孔をズンズン突き上げながら、固く凝った陰核を指先で捏ねてくる。
ただでさえ、サイズオーバーな程大きく固い性器で中のイイ所を擦り上げられているというのに、敏感になった尖りまでイジられ、舌を…口腔内の性感帯まで責められては、我慢が出来るはずもない。
「んちゅっ、んーっ、ふぁっ…ぁっ……んぁっっ!!!」
「…ぁっ……はっ……締まるっ…」
上げるはずの嬌声を唾液ごと吸い上げられ、逃げ場もないほど抱き込まれながら、私は迫りくる絶頂にギュッと体に力を込めてやり過ごそうとするも、膝はガクガクと震えてしまう。
反射的に力の籠もらない下肢を支え、壁に手を突いてもたれ掛かろうとしたのだが、後ろから温かな胸にキツく抱き込まれた。
そして、全身を包み込むような温もり安堵し、達したと同時に胎内に注ぎ込まれた熱いモノの存在を感じながら、意識を失っていったのだったが……薄れゆく記憶の中、
「まだまだこれからだぜ?」
そう言って、ニヤリと嗤った肉食獣のような男の声が聞こえた様な気がしたが……聞かなかったことにしたいと思った。
「ふっふっふ…やっと貯まった…」
夕闇の薄暗い部屋の魔力ランプが灯る作業台に、私はこれまで貯めてきた金貨の山をうっとり見つめてほくそ笑む。
貯めに貯めた大金貨100枚。日本円にして1000万相当の価値になるだろうか。
豪華なドレスも宝石も興味はなく、それなりに質素な生活を送りながら貯め込んだ金貨ちゃんたちは、こちらでなら郊外のちょっとした一軒家だって買える一財産で、人生だってやり直せるほどの大金である。
それ程カツカツに生活してきた訳ではないが、これまでの軌跡を振り返って眺めてみれば、微かな光を照り返す黄金の輝きのなんと美しいことか。
これが、この世界に迷い落ちた私の人生をより良いものに変えてくれると思えば、何よりも愛おしくなった。
「こんだけ貯めれば…イケる!」
チャラチャラと澄んだ金属音を奏でる金貨をかき混ぜて弄びながら、くっくっくと喉で笑う。
元の世界…日本で女子高生をしていた頃には貯金なんて全く興味もなかった私が、よくぞここまで貯め込んだと誇らしい気持ちにすらなった。
それもこれも、とある目的のためだと思えば、苦労らしい苦労など何もない。
私は様々な感情を込めながら、両手にヂャリっと金貨を握りしめて声高らかに叫ぶ。
「明日は奴隷買りじゃぁぁあぁっ!!」
普段、人里離れた山の中で、人目を忍ぶ質素な生活を余儀なくされていた反動だろうか。
どんなに大騒ぎしても他人に気を使う必要もない住居ではあるが、静かな生活を好む私が一人で雄叫びをあげる程興奮するなど、それ程多い事ではない。
しかし、ボルテージが上がりまくっていた私は、夜中のテンションも相まって確かにおかしくなっていた。
「ヒッヒッヒ……」
欲望まみれの低い笑い声は、雑然とした作業部屋の静寂に響き渡り…そのまま闇に吸い込まれるように消えていった。
高校2年生の16歳の秋、私こと篠塚麻莉愛は突然この世界に落ちた。
そう、落下したのだ。
部屋着に薄手のコートをひっかけた姿で、近所のコンビニから帰る途中、何故か住宅街の道路のど真ん中でスポーンと。
とは言え、それ程高い位置から落ちたという感覚はなく、階段を数段踏み外した程度の落差だと感じていた。
そのちょっとした高低差での浮遊感にバランスを崩し、「うわっ!?」と思ったら、山の中で座り込んでいたので、怪我もなかったのはよかったけれども。
土の地面に尻もちをついた体勢で、何が起こったのか理解が及ばないままにキョトンとして周辺を見回したが、自分が何故この様な場所にいるのか、皆目検討もつかない。
辺りは一面、日も差さない程薄暗い森の中で、どこか遠くでギャッギャッと鳥か獣の鳴き声が木霊している。
こんな森の中なんて、学校の課外研修で行ったキャンプか家族で行ったハイキングの時のことしか思い当たらなかった。
「……なにこれ……私、夢でも見てるの?」
夢でも見てるのかと思って目を瞑っても、やたらとリアルな風の感触や森の音や匂い、座り込んだ地面の湿った冷たさが、これが幻ではないと伝えてくる。
気づかない内に、何者かに拉致されて、山の中に放り出されたのだろうか?
それはそれで、また違った恐怖を感じる事態ではあるが。
私は、泣き出しそうな心細さの中、薄手のコートのポケットに入れていたスマホを取り出し、位置確認を試みた。
しかし…当然スマホは圏外を示し、10月某日の17:37と日時は教えてくれたものの、自分がどこにいるのかを教えてくれることはなかった。
「ううう…何なの…何が起こったのよぉ…。おかーさーん…。誰かぁ…」
心細くて泣きそうになりながら周囲に呼びかけるも、木々に囲まれて薄暗い森の中は見通しも悪く、辺りに誰かいる気配もない。
自分に何が起こったのか本格的に訳が分からなかったけれども、しかし怖くて無闇にその場から離れることもできなかった。
そして、15分ほど座り込んで泣きべそをかいていると、不意にガサガサと何かが近寄ってくる音に気がついてビクッとする。
「な、なに…?」
流石にこのまま座り込んだままではマズいかもしれない
森に住む野生動物とか、悪い人に見つかったら、タダじゃ済まないよね。
本能的に危険を察知した私は、涙を拭いながら立ち上がり、何処かの木の影に隠れようと走り出した。その時、
「こんな所で、一人で何をしているんだね?」
逃げようとした私の背中から、優しそうなおじいさんの声が聞こえてきて、思わず振り返った。
そこにいるのは、まるで絵本に出てくるトンガリ帽子の魔法使いのようにズルズルのローブを纏い、長くて白いヒゲの生えた、背の高い老人だったのだが…
少し違うのは、琥珀色の瞳の西欧人風の容貌であり、そのトンガリ帽子に猫の様な可愛い小さな三角耳がついていることだろうか。
その耳の白地に灰色のシマシマ模様が、昔飼っていたアメリカンショートヘアーの猫の様で妙に可愛いらしい。
しかし、その時の私は、その耳は帽子の飾りだろうと思い込んでいたので、その変異はスルーして、ただただ優しそうな外国人のおじいさんが声をかけてくれたことに安堵した。
「家の敷地内に突然妙な気配がしたもんでのぉ。
別段危険な感じもせんかったので、それを探しに来たのじゃが…
その耳、姿……ひょっとして、おまえさん、『渡来人』…かの?」
何の緊張も感じさせない、おっとりしたおじいさんの声に、張り詰めていた緊張が緩むのを感じると、
『渡来人』? 南蛮人みたいなもの?
言われた言葉に聞き覚えはなかったが、言葉が―――日本語が通じる存在を目の当たりにして、そのまま涙腺が崩壊するように涙が溢れた。
「ううう…わかりません。なんで私がこんな森にいるのか、私に何が起こったのか……わかんないよぉ…」
突然、訳も分からず迷い込み、スマホも使えず一人ぼっちで放り出されたショックで大分混乱していたのだろう。
優しそうな現地の人の存在に、思わず立ち尽くしたまま、わんわんと泣き出してしまったのだった。
おじいさんは、突然泣きべそをかいて声を上げる私を困ったように見つめると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
私を刺激しないように、あえてゆっくり近づいてきた気遣いが嬉しかった。
「そうか、そうか。それは怖かったの。
とりあえず、近くにあるわしの家に来るとええ。
そこで詳しい話を聞くから、落ち着きなされ」
私を安心させるようににっこり微笑み、そっと私の背をさすりながら優しく声をかけてくれた。
そうして、10分程歩いた先にある、小さな別荘の様な家に案内されるとお茶を出され、その温かい湯気を吸い込んで一息ついた。
おじいさんは、この近辺一体の山を所有する魔術師であり、私は『渡来人』と呼ばれる異世界転移者であると教えてくれた。
正直、日本で魔術師と言われても胡散臭いとしか思わなかっただろうが、帽子を取ったおじいさんの薄い灰色の髪の間から、ぴょこんと立ってるシマシマの三角耳が帽子の飾りではなかったことに気づいて、ゴクリと唾液を嚥下する。
そのリアルにピクつく耳の動きに目を奪われると、あながち「嘘だぁ」と笑うこともできなかった。
妙な緊張でのどが渇き、出されたお茶を一口飲むと、ちょっと変わった風味のするお茶だったが案外飲みやすくて、両手で包み込んだカップの温かさに気持ちも緩んだ。
「わしもかつてはそれなりに名を知られた魔術師じゃったが…複雑な人間関係が煩わしくなっての。
元々一人でいることに慣れておったし、好きなことだけをやりながら余生を平和に過ごすために、あらん限りの力を込めて張った結界だったんじゃ。
しかし、壊された衝撃もなく、こうも容易う侵入されるのもおかしいと思うての…。
それが『渡来人』の来訪なら、仕方ないの。
そなたたちは、何の法則も決まりもなく、突然現れると言われとるからの。
かつて現れた『渡来人』は、神域の結界の真ん中でも、王宮の結界でもお構いなしに現れたと聞くし。
今まで過ごした環境から引き離され、わけもわからない土地…世界に突然迷い込んでしまうのも、難儀なもんじゃ」
おじいさんは、一人うんうんと何かに納得したかのように何度も頷いて、時折何かを考えるように首を傾げた。
私のような異世界転移者は、かつてそれなりにいたらしい。
『渡来人』と呼ばれる彼らの多くは地球出身である事が多かったが、それ以外の世界から現れることもあったため、どういった存在が転移してくるのか、その法則性もこちらでは解明されていないそうだ。
おじいさんは、私の姿と気配でこの世界ではない存在であることに気がついたというが…
それはおじいさんが若い頃に『渡来人』に実際会ったことがあったため、私の生態オーラだか、特徴的な魔力の気配だかでも判断できたと、補足された。
「えっと…その『とらいびと』って……その後、帰れたり…しますか…?」
気づくと、おじいさんは私の全身を観察するように興味深々に見つめていたが、私がおずおずと話を切り出すと、ふっと目を閉じて、申し訳無さそうに俯いた。
「……すまんの、その後帰ったという話は聞いたことはない。
彼らはそれなりにこの世界に貢献したという記録は山程あるが、その後は大体この世界で骨を埋めていったとしか……。
実際わしが若い頃出会った『渡来人』どのは、すでに老齢の男性だったのじゃが、そのまま周囲に惜しまれるように、この世界でお亡くなりなってしまったしのぉ」
「そうですか……」
私も、なんとなくそうじゃないかと思っていたが…はっきり言葉にされると、胸が詰まった。
しかし、危機的状況から脱したばかりで、まだ心の底から現状を理解しているとは言い難いためか、我ながらあっさりと事実を認める言葉が漏れた。
そっか…帰れないのか………
私は、この世界に身寄りもなく一人でいるということの、現実的な問題を何も考えられず、ただボンヤリと遠くを見つめながらお茶を啜った。
「……まぁ、わしはここで余生を静かに暮らすべく、隠居している身じゃし。
おまえさんが良ければ、わしの弟子として、この世界のことを学びがてらでも、ここに住んでみてはどうかと思うんじゃがの?
幸い、この家は一人で住むにはいささか大きいので、部屋も余っておる。
若い頃はそれなりに稼いでいたので、おまえさんの様な娘っ子の一人位、余裕で養う程度の蓄えもあるし、後見になることもできる。
……山の中は獣や魔物が横行しておるし、町中も世慣れない娘が一人で暮らせるほど治安が良いとは言い切れん。
悪い提案ではないと思うんじゃが……無理強いするつもりもない。
どうかのぉ……?」
何も言わずに肩を落として黙り込んでしまった私の姿が哀れに感じたのか、おじいさんは親切と言うにも破格な優しさで、私にこの家に住むことを提案してくれた。
私は、例えこのおじいさんにどんな思惑があろうとも、その優しい申し出に縋る以外に、この見知らぬ世界で生きていく方法が思い浮かばず…
「…ごめんなさい、ありがとうございます。
迷惑かけないようにがんばりますから、こちらこそよろしくお願いします」
差し出されたおじいさんの手を握って、泣きながらお願いした。
細くて骨ばったシワシワの手は、私の手を包み込んで余りあるほど大きくて温かかった。
その後、かつては宮廷魔術師の長だったこともあるというおじいさん…もとい、師匠の元で5年程学んだ。
その間、元の世界に帰る方法も模索してみたけれども、この世界に馴染んでいくと共に、辛くとも諦めて前を見て生活していく事も学んでいった。
師匠は私に、この世界の一般常識だけでなく、様々な魔術と呼ばれるこの世界の特殊技能を教え込んでくれたのだが、そもそもがかなりの老齢であったことから、3年前に他界した。
死因は老衰であったので、この世界で常識的に売られているポーションも、師匠に教わって独自の工夫を凝らして作った上級ポーションも、多少の延命には役立ったものの、師匠の寿命そのものを延ばす力は無かった。
師匠の葬儀は私が泣きながら一人で執り行ったが、元々人と接しないように隠居していたこともあり、参列者も私とかつての師匠の友人だったという商人のおじさんと、時々やり取りしていた近隣の村の住民の数名だけだった。
その後しばらく、優しかった師匠の思い出に浸りながら、戸籍上の孫として譲り受けたこの家で泣き暮らしたが、師匠の友人のおじさん―――ドルージェさんの勧めで、師匠から学んだ魔術を元に作り上げた魔具や薬をドルージェさんの店に卸して生計を立てるようになった。
そして現在。
私が組み込んだ魔法陣で魔石に付与した魔道具が売れに売れ、敷地内で栽培した薬草を使ったポーションも、私独自の工夫を凝らした上にその魔力を注ぐと、市販のものなど及びもつかないほど効能に優れていたためバカ売れし―――若いながらもそれなりに売れっ子の新鋭魔術師となった。
今では、私が作成したという道具やポーションにはプレミアが付き、多少高くても製作者買いしてくれる熱心なファンまでいるらしい。
有り難いことです。
いやね、独自の工夫っていっても…魔石の魔法陣に漢字を組み込んで威力増大させることができたし、薬品類はあっちでの調理のと同じ技法だったから、素材を蒸したり無水調理したりフリーズドライしたりして調合すると効果が上がるって気づいただけだったから……
…今どきの異世界チートって程でもないし、何も特別な知識も使ってないから、苦労らしい苦労もなかったんだけどね。
今までの『渡来人』たちも、私より年代が随分前の人たちだった様で、私が当たり前にやった無水調理やフリーズドライなどの調理の技法も恐らくは未知のものだったんじゃないだろうか。
漢字に至っては、何故かこちらの世界の人たちにとっては『渡来人』特有の魔法陣…もしくは理解不能な神聖言語扱いである。
優秀な頭脳を持つ師匠に色々見せたけれども、何故かイマイチ理解までは及ばなかった。
そんなこんなで、私が『渡来人』であることは、師匠の生前から、お世話になっているドルージェさんにも誰にもヒミツにしている。
『渡来人』はそんな特殊な知識や技能を持つこと以外にも悪い人間に狙われ易く、私が種族的特徴のない若い女であることからも、種族主義的な輩から、子を成す道具として目されやすいという危険もあるらしい。
種族的特徴がない…ということは、その子供は100%男親の特徴を受け継ぐということでもあるそうで…その話を聞いた時、なんとも女性の人権というものを無視した輩はどこにでもいるのだなと、胸糞悪くなった。
そして、この種族…というは、まぁ、師匠の登場でお察しの通り、この世界が獣的特徴を持つ獣人の世界だからという訳なのだが…。
―――他にも魔族や神獣と呼ばれる、獣人とは違った種族もいるそうだが、そちらは数も少なく、人間にはあまり興味を示さない存在なので、それ程気にしなくても良いとも言われた―――
そんな訳で私は謎の魔術師マリア=シノーカとして、ガッポガッポ小金を貯めつつ、決して表舞台に立たないよう、質素な生活を心がけていったのだったが―――元々派手を好まない私にはそんな隠者の様な生活は性に合っていた。
なので、この静かな生活には不満らしい不満もなく、金銭的にも潤っていたし、畑仕事も魔術を使えば苦労はなかった。
なかったのだが………元々、日本では家族で住んでいたこともあり、一軒家で一人住まいという孤独だけは、馴染むことができなかった。
作業に従事しているときは、集中しているので良かったが、ふと、気持ちが途切れた瞬間に、自分がポツンと一人でいることを実感すると…
強烈な孤独感が襲ってきて、無性に泣きたくなる時もあった。
だけど、自分がレアな『渡来人』の女だと人にバレることだけは、何よりも避けたい。
この世界には、奴隷商人なるものがいるというし。
ああ、恐ろしい。
ここに来て自分が奴隷とか子作りマシーンとか、マジないわ―――。
そう思っていたのだ。本気で。
『奴隷』なんて、人権の大事さを教え込まれてきた現代地球人の自分には、なんとも前時代的な時代錯誤で非人道的なシステムとしか思えない。
人間を金銭で売り買いするとか、倫理的にも有り得ない。
確かにそう思っていたというのに…。
だけど…………そうか、奴隷か。
その時の私は孤独をこじらせて、トチ狂った欲望に囚われていた。
自分のヒミツを守りながら、絶対に自分のことをバラすことのない存在に孤独を癒やしてもらうには…もう、これしかないのかもしれない。
そう、思い込んでしまっていたのだから。
人間という存在を金銭でやり取りする以上、絶対にひどい目になんて合わせないから。
私のところに来て良かったって思ってもらうよう、頑張るから。
どうしても嫌だって言うなら、解放することも考えるから。
そんな言い訳を心で羅列しながら、私は自分の欲を溜め込むように、小さな瓶に金貨を貯めていった。
ドルージェさんから、魔道具やポーションを売った報酬を受け取って、一枚、また一枚と金貨を貯めていき……
「うふふ……癒やし系のゆるふわっとした、もふもふ尻尾の優しいきれいなお兄さん…もしくは男の子がいいなぁ……」
いつしか、目的が大変卑しい邪なものに変わっていったことに、私は気づいていなかった。
「んっんっ…ぁあんっ! やっ…やぁんっ! そこダメっ!グリグリしないで!」
「ダメって言ってもな……、随分美味しそうに俺のモノ締め付けてるぜ?
ここがイイのか? ……ふは…やべぇな……良すぎてあんま我慢できそうにない…」
ナニユエ私は、あられもない声を上げながら自宅の寝室の壁に立ったまま両手をつき、知り合ったばかりの白虎の獣人に腰を支えられたまま、パンパンと破裂音を立てるほど後ろから激しく貫かれているのだろうか。
「やだっやだっ…あんっ…何かクる…ぁあっ」
これが人生で数回目の性交だと思えない程、深い部分まで抉る快楽に背を仰け反らせ、喉が枯れんばかりの嬌声を上げると、背後から遠慮容赦無く蜜孔を穿つ男の腰の動きは勢いを増していく。
同時に、Bカップのささやかな胸を弄られ、ピンと尖った先っぽを摘まれて捏ねられれば、その都度キュンっと下腹部が締め付けるように感じるのがわかった。
「いいぜ、イッちまえよ。俺も一緒にイッてやる……」
男は腰の動きを早めたまま、私の背を覆い被さるように逞しい腕の中に抱き込むと、耳元で鼓膜に響く低音で囁いた。そして、ぐっと顎を後ろ側に反らせて唇を合わせると…蜜孔をズンズン突き上げながら、固く凝った陰核を指先で捏ねてくる。
ただでさえ、サイズオーバーな程大きく固い性器で中のイイ所を擦り上げられているというのに、敏感になった尖りまでイジられ、舌を…口腔内の性感帯まで責められては、我慢が出来るはずもない。
「んちゅっ、んーっ、ふぁっ…ぁっ……んぁっっ!!!」
「…ぁっ……はっ……締まるっ…」
上げるはずの嬌声を唾液ごと吸い上げられ、逃げ場もないほど抱き込まれながら、私は迫りくる絶頂にギュッと体に力を込めてやり過ごそうとするも、膝はガクガクと震えてしまう。
反射的に力の籠もらない下肢を支え、壁に手を突いてもたれ掛かろうとしたのだが、後ろから温かな胸にキツく抱き込まれた。
そして、全身を包み込むような温もり安堵し、達したと同時に胎内に注ぎ込まれた熱いモノの存在を感じながら、意識を失っていったのだったが……薄れゆく記憶の中、
「まだまだこれからだぜ?」
そう言って、ニヤリと嗤った肉食獣のような男の声が聞こえた様な気がしたが……聞かなかったことにしたいと思った。
「ふっふっふ…やっと貯まった…」
夕闇の薄暗い部屋の魔力ランプが灯る作業台に、私はこれまで貯めてきた金貨の山をうっとり見つめてほくそ笑む。
貯めに貯めた大金貨100枚。日本円にして1000万相当の価値になるだろうか。
豪華なドレスも宝石も興味はなく、それなりに質素な生活を送りながら貯め込んだ金貨ちゃんたちは、こちらでなら郊外のちょっとした一軒家だって買える一財産で、人生だってやり直せるほどの大金である。
それ程カツカツに生活してきた訳ではないが、これまでの軌跡を振り返って眺めてみれば、微かな光を照り返す黄金の輝きのなんと美しいことか。
これが、この世界に迷い落ちた私の人生をより良いものに変えてくれると思えば、何よりも愛おしくなった。
「こんだけ貯めれば…イケる!」
チャラチャラと澄んだ金属音を奏でる金貨をかき混ぜて弄びながら、くっくっくと喉で笑う。
元の世界…日本で女子高生をしていた頃には貯金なんて全く興味もなかった私が、よくぞここまで貯め込んだと誇らしい気持ちにすらなった。
それもこれも、とある目的のためだと思えば、苦労らしい苦労など何もない。
私は様々な感情を込めながら、両手にヂャリっと金貨を握りしめて声高らかに叫ぶ。
「明日は奴隷買りじゃぁぁあぁっ!!」
普段、人里離れた山の中で、人目を忍ぶ質素な生活を余儀なくされていた反動だろうか。
どんなに大騒ぎしても他人に気を使う必要もない住居ではあるが、静かな生活を好む私が一人で雄叫びをあげる程興奮するなど、それ程多い事ではない。
しかし、ボルテージが上がりまくっていた私は、夜中のテンションも相まって確かにおかしくなっていた。
「ヒッヒッヒ……」
欲望まみれの低い笑い声は、雑然とした作業部屋の静寂に響き渡り…そのまま闇に吸い込まれるように消えていった。
高校2年生の16歳の秋、私こと篠塚麻莉愛は突然この世界に落ちた。
そう、落下したのだ。
部屋着に薄手のコートをひっかけた姿で、近所のコンビニから帰る途中、何故か住宅街の道路のど真ん中でスポーンと。
とは言え、それ程高い位置から落ちたという感覚はなく、階段を数段踏み外した程度の落差だと感じていた。
そのちょっとした高低差での浮遊感にバランスを崩し、「うわっ!?」と思ったら、山の中で座り込んでいたので、怪我もなかったのはよかったけれども。
土の地面に尻もちをついた体勢で、何が起こったのか理解が及ばないままにキョトンとして周辺を見回したが、自分が何故この様な場所にいるのか、皆目検討もつかない。
辺りは一面、日も差さない程薄暗い森の中で、どこか遠くでギャッギャッと鳥か獣の鳴き声が木霊している。
こんな森の中なんて、学校の課外研修で行ったキャンプか家族で行ったハイキングの時のことしか思い当たらなかった。
「……なにこれ……私、夢でも見てるの?」
夢でも見てるのかと思って目を瞑っても、やたらとリアルな風の感触や森の音や匂い、座り込んだ地面の湿った冷たさが、これが幻ではないと伝えてくる。
気づかない内に、何者かに拉致されて、山の中に放り出されたのだろうか?
それはそれで、また違った恐怖を感じる事態ではあるが。
私は、泣き出しそうな心細さの中、薄手のコートのポケットに入れていたスマホを取り出し、位置確認を試みた。
しかし…当然スマホは圏外を示し、10月某日の17:37と日時は教えてくれたものの、自分がどこにいるのかを教えてくれることはなかった。
「ううう…何なの…何が起こったのよぉ…。おかーさーん…。誰かぁ…」
心細くて泣きそうになりながら周囲に呼びかけるも、木々に囲まれて薄暗い森の中は見通しも悪く、辺りに誰かいる気配もない。
自分に何が起こったのか本格的に訳が分からなかったけれども、しかし怖くて無闇にその場から離れることもできなかった。
そして、15分ほど座り込んで泣きべそをかいていると、不意にガサガサと何かが近寄ってくる音に気がついてビクッとする。
「な、なに…?」
流石にこのまま座り込んだままではマズいかもしれない
森に住む野生動物とか、悪い人に見つかったら、タダじゃ済まないよね。
本能的に危険を察知した私は、涙を拭いながら立ち上がり、何処かの木の影に隠れようと走り出した。その時、
「こんな所で、一人で何をしているんだね?」
逃げようとした私の背中から、優しそうなおじいさんの声が聞こえてきて、思わず振り返った。
そこにいるのは、まるで絵本に出てくるトンガリ帽子の魔法使いのようにズルズルのローブを纏い、長くて白いヒゲの生えた、背の高い老人だったのだが…
少し違うのは、琥珀色の瞳の西欧人風の容貌であり、そのトンガリ帽子に猫の様な可愛い小さな三角耳がついていることだろうか。
その耳の白地に灰色のシマシマ模様が、昔飼っていたアメリカンショートヘアーの猫の様で妙に可愛いらしい。
しかし、その時の私は、その耳は帽子の飾りだろうと思い込んでいたので、その変異はスルーして、ただただ優しそうな外国人のおじいさんが声をかけてくれたことに安堵した。
「家の敷地内に突然妙な気配がしたもんでのぉ。
別段危険な感じもせんかったので、それを探しに来たのじゃが…
その耳、姿……ひょっとして、おまえさん、『渡来人』…かの?」
何の緊張も感じさせない、おっとりしたおじいさんの声に、張り詰めていた緊張が緩むのを感じると、
『渡来人』? 南蛮人みたいなもの?
言われた言葉に聞き覚えはなかったが、言葉が―――日本語が通じる存在を目の当たりにして、そのまま涙腺が崩壊するように涙が溢れた。
「ううう…わかりません。なんで私がこんな森にいるのか、私に何が起こったのか……わかんないよぉ…」
突然、訳も分からず迷い込み、スマホも使えず一人ぼっちで放り出されたショックで大分混乱していたのだろう。
優しそうな現地の人の存在に、思わず立ち尽くしたまま、わんわんと泣き出してしまったのだった。
おじいさんは、突然泣きべそをかいて声を上げる私を困ったように見つめると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
私を刺激しないように、あえてゆっくり近づいてきた気遣いが嬉しかった。
「そうか、そうか。それは怖かったの。
とりあえず、近くにあるわしの家に来るとええ。
そこで詳しい話を聞くから、落ち着きなされ」
私を安心させるようににっこり微笑み、そっと私の背をさすりながら優しく声をかけてくれた。
そうして、10分程歩いた先にある、小さな別荘の様な家に案内されるとお茶を出され、その温かい湯気を吸い込んで一息ついた。
おじいさんは、この近辺一体の山を所有する魔術師であり、私は『渡来人』と呼ばれる異世界転移者であると教えてくれた。
正直、日本で魔術師と言われても胡散臭いとしか思わなかっただろうが、帽子を取ったおじいさんの薄い灰色の髪の間から、ぴょこんと立ってるシマシマの三角耳が帽子の飾りではなかったことに気づいて、ゴクリと唾液を嚥下する。
そのリアルにピクつく耳の動きに目を奪われると、あながち「嘘だぁ」と笑うこともできなかった。
妙な緊張でのどが渇き、出されたお茶を一口飲むと、ちょっと変わった風味のするお茶だったが案外飲みやすくて、両手で包み込んだカップの温かさに気持ちも緩んだ。
「わしもかつてはそれなりに名を知られた魔術師じゃったが…複雑な人間関係が煩わしくなっての。
元々一人でいることに慣れておったし、好きなことだけをやりながら余生を平和に過ごすために、あらん限りの力を込めて張った結界だったんじゃ。
しかし、壊された衝撃もなく、こうも容易う侵入されるのもおかしいと思うての…。
それが『渡来人』の来訪なら、仕方ないの。
そなたたちは、何の法則も決まりもなく、突然現れると言われとるからの。
かつて現れた『渡来人』は、神域の結界の真ん中でも、王宮の結界でもお構いなしに現れたと聞くし。
今まで過ごした環境から引き離され、わけもわからない土地…世界に突然迷い込んでしまうのも、難儀なもんじゃ」
おじいさんは、一人うんうんと何かに納得したかのように何度も頷いて、時折何かを考えるように首を傾げた。
私のような異世界転移者は、かつてそれなりにいたらしい。
『渡来人』と呼ばれる彼らの多くは地球出身である事が多かったが、それ以外の世界から現れることもあったため、どういった存在が転移してくるのか、その法則性もこちらでは解明されていないそうだ。
おじいさんは、私の姿と気配でこの世界ではない存在であることに気がついたというが…
それはおじいさんが若い頃に『渡来人』に実際会ったことがあったため、私の生態オーラだか、特徴的な魔力の気配だかでも判断できたと、補足された。
「えっと…その『とらいびと』って……その後、帰れたり…しますか…?」
気づくと、おじいさんは私の全身を観察するように興味深々に見つめていたが、私がおずおずと話を切り出すと、ふっと目を閉じて、申し訳無さそうに俯いた。
「……すまんの、その後帰ったという話は聞いたことはない。
彼らはそれなりにこの世界に貢献したという記録は山程あるが、その後は大体この世界で骨を埋めていったとしか……。
実際わしが若い頃出会った『渡来人』どのは、すでに老齢の男性だったのじゃが、そのまま周囲に惜しまれるように、この世界でお亡くなりなってしまったしのぉ」
「そうですか……」
私も、なんとなくそうじゃないかと思っていたが…はっきり言葉にされると、胸が詰まった。
しかし、危機的状況から脱したばかりで、まだ心の底から現状を理解しているとは言い難いためか、我ながらあっさりと事実を認める言葉が漏れた。
そっか…帰れないのか………
私は、この世界に身寄りもなく一人でいるということの、現実的な問題を何も考えられず、ただボンヤリと遠くを見つめながらお茶を啜った。
「……まぁ、わしはここで余生を静かに暮らすべく、隠居している身じゃし。
おまえさんが良ければ、わしの弟子として、この世界のことを学びがてらでも、ここに住んでみてはどうかと思うんじゃがの?
幸い、この家は一人で住むにはいささか大きいので、部屋も余っておる。
若い頃はそれなりに稼いでいたので、おまえさんの様な娘っ子の一人位、余裕で養う程度の蓄えもあるし、後見になることもできる。
……山の中は獣や魔物が横行しておるし、町中も世慣れない娘が一人で暮らせるほど治安が良いとは言い切れん。
悪い提案ではないと思うんじゃが……無理強いするつもりもない。
どうかのぉ……?」
何も言わずに肩を落として黙り込んでしまった私の姿が哀れに感じたのか、おじいさんは親切と言うにも破格な優しさで、私にこの家に住むことを提案してくれた。
私は、例えこのおじいさんにどんな思惑があろうとも、その優しい申し出に縋る以外に、この見知らぬ世界で生きていく方法が思い浮かばず…
「…ごめんなさい、ありがとうございます。
迷惑かけないようにがんばりますから、こちらこそよろしくお願いします」
差し出されたおじいさんの手を握って、泣きながらお願いした。
細くて骨ばったシワシワの手は、私の手を包み込んで余りあるほど大きくて温かかった。
その後、かつては宮廷魔術師の長だったこともあるというおじいさん…もとい、師匠の元で5年程学んだ。
その間、元の世界に帰る方法も模索してみたけれども、この世界に馴染んでいくと共に、辛くとも諦めて前を見て生活していく事も学んでいった。
師匠は私に、この世界の一般常識だけでなく、様々な魔術と呼ばれるこの世界の特殊技能を教え込んでくれたのだが、そもそもがかなりの老齢であったことから、3年前に他界した。
死因は老衰であったので、この世界で常識的に売られているポーションも、師匠に教わって独自の工夫を凝らして作った上級ポーションも、多少の延命には役立ったものの、師匠の寿命そのものを延ばす力は無かった。
師匠の葬儀は私が泣きながら一人で執り行ったが、元々人と接しないように隠居していたこともあり、参列者も私とかつての師匠の友人だったという商人のおじさんと、時々やり取りしていた近隣の村の住民の数名だけだった。
その後しばらく、優しかった師匠の思い出に浸りながら、戸籍上の孫として譲り受けたこの家で泣き暮らしたが、師匠の友人のおじさん―――ドルージェさんの勧めで、師匠から学んだ魔術を元に作り上げた魔具や薬をドルージェさんの店に卸して生計を立てるようになった。
そして現在。
私が組み込んだ魔法陣で魔石に付与した魔道具が売れに売れ、敷地内で栽培した薬草を使ったポーションも、私独自の工夫を凝らした上にその魔力を注ぐと、市販のものなど及びもつかないほど効能に優れていたためバカ売れし―――若いながらもそれなりに売れっ子の新鋭魔術師となった。
今では、私が作成したという道具やポーションにはプレミアが付き、多少高くても製作者買いしてくれる熱心なファンまでいるらしい。
有り難いことです。
いやね、独自の工夫っていっても…魔石の魔法陣に漢字を組み込んで威力増大させることができたし、薬品類はあっちでの調理のと同じ技法だったから、素材を蒸したり無水調理したりフリーズドライしたりして調合すると効果が上がるって気づいただけだったから……
…今どきの異世界チートって程でもないし、何も特別な知識も使ってないから、苦労らしい苦労もなかったんだけどね。
今までの『渡来人』たちも、私より年代が随分前の人たちだった様で、私が当たり前にやった無水調理やフリーズドライなどの調理の技法も恐らくは未知のものだったんじゃないだろうか。
漢字に至っては、何故かこちらの世界の人たちにとっては『渡来人』特有の魔法陣…もしくは理解不能な神聖言語扱いである。
優秀な頭脳を持つ師匠に色々見せたけれども、何故かイマイチ理解までは及ばなかった。
そんなこんなで、私が『渡来人』であることは、師匠の生前から、お世話になっているドルージェさんにも誰にもヒミツにしている。
『渡来人』はそんな特殊な知識や技能を持つこと以外にも悪い人間に狙われ易く、私が種族的特徴のない若い女であることからも、種族主義的な輩から、子を成す道具として目されやすいという危険もあるらしい。
種族的特徴がない…ということは、その子供は100%男親の特徴を受け継ぐということでもあるそうで…その話を聞いた時、なんとも女性の人権というものを無視した輩はどこにでもいるのだなと、胸糞悪くなった。
そして、この種族…というは、まぁ、師匠の登場でお察しの通り、この世界が獣的特徴を持つ獣人の世界だからという訳なのだが…。
―――他にも魔族や神獣と呼ばれる、獣人とは違った種族もいるそうだが、そちらは数も少なく、人間にはあまり興味を示さない存在なので、それ程気にしなくても良いとも言われた―――
そんな訳で私は謎の魔術師マリア=シノーカとして、ガッポガッポ小金を貯めつつ、決して表舞台に立たないよう、質素な生活を心がけていったのだったが―――元々派手を好まない私にはそんな隠者の様な生活は性に合っていた。
なので、この静かな生活には不満らしい不満もなく、金銭的にも潤っていたし、畑仕事も魔術を使えば苦労はなかった。
なかったのだが………元々、日本では家族で住んでいたこともあり、一軒家で一人住まいという孤独だけは、馴染むことができなかった。
作業に従事しているときは、集中しているので良かったが、ふと、気持ちが途切れた瞬間に、自分がポツンと一人でいることを実感すると…
強烈な孤独感が襲ってきて、無性に泣きたくなる時もあった。
だけど、自分がレアな『渡来人』の女だと人にバレることだけは、何よりも避けたい。
この世界には、奴隷商人なるものがいるというし。
ああ、恐ろしい。
ここに来て自分が奴隷とか子作りマシーンとか、マジないわ―――。
そう思っていたのだ。本気で。
『奴隷』なんて、人権の大事さを教え込まれてきた現代地球人の自分には、なんとも前時代的な時代錯誤で非人道的なシステムとしか思えない。
人間を金銭で売り買いするとか、倫理的にも有り得ない。
確かにそう思っていたというのに…。
だけど…………そうか、奴隷か。
その時の私は孤独をこじらせて、トチ狂った欲望に囚われていた。
自分のヒミツを守りながら、絶対に自分のことをバラすことのない存在に孤独を癒やしてもらうには…もう、これしかないのかもしれない。
そう、思い込んでしまっていたのだから。
人間という存在を金銭でやり取りする以上、絶対にひどい目になんて合わせないから。
私のところに来て良かったって思ってもらうよう、頑張るから。
どうしても嫌だって言うなら、解放することも考えるから。
そんな言い訳を心で羅列しながら、私は自分の欲を溜め込むように、小さな瓶に金貨を貯めていった。
ドルージェさんから、魔道具やポーションを売った報酬を受け取って、一枚、また一枚と金貨を貯めていき……
「うふふ……癒やし系のゆるふわっとした、もふもふ尻尾の優しいきれいなお兄さん…もしくは男の子がいいなぁ……」
いつしか、目的が大変卑しい邪なものに変わっていったことに、私は気づいていなかった。
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