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第0話<プロローグ>ーケイン視点ー
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「あのね、ハルくん。 私、新しい世界の扉を開いてしまったの!
この世界を知らなかった頃の私は、なんて色褪せたお子様の世界に生きていたのか…。
このゲームのスチル、サイドストーリー、裏ルート…全てを知って、大人になった私の世界は一層輝くの!」
頬を染めつつ、嬉しそうになんだかよくわからないことをまくし立てている姉は、『ラブフェロモニア――日陰に咲く香しき花と花盗人たちの物語――』とかいう、怪しげな題名のゲームを僕に手渡した。
“はなぬすっと”…? いや、“はなぬすびと”って読むのか、これ。
―――残念ながら、僕はあまり漢字が得意な方ではなかったが、それを口に出して恥をかかないだけの分別はあった。
高校1年生になった姉は、新しくできた友人に勧められたゲームにハマったらしく、興奮気味に紹介してくれたのだが…僕にはそのゲームの内容…というか、その良さ…というか、男が男のハーレムを形成するという世界観が、よく理解できなかったことを覚えている。
「え…っと…。姉ちゃん、BLゲーとか、やるんだ…」
うわぁ、ヤッバイ…とまでは言い出さなかった僕を褒めてほしい。
まあ、パッケージの絵を見てゲーム概要を読んでいくと、如何にもな内容だったので、お察しだ。
流石に中学生ともなると、BLのなんたるか位は知っていたし、クラスの中でも大人しい感じの女子が教室の端で、「普段の囁くような小さな声はどこへ行った?」と思うほど大きな声で、キャーキャー言ってたのも知ってたけど、まさか身内にハマる者が出ようとは思ってなかった。
中学までは、姉にそんな兆候はなかったと思っていたけど、どうやら最近できた友人に布教され、入信することになってしまったらしい。
「それでね、それでね。色んなストーリーとかスチルとかが見たいんだけど、ミニゲームとか攻略が難しくて、ハルくんに手伝ってほしいの」
元々、あまりゲームをやってきていない姉は、そう言って僕にゲームクリアのための手伝いを懇願してきたのだが、女もいる世界だって言うのに、あえて男が男を落として何が楽しいんだ…と思うと、正直面倒だなとしか思っていなかった。
「BLて……興味ないんだけd…」
イケメンとはいえ、男同士が寄り添ってラブラブな空気を出しているパッケージを見て、若干引き気味に呟いたが、姉はグイッと勢い良く僕の言葉にかぶせてくる。
「大丈夫、大丈夫! これ、そんなにキツいやつじゃないし、絵もキレイだから女の子と大差ないって!大丈夫だって!」
やたら大丈夫を連呼してくる所も怪しい。
でも確かに、パッケージのイラストは、多分人気イラストレーターでも使っているんだろうなと思わせるほど綺麗なものだったし、所謂BLものの悪評程のエグい描写もなさそうで、強いて言うなら某少年誌のスポーツ漫画の方がよっぽどイチャイチャしてるんじゃないかっていう内容っぽかった。
「でも……ねぇ……」
それでも躊躇していると、姉にガッと両手を握りしめられ、真摯な眼差しで訴えられたのだが、荒い鼻息とギラギラと血走った眼差しに、僕の心も体もドン引きだった。しかし、
「ゲーム得意なハルくんなら、簡単にクリアできるよ! それに、協力してくれたら、欲しがってた地下アイドルの写真集、買ってあげちゃう!」
という、姉の言葉を聞いた瞬間背筋を伸ばし、
「お任せください、お姉さま。
必ずや、このイケメン共をあなたのために落としてご覧に入れまする」
先程までの消極的な態度とは裏腹に、僕は身を乗り出し、まるで武将に仕える軍師のような言葉を被せて言い切った。
中学生の小遣いから、2200円の写真集を買うのはちょっとキツイのだ。
それを、よくわからない世界とはいえ、ぬるいゲーム攻略の手伝いをするだけで買ってくれるというのだから、乗らない手はない。
姉は小鼻を膨らまして満足気に微笑み、見えない扇子を扇ぎながら、
「うむ。 良きに計らえ」
と、鷹揚に頷いた。
結局、僕たちは欲望に忠実であるという点においては似た者姉弟だったということなんだけども……僕はこの後、地獄を見ることになって後悔したのだった。
この世界を知らなかった頃の私は、なんて色褪せたお子様の世界に生きていたのか…。
このゲームのスチル、サイドストーリー、裏ルート…全てを知って、大人になった私の世界は一層輝くの!」
頬を染めつつ、嬉しそうになんだかよくわからないことをまくし立てている姉は、『ラブフェロモニア――日陰に咲く香しき花と花盗人たちの物語――』とかいう、怪しげな題名のゲームを僕に手渡した。
“はなぬすっと”…? いや、“はなぬすびと”って読むのか、これ。
―――残念ながら、僕はあまり漢字が得意な方ではなかったが、それを口に出して恥をかかないだけの分別はあった。
高校1年生になった姉は、新しくできた友人に勧められたゲームにハマったらしく、興奮気味に紹介してくれたのだが…僕にはそのゲームの内容…というか、その良さ…というか、男が男のハーレムを形成するという世界観が、よく理解できなかったことを覚えている。
「え…っと…。姉ちゃん、BLゲーとか、やるんだ…」
うわぁ、ヤッバイ…とまでは言い出さなかった僕を褒めてほしい。
まあ、パッケージの絵を見てゲーム概要を読んでいくと、如何にもな内容だったので、お察しだ。
流石に中学生ともなると、BLのなんたるか位は知っていたし、クラスの中でも大人しい感じの女子が教室の端で、「普段の囁くような小さな声はどこへ行った?」と思うほど大きな声で、キャーキャー言ってたのも知ってたけど、まさか身内にハマる者が出ようとは思ってなかった。
中学までは、姉にそんな兆候はなかったと思っていたけど、どうやら最近できた友人に布教され、入信することになってしまったらしい。
「それでね、それでね。色んなストーリーとかスチルとかが見たいんだけど、ミニゲームとか攻略が難しくて、ハルくんに手伝ってほしいの」
元々、あまりゲームをやってきていない姉は、そう言って僕にゲームクリアのための手伝いを懇願してきたのだが、女もいる世界だって言うのに、あえて男が男を落として何が楽しいんだ…と思うと、正直面倒だなとしか思っていなかった。
「BLて……興味ないんだけd…」
イケメンとはいえ、男同士が寄り添ってラブラブな空気を出しているパッケージを見て、若干引き気味に呟いたが、姉はグイッと勢い良く僕の言葉にかぶせてくる。
「大丈夫、大丈夫! これ、そんなにキツいやつじゃないし、絵もキレイだから女の子と大差ないって!大丈夫だって!」
やたら大丈夫を連呼してくる所も怪しい。
でも確かに、パッケージのイラストは、多分人気イラストレーターでも使っているんだろうなと思わせるほど綺麗なものだったし、所謂BLものの悪評程のエグい描写もなさそうで、強いて言うなら某少年誌のスポーツ漫画の方がよっぽどイチャイチャしてるんじゃないかっていう内容っぽかった。
「でも……ねぇ……」
それでも躊躇していると、姉にガッと両手を握りしめられ、真摯な眼差しで訴えられたのだが、荒い鼻息とギラギラと血走った眼差しに、僕の心も体もドン引きだった。しかし、
「ゲーム得意なハルくんなら、簡単にクリアできるよ! それに、協力してくれたら、欲しがってた地下アイドルの写真集、買ってあげちゃう!」
という、姉の言葉を聞いた瞬間背筋を伸ばし、
「お任せください、お姉さま。
必ずや、このイケメン共をあなたのために落としてご覧に入れまする」
先程までの消極的な態度とは裏腹に、僕は身を乗り出し、まるで武将に仕える軍師のような言葉を被せて言い切った。
中学生の小遣いから、2200円の写真集を買うのはちょっとキツイのだ。
それを、よくわからない世界とはいえ、ぬるいゲーム攻略の手伝いをするだけで買ってくれるというのだから、乗らない手はない。
姉は小鼻を膨らまして満足気に微笑み、見えない扇子を扇ぎながら、
「うむ。 良きに計らえ」
と、鷹揚に頷いた。
結局、僕たちは欲望に忠実であるという点においては似た者姉弟だったということなんだけども……僕はこの後、地獄を見ることになって後悔したのだった。
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