元男子高校生が貴族の令嬢に転生しましたが…どうやら生まれた性別を間違えたようです

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第2話ーケイン視点ー

シモ

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 そうして、アンダーソンさんに色々な説明を受けた後、僕は自室のベッドに一人で横たわり、

 ………何もセクハラされなかったな………

 と、今日の濃密な出来事を思い返して安堵のため息をついた。

 ………いや、何もおかしなことは言っていないし、期待していたわけでは決して、決してないので誤解しないでほしい。

 ここがあのBLゲーム世界であるとしたら、主人公のケインは、ド初っ端から家族の門前に薄汚れた姿で引き出され、モノを見るような目の無感動な父を始め、義理母や兄ミラージュからは蔑みの眼差しを浴びせられつつ、小動物のように震えながら自己紹介させられるという苦行が待っていたはずだった。 
 知らない大人たちに囲まれて、ビクビクしている8歳の子供にさせるには、なかなかの仕打ちだと思う。

 そしてその後、主たちの蔑みの気配を敏感に察知した使用人たちは、事ある毎に主人公に冷たく当たり出すのだ。
 その上最低なことに、ホモ属性のある男性使用人たちなどに至っては、バレなければ良いとばかりに、スキあらば物陰に引っ張り込んでセクハラの限りを尽くすという、何とも職業倫理が乱れた職場であったのだが…

 …現実のクロイツェン邸は、この世界の世間一般に比べて、BL人口が少なめなのだろうか……?

 僕が故郷のあの街で、必要以上に隠れるように住むことになった経緯を思うと、この世界が…とは思えない。

 しかし、そうだとすると、僕にとっては僥倖でしかない。嬉しい誤算だ。

 また、実際のクロイツェン侯爵一家の反応もそれほど酷いものでもなく、温かい…とまでは感じなかったが、拒絶されているという程でもなさそうな、微妙な雰囲気ではあったけど……そのおかげかもしれない。

 特に、侯爵夫人の無関心さは、ここでは逆に有り難かった。
 侯爵夫人の激怒に触れて、マザコンの気がある兄ミラージュの仕打ちが激化することもあったので、これは本当に助かった。

 それもこれも、ミランダ姉様の障害ではないと、父が言い切ったからだろうか?
 そう考えると、ヤリチン父の態度に変わりはないとは言え、何か僕の預かり知らない範囲で設定が変わっているのかもしれない。

 僕はホモ人どもに狙われるような存在じゃなくなってきているのかも!?

 ………なんて、過剰な期待は命取りだと思うものの、基本的に前世の頃から楽観的な僕は、やっぱり明るい未来に希望を持ってしまったり…。

 気分が上がったり下がったり、内面忙しなくグルグル浮沈させながら、僕は頭から被ったシーツの中でため息をついて考えを切り替えた。



 やっぱり、ミラージュ兄様がミランダという名の女の子になっていた所が一番の特異点だったのだろうか……?

 何故そんなことになったのかなんて、考えてもわからないけど…そんな気がしていた。
 …ぶっちゃけた話、ミランダ姉様が好みのタイプだったからそう思いたいというわけじゃないと思う。
 彼女が僕を認めて、優しく微笑みかけてくれた時、明らかに使用人たちの雰囲気も柔らかくなったのを感じていたから。
 彼女は、随分使用人たちに慕われて…可愛がられているように見えた。


 それにしても…元々―――認めたくはなかったが―――ミラージュだった時も割と好きな顔立ちだったけど、女子になったミランダ姉様の美しさは別格だった。

 あの儚げな微笑みを思い出すだけで、顔が熱くなって胸がドキドキする。

 お人形みたいに整った容姿に、優しそうなゆるふわっとした表情の儚げ系の美少女なんて、ド・ストライク。
 しかもまだ12歳だって言うのに、小学生位のハズなのに、あのスタイルの良さ………特に、胸。バスト。おっぱい。

 華奢な体に、美乳を備えた小学生とか、もう卑怯すぎる。

 まあ、背も高いし、外見だけ見たら中学生か高校生位に見えなくもないんだけど。

 そしてそんな完璧な容姿のお姉さんが、フワッといい匂いを振りまきながら至近距離まで迫って来るだけで、もう爆発しそうなくらいパニックだったのに。
 あんなに優しく微笑まれながら、そっと頬にふれられ、ほっぺにチューとか。

 …………敵は的確に僕を仕留めに来たと思われる。 
 そんなハニトラなら、是非仕留めていただきたい。 
 全裸で待機させていただきますので、優しくしてください。
 いつでもオールオッケーです。


 祖父や母親を亡くしてから幾日も、無気力に惰性で生きていたとは思えないほどの昂りようではある。
 植物のようにただただ母の元へ召される日を待ち望んで暮らしていた反動なんだろうか。

 本来の僕は、女性に対する免疫が無さすぎるためか、妄想が暴走しがちな中二を拗らせたまま転生したような存在である。

 それが、折角美ショタに転生しながらも、周りは美少女より美少年にヒャッハーするようなイカれた世界に驚愕し、貴重な女子達にはそれが理由で遠巻きにされるという悪循環に絶望していた。

 しかし、決してあんな悟りを開いた聖人のように穏やかで、無垢な思考の存在ではなかったことを徐々に思い出しつつあり…彼女の――姉様のことを考えるだけで、徐々にヒートアップする妄想が治まらない。


 彼女の「か」の字も見つけられないまま、清い体で14歳の短い生涯を終えた僕が、幸せを望んで何が悪い!?
 決して僕は、こんなイカれた…というか、イカ臭い世界で野郎どもに「アッーーーー!」な事をされるために生まれてきたんじゃないと、信じさせてくれたっていいじゃないか!

 いくらイケメンでも、あんな非生産的な人格破綻者どもの仕打ちは、僕にとっては無罪にはならないんだよ!!

 異議なんて認めねーよ!!

 あんなエロいお姉さんに、囲ってもらえるなら、もう僕はココで飼われてもいいとすら思ってんだよ!!
 初対面でほっぺにチューだぞ!? しかもすっげーいい匂いするんだぞ!?
 好みのエロい美少女にそんなことされたら惚れてまうやろ!?
 ていうか、あの女、もう僕に惚れてんじゃないの!?(←中二的妄想)
 これでドッキュンしないなんて、もう男として終わってるだろ!

 もう、ケツの心配して生きていたくないんだよーーーーーっ!!


 ……………長年抑圧されてきた思いが、僕の心のアスワン・ハイ・ダムを決壊させてしまったようだ。

 僕はグイッと男らしい仕草で、心の澱みとともに溢れ出てきた涙を拭った。
 ちなみに、僕は何一つ声に出していないし、布団の中で全てが完結しているので、外に漏れることもない。
 考えていることが口から外にダダ漏れするような、認知症のような症状も出ていない。


 我ながら随分な思考の飛躍の仕方をしているとは思うが…こじらせた中二病なんて、こんなものだと生ぬるい微笑みで見守っていてほしいと思います。
 ――――本当にお願いします。




 ……しかし、積もりに積もった想いを吐き出す…というか、自覚すると、案外気持ちも落ち着くのだろう。
 僕は、大変静かな賢者のような心持ちで、ミランダ姉様のことを再び考えることができるようになった。

 ……多分、あの姉はミラージュのように僕のことをいじめたりはしないだろう。
 そういう幼くて不安定な…癇の強い所が、彼女からは見受けられなかった。
 突然出てきた、身分の低い弟なんて、生粋の貴族子女にとっては蔑むような対象だと思ってたけど、彼女はむしろ僕の気持ちを気遣ってくれようとしていた。
 とても優しいお嬢様だ。
 それに、嫌なことがあっても、自分でなんとか折り合いを見つけて乗り越えることができる、大人の知性のようなものも感じる。
 それこそが、性別や名前よりも大きな特異点なんじゃないだろうか。
 多分、家族や使用人たちの愛情や信頼も、彼女だったからこそ…なんじゃないのかな。

 ミラージュ兄様と、ミランダ姉様は…全くの別人だと思っても良さそうだ。


 そう結論づけて納得しようとしていたのだが、ハッと僕はあることに気づいてしまった。

 ……ミラージュ兄様が要求してきたご奉仕とか、ミランダ姉様が僕に要求してくれることもないのか!?

 ………………そ、それは…由々しき問題だ……

 だが、オス豚を見るような目で蔑んでくる姉様のお姿を想像するだけで、心のスクショ置き場に永久保存モノなんだけど…
 妄想ならともかく、姉様に本気で嫌われるとか、考えただけで心が死ぬ。
 …でも、前世で読み漁った、諸々の聖書(エロ漫画)を思い出しつつ妄想に耽ること位、許されてもいいはずだ。
 しかし、汚れなきミランダ姉様を、アノ様な汚れた経典(エロ小説)の登場人物と置き換えて、僕の欲望の糧としても良いのだろうか…
 でもでも……………(永久運動)


 まあ、結論から言えば……あの一瞬で僕の心はすっかり姉様の下僕と成り下がったということなのだ。
 溺れるものは、藁でも縋り付くもんなんだから、これも自然の摂理である。
 一番の障害は姉弟であるということかもしれないけど………
 前世の姉とでは在り得なかったシチュエーションですら、現在の状況ではむしろ滾る!


 綺麗なお姉さん…大好物です!!



 …そんなこんなで、やたらハイになって妄想を暴走させているものの、男として他にもっと色々な問題点もあるだろうに、その時の僕は―――外界から閉ざされた密閉状態だったせいだろう―――都合の良い幻想に浸って思考を閉ざしていた。

 そのため、後に自分の至らなさをまざまざと自覚させられることになって、更なる暴走を引き起こすのだったが…それはもう少し先のお話で。





 ……なんとか合法的に、あの将来性未知数のけしからんおっぱいを堪能する術はないものか…

「……ひっひっひっ…くふふぅ…」

 最終的に僕は、頭から布団にくるまりながら興奮に体を震わせ、およそ8歳の美ショタが出しているとも思えない、怪しい奇声をあげてほくそ笑んでいた。

 その時……

「ケイン、起きてる? ……シーツに包まって…泣いているのね……可哀想に……」

 突然、大きく開け放たれたベランダのガラス戸から、よく通る少女の声が聞こえてきて、僕は驚きの余り笑いを飲み込んで上体を起こした。

 もちろん、今は泣いてなどいないわけだが…興奮で紅潮した頬に残る涙の痕跡と、赤く潤む瞳を見つけた少女は、僕の姿を認めると、悲しそうに微笑んだ。

 対する僕は、月明かりをバックに立つ、妖精か女神のような神々しさを纏う少女の姿を認めると、何も言えずにそのまま長い間見惚れており、思わずゴクリと喉を鳴らした音が、やけに耳に響いて感じた。
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