元男子高校生が貴族の令嬢に転生しましたが…どうやら生まれた性別を間違えたようです

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第9話 出会って3年経過後のあれこれ

③ ミランダ

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 バンダム宰相とその息子のクロードは昼下がりに当家を訪れたので、軽い軽食を摂りながらお茶をしていたのだが、お互いの挨拶や時候の話なんかが終わると早々に仕事の話が始まった。
 どうも二人共似た者同士なのか仕事人間のきらいがあり、あまり無駄な話などを好まない性質があるようで、世間話もそこそこに、すぐに領地での収穫物を王都で流通させる際のやり取りや、他領や王都との関税の違い、はたまた他国との折衝など、お固い話が主となってしまう。

 …これは、趣味の世界に生きるお母様が参加したがらなかった訳ね…
 私なんかは興味深く聞くこともできたけれども、普通の貴族女性が興味を持ちそうなお話じゃないわよね…

 そう思いながら話に耳を傾けていたのだが…ふと、主な目的を思い出してしまったのだろうか。
 会話が途切れた時に、急に「あ」という顔をして二人が眼を合わせたと思ったら、お父様がこちらを向いて

「では、私達はもう少し税制について詳しい内容を打ち合わせてくるので、二人でもうしばらく歓談でもしているといい」

 と、自分の失態を取り繕ったような胡散臭い微笑みを浮かべてそう言った。

 いえ、忘れていてくれても良かったのですけどもね。
 ていうか、仲いいわよね、お二人。

 そう思いながら、微笑みを崩さずにお茶に口を付けていたのだが、父が席を立って、その後を父と同じ年頃の優しそうなおじ様がついて行こうとされるので、カップをソーサーに置いてその姿を見送る様に顔を向けた。

 身長は長身である父よりも幾分高くて恰幅の良い大柄な中年貴族と言った風情であり、いつも微笑んでいるため優しい紳士といった印象を受けやすいが、彼こそがこの国の宰相である。
 大きくて人の良さそうな外見とは裏腹に、国王の懐刀として数多の政敵を粛清し、国家運営に辣腕を奮ってきた知恵者でもあるため、温厚そうな物腰に騙されて油断していると、思わぬ所で足を掬われてしまう。

 しかし、今日は政治に関わるような重大な話をしに来ているわけではないので、人好きのする穏やかな口調で優しく微笑みながら声を掛けられた。

「ミランダ嬢、息子をよろしくお願いします」

「ええ、お二人がお戻りになるまで、ご一緒させていただきますので、ごゆっくりなさってください」

 そう言って笑顔で答えると、二人は軽く頷いて退室していったのだった。


「…あなた、どういうおつもりですか?」

 父と宰相が退室した後、少しの会話の後にクロードから話を切り出された。
 むしろ、私のほうが尋ねたいと思っていたのだが…

「質問の意図が分かりかねますわね。
 お父様と宰相閣下のお仕事のお話のついでに、付添でいらしたあなたが退屈されないようおもてなしを言いつかっているだけですけれども…?」

 私は小首をかしげて質問を返したが、聞きたかった答はそのことではなかったらしい。

「最近、貴方のもとに求婚の問い合わせが増えていると噂で聞いております。
 そして、今日のこの状況の様に…まるでお見合いのような状況をセッティングされている日もあったでしょう。
 父はまだ知らない様ですが…あなた、つい最近シャルル王太子殿下に求婚されてましたよね?
 本人に聞かされたので、疑いようもない」

「…ああ、ご存知でしたのね。
 私などに過分な申し出をしていただきましたが…、お断りさせていただきましたので、特に問題は…」

「何故ですか?」

 私の言葉に被せるように重ねてくる、冷静な彼にしては珍しく強い語調に驚いて目を見開いた。

「何故、王太子妃となる栄誉を断られたのでしょうか?
 …シャルルの、王太子殿下の何が駄目なのでしょう?
 というか、国王・王妃両陛下にも望まれ、他の臣下や国民からも反対されることもない家に生まれながら、何故女性として最高位につくことをお断りになったのか…邪魔のない所でお尋ねしたかったのです」

 その言葉に、何故彼がこのような…親がセッティングしているお見合いのような場に現れたのか、納得がいった。
 …同性愛者として有名な彼が女性と結婚なんて…最も興味がなさそうだと思っていたから。

 そう言えば、彼は王太子の親しい友人だったわね…。

 わざわざツレのために私に会いに来たなんて、案外友情の厚い男なのだろうか。
 昔の友人たちとのやり取りを思い出して懐かしむと、男同士の友情に免じて答えてやろうという気持ちになった。

「…この領地で生まれ育ち、様々な発展を遂げていく故郷に身を捧げたいと思っただけですが…そんなにおかしな事はないと思いますけれども…」

 しかし、クロードはその答に納得がいかないのだろう。
 微かに眉を顰め、強い視線で私を見つめながら、小さく首を振っている。

「そのようなことならば、王太子妃・王妃となった後にもできないことではないでしょう」

「ふふ…宰相職が世襲ではないとは言え、お父上の跡をついで同じく宰相たろうとされているあなたらしくもないことを仰るのですね。
 国家の母たる王妃が、一領地に肩入れすることを許すほど、王太子殿下や国王陛下…並びに臣下の皆様方が容易い方々ではありますまい。
 まして、有力貴族の中でも筆頭と言える我が家が国の財源を使って領地を潤そうだなんて…ね」

 何を仰ってるのかしら?

 鼻で笑いながら、挑発するように微笑みかけると、自分でも不味いことを言ってしまったと思ったのか、

「う…」

 と口を噤んで目を逸らされた。

「私などをお求めになられる方々にはありがたく思いますけれども…少々私のような者を買い被りすぎていらっしゃるような気もして、気後れしてしまいますわ。
 私は確かにそれなりに領地の発展に努め、思った以上の結果を得ることができたものもございます。これらの結果を鑑みて王家の方々が私を評価してしただいているのかもしれませんが…私の関心や愛情は…国という広い範囲まで行き届くほど、大きなものにはなり得ないでしょう。
 私は小さな範囲の中を過不足なく整えて満足できるような…その程度の器の者だと…自分では理解しております」

「…何故、やろうともしないで決めつけられるのですか?
 私は、時々貴方の一見無欲のような、物分りの良い姿勢が、何とも腹立たしいと感じることがあります。
 あなたが領政に参加される前のクロイツェンも我が国有数の名家として誉れ高き名門でしたが…貴方が参加し始めた頃からのクロイツェンは内需拡大も著しく、平民ですら他領と比較にならないほど豊かな暮らしを約束される程の繁栄を受け、もはやエウロパ屈指の勢いを誇る一門となり得た。
 それ程の功績をあげられておりながら、それ以上の功績を求めない野心の無さや、他人とは一定の距離を置いているため、親しみやすい態度とは裏腹に、誰にも執着しないあの方から求愛されておりながら、女性として最高の地位を求められても素っ気なく断る貴方の態度が…どうにも許しがたい」

 …案外、高評価をいただいているのかしら?

 王太子を挟んで好印象を持たれていなかったことや、過去のアレコレもあったため、あまり仲の良い間柄ではなかったのだけれども真摯に評価され、素直な所を見せることがないこの男に、本当に惜しまれているように見える。

 というか、私、結構褒められてる?

 思わず驚いて、穏やかに…しかし熱く言葉を重ねる少年…というには大人びた存在を見つめてしまった。

 普段は貴族の子弟としてスカした態度を崩さない少年に、この様に語られると面映ゆくなるが…いくら不仲だとはいえ、所詮は子供同士のいざこざ。別に憎み合っているほどの仲でもないのだ。
 そんな微妙な間柄でも素直に言葉に出してくれている心意気を受けて、本音を…明かしても良いだろうという気持ちになり、姿勢を正してその眼差しを真摯に受け止める。

「私などを望んで下さった方々には、申し訳ないのですが…私は、この領地を…家族をこの手で守りたいと思ったのです。
 お父様は…私が王太子妃となったとしても、従兄弟や親戚の男性を養子にとるか…まぁ、他の手段も考えられていらっしゃるかもしれませんが…、私でなければ守れない者もいるので…
 この様な、狭い視点でしかモノを考えられない娘が至高の地位に着くなどと、烏滸がましい…そう思ったのです」

 …とある理由で、自分がいなくなった後でも恐らく表に出されることはないだろう弟の、あどけない顔を脳裏に浮かべた。

 多分、私以上にあの子の行く末を案じている者は…この家にはいないだろう。
 本人以上に。

「…そこまで頑なに領地に残ることを望まれますが…、例え一人娘であろうとも女性であるなら、いずれ他家に嫁ぐことも考えられたこともあるでしょう。
 領地を守るなら、まだお若く壮健なお父君がいらっしゃり、その縁戚にだって人材は豊富。
 言ってしまえば、貴方を王太子妃にして、親戚を養子にとったところで問題はないはずどころか、それが最適解では…」

「そうかしら? ふふふ…頭の良い貴方のお言葉とも思えませんわね。
 私、ただのお嬢様として自分の家柄や容姿だけに胡座をかいてきた覚えはございませんの。
 支配者の一族として、先程も仰ったように、この領地の繁栄に結構貢献させていただいたとの自負もございます。
 そしてそれは、これからもそうであろうと思っておりますので、現在進行系で進めている計画もありますし、自ら生み出した特産品にまつわる事業の監督もしております。…ご存知でしたかと思いますが。
 私、これらを携えて王家に入ろうなども思っておりませんし、それをあとから来た養子に譲り渡すのも御免被りたいですわね。
 そのことについても、王太子殿下含めた王家の方々もご承知されていると思っておりますけれども…」

 そう言いかけ、クロードが気まずそうに目を逸らしたのを微笑みながら見守った。

 了見が狭いかもしれないが、折角自分で育てたものを後から来た領主候補に譲って、苦労して開拓した商家とのつながりや、領民たちとのネットワークを潰されたり、ましてやそれらを嫁入り道具として王家に献上するとか期待されても…有り得ない。
 王太子殿下が純粋に私を望んでくれていたとしても…他の方々はそうではないだろう。
 我が領地の繁栄を築いた私を、そのツールごとヘッドハンティングする目的も透けて見える。

 いくら私達の上に王家があるとしても、法に触れる愚は犯していないのに、領地の内情にまでいちいち口を出す権利などないのだ。
 私が女性であることを利と見て、婚姻を結ぶと同時にその事業に噛ませろと、言外から言っているのがわかり易すぎる。

 この子も、わかっていない訳でもないようだけど…。

 私は呆れてため息をつく。

「お話は、もう良いかしら?
 バンダム宰相は、珍しく貴方と会話が続く女性である私が相手ならばと、一縷の望みを抱いてこの様な場を望まれたようですけれども…。当の貴方は私を王太子殿下の元へと望まれておいでになるとは…素敵な友情ですこと」

 クロードは、そんな私の冷めた視線に一瞬左右に目を揺らして戸惑うと、

「ふぅ…」

 と、どこか諦めた様に吐息をこぼして笑って肩をすくめた。

「そんなにいじめないでください。
 あなた相手に本心を探り、あわよくば求婚を受け入れるように誘導してこいだなんて…無茶を言ってくれる。
 もっとも、その求婚のあたりはあまり期待されては居なかったようでしたけどね」

「そうですわね。 
 やたらと王太子殿下をお勧めになるし、お相手は男性ばかりの貴方が、毛嫌いしている私の元へいらっしゃるなんて…おかしさしかありませんもの」

「まぁ…全てを否定はしませんが、一つ訂正を。
 私は確かに女性に興味はありませんが…それは、彼女たちと話していてもつまらないからですよ。
 誤解されていて残念ですが、私はあなたを毛嫌いしておりません。むしろ、手応えのある相手として、好ましく思っております。
 男性と付き合っていたとしても、いずれ貴族の義務として子を設けることに対してまで抵抗するつもりはありませんので、私は別にあなたと結婚することになったとしても、構わないと思っていることは修正していただきたいですね。
 …そんなに女性らしい美しさを持ちながら…何故か女臭さを感じない…稀有な方だ」

「オトモダチを裏切って、その相手を口説こうとされているのかしら?
 冗談にしたって、随分薄い友情ですわね」

 …何か雲行きが怪しくなってきた気がするので、素早く釘を刺す。
 一体どこからこんなことのになったのか。

 こんなに女性的魅力に溢れたボン・キュッ・ボンな私に向かって、女性的魅力に乏しいと言われている様で…何となく物悲しさを感じるけれども、だからといって食指を向けられても困る。

 …にしても、『女臭さ』ね…
 何となく、言っていることはわからなくもないけども…

 そう言えば、バンダム家は感応系に優れた家系だったので、ひょっとしたら、私の前世…までは言わないにしても、私の内に潜む何かを感じているのかも知れないと、ふと思った。
 それこそ、まさか…ではあるが。

「冗談…まあ、無理もありませんが。
 それでも、あなたはシャルルの想いを受け止める気はないのでしょう?
 私も、裏切るつもりなどはサラサラありませんが…全く脈のない片思いを断ち切ってやるのも、友情とも言えると思いませんか?」

「思いませんわね。 むしろ、破談に持ち込むように画策されたと邪推してもおかしくないかと…」

「ふふふ、そうですね。 
 やはりあなたの容赦ないところがイイ。
 まあ、あれでも数少ない友人でもあるので、抜け駆けをするつもりもありませんので、あなただけが心に留めておいていただけると助かります」

「…いえ、忘れることにいたしますわ」

「ふふ…記憶にも残していただけないのは、寂しいものです。
 しかし、少なくとも、友人として接していただけると、私も嬉しいですけども…それすら拒絶されるのでしょうか?」

「………」

 友人? 私達が?

 その単語の不可解さに、私は内心首を捻った。

 何度も言うけれども、私達は幼い頃から顔見知りではあったが、とても仲の良い間柄ではなかった。

 お互い年端も行かない年齢だったとはいえ初対面でケンカ…と言うか、私が一方的に教育的指導をかまし、その後ギスギスした間柄が続き今に至っている。もちろん、その間に仲良くなるようなエピソードはなく、私は無視してきたが、私のことを腹黒いだの、暴力女だの、毒婦だの…子供にしたってあんまりな嫌味を…というか悪口を言い放っていたくせに?

 こんな間柄で、何故父親が家に彼を連れてきたのかというと、それ以上に他のお嬢様たちとの接触が皆無だったからだそうだが、それにしたってあんまりな態度ではなかろうか。

 そんな間柄で、『友人』?
 いくらなんでも、多少心の内を明かした会話程度で、一足飛びにそこまでの関係になれるとも思えない。

 私は、若干頬を引きつらせながら、にこやかに微笑むクロードの美貌を見つめたが…その笑顔からは胡散臭さしか感じない。

「そんなに警戒しないでください。
 貴方を嫌っているわけではないと言う言葉は本心なのですから。
 むしろ、女性の身とも思えない程の好敵手として、意識してきた存在です。
 その様な方と、結婚してお互いを高めあえたら…色んな意味で楽しいかも知れないと思っていますよ」

 なんて言いながら、ニタリと嗤われ…背筋がゾクッとした。

 かつての彼とのやり取りの中で何度も見た、その嗜虐性が垣間見える笑みを思い出し、

「申し訳ありませんが…私、被虐趣味はありませんの。
 どちらかと言うと、嗜虐趣味の方がしっくり来ると思いますので、貴方と楽しい結婚生活が送れる気がいたしませんわ」

 と、慌てて否定の言葉を訴えた。

「フフ…。
 まさか同年代の女性から、そのような言葉を聞けると思えませんでしたが…何とも際どい言葉を仰られる。
 そういうところも、実は面白いと思っていたのですけどね。
 貴方はその様に仰いますが…ちょっと責めただけですぐに尻尾を振ってくる様な相手を堕とすよりも…実は手応えのある相手を堕とす方が楽しめる…」

「………」

 そう言って、なんとも艶めかしい微笑みを浮かべながら見つめられ、背筋を寒気が駆け抜けたが…
 私はそれ以上言葉を重ねることを諦め、冷めて渋みが増した紅茶を口に含んで沈黙した。

 こいつ…キモい
 お父様達…早く帰って来ないかしら…

 変態と対面している事実に気がついて、徐々に苦痛が耐え難いものになってきたが、こわばった笑顔で誤魔化しながら気づかれない様に視線を彷徨わせ、ただただ父たちの帰還を待ち望んだ。

「そう言えば、この館に入る前…みごとな庭園にいた、栗色の髪の少年は…あなたのご親戚でしょうか?」

 突然不意打ちのように聞かれ、思わずクロードに視線を戻すと、まるでこちらを試すような強い視線で見つめられて居ることに気がついて、一瞬息を飲む。

「ちらっとしか見えませんでしたが、容姿も、動揺した時の魔力の気配も…クロイツェン侯爵によく似た少年でしたが…、とても親しい親戚なのでしょうね。クロイツェンの血統の特徴の顕著に現れた、とても可愛らしい子でした。
 …母方の血が顕著なあなたよりもずっと…。あの子は…」

「ごめんなさい…、もう御用はお済みかしら…?」

 クロードの言葉を遮って、強めの口調で話を切り上げたが、急に変わった私の気配に何か感じるところがあったのだろうか
 一瞬目を見張ると直後に目を眇め…こちらの内心を透かし見るように見つめられて、妙な息苦しさを感じた。

「…今までにない程、動揺した波動が見えますね。…いえ、怒りでしょうか?
 …彼が、あなたの何なのかお尋ねしても?」

「何…と言われても、数年前に引き取った弟…ですわ。
 家の醜聞を吹聴するようで、表沙汰にはいたしませんでしたが、母違いの弟です。
 それが、何かありまして?」

 貴族の当主に隠し子がいたなんて、褒められたことではないが、それ程珍しいことでもない。
 わざわざ公表することもないが、隠していたわけでもない。

 だから、私は苦笑しながら小首を傾げて問われたままに答える。

 そう、ただの腹違いの弟というだけ…何もおかしなことはない…そのはずだったのだが

「…クロイツェンの子息と思えない程質素な出で立ちの少年でしたが…素直な子犬のような、可愛らしい子でしたね。
 …いっそ甚振って泣かせたくなるような…」

 こちらに視線をよこしながら、これみよがしにニィと笑った表情が、無性に癇に障り…

 ハッとこちらを注視する使用人たちの視線を憚らずに、テーブルの対面から手を伸ばし、目の前の男の胸ぐらを掴み上げていた。

「あなたがどこの誰と、何をなさろうが興味はありませんが、私のモノに手をお出しになるというのなら……誰であってもただじゃ済まさないつもりです」

 突然華奢な女性の腕で掴み上げられたクロードは、最初は反応を返すことも出来ずに驚いているようだったが、すぐに状況を理解すると、苦しそうな表情の中、どこか嬉しそうに唇を歪めて、襟を掴む私の拳を両手で上からそっと包み込んだ。

「ああ…彼こそが、貴方が守りたいと思った者…あなたを領地に留めた者だったのですね…」

 私はその言葉に、ニヤリと雄弁な笑みだけで答えたのだった。
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