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第一章:生活基盤を整えます
5.フリーター、生活に馴染む
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「よしよし、なんかいい感じの色になってきたぞ」
私は、コンロにかけられた鍋の中身を確認しながらつぶやいた。
家庭用としては大きめサイズの寸胴鍋で、1時間ほど煮込んで水分量を1/3ほど減らして灰汁を抜いた草の汁が、青臭い匂いを漂わせながら弱火でコトコト煮込まれている。
この家の台所は実家のキッチンよりも広く、コンロは家精霊さんが細かな火力調節に対応してくれるので、とても作業がやりやすい。
私は、スマホの画面を確認しながら手順と材料の分量に誤りがないか、何度も確認する。あ、材料のほとんどが庭の雑草とこの家のストックでなんとかなっています。
で、ここで家の裏で毟ってきた茶色い草を一掴み投入すると…。
「おお、一瞬で草色が鮮やかな紫色に!これ、成功しましたかね?」
≪そうそう、いいかんじ≫
≪ここでひをとめて、あらねつがなくなるまでおいておく≫
≪ちゃんとふたをしてね≫
「じゃあ、これ、横の作業台の鍋敷きの上にしばらく置いておきます」
私は、よっこいしょと寸胴鍋を火から下ろして横の作業台に置いて、鍋に蓋をした。
これで1時間ほど待てば、イイ感じに粗熱も取れて適温になるだろう。
そこにこのポカリの実の汁をカップ一杯程注いでゆっくりかき混ぜた後、1日寝かす…と。
今のところ問題なく、順調に出来上がりそうだ。
私は、何度も作業を確認しながら、成功の手ごたえを感じていた。
この家に住むことになって3日経ち、私は少しずつ周りの状況に馴染んでいった。
私が異世界転移してしまっていた事には疑いないが、黒電話の精霊さん曰く≪原因はわからない≫そうだ。
普通もっとこー、崖から落ちるとか、トラックに轢かれるとか、通り魔に刺されるとか、どっかの魔法使いに召喚されるとか、神様の手違いとか…なんとなく非日常的な何かがあると思ってたんだが………そういうわけでもないらしい。なんせ、ホテホテ歩いていて、気づいたら異世界なんだから。もう少し、前兆とかあって分かりやすければ良かったなぁ。
この場合は、ランダムに移動する時空の狭間のようなところへ、無意識に入っていってしまったのかもしれないが、それも定かじゃないから確定はできないとのこと。
ああ、神隠し的なアレですか? というか私、あっちでは神隠しという名の失踪状態にされているのだろうか…
『就職活動中に失踪した謎の美人フリーター。就職活動に潜む闇』とかタブロイド紙のエロ情報記事の隅っこで掲載されていたら、不本意なことながら、親兄弟に申し訳ない……。 え?美人なのか?って? いやいや、私は至って一般的な日本人女子でございますが、ああいう雑誌って売り上げのためなら普通程度の容姿でもそうやって書くじゃないですか。そうなのかなーっと思っただけですよ。ほんとほんと(*´▽`*)
しかし、寿命という概念のない長命な精霊さんたちの記憶の中では、過去に何人か、極稀にであるが私と同じように異世界から現れる転移者が存在していたそうで。そして、彼らは決まってこの世界の住民とは異なった気配の魔力を持っていたため、精霊さんのように魔力に敏感な種族は、その特異な魔力のありようもあいまって一目で私が異世界人だとわかったと言う。
ただ、転移者の全てが私と同じ世界から来たのかは、比べようにも希少すぎて数が少なかったり、それぞれの魔力の質が異なっていたりということもあるらしくハッキリさせることが難しいとのことだが、各者に共通しているのは、例外なくやたらと精霊をひきつける匂いを発しているとか。つまり、精霊ホイホイ。
……ホイホイ…。いや、助けていただいているので感謝しておりますがね……ホイホイかぁ……見えないんだけど、びっしり集られてるとか、考えたくないなぁ…
そして、かねてから理解が及ばなかった『魔力』というものについてもご教授いただいたのだが、限られた鉱石以外全ての生命体に大なり小なり宿るオーラや生命力のようなもので種族や個体ごとにその量や質などに特徴が出るものであるとか云々…なんかノンブレスで言われ、その後すごく長い説明が入りましたが
…うん、まあ、やっぱりよくわかんね。もう、概念的なものだってことでいいかな…。 『考えるな、感じろ』って、今は亡き某カリスマアクションスターさんも仰ってましたし、そういう感じでよろしく。
…とまぁ、ありがたくも大変事細かにご説明いただいてしまったが、中3の頃にセブンセンシズを失ってしまった私は、もう理解を諦めた。 ごめんなさい。
続けて、精霊さん方が仰るには、私の魔力は
≪ひとのこにしてはけっこうたくさん≫
≪とってものうこうでいいかんじ≫
≪やめられない、とまらない≫
≪みんなだいすき。まっしぐら≫
≪うーん、まんだむ≫
と、絶賛された…と言っていいのだろうか?
まっしぐらされちゃうんですか……不穏な感じしかしないのですが…。…嫌われるよりはいいんだろうけど…なんだろうな。この納得がいかない感じ……スッキリしない。
うーん…と悩みつつ、ふと思いついて、聞いてみる。
「あ、じゃあ、私魔法とか使えるんですか?」
≪結論を言えば使える≫
おお、では…っ!
私の理性という檻の中、鎖で縛られ抑え込まれていた内なる厨二が、『俺っちの事呼んだかい?』と、むくりと頭をもたげた。
≪しかし、そなたが体一つで発動させ、形作ることは無理だろう。多くの良質な魔力が体内に宿っていても、それを発動する器官がない≫
くっ…!魔法使いにはなれませんか……。でも、魔法使えるってさっき!…まだ続きがあるんですよね!?
内なる厨二は声もなく、檻の中から双眸をランランと輝かせて言葉の続きを待っている。
≪そなたが能動的に魔法を使用することはできないだろうが、魔力自体を道具などに込めることによって、魔道具を介して魔法を使うことはできるだろう。そなたが持ってきた、その板のような魔道具や、家に登録した際に使った魔石もそうだ。あれらには、そなたの魔力が登録されているので、他の存在が使うことはできなくなっている。なくしたところで、そなたほど良質で濃厚な魔力ゆえに、染められた魔道具もある程度の意志を持ってそなたの魔力をたどって戻ってくる≫
ふむふむ…なるほどなるほど。
…ていうか、家はともかくやっぱりスマホ、魔道具化してたんですね…。すっかり精霊さんにカスタマイズだかハッキングだかされてる感をビシバシ感じておりましたが……。オートで戻ってくるのはありがたい。
内なる厨二のマイマイ(当時のあだ名)は、鎖をチャラチャラ鳴らしつつ牢名主のようにどっかりと胡坐をかきながら、まんざらでもない様子でニヤニヤしている。…ガラ悪いな。
しかし、魔道具の使用ができると聞いてしまっても、大人の階段を上ってしまった支倉さん(23)は、マイマイ(内なる我)を解放するのはやめ、地味に隠していく方向で使用していこうと思っていた。…こら、檻にタックルするのはやめなさい。なんでこんなに荒っぽいんだ。
なぜなら、過ぎた力を他人に知られて目立っても、良いことなどないと、様々な文献(ダークなファンタジー系読み物)から学んでいたからだ。ちやほやされたり、妬まれたり、縋られたり、利用してやろうとすり寄られたり、命の危機にさらされたりとか考えるだけで怖気が走る。ましてや、私自身抵抗できる武力もない身の上で、奴隷化とかありえない進路が待っているかもしれない。私は知っているのだ。抵抗力のない肥え太ったブタがどの様に捕食されていくのかを。主にダークなファンタジー系読み物で…以下略。
…やっぱり、私はここでひっそり暮らして、誰も知らないうちにこっそり元の世界に帰ったほうが良いように思う。 …だから、マイマイはハウス!
私は、ひょこり頭を出しそうな内なる自分を抑え込み、今後の方針を再確認した。
………あ、いかん、脱線した。一番大事なこと聞かないと
「これが一番聞きたかったことなんですが、他の異世界人は、帰れたんでしょうか?そして、私は帰れるのでしょうか?」
すると、不意に空気がざわめいたのを感じた。 え、何?
≪しらないしらない≫
≪そんなのしらない≫
≪だめだめ。かえらないで≫
≪ずっといっしょにあそぼうよ≫
≪やだやだやだやだ、かえっちゃやーだー≫
≪ぼくたちずっとともだちだよね≫
≪かえっちゃだめだめ≫
おおう。怒涛の『かえらないで』コールいただきました。
え、え? 私、帰っちゃダメなの? …そんなぁ…
私と言う存在を惜しんでくれる気持ちは嬉しい。しかし…
「精霊さんたちがいなかったら、私は生きていられなかったと思います。素敵なおうちにも案内してもらって、今は快適に生活できるようになったけど……私、やっぱり家に帰りたいんです」
そうしてちびっこ精霊さんたちの常より高いテンションに押されつつ意識表明をすると、アダルトな精霊さんが落ち着いてたしなめてくれる。
≪同胞よ、落ち着け。人の子は、産まれた場所で生活したいと望むものが多いのだ。そうした気持ちも汲んでやるとよい≫
≪ええ…そんなぁ…≫
≪やだやだーー…≫
≪……しゅーん…≫
≪うっうっうっずっといっしょにいようよぉ≫
ちびっこ精霊さんたちは、抵抗の勢いを衰えさせつつも引き下がらなかったが、あんまり反対して私に嫌われるのも嫌なのか、徐々にコールは少なくなってくる。すると、黒電話さんが冷静に私の質問に答えてくれた。
≪人の子よ、まれ人たるうつろい人がどこから来て、どのように帰っていったかということは、我々にはわからない。ほとんどの者がこの地で生命を終えていったために。しかし、それが人の子の望みだというのなら、望みは薄いかもしれないが、我らも協力できるように努めよう。そして皆も、我らが友のためにそのように努めていこう≫
≪はーい…≫
≪わからないけどわかったーー…≫
≪それでもいっしょがいい…≫
≪しくしく≫
ああ…黒電話さぁんっ!なんてありがたいお言葉っ!そして、ちびっこさんたちも、ありがとおっ!
あかん、感動で胸いっぱいでございます。
多分、この世界でも有力な勢力の協力が得られたと思って良さそうだ。ちょっと認識とかにズレを感じる時があって、不安は残るが、何はともあれ、転移直後の孤立無援状態から一気に有力なパトロンの協力を得ることに成功した。
一人でポツンと移動してきたときには、心細いだけだったけど、今では何とでもなりそうな万能感に包まれている。
がんばって、帰る算段をたてていかないと! …私は改めて決意した。
『ぴピピピピ…』
おっと、スマホで設定したタイマーが鳴っている。作業台におろした寸胴鍋の中身チェックのお時間だ。
『ぱか』
鍋の蓋を開けると、人肌よりは高めの温度だが、イイ感じに粗熱も下がったので、用意していたポカリの実の汁を投入して、グルグルかきまぜる。 グールグール…
あ、ポカリの実とは、初日に家精霊さんに教えてもらったリンゴのような実のことです。
かじってみると、ホントに某スポーツドリンクを濃厚にしたような味がして、今ではお気に入り。名前もそのままで分かりやすい。それに、滋養強壮にも良いのか、アレを食べると、なんか疲れが取れるんだよね。
そして、鍋の中身を一晩おいた汁を、小瓶に小分けして一つずつ、私の愛情と言う名の魔力を注入すると、あら不思議。
ポーションの出来上がりでございます。じゃーん。
≪ひゅーひゅー≫
≪いえーいっ!≫
≪すごいやすごいや≫
≪ぱちぱちぱちぱち≫
みなさん、メッセージでの静かなお言葉、ありがとうございます。やっと完成させることができそうです。
みなさんのご協力によって、立派にモノづくりを始めることができております。
スマホのクッキングパッドに寄せられたレシピの確認から始まり、傷の絶えない私めのためにポーション作りを優しくかみ砕くようにレクチャーしていただいたことや、プロによる実演動画の投稿もいただけたことなど、大変感謝しております。
今後とも、ご協力よろしくお願いします!
そう、気持ちも新たに私は帰る決意を固めていった。
私は、コンロにかけられた鍋の中身を確認しながらつぶやいた。
家庭用としては大きめサイズの寸胴鍋で、1時間ほど煮込んで水分量を1/3ほど減らして灰汁を抜いた草の汁が、青臭い匂いを漂わせながら弱火でコトコト煮込まれている。
この家の台所は実家のキッチンよりも広く、コンロは家精霊さんが細かな火力調節に対応してくれるので、とても作業がやりやすい。
私は、スマホの画面を確認しながら手順と材料の分量に誤りがないか、何度も確認する。あ、材料のほとんどが庭の雑草とこの家のストックでなんとかなっています。
で、ここで家の裏で毟ってきた茶色い草を一掴み投入すると…。
「おお、一瞬で草色が鮮やかな紫色に!これ、成功しましたかね?」
≪そうそう、いいかんじ≫
≪ここでひをとめて、あらねつがなくなるまでおいておく≫
≪ちゃんとふたをしてね≫
「じゃあ、これ、横の作業台の鍋敷きの上にしばらく置いておきます」
私は、よっこいしょと寸胴鍋を火から下ろして横の作業台に置いて、鍋に蓋をした。
これで1時間ほど待てば、イイ感じに粗熱も取れて適温になるだろう。
そこにこのポカリの実の汁をカップ一杯程注いでゆっくりかき混ぜた後、1日寝かす…と。
今のところ問題なく、順調に出来上がりそうだ。
私は、何度も作業を確認しながら、成功の手ごたえを感じていた。
この家に住むことになって3日経ち、私は少しずつ周りの状況に馴染んでいった。
私が異世界転移してしまっていた事には疑いないが、黒電話の精霊さん曰く≪原因はわからない≫そうだ。
普通もっとこー、崖から落ちるとか、トラックに轢かれるとか、通り魔に刺されるとか、どっかの魔法使いに召喚されるとか、神様の手違いとか…なんとなく非日常的な何かがあると思ってたんだが………そういうわけでもないらしい。なんせ、ホテホテ歩いていて、気づいたら異世界なんだから。もう少し、前兆とかあって分かりやすければ良かったなぁ。
この場合は、ランダムに移動する時空の狭間のようなところへ、無意識に入っていってしまったのかもしれないが、それも定かじゃないから確定はできないとのこと。
ああ、神隠し的なアレですか? というか私、あっちでは神隠しという名の失踪状態にされているのだろうか…
『就職活動中に失踪した謎の美人フリーター。就職活動に潜む闇』とかタブロイド紙のエロ情報記事の隅っこで掲載されていたら、不本意なことながら、親兄弟に申し訳ない……。 え?美人なのか?って? いやいや、私は至って一般的な日本人女子でございますが、ああいう雑誌って売り上げのためなら普通程度の容姿でもそうやって書くじゃないですか。そうなのかなーっと思っただけですよ。ほんとほんと(*´▽`*)
しかし、寿命という概念のない長命な精霊さんたちの記憶の中では、過去に何人か、極稀にであるが私と同じように異世界から現れる転移者が存在していたそうで。そして、彼らは決まってこの世界の住民とは異なった気配の魔力を持っていたため、精霊さんのように魔力に敏感な種族は、その特異な魔力のありようもあいまって一目で私が異世界人だとわかったと言う。
ただ、転移者の全てが私と同じ世界から来たのかは、比べようにも希少すぎて数が少なかったり、それぞれの魔力の質が異なっていたりということもあるらしくハッキリさせることが難しいとのことだが、各者に共通しているのは、例外なくやたらと精霊をひきつける匂いを発しているとか。つまり、精霊ホイホイ。
……ホイホイ…。いや、助けていただいているので感謝しておりますがね……ホイホイかぁ……見えないんだけど、びっしり集られてるとか、考えたくないなぁ…
そして、かねてから理解が及ばなかった『魔力』というものについてもご教授いただいたのだが、限られた鉱石以外全ての生命体に大なり小なり宿るオーラや生命力のようなもので種族や個体ごとにその量や質などに特徴が出るものであるとか云々…なんかノンブレスで言われ、その後すごく長い説明が入りましたが
…うん、まあ、やっぱりよくわかんね。もう、概念的なものだってことでいいかな…。 『考えるな、感じろ』って、今は亡き某カリスマアクションスターさんも仰ってましたし、そういう感じでよろしく。
…とまぁ、ありがたくも大変事細かにご説明いただいてしまったが、中3の頃にセブンセンシズを失ってしまった私は、もう理解を諦めた。 ごめんなさい。
続けて、精霊さん方が仰るには、私の魔力は
≪ひとのこにしてはけっこうたくさん≫
≪とってものうこうでいいかんじ≫
≪やめられない、とまらない≫
≪みんなだいすき。まっしぐら≫
≪うーん、まんだむ≫
と、絶賛された…と言っていいのだろうか?
まっしぐらされちゃうんですか……不穏な感じしかしないのですが…。…嫌われるよりはいいんだろうけど…なんだろうな。この納得がいかない感じ……スッキリしない。
うーん…と悩みつつ、ふと思いついて、聞いてみる。
「あ、じゃあ、私魔法とか使えるんですか?」
≪結論を言えば使える≫
おお、では…っ!
私の理性という檻の中、鎖で縛られ抑え込まれていた内なる厨二が、『俺っちの事呼んだかい?』と、むくりと頭をもたげた。
≪しかし、そなたが体一つで発動させ、形作ることは無理だろう。多くの良質な魔力が体内に宿っていても、それを発動する器官がない≫
くっ…!魔法使いにはなれませんか……。でも、魔法使えるってさっき!…まだ続きがあるんですよね!?
内なる厨二は声もなく、檻の中から双眸をランランと輝かせて言葉の続きを待っている。
≪そなたが能動的に魔法を使用することはできないだろうが、魔力自体を道具などに込めることによって、魔道具を介して魔法を使うことはできるだろう。そなたが持ってきた、その板のような魔道具や、家に登録した際に使った魔石もそうだ。あれらには、そなたの魔力が登録されているので、他の存在が使うことはできなくなっている。なくしたところで、そなたほど良質で濃厚な魔力ゆえに、染められた魔道具もある程度の意志を持ってそなたの魔力をたどって戻ってくる≫
ふむふむ…なるほどなるほど。
…ていうか、家はともかくやっぱりスマホ、魔道具化してたんですね…。すっかり精霊さんにカスタマイズだかハッキングだかされてる感をビシバシ感じておりましたが……。オートで戻ってくるのはありがたい。
内なる厨二のマイマイ(当時のあだ名)は、鎖をチャラチャラ鳴らしつつ牢名主のようにどっかりと胡坐をかきながら、まんざらでもない様子でニヤニヤしている。…ガラ悪いな。
しかし、魔道具の使用ができると聞いてしまっても、大人の階段を上ってしまった支倉さん(23)は、マイマイ(内なる我)を解放するのはやめ、地味に隠していく方向で使用していこうと思っていた。…こら、檻にタックルするのはやめなさい。なんでこんなに荒っぽいんだ。
なぜなら、過ぎた力を他人に知られて目立っても、良いことなどないと、様々な文献(ダークなファンタジー系読み物)から学んでいたからだ。ちやほやされたり、妬まれたり、縋られたり、利用してやろうとすり寄られたり、命の危機にさらされたりとか考えるだけで怖気が走る。ましてや、私自身抵抗できる武力もない身の上で、奴隷化とかありえない進路が待っているかもしれない。私は知っているのだ。抵抗力のない肥え太ったブタがどの様に捕食されていくのかを。主にダークなファンタジー系読み物で…以下略。
…やっぱり、私はここでひっそり暮らして、誰も知らないうちにこっそり元の世界に帰ったほうが良いように思う。 …だから、マイマイはハウス!
私は、ひょこり頭を出しそうな内なる自分を抑え込み、今後の方針を再確認した。
………あ、いかん、脱線した。一番大事なこと聞かないと
「これが一番聞きたかったことなんですが、他の異世界人は、帰れたんでしょうか?そして、私は帰れるのでしょうか?」
すると、不意に空気がざわめいたのを感じた。 え、何?
≪しらないしらない≫
≪そんなのしらない≫
≪だめだめ。かえらないで≫
≪ずっといっしょにあそぼうよ≫
≪やだやだやだやだ、かえっちゃやーだー≫
≪ぼくたちずっとともだちだよね≫
≪かえっちゃだめだめ≫
おおう。怒涛の『かえらないで』コールいただきました。
え、え? 私、帰っちゃダメなの? …そんなぁ…
私と言う存在を惜しんでくれる気持ちは嬉しい。しかし…
「精霊さんたちがいなかったら、私は生きていられなかったと思います。素敵なおうちにも案内してもらって、今は快適に生活できるようになったけど……私、やっぱり家に帰りたいんです」
そうしてちびっこ精霊さんたちの常より高いテンションに押されつつ意識表明をすると、アダルトな精霊さんが落ち着いてたしなめてくれる。
≪同胞よ、落ち着け。人の子は、産まれた場所で生活したいと望むものが多いのだ。そうした気持ちも汲んでやるとよい≫
≪ええ…そんなぁ…≫
≪やだやだーー…≫
≪……しゅーん…≫
≪うっうっうっずっといっしょにいようよぉ≫
ちびっこ精霊さんたちは、抵抗の勢いを衰えさせつつも引き下がらなかったが、あんまり反対して私に嫌われるのも嫌なのか、徐々にコールは少なくなってくる。すると、黒電話さんが冷静に私の質問に答えてくれた。
≪人の子よ、まれ人たるうつろい人がどこから来て、どのように帰っていったかということは、我々にはわからない。ほとんどの者がこの地で生命を終えていったために。しかし、それが人の子の望みだというのなら、望みは薄いかもしれないが、我らも協力できるように努めよう。そして皆も、我らが友のためにそのように努めていこう≫
≪はーい…≫
≪わからないけどわかったーー…≫
≪それでもいっしょがいい…≫
≪しくしく≫
ああ…黒電話さぁんっ!なんてありがたいお言葉っ!そして、ちびっこさんたちも、ありがとおっ!
あかん、感動で胸いっぱいでございます。
多分、この世界でも有力な勢力の協力が得られたと思って良さそうだ。ちょっと認識とかにズレを感じる時があって、不安は残るが、何はともあれ、転移直後の孤立無援状態から一気に有力なパトロンの協力を得ることに成功した。
一人でポツンと移動してきたときには、心細いだけだったけど、今では何とでもなりそうな万能感に包まれている。
がんばって、帰る算段をたてていかないと! …私は改めて決意した。
『ぴピピピピ…』
おっと、スマホで設定したタイマーが鳴っている。作業台におろした寸胴鍋の中身チェックのお時間だ。
『ぱか』
鍋の蓋を開けると、人肌よりは高めの温度だが、イイ感じに粗熱も下がったので、用意していたポカリの実の汁を投入して、グルグルかきまぜる。 グールグール…
あ、ポカリの実とは、初日に家精霊さんに教えてもらったリンゴのような実のことです。
かじってみると、ホントに某スポーツドリンクを濃厚にしたような味がして、今ではお気に入り。名前もそのままで分かりやすい。それに、滋養強壮にも良いのか、アレを食べると、なんか疲れが取れるんだよね。
そして、鍋の中身を一晩おいた汁を、小瓶に小分けして一つずつ、私の愛情と言う名の魔力を注入すると、あら不思議。
ポーションの出来上がりでございます。じゃーん。
≪ひゅーひゅー≫
≪いえーいっ!≫
≪すごいやすごいや≫
≪ぱちぱちぱちぱち≫
みなさん、メッセージでの静かなお言葉、ありがとうございます。やっと完成させることができそうです。
みなさんのご協力によって、立派にモノづくりを始めることができております。
スマホのクッキングパッドに寄せられたレシピの確認から始まり、傷の絶えない私めのためにポーション作りを優しくかみ砕くようにレクチャーしていただいたことや、プロによる実演動画の投稿もいただけたことなど、大変感謝しております。
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