【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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第一章:生活基盤を整えます

6.フリーター、漁に出る

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 『目立たずこっそり家に帰る』と決意を固めてから、1週間程が過ぎた。…現状にはなんら進展はないものの、私のハンドメイド技術はメキメキ上達していった。…他にやることが無いからとも言うが…。

 まあ、暇に飽かせて作りに作った結果、

・ポーション各種(最上級、上級、中級):とりあえず、ケガとかしたらこれ。飲んでも振りかけてもオッケーなのは魔力が多分に入ってるから。最上級は瀕死でも復活するし、上級は欠損も元通り。中級は所謂えぐれた肉程度のケガなら再生する感じらしい。…えぐれるようなケガしてないからわからないけど。大量に作ったので、私は擦り傷や切り傷とか火傷とかに中級使ってます。便利w

・異常回復薬:腐ってて腹痛とか下痢とか怖いし、なんか変な毒とか持ってる動植物対策に。未開の地なんて、何があるかわからないし、絶対有毒性のものってあるよね。

・エリクサー:…レシピがあって材料も前住人さんとこに揃ってたし、つい作ってみました。『賢者の石』って、普通に薬瓶の中に入っててビックリしたけど、せっかくなのでw。やっぱり一度は…と思いません?材料も少ししかなかったので、5本しか作れなかったけど…お守りとして持っていようと思います。

・石鹸:日本で言う石鹸の実っていうムクロジみたいな木の実『ロジックナッツ』があったので、煮詰めてエキス抽出。ここに香りづけのハーブとしてラベンダーみたいな香りの『ラーベ』って葉っぱを使いました。いい香りでお気に入り。これで頭まで洗ってます。皮脂もとれてスッキリ爽快。

・トリートメント:ジャスミンみたいな香りの花、『スーミの花』の抽出オイルで入浴後オイルケア。日本にいる頃よりも髪がすべすべ艶々になりました。

・化粧水:精霊さんが精製してくれた水に『ジャイアントビー』のはちみつを垂らして、レモンみたいな香りがする『リモーの花』を一輪入れておいて作成。日本にいたときに悩みの種だった乾燥肌荒れが治りました。

 …などなど勢いに任せて作り上げた。これら上記のアイテムで私の文化的生活レベルがぐぐーんとアップしたのは言うまでもない…というか、日本にいたころより充実してる…かもしれない。化学薬品やら保存料など一切無添加の100%天然素材だからだろうか…(-_-;)

 レシピについては、精霊さんやクッキングパッド、前住人さんの蔵書から検索し、自分なりのアレンジを加えて作成。精霊さんたちからも≪いいね≫連発でやる気急上昇。求められるがまま作りすぎた感はありますが、…やっぱりちょっと作りすぎたかもしれない。
 だって、材料の葉っぱとか、庭でむしると1時間後には再生してるんですよ…もう際限なくやれちゃうわけなんです。アイテムボックスがなかったら、えらいことになってたと思う。
 ちなみに、前住人さんの蔵書とアイテムボックスは、アプリから使用可能だったのを発見した次第。
 前住人さんの蔵書は現地の言葉で書いてあるハードカバーの本やスクロールばかりだったが、翻訳アプリを使用して動画カメラのレンズ越しに文字を見ると、なんとどんな文字も日本語に変換!これが日本にあれば…とも思ったが、どうせテストでスマホ使用なんてできないし、翻訳アプリは珍しくないので、まあそんなに生活に変わりはなかったかと思う。
 そして、アイテムボックス!異世界テンプレアイテムの一つですな。これもアプリの一つになっており、もちろん、カメラとして写真も写せるが、このアプリからカメラで物を写せばその物品を収納できることに気づいた。しかし、無機物か植物、死体のみであり、生物、動物などは取り込めなかった。それでもメモリの果てまで収納できるのはすばらしい。それに気づいたとき、パシャパシャと庭の植物を撮りまくったことは想像に難くないでしょう。
 そしておまけですが、家精霊さんが回収したドラゴンの遺体もいつのまにか私のスマホにストックされておりました………。腐ってないところ見ると、時間経過はしていないようだけど…。
 写真越しに恨みがましい白目のドラゴンと目が合うので、どこかに捨てたい…。ダメでしょうかね…?


 まあ、このようにそれなりに充実した日々を過ごしているようであるが…私には切実な悩みがあったわけで。
 というのも、

 着替え…しかも下着の替えがない。

 など、やはり生活する上では欠かせない衣類や布製品などについて訴えたい。

 着の身着のまま移動してきて、誰とも交流せずにボッチ生活を満喫しているため、前住人さんの古びたローブでも十分部屋着は間に合ってるかもしれないが、やはりそこは妙齢の乙女なわけで。

 …ノーパン生活、そろそろ辛いな…

 スーツを日常的に着続けるのは論外として、今は、着て来たブラジャーとショーツ、キャミソールを家精霊さんたちに毎日洗浄・乾燥してもらう日々なわけで。いや、あんまりヘビロテするとヘタるのも時間の問題…というか、穴開いたりしても着続けるって、なんかいたたまれない…。でも、糸はともかく、機織りもないのに布製品なんて、ハンドメイドできないし…。

 そう思いながら、ついつい何度も地図アプリでこの地域周辺の地図を拡大して、色々人里なんかを探してしまうのだが…。

 あるんですよね…ちょっと私には遠いけど。

 でも、転移直後に目撃した衝撃映像が頭に浮かんでしまって、ここから出たくない。現地人がどんな存在かもわからないのに交渉なんて…と、怖くなる。誰か行ってくれないかな…とも思うが、でも、コミュ力に自信のない私が、その人とすら交渉できるんだろうか…?とも考えてしまう。…精霊さんはそもそも、特別な人以外には見えないらしいし。
 転移後に奴隷を買っちゃう異世界テンプレって、身を守るためには仕方ないよね…と思いながら、私は書斎の椅子の背もたれで伸びをしながら天井を仰ぎ、つぶやいた。

「あーあ、奴隷か……。どっかに落ちてないかな…」

 口に出してみると、私も大概非道で自分勝手なこと考えてるなと、思わず自嘲した。



 翌日、私は動物性たんぱく質を欲して、家の近くにある池に行きたいと精霊さんに訴えた。
 この10日間、無尽蔵に生える庭の木の実や果実、葉っぱ類で腹を満たしてきたが、そろそろ菜食生活も限界に達したのだ。たとえ、栄養状態が日本にいたときより良くなっていたとしてもっ

 ……肉的なものが食べたいです……。

 そういうことを言い出すと、決まって家精霊さんから

≪ドラゴンを食べますか?≫
YES
NO←

 というコマンド選択を求められるので、謹んでNOを選択させていただいていたが、やはり現代っ子はそれなりに動物性たんぱく質も食いたいわけで………。

 でも、現地の虫とか怖くて食べられないし、トカゲとか恐竜どころか、四つ足動物すら自分で捌ける自信がありません……一度精霊さんが捕ってくれたウサギのような小動物を捌いてほしいと頼んだら、精霊さんは毛皮も骨も肉も内臓も一緒くたに……思い出したくありません(/_;)

 こうなったら、魚だ!! 魚なら何とかなる!!

 …ということで、精霊SS(セキュリティサービス)を引き連れて、近場の池に来ております。

 道中、やはり私は危険な目に遭うことはなかったが、見えないところで『ギャッ!』とか『スパンっ』とか『ドゴッ』とか『きゃーーーっ』とか………最後のはちょっと気になるが、とりあえず、危機は未然に防がれていたように思う。いつもありがとうございます。

 家から北に歩いて30分程の距離にある池は、肉眼で向こう岸がギリギリ見えるかという程大きく、水面は緑色に輝いていた。
 岸辺から足元の水面を見ると、澄んでいて濁りが少ないため、池の底にいる魚がよく見えた。

「わー、魚いるいるw」

 いかにも淡水魚っぽい感じであるが、アジとかタイみたいなサイズの魚が泳いでおり、みかけもちゃんと地球の魚っぽい感じでよかった。いや、この池の魚が食べられるかどうかは、事前に黒電話さんに確認済だったけど、変なクリーチャーみたいな生物だったらどうしようって、ちょっと思っていましたよ……。

 そして、最早食にとりつかれた私を止める者は存在しないのだ。

「さかなさかなさかな~♪」

 私はスーパーマーケットの魚売り場でお馴染みとなった某さかなの歌を口ずさみながら、魚網を投げた。

 なんでそんなものを…?って思いますか? それが、家にあったとです。まあ、魚網ってわけじゃないのですが、作業場の奥にハンモックのような網があったのでそれに錘をつけて活用してみました。

「とりゃっ!」と掛け声をあげつつ、ばさーーっと投げ、数秒経ってから引っ張ると、網の中に10匹程度のおさかなさん!

「やった!大漁!」

≪わーい、さかなさかなー≫
≪だれもいないから、いれぐいいれぐい≫
≪ぴちぴちはねてる≫

 私は、生物は取り込めないスマホのアイテムボックスに取り入れるため、一旦この場で魚を捌くことにした。

 一応、祖母に教わっていたため、魚は3枚に下ろせるのだ。

 そうして、アイテムボックスに入れて持ってきたテーブルとナイフ、まな板を取り出して魚を一匹ずつ捌いて、内臓と骨と身に分けていく。それぞれ使い道がありそうなので、捨てたりはしないで持って帰る。

 精霊さんたちは何をしているのかはわからないが、時々池の水面がバシャバシャしていたり、池のくせにサーフィンできそうなビッグウェーブが起こっていたりしているので、きっと水遊びをしているのだろう。

 ……姿が見えないので、怪奇現象にしか見えないけど…。

 私は、精霊さんたちが池で戯れているのを横目に、せっせと作業を続けていった。

 その後、30分ほどで10匹分捌いたので、一旦アイテムボックスに仕分けして仕舞った後、もう一度網を投げようと構えると、ふと、何かの影が差し、振り向いた。すると、思ったより近い距離に丸太程の太さで3mはある巨大な斑模様のミミズ?みたいなものが上体を起こしてこちらを襲おうとしているではないか!

「ひ、ひぎゃーーーっ!!」

 恐怖のあまり、投げ縄の体勢のまま声を上げると、巨大ミミズはこちらに近づくこともできずに『ぽーーん』とコミカルな音を立てて10m程飛び上がった。そしてそのまま弧を描いて池の中央まで飛ばされ、私はそれが『ぼちゃん』と落ちるのをただただ見送った。その後もミミズを見送ったままの体勢で呆然と池の中央を見ていたら、その数秒後、クジラ程ありそうな巨大な魚が水上に体半分飛び出して、鋭い牙を立ててミミズに食らいつき、水面に激しく波を立ててグネグネともがいて暴れるミミズを捕食していた……………((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


≪あぶないあぶない≫
≪むちゅうになってた≫
≪あれがおどりぐい≫
≪じゃくにくきょうしょくとはむじょうだ≫
≪げにあわれなり≫

 …………もう帰ってもいいですか………?

 私は涙目になり、真っ青になって震えながら訴え、家路をたどった。


 とりあえず、池には食べられそうな魚がいることがわかったので、今後はあまり池には近寄らず、精霊さんに、構えた網を目掛けて魚を飛ばしてもらう方向で捕った方が良さそうだという結論に達した。


 そして、その夜は久しぶりの魚の塩焼きと香草焼きを堪能し、生きている喜びを噛み締めた。

 やっぱり、人間肉(?)喰わんといかんね。

 私はベジタリアンにはなれないと実感した夜だった。

 ちなみに、残った身は塩を振って干物にすべく日陰に干し、骨はカリカリに焼いてせんべいに。内臓は臭みを抜いてからバジル風味の香草『ベージ草』に混ぜて団子にしてみた。…あ、塩は台所に岩塩の塊があったので、粉砕してもらって使っています。

 あと数日は魚が食べられる…そう思って、わくわくとしながら就寝したのだが………。

 翌朝。

『何を見ている、人間。見世物ではないぞ。早く我を解放しろ』
『にゃんだって、吾輩がこんな目に合わないといけないにゃ!?』

 玄関を開けたら、灰色のイヌと白いネコが庭のツタに絡まって、逆さにぶら下がっていた。

 
 なんだこれ?
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