【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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第二章:周囲の状況に気を付けましょう

2.森の隠者、子供と出会う

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『元の世界に帰る』…との決意を新たにした所で、どうしていくのかを考えてみると、やっぱり外での情報も収集した方がいいだろう…ということに行きつく。

 どうしたものかなぁ…

 そう思いながら、今日は家から徒歩10分程離れた地点で発見した芋の群生地を掘っていた。
 徒歩…と言っても、タロウの背中に跨っているので、タロウの徒歩レベルだから、私の足でだったら1時間ほど離れていたかもしれないが……。

「おいもさーん、おいもさーーん♪」

 と、謎の歌を歌いながら、セッセと芋を掘り起こし、一つずつ写メってはマジックボックスへ放り込んでいく。写真フォルダ内に収穫物フォルダを作成して、その中でもそれぞれフォルダ分けして入れておけば取り出しも簡単なのだ。
 その横では、タロウがどこぞのポチよろしく、ガッガッガッと芋を掘り起こしており、マーリンは太い木の上で本体に戻って『ふわぁ…』とあくびしている。……何しに来た?

 この芋、サイズこそは立派な練馬大根並みに大きいが、サツマイモの様にふかして食べると、栗の様に甘くておいしく、ジャガイモからでんぷんを取り出す様に、擦り下ろした絞り汁を乾燥させると小麦粉のような粉になる。(乾燥は精霊さん協力のもと、一瞬で終わる)
 最初にタロウが持ってきたとき、試しに色々調理してみたら、あまりのおいしさや使い勝手の良さに病みつきになってしまい、こうして度々掘りに来ている。芋の名前は『マロ芋』とか、なんかどっかリンクしているような名前で覚えやすい。
 タロウは時々生で食していたそうであるが、今では焼きマロ芋が大好物となっているため、これを採りに行くときは上機嫌になって私を背に乗せて走ってくれる。また、マーリンもマロ芋で作ったパンケーキがお気に入りの様で、普段なら「森に入るとか面倒ニャ」と言ってリビングのソファで寝転んでるくせに、そういう時ばかりは、人化して私の背中にしがみついて一緒にタロウの背に乗っているのだが。
 この芋は、森近くの人里農作物として栽培されているような、一般的な芋類らしい。 まあ、ここで採れる程の大きさや甘さなどなく、滋養に関しても比較にならないらしいけれども。

 そうして、2人+おまけ1匹で掘っているとフォルダ内のマロ芋ファイルが100近くになっていた。大収穫である。

『主、随分たくさん掘れたな』
「そうだね、これだけあればしばらく大丈夫だし、少し庭に植えて栽培してみようか?」

 これだけたくさん収穫したのには、食べる分だけではなく、自宅で栽培する用に取っておきたいという考えがあったからなのだ。

『それは名案だ。ぜひ栽培しよう。精霊が宿る土地なら、もっと大きなものが収穫できるに違いない』

 生のマロ芋をガツガツつまみ食いしながら、もちろん、タロウも大賛成してくれる。
 すると、今まで木の上で日向ぼっこしていたマーリンがいつの間にか下に降りてきており、

『それはいい。庭で採れるようになれば、もうここまで来なくても良いニャ』

 と、賛同してくる。…なんだかな…

「確かにその通りなんだけど…。あんた、寝てたくせに…」

 私は思わずジトっとした目で見てしまう。

『ニャに言ってるんだニャ。吾輩は、他の魔獣が襲ってこないように木の上から周囲を警戒していたニャ』

 リラックスしまくって寝てたくせに………。

 私は言外にそう言って、『ニャはは』と笑う白の大型猫をジト―――っと見つめていた。 その時。


『ゴウッ!』

 と、少し離れた所でマロ芋を貪っていたタロウが突然吠えだしたので、私は「ヒィッ」とマーリンの滑らかな毛皮にしがみついた。

『突然ブレスを出すなんて、どうしたニャ?』

 マーリンは私を体で庇うように後ろに押しやり、タロウに尋ねる。
 白い毛皮越しにそっと見やると、タロウが咆哮を上げた方向には、10m程先まで焼き尽くされたような大穴が開いており、その先には胴体に大穴を開けられたフォレストワームが倒れていた。

 ひぃぃっ!またこいつ!!

 その巨大ミミズのようなフォルムといい、池での襲撃といい、こいつには恐怖や気持ち悪さしか感じないのに、やたらと絡んでくる。

『これ、どうするニャ? 食べてもおいしくないと思うけど、一応持って帰るニャ?』

 なんて恐ろしいことをッ!!こんなの持って帰らなくてもいいでしょ!?

 私は涙目になりながら、マーリンにそう訴えようとしていた。
 その時、タロウは一人フォレストワームの死骸の方に向かってフンフンを鼻を鳴らしていた。

「…? タロウ、どうしたの?」

 不思議に思ってタロウに声をかける。すると、

『主、まだ何かいる』

 と、言葉を続けて、タロウは自分が焼き尽くした方角へ走って行き、死骸の横の草むらをかき分けだすと、何かを咥えて戻ってきた。

『何か』とは…どう見ても、それは大型肉食獣に服の襟首を咥えられてぶら下げられた、哀れな子供(エモノ)の姿にしか見えなかった。

「…………」
『ご主人、持って帰って食べるかニャ?』
「んなわけあるかっ!!」

 私は笑えない冗談を口走るペットの毛皮を殴った。 




「ひっひぐっ…」

 目の前で、大きな琥珀色の瞳から溢れる大粒の涙で顔をグチャグチャにして、5歳位の小さな子供が蹲って泣いている。
 タロウに簡素なローブの襟足を咥えられて連れられてきたときは、目を見開いたままカチーンと固まっていたが、地面にドサッと落とされてから、恐怖が頭に伝達されてきたのか、急に泣き出して、このような状況になっていた。
 肩につくかつかないかの長さで淡い茶色のおかっぱ頭には、同じ色の大きな三角耳が付いており、股に挟まれた尻尾はお腹側にビッタリとくっつき、大きくフサフサとした自分の尻尾を抱き締めて、プルプルと震えているではないか。 自分が加害者でなければ…であるが、ハッキリ言って、萌え死にそうな程可愛い。
 …しかし、状況的に不幸な事故であるとは言え、私は泣かせてしまった加害者側な訳で……

 罪悪感がヒドイ………

 左右に佇むマーリンとタロウは、若干警戒しているようだが、私はいたたまれなくて

『ご主人っ』

 マーリンが呼ぶ声も無視して、子供の側に駆け寄った。

「ごめんね、ごめんね。大丈夫?ケガはなかった?」

 しかし、突然横から現れて抱き締めんばかりに近寄ってきた私を見ると、キツネ耳の子供は

「……ふぁ…?」

 と、大きな目を更に見開いて、私を見たまま動きを止めてしまった。

 え?…何? そんなに驚かせちゃった?

 何故か食い入るように見られている感じが無きにしもあらずと言った風ではあったが、興奮のためかうっすら頬を染めているようにも見えるし、拒絶されている感じでもないので、私はそっと傍にしゃがみ込んで、下から顔を伺って再び声をかける。

「…大丈夫?どこか痛いところはない?」

 元の世界から持ち込んだものの中にハンカチはあったが、今となってはバッグにしまい込んだまま滅多に使ってはいないので、申し訳ないがローブの袖を伸ばして子供の目元を拭った。 
…袖を引っ張るので、大きめのローブの襟元も多少引っ張られて広がったが、仕方ない。まあ、子供だし。あ、ちょっと土ついてた…ごめん。

 すると、子供はキュウっと首に抱き着いてきて、更に「ヒックヒック」と、しゃくり上げる様に泣き出したので、私は子供を抱っこして

「大丈夫だった?ケガしなかった?」

 と、背中をさすりながら、努めて優しく訊いた。

『主、その子供から血の匂いはしない。大丈夫だ』
『そーニャのだ、こいつ無事ニャ!だから離れるニャ』

 …子供に尋ねているのに、何故君たちが答えるのかね? しかも、そんな牙を剥いて。

「いいから、私はこの子に聞いてるの」

 私は、何故か落ち着かずにイライラしている2匹に、「しょうがないな、こいつら…」とばかりに返答した。

「僕……僕でいいんだよね? 大丈夫?」

 そして、特徴のない緑がかった灰色のローブ姿でもあったため、イマイチ男児か女児か判断つきかねたものの、重ねて子供に尋ねると

「ん、ケガ、してない」

 と、片言の涙声で答えては、私の首元にスリスリと頬を寄せたので、そのあたりがジワリと温かくなった。

 う…涙なら良いけど…鼻水とかじゃ………まあ、子供だしな…

 咄嗟にこんなことを考えてしまうあたり、さもしい女だと自分で自覚してしまう…。

「僕、どこから来たの? この辺の子?」

 フンフンと匂いを嗅がれている気がするが、その都度大きな狐耳が私の頬をくすぐってくるので、むず痒い。

「あっちから…来たんだけど、帰りかた、分からなくなって……」

 子供は、顔を上げずに私たちが来た方向とは逆方向に指し示す。

『あっちにあるのは、テルミ村ニャ。この辺で唯一の人里だけど、子供の足で来るには随分離れているニャ…』
『うむ。貴様、何しにここまで来た?』

 2匹がズイッと近寄って、子供を威嚇しながら尋問調で尋ねるので、

「ひっ……うわぁ~んっ!!」

 と、子供は再び泣き出して、更に私にしがみついてきた。 ちょ、苦しい! 

「何してんの!? また泣き出しちゃったじゃない! ていうか、話が進まないから、あんたたちちょっと離れなさい!」

 そう言って、子供を抱えたままこっちが数歩離れると、

『しかし、主!脆弱な人間種が子供一人でこんなところにいるなんて!』
『そいつは子供のフリしてご主人にすり寄る不埒ものに違いないニャ!』

 と、私が離れたよりも更に距離を縮めて食って掛かってくる。
 こんな小さな子に対してなんて大人げない奴らなんだと思い、

「いいから、離れなさい!」

 と、命令した。一応、隷属されている立場なので、命令されると聞かざるを得ないのだ。

『『ぐぐぐ…』』

 2匹はその場から動けず、目を剥いて食い入るようにこちらを見ていてちょっと怖いが、私は再度数歩離れて、子供の背中をさすりながら、もう一度尋ねた。

「テルミ村の子なの?お名前言える? なんでこんな所まで来ちゃったの?」
「…ロビン…。 おじいちゃんが、最近病気になって……こっちの方に薬草があるって聞いて…探してたけど… 見つからなくて。おじさんたちと一緒に来たのに、誰もいなくなってて、帰れなくなっちゃっ……ひぐっひぐっ」

 どうやら、病気のおじいちゃんのために、村の大人たちと薬草を探しにきたが、はぐれた上に迷子になって帰れなくなったということか…ここまで無事だったのも奇跡に近い…。
 なるほど。RPGなら、よくあるシチュエーションだわ。

「そうロビンっていうのね。 それで迷子になっちゃったんだ。 おじさんたちもきっと探してるよね…」

 可哀そうに…と思う反面、私は予定外のことが起きたと困っていた。

 …テルミ村かぁ…。
 いずれ関わることになるかもしれないと思っていた村だったけど、初の異世界人里訪問を、こんな下調べもできていない状況でするつもり、ないんだよねぇ…。どうしたものか…。
 もうちょっと調査してから近づきたかったんだけどな…。

 子供…改めロビンの背中をさすりながら、私は考え込んだ。
しかし、辺りは徐々に暗くなり始め、昼間でも危険なのに、日暮れに、こんな泣きべそかいてる子供一人で森の中を歩かせるのは、なんとも非人道的に思える。
 いくら無計画に関わりたくないとはいえ、子供を見殺しにできる程、人間捨ててはいないのだ。ならば…
 
「ねえ、僕、そこの大きい狼か猫に乗って、村に帰る?」

 そう言うと、ロビンは

「いぃやぁっ!!やだーっ! お姉さんと一緒にいるっ!!」

 と絶叫して拒否を示した。 おおう、耳元で叫ばないでくれ! そして、森の中で大声を上げないで!

「ちょっと、僕、落ち着いて。耳元で大声出されるとお姉さん困るし、変なの集まってくるかもしれないから、静かにね!」

 年齢的におばさんとか言われなくて良かったと思いながら、背中をポンポンしてなだめるのだが、ロビンはヒシっと抱き着いてイヤイヤしている。 これは困ったぞ。

「あーー……。もう暗くなるから、今日はお姉さんの家に泊まって、明日の朝お家に帰ろうか?」

 困り果ててそう尋ねると、子供は「うん…」と頷いてくれた。しかし、

『主……』
『ご主人……』

 ジト―――っと見つめる2匹の視線が痛かった…。
 うん…なんか、ごめんて(-_-;)
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