【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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第二章:周囲の状況に気を付けましょう

3.森の隠者、子供をもてなす

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 一応、ロビンには周囲や道順を悟らせないよう、真正面から抱っこし、目隠し代わりに胸元にやんわりと顔を押してつけて、タロウの背中に跨ったまま、普段より遠回りした挙句に精霊さんに道順を攪乱してもらいつつ家路をたどった。

 …なんか、胸におしつけてたらこの子動かなくなったんだけど……窒息してないよね…?

 と、不安になったが、苦しいぐらいにギュッと抱き着いているし、フワフワな尻尾も左右に揺れていたので、ホッとした。加えて、時々呼吸するためか、顔を自ら押し付けてスリスリして動いてもいたが。
 ……いや、すごく可愛いんだけど、やっぱちょっと暑苦しくはある……。

 マーリンには、そのまま村へ行って、ロビンが無事であることと、明日の朝丁重に村へ帰すことを言付けしてもらいに、テルミ村へ向かうよう指示したが、

『放っとけばいいニャ!なんで吾輩がそんなことをしないといけないニャ!』

 とブチブチ文句を言うので、「お駄賃に魚バーグをあげるから」と言うと一転して上機嫌になって走って行った。
 ……現金な奴。
 ちなみに、魚バーグとは、マロ芋粉と魚のミンチとニラみたいなラニー草を混ぜた魚団子のことを言う。うちでは大人気メニューの一つになっているのだ。


 そして、廻り回って30分程かけてから家につくと、辺りは微かに地面すれすれで夕日が残っている程度の夕暮れ時。
 ロビンは抱っこされたまま「ふわぁ…」と庭を見回してキョロキョロしていた。
 耳やしっぽが狐風なだけあって、随分夜目も利くらしい。
 庭の中央にあるドラゴン型のピンク色のアヤシイ池は、『おいでなせぇ』とばかりに波立てているが、ここはスルーで…と、そのまま通り過ぎようとした。…しかし、ロビンが私の肩越しに無言でジー―っと見つめている気配を感じた。

 ……何も聞かないでくれ……。

 ややして、私の祈りが通じたのか、ロビンは何も言わずに庭の植物に視線を移していた。

「お姉さんのおうち、木の実や果物とか野菜や葉っぱがたくさんある…。なんかすごくたくさん………」
「そぅお? この辺に生えてるものばかりだと思うけど…? 後で色々出すから、ご飯で食べようね」

 そう言うと、「…え…ホント? …いいの?」と、控えめではあるが、目を輝かせて喜んでくれるので、こちらも嬉しくなる。

 ペット2匹にも好評を博したメニューで行こうではないか。

 私はロビンをリビングで待たせて、夕食の支度にとりかかった。
 ロビンは家の調理器具を珍しそうに眺めながら、私の後ろをついて回ってくる。

「こんな所まで魔道具が使われている台所なんて、すごいね。 僕の村の大人でも、ちょっとした魔道具使うだけでもヘトヘトになっちゃうのに…、お姉さん、すごく魔力多いんだね」

 耳をピーンと立たせながら尻尾をフッサフッサと揺らして、ロビンは無垢なまぶしい笑顔で感心してくれる。
 そう。魔道具というものは魔力によって便利機能を活用できる構造になっている。
 私は自分で魔法を使えない代わりに、この家に置いてある魔道具を使いこなすことができるようになっており、魔力量に物を言わせて魔道具使いとしてはちょっとしたものになっているらしいのだ。
 ちなみに、この家自体も大きな魔道具の一種であるため、家主登録が済んだ後は私がこの家で過ごすだけで魔力をオートで吸い上げて動力にしているらしい。しかし、普通の人族の魔力量でできる芸当ではないそうな……。一応、これも一種のチートと呼べなくもない。


 そして、30分程経ってから、ピンクベリーのジュースに干した魚の塩焼き、マロ芋のパンケーキ、庭の香草のサラダ、ポカリの実を食卓に並べると、マーリンが、遠回りして帰ってきた私たちより、遅れて帰宅し、リビングのソファで寝そべっていた。

「マーリン、お疲れ様。ちゃんと村に連絡してきてくれた?」

『当たり前ニャ。そんなの余裕に決まってるニャ。ビシッと言ってきたニャ』

 マーリンは『ふぁあ』とあくびをしながら答える。 …なんとなく不安が無きにしもあらずだが、まあ、『遅くなったのでお子さんは一晩家で泊めます。明日の朝送りますから心配しないでください』…程度の連絡だしな…。それで安心できるかと言われると、まあ微妙だが、ちゃんと明日返せば大丈夫だろうとは思う。

「うん。じゃあお駄賃の魚バーグね」

 そう言って、一緒に作っておいた魚のハンバーグ…って「つみれ」ともいうのだが…を、出してやると、耳と尻尾をピーンと立てて喰いついた。

『主よ、我にも。我にもそれを!』

 バッサバッサと尻尾を振りながらお座りしているタロウにも差し出すと、こちらもガツガツと貪り食らった。


 ペット2匹にご褒美を与えたら、今度は私たちの食事だ。

「じゃあ、私たちも食べようか」

 と、すでに食卓に着いていたロビンを促す。

「うん!! ……こんなにたくさん…見たことないものばかり!」

 ロビンはそう言ってキラキラと大きな瞳を輝かせてテーブルに置かれた料理を食べ始めた。

「おいしい! お姉さんの料理、すごくおいしいよ!」

 私たちにとっては庭の収穫物が主で、それ程手をかけたわけでもないんだけど、こうまで手放しで喜ばれると、やっぱりうれしい。

「へへ、ありがとう」

 何を食べてもほめてくれるので、かなり気が良くなり、普段はどのようなものを食べているのかなどを尋ねてみる。するとどうやら、村の食事事情はかなり悪く、一日2食でパンと薄いスープに一品あれば良い方で、森の方に栄養が吸い上げられているのか、土壌も痩せており、碌な作物が育たないとか。
 そして、狩りに出はするものの、この辺りの魔獣はそこらのものよりも強力で、肉をとるために狩りにでるのも命がけ。家畜を育てても、あまり範囲を広げると魔獣に食い荒らされてしまう。その上森の恵みを採りに行くのも森の端っこがせいぜいで、ロビンは迷い込んでしまったこともあったが、あんなところまで入って薬草を探すなど、滅多にできないことだったそうな。
 まして、魚などは森の奥まったところまで行かないと池には到達できず、川べりなどの水辺には強力な魔獣が徘徊しているため、土地の魚には手が届かない。よって、魚が食べたければ他の土地から仕入れないと手に入らず、村長である祖父ですら滅多に口にできない高級品だったという。

 ロビンが語ってくれる村の様子を、「ふんふん」と相槌をうちつつご飯を食べながら聞いていたわけで……これは、かなり生存するには過酷な土地の様で、文明的にも遅れていると見た。

『ふん。脆弱な人族がこの土地で暮らそうとしたら、その程度のもんニャ』

 爪にポカリの実をカットしたものを刺して、テーブル横でシャクシャクと咀嚼しながらマーリンが見下した様に言っている。

「うん…。みんな、いつもおなかを減らしてる。おじいちゃんは、なんとかしないといけないって、いつも言ってるけど…」
「そういえば、おじいちゃん、病気だったっけ。…薬草って何が欲しかったの?」

 結局見つからなかったって言ってたけど…。

「リモーっていうお花がいるんだって…。精霊の森のどこかにあるって…ケビン兄ちゃんが…。お薬を作るのに、いるんだって……うっ…」
「リモーの花………」

 あるわ。私の化粧水に入れてる花だわ。
 ………しかし、村人総出で探さないといけないような貴重な花をジャバジャバと私の乾燥肌のために使ってるとか、村人総出で探し回ったけど見つからなかったと耳をヘニョンとさせている幼児に言いづらい………。
 明日帰るときに渡せばいいよね……。

「そっか……」

 私は、ロビンの涙を拭いつつそれ以上の言葉が出なかった。



 その後、ロビンをお風呂に入れるわけだが、やはりお風呂も初体験。
 そして現在、一緒に入っているわけですが、それまでにもひと悶着ありまして…。
 ロビンをお風呂に入れてくると一言言っただけで、2匹がギャーギャー騒ぎだし…

『そんなガキんちょ、クリーンかけてその辺に放っておけばいいニャ!洗ったって仕方ないニャ!』
『主と風呂に入るは番である我だけの特権である!我は寛大だから猫は近くにいることを許してやっているだけなのだ!』

 こら、歯ぎしりはやめなさい。大型肉食獣の歯ぎしりは本当に喰われそうで怖いから!
 タロウくん、魔獣の番になった覚えはございません。人前で変な主張するのは勘弁してください。
 そして、なるべくロビンには事情をバラしたくないからといって、人型になるのを禁止したけれど、狭い風呂場に大型魔獣の姿で全員入ろうとするのはやめなさい! 入れませんから!!

「あんたたちは毎日一緒に入ってるんだから、今日は二人で入ってきなさい!」
 ……と言うと、2匹は顔を見合わせてプイッとそっぽをむいた。


 なーんて、ロビンのいない別室でこんなやり取りがありつつ、二人で脱衣所に来ております。


「え…お風呂…?…」

 と、ポカーンとしているロビンのローブをちゃっちゃと脱がし、先に浴室へ入れると、自分のローブも脱いで、服はこっそり家精霊さんにクリーンの魔法を頼む。
 ……2匹は浴室前に陣取って静かに座って待っているようだが………。なんだ、このドア越しにも感じる圧は…。


 浴室は二人で入ってやや広い程度のなので、女子供程度なら余裕をもって入れるのだ。
裸で浴室に入ると、耳をペタンとさせて真っ赤になったロビンが股の間に入った尻尾を抱きしめてプルプルしていた。
 頬が紅潮しつつ大きな琥珀色の瞳を不安そうに上目遣いでウルウルさせている、きっと将来モテるだろうなーと思わせる可愛らしい狐耳の美ショタ…。

 くっ……かわええっ!!

 私は思わず鼻血を吹き出して萌え死ぬかと思った。

 いや、ホントに純粋に可愛いと思ったんですよ? エロとかそういう意味じゃないですから!!

 思わず荒くなりそうな鼻息を抑えて、努めて張り付いたような笑顔でロビンを私の前に座らせ、私はその背後に座った。

「先に頭を洗おうね」

 と言って、シャワーで頭からお湯を流し、手元で石鹸を泡立てて、モシャモシャと頭から洗っていった。
 うちの石鹸は全身使用できるから大丈夫。
 頭についている耳は、中に水が入らないように注意しながら指でシャコシャコと洗っていたのだが、

「んっ…くっ…」

 と、時折ロビンが声をあげるので、

「ごめん、痛かった?」

 と声をかける。すると、ロビンは心持ち上ずった声で

「だ、大丈夫。ちょっとくすぐったかっただけだからっ」

 と、返すので、(小さい子だしちょっと気を付けて洗わないとな…)と思いながら、そのまま手で頭や背中を洗っていった。

 泡立てた石鹸って、布使うより手で洗った方がお肌にいいしね。日本でも泡泡ソープで手洗いしてましたわ。

 そして、尻尾の方も、マーリンやタロウを洗う要領で根元から先っぽまで石鹸を付けてコシコシして、サァーーっと指で輪を作ってしごき上げる様に洗っていくと、

「ああンっ」

 と声をあげられて、ビックリした。 え、なんか反応すごすぎない?

「え、ごめん、本当に大丈夫だった?」

すると、はぁはぁと息をきらせて
「はぁっはぁっ…だ、だいじょうぶ…。耳とか尻尾って敏感だから…ン…」

 ………なんか、頬染めちゃってるんですが…本当にダメだったんだな…。

 獣って耳とか尻尾とか急所だっていうし、……でも、うちの2匹はなんか悶える程喜んでたのに…。 やっぱ魔獣と獣人は違うのね…。

 そう思って、とりあえず背中側を洗うのは終了した。そして、そのまま前の方もやろうかと思ったが、

「じ、自分でできるから!」

 と言って、ロビンは自分で前の方を洗っていった。

 …うん、気が利かなくてごめんなさい…。もう一人で洗える年齢なんだよね? …人にやってもらうのが恥ずかしい年ごろなんだね? お姉ちゃん無神経でごめんよ。


 私はロビンが自分で胸や股間や足などを洗ったのち、「泡流すよー」と言って頭からシャーっとお湯を掛けて泡を流した。


 そして私も体と頭を洗ってトリートメントまで施した後…カポーンと鹿威しでも鳴りそうな程マッタリと二人でネコ脚のバスタブに入ってヌクヌクお湯で温まっております。
 ロビンは私の足の間に入って背中を向けて座っている。

「こんなにきれいなお水をたくさん、お風呂に使うなんて…。それに、このお湯が出てくる魔道具…? 見たことないし、お風呂なんてお貴族さまのおうちにしかないって……。
…お姉さんはお貴族さまなの? お肌もちょっと変わった色あいだけど、白くてきれいで柔らかいし…。髪の毛や目がこんなに黒い人も見たことない……」

 そう言って、ロビンは私の髪を一房掴んで眺めている。そして時折肩越しにそっと私の顔を下から覗き込んでは、目が合うと「ぴゃっ」と言って前を向いてしまう。

 反応が初々しくてかわいい……

 いや、そうじゃなくてね。
 まあ、そう私も含めて色々珍しいんでしょうね…。 ペット2匹もそんなこと言ってたし。

 お湯の出る魔道具は…まあ魔道具でもあるけど、豊富な水量は精霊パワーの恩恵でもあったりするのですが…。最も、精霊が精製した水ってだけで良質な薬には欠かせず、希少価値もあるらしいので、滅多なことで人に言わない方がいいとペットたちが口を揃えて言っていたので黙っておく。

 そして私は当然貴族のお嬢様などではないんだけど……しかし、現代日本の文化水準なら、こちらの平民に比べれば十分貴族みたいなもんに相当するみたいではあるっぽいのでなんとも…。
 まあ、村の過酷な労働条件からいくと、女性もムキムキ筋肉質は不可避らしく、こんな油断しきった肉を備えてる人間は、労働に無縁な貴族か豪商位のモノだそうな…。 最近ちょっと農作業的なこともしていて締まってきたとはいえ、ガチ肉体労働系の方に比べたらゆるみきった体で申し訳ない……。
 あと、私の黒髪黒目が珍しいとか……。でも、過去にもいたことがあるっていうし、ないわけでもないようだけどレアっぽい。…そのあたりはこの子に姿を見られた時点で手遅れな気がするので、なんとか誤魔化していく方向で行こう。

 などなど、この子供からの情報収集で、今後の出会うかもしれないこの世界の人間との接し方を考えていかねば…とか考えて黙りこくっていると、沈黙に何かを察したのか、

「…ご、ごめんなさい。何か訳があるんだよね?」

 と、ロビンはシューンと膝小僧を抱えて耳をパタリと倒した。

気遣いのできる賢い子は、お姉さん大好きだぞ。…というか、丁度いいのでそこに乗っかろう。

「うぅん、いいの」

 これ以上聞かないでね…? という感じに見えるように、少し困った風に微笑んでみせれば、優しいロビンはそれ以上何も聞いて来なかった。 いいねいいね、君は空気が読める優しいいい子だw


 その後シーンとなって、なんとなく気まずい空気になったものの、外でタロウが遠吠えを始めたのでお風呂を出ることにした。
 脱衣所で家精霊さんの卓越した温風乾燥技術によって、頭も体もロビンのしっぽも瞬く間に水気が飛び、またもやロビンが「あわわ…」となっていたのを付け加える。

 この技術、もちろん発案は私ですけれども!(ドヤ)

 最初に「できたらいいなー」なノリで発案した後、面白がった精霊さんと被験者のタロウ&マーリンの協力のもと、この技術が確立した次第であります。今ではイオンドライヤーなど目じゃない位のしっとりサラサラ感を保ちつつ乾燥させる域まで達しました。
 …途中経過で体がカチカチ山のタヌキみたいに燃やされるタロウやアフロ猫と化したマーリンの姿などは涙を誘いましたが……ちゃんとポーションで治癒したからいいよね?ね?



 そして、寝室にて………。
 ベッドの上では枕を抱えてペタリと座ってアワアワしながらこちらを伺っているロビンを横目に、ベッド周りでタロウとマーリンがガウガウ騒いでいる。

『ちょっと待つニャ。そいつがご主人と一緒の寝台で寝ることには異議を申し立てるニャ』
『うむ。我も反対だ』

 …面倒なやつらだ。

 私は「ふぅ…」とため息をついた。

「別に子供だし、ベッドは広いんだから二人で寝ればいいでしょう?」

『子供であってもそいつはオスではないか。そのようなこと、我は認めぬ』
『そいつと寝るなら、吾輩も一緒に寝るニャ!』
『そうだ、そうだ。我も一緒に寝るぞ!』

「あんたたちのサイズで4人も眠れるわけないでしょうが」

もちろん、人化することは認めない。 そう言外に告げると、2匹は

『それでもダメニャ!一緒に寝るニャ!』
『我も寝るのだ!』

 と、更にヒートアップしてきて収集つかなくなってきたので

「お座り!伏せ!」

 と、主人特権を発動し、2匹を強制的にその場でひれ伏させ釘付けにした。しかし、

『グギギギ……主、卑怯なり』
『そーニャのだ!ご主人横暴ニャ!』

 往生際の悪い2匹は伏せの状態でも食い下がろうとするので

「はーい、朝まで静かにね」

 そう付け加えて、2匹を沈静化させた。
 まあ、家の中だし精霊さんもいるから、護衛2匹が動けなくてもそうそう困った事態にはならないだろう。
 …というか、こいつら最近小姑みたいになってきたような気がする……やれやれだわ。

 やっと静かになったので、私は照明を消し、ベッドに寝転んだ。

「じゃあ、おやすみーー…」
「あ、あの、はい、お休みなさい」

 声をかけると、ちらちらと2匹の方を伺っていたロビンは、コテンと私の隣で寝転んだ。
 横向きで、お互いに向い合せの体勢で目を閉じた。私はとても寝つきがいいので、目を閉じたら数秒で眠ってしまえる。
 ベッド下から歯ぎしりのような音がするが、徐々に気にならなくなってきて……そのまま就寝していった。



 翌朝…

 ……なんか、キツネっ子がすっげー抱き着いてるんですけど…。

 何となく息苦しくて目が覚めると、昨夜一緒に眠ったロビンが私の胸に顔を埋め、寝ぼけながら「うにゅうにゅ」言っている。

 親とでも間違えているのかもしれないが、胸の間に顔を埋めて、足やしっぽまで絡めてホールドしてくるので、正直暑い…。
 そして、……なんか私の胸元が濡れている……よだれでもついたのだろうか…?

 しがみつかれたまま考え込んでいたが、思わず無意識に目の前にあるキツネ耳をコシコシして毛並みの感触を楽しんでいると、「はぁ…ンっ」とロビンがかわいい眉をしかめて吐息を漏らした。

 いかん。つい。欲望に逆らえず触ってしまった。

 すると、『『ギリギリギリギリ……っ』』と、ベッドの下から歯ぎしりが響いてきたではないか。

 あ、忘れてた。

「二人ともー、もういいよー」

 そう言って、命令を解除すると、2匹はベッドに飛び上がってきて、ロビンをベッドから落とした。

「ちょっと!何する……っておい!」

 なんてことをするんだと怒ろうとしたが、2匹がその言葉より早く私の覆いかぶさってきて、ベロベロ私を舐めまわし始めたので、それ以上言を継げなかったではないか。

『一晩ずっと寝ないで音だけ聞いてたニャーっ!』
『伏せられていたため、寝台の上は見えなかったのだ! あの小僧っ!!』

 おおう、眠らないでずっと二人の寝息やらなにやらをまんじりとせず聞いていたと? お疲れ様です?

『あの小僧はやっぱり危険ニャ!ここで喰っちまえばいいのニャ!』
『そうだそうだ!主にあのような声を出させる存在など認められぬ!!』

 …一体何があったというのだ……? 見た感じ、特に私に変わりはないんだけど…。…寝言でも言ったのだろうか?
 そう、キョトンとしていると、2匹のペットは『遺憾なりっ!』とでも言いたそうに揃って肩を落とした。

『あああ…ご主人は吾輩たちで慣れてしまっていたニャ!』
『オオ~ン! 精霊のフォローも今回はっっ! 我々が選ばれたというわけではないのか!?』

 おい、ちょっとまて! 一体何のことだ!?
 何か聞き捨てならないことを言われたような気がするのですけど!?

 なんだかよくわからないことで嘆いているペット2匹に、状況を説明させようとすると、

「いたた……あ、お姉さん、おはよう!」

 と、ベッドから蹴落とされたロビンが起き上がって、ツヤツヤした笑顔で笑いかけた。 結構丈夫なんですね…。

「おはよう、ロビン。夕べはよく眠れた?」

 私も笑って応えると、ロビンは顔を真っ赤にしてモジモジしながら「う、うん……」と…。

 ………おや…? 何ですか、その反応? 私、何しましたかね……?

 でも、他の2匹の反応を鑑みても、何か聞いたら後戻りできなさそうな気がして、怖くて聞けない……。



 ギャーギャーわめくペット2匹と、真っ赤になってモジモジしている狐っ子に囲まれて、とりあえず、

「よし、朝ごはんにしよう!」

 と、思考を閉ざした。



 そして、何となく気まずい空気の中朝食を終え、ロビンをマーリンに乗せて村まで帰すことにした。
 マーリンは『とっとと帰るニャ!』と言いながら待っている。

「じゃあね、ロビン。気を付けて帰ってね」

 ロビンは寂しそうな顔をして

「…帰りたくないな…」

 と、つぶやいた。しかし、私は

「おじいちゃんに薬草渡さないといけないんでしょ? これ、家の庭にあったから持って行って」

 と、ロビンの手に家の庭で摘んできた花を根っこごと数本束ねて手渡して言った。

「リモーの花! 生えてたの!?」

 あれだけ探しても見つからなかった花を手渡され、目を見開いて驚いている。

「うん、あと、これもお土産に持って行ってね」

 そう言って、アジのような魚の干物5枚、ポカリの実を乾燥させたドライフルーツを布袋に入れて渡した。あ、袋なら家に何枚かあったので丁度いいと思って入れました。

「こんなに!…お姉さん、ありがとう!」

 喜んでもらえると、私も嬉しい。

「うん、私はそっちに行けないけど、元気でね」

 そう言うと、ロビンの笑顔が少し曇った。

「お姉さん、また、会える?」

 そんな可愛いことを言ってくれるが、正直私自身はあまり頻回に村人と接触する気はなかった。
物品の取引はしてほしいものもあるのだが、それはペットにお任せして、引き続き隠者生活しようと思ってます。

「私は、ここからあまり出られないけど……機会があったらきっとね…」

 そう言って明言をさけるズルい大人ですみません。

「お姉さん………僕、きっとまた会いに来るよ!」

 ……うん、会いに来れたらね……なんて言えません。

「きっと、きっと、会いに来るからね!」

「うん、待ってるね」

 子供の真摯な訴えに、ズキズキと良心を痛めながらも社交辞令的返答でやり過ごす自分……申し訳ない。 君以外の存在にも道を辿られないよう、マーリンには言付けしてあるのです…。

 行きも帰りも遠回りしてねって。

『疾く帰るが良い』

 しびれを切らしたタロウがヒョイっとマーリンの背にロビンを乗っけると、

『行ってくるニャ!』

 と、マーリンはロビンを乗せて走り去った。ロビンはマーリンの背に揺られながら、ずっとこちらを見ながら消えていった。
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