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第三章:巻き込まれるのはテンプレですか? ふざけんな

幕間ー昔あったかもしれない話ー※※

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 初めて間近でその姿を目にしたとき、『おかえり。待ってたよ』…と思った。何故か。
 こんな人間を見たのは初めてだというのに。
 自分がおかしくなったのだろうかとその場を去ろうと思ったが、不思議とその人間から目が離れず、微かに漂ってくる匂いに、何か思い出しそうで胸が苦しくなったような気がした。
 毒や魔法による攻撃を受けたというわけでもないのに。
 何かおかしなことを仕掛けられているのかもしれないので、その前に殺して食べてやろうと思い―――今となっては無視できない程魅了され、惹きつけられていた言い訳でしかなかったのだが―――その匂いを辿ってたどり着いた先に、精霊に囲まれ光の中に佇む彼女がいた。

「じゃあね、太郎。たまには帰ってくるから、忘れないでね」

 その姿を目にし、懐かしい匂いを吸い込んだ瞬間、ふと、頭の中に響いた懐かしい声は誰だったのだろう…。




 我の名はタロウ。
 かつては産みの親に別の名を付けられていたような気がするが、主にこの名を付けられた瞬間、何故か記憶の中から消えていた。
 大事なことだった気もするが、この名が妙に違和感なく馴染んでいるので、特に不満はない。
 生まれた時、我と一緒に2匹の兄弟がいたが、生まれて20年程経って、産みの親が狩りに失敗して他の魔獣に喰われた時、散り散りとなってから会っていない。ひょっとしたらそいつらも喰われたのかもしれないと思っているが、この過酷な森の中では幼体である自分が生きるのに精いっぱいだったので、他の同胞を探しに行く余裕はなかった。
 生きていたら再び会うこともあるかと思うが、雄同士であり縄張り争いに発展することもあるので、どちらでもいいとすら思っている。

 我らの一族は群れの子供が幼少期である100年程を共に過ごすのが常ではあるが、産みの親の死によって、20年という短い共生期間となった。しかし、産みの親は我らに狩りの仕方や力の使い方などを教える傍ら、我らが神狼族という誇り高き上位魔獣であることや、中央大陸のとある地方で君臨する一族の者でもあることを教えてくれた。
 しかし、いくら強力な魔獣の血を引いていようと、まだ和毛にこげもフワフワとした幼体の身でこの土地を生き抜くことは過酷なものだったので、我はいつも飢えて腹を減らしていた。
 それから数十年、なんとか飢えをしのいで生きていたある日、我はゴブリンどもが人間を襲っている姿を茂みの陰から見ており、その辺に転がっている人間かゴブリンを攫って食ってやろうと狙って待っていた。自分で獲物を狩ることもあれば、このように他種族同士の争いの脇から獲物を攫って腹を満たすこともあったのだ。
 しかしその時、これまで嗅いだことのない、何ともうまそうな、それでいてやけに惹かれる匂いが漂ってきた。そのため、思わずそちらに夢中になって、その匂いが移動する先まで無意識に追いかけていた。
 匂いの元は、一人の全人種のメスのものであり、珍しい容姿をしているとは思ったが、遠目の姿から感じた感想はその程度のものだった。その人間はひどく混乱して目茶苦茶に移動していたがその移動は遅く、我の脚で追跡することは容易かったため、このまま隙を見て一息に襲ってやろうとしたとき、突如精霊の守護が人間を守った。

 精霊の加護付きとは厄介な…

 我は突然現れた邪魔者に歯噛みをしたが、精霊の守りを突破できるほどの力はないため、排除されないよう距離を保ちながら人間の跡をついて行った。 狩りにおいて、身の丈にそぐわない獲物は最初から狙わないものとした方が生存確率は高いのだが、この人間に関しては、どうしても自分のものにしないといけない気がして、諦めるといった選択はまるで念頭になかった。


 その後、主と精霊にハメられ霊猫族のマーリンと共に仕えることとなったのだが…、何故か従属されているというのに、まるで抵抗を感じない。
 こういう関係であることが、以前からそうだったかのような自然さを感じさえもしていたのだ。

 主が傍らにいてくれる。 ずっと一緒にいられる。

 それだけでいいと、思っていたのだ。最初は。
 しかし、主の芳しい匂いを間近で感じるうちに、その声で名を呼ばれるうちに欲望はどんどん肥大化していき…
 そのうち、主の体温を感じ、体液を啜ることでその身を満たしていくことを覚えると、今度は逆に自分で主を満たしたくなる……これが番というのものかと、少しずつ身に染みる様に実感していった。

 これを失って、生きていくことなどできない。

 カーバンクルの里で、主が我々の前から消えるかもしれないという話を聞いてから、その想いは強くなっていた。

 主がこの世界の人間ではないと言われたこと自体は、主の存在を失うかもしれないという恐怖に比べれば、別に大して衝撃ではなかった。
 主は元々、この世界の人間にしては、その姿だけでなく魔力の量や質においても一線を画した存在ではあったので。 しかし、現在。精霊に執着された結果、恐らく、我らと出会った頃と比べると、まるで変わってしまっていることだろう。
 人間の外見の年齢などはよくわからないが、若くなった気がしていたと言うのは、恐らく気のせいではあるまい。
 また、あの家やその周辺、そして最近気にするようになったテルミ村の周辺まで精霊を満たす魔力を有するなど、およそ人間の持ちうる魔力量でできることではないということにも気づいていない。むしろ、これだけ膨大な量を持ち出されても気づかない程の魔力を持つ人など、人と呼んで良いのか疑問に思う位である。

『精霊たちもとんだ逸材に目を付けたものだニャ』と、魔法の扱いに長じるマーリンも感心している。

 そして、カーバンクルの里長が主の滞在期間の短さに驚いていたのは、たった1年ちょっとでここまで精霊に染まったことに驚いていたからだが、それを主に言おうとして、精霊に ≪言うな≫ と恫喝されて怯えていた。

 まあ、正直に知らせて引かれたくなかったのだろう。

 精霊たちも、ここまで自分たちの側に寄り添う存在になり、力を供給してくれる主を失いたくはないのだ。 精霊たちの主への気の使いようを見ていると、そうとしか思えない。

 主は、そこで生活しているだけであの精霊の森を変えてしまう存在となりつつある。

 次から次へと尽きることなく湧き上がる上質な魔力。
 精霊たちが主をこの世界に馴染ませるために過度な干渉を続けた結果ともいえるが。
 そして、魔石を作って少しずつその容量を減らす方法を教えていなければ、膨張した魔力の発生源として、主の存在はとうに世界にその特異性を知られてれていたかもしれないが、今後も知られないままであるとは限らない。

 あの後、里長には軽率に主の存在を吹聴しないよう、釘を刺したことは言うまでもあるまい。
 できることなら、主と同郷だったという男の痕跡ごと里を抹消してやりたいと思ったが、未だ衰えない精霊刀の守りや、主が気にかけていることもあるためそれもできないでいる。
 ただ、今後余計なことを吹き込むようなら、主に気づかれないよう処理する必要があるとは思っているが。

 我々は、主を奪われたり、失ったりすることがないよう、より一層の注意を持って周囲を警戒していく必要があると話し合ったのだ。



「ああ、ああんっ」

 いつもの寝台の上で、我は胡坐を組む体勢で座り込み、主が対面になって股を広げて我の上に座っている。
 主は我の肉棒を、その慎ましやかで貪欲な膣孔で咥えこんでおり、向き合った裸の胸をこすり合わせながら揺さぶられている。

「あん、深い、ふかいぃっ」

 我の頭部にある耳元で、あえかな声を上げながらしがみ付いて来るので、余すところなく抱き返しつつ、主の首元に鼻を寄せてはその匂いを鼻腔一杯に吸い込む。すると、こんな時なのに、どこか安心するような、切なくなるような安堵に襲われる時がある。 そうして、幸せを噛み締めていると、股間が余計に膨張した。

「あ、や、おっきぃっ」

 か細い悲鳴を上げる喉をペロリと舐めて汗の味を感じると、一際興奮してきて股間が滾る。我は、汗で滑る肌を合わせながら、その腰を何度も柔らかな臀部へ打ち付けた。

「あっあっあっ…おく…おくあたるぅっ」

 主は最早、吐息のように喘ぎ声を発するしかできず、振り落とされないように縋るように我にしがみつき、その雌孔は貪欲に我の性器を食らおうと収縮を始めるので、我も一層の快楽を求めて激しく腰を揺らす。

『くっ…主よ、共にイクぞっ』

 そう言って、我は主の唇に食らいつき、上からも下からもグチュグチュと音をたてて淫らな穴を犯していく。
 互いに舌をこすり合わせて、主の弱い口蓋をなぞり、腰を何度も打ち付けてその雌孔を穿つと

「ああっっ!」

 と、その細腕を我の体に食い込ませるようにしがみついて絶頂を迎え、同時に、その膣孔の搾り取るような収縮で我の性器も限界を迎え弾けた。



「ふふふ…ただいま」

 主は半分意識を飛ばしており、我にしがみついたまま、夢見るようなおぼつかない言葉遣いで語り掛ける。
 きっと、何を口にしているかなんて気づいていないだろう。

 しかし、その柔らかな手で頭を撫でられて頬を摺り寄せられると、何故か泣きたい程胸が締め付けられるような気持になった。

『おかえり』

 主の華奢な体躯に抱きつき頬を舐めると、なんとなく、そう言いたくなった。
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