【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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第四章:地味に平和が一番です

4.精霊の女神様(爆)、王子たちとの再会ー前

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「やっと、捕まえた…」

 私の両腕を壁に押し付けてその動きを拘束しながらも、具合が悪そうな青白い顔色そのままに、泣きそうな表情を浮かべて呟いた。

 突然姿を変えて現れたクリスティアン王子に私は息を飲み、咄嗟に抵抗することもできずに動きを封じられたのだが…なんだか弱弱しく見える様子が気にかかって、身に着けた魔道具に魔力を込めて抗う気にもならず、そのままされるがままに壁に押し付けられていた。




『我はこれから、村の連中の鍛錬を見に行くが、主は一緒に来ないのか?』

 村の青年団みたいな人たちが、定期的に鍛錬と称して戦闘トレーニングを行っており、それを面白がったタロウは時々彼らの鍛え具合を確認するとの名目で、稽古を付けに行っているらしい。
 以前、剣や槍などといった武器の扱いに詳しいわけではなさそうなのに、何をしに行っているのかと気になって、その様子をこっそり見に行ったことがあったのだが、なんか大きくなったタロウに何人かの村人が連携をとって魔獣討伐する練習をしている様に見えた。

 ……村人さんたち、一瞬で蹴散らされていたんだけど……力の差がありすぎて、鍛錬になっていたかどうか……

 なんか、タロウが悪者よろしく逃げ遅れた某垂れ耳ワンコ青年の背中踏みつけて楽しそうに『クックック』とか笑ってるけど……うん、頑張れ村人青年団と、心の中で無責任な声援を送ってスルーした。

 それ以来、偶にその様子を見にいくこともあったが、今日は天気も良く日差しも暖かかったのでちょっと散歩してくると言って、その場を別れた。
 この村が精霊さんたちの直属下にあり、相変わらず防御と回避と隠匿に全振りした魔道具を装備しているため、時々私は護衛役を自称する2匹と離れてブラブラと一人で歩き回ることがあった。
 マーリンは、何やら村長さん宅で悪だくみ…ではなく、村の運営に関しての打ち合わせみたいなものがあるらしい。

 …なんか、いつの間にかガッツリ運営に携わってる感がすごい……

 2匹の行動を見るにつけ、私の在り様はこのままで良いのかと思わなくもないが、お互い楽しんでやってるみたいでもあるし、ここで張り切って陣中見舞いにくる芸能人みたいに、叱咤激励に現れて音頭をとるのも何か違う気がして、このように座敷童のような立ち位置で、人知れずふらふら見回っている次第な訳であります。はい。

 そうして、村の外周にある薬草畑やら家畜小屋やらを見回りつつも1時間程歩いていただろうか、少し疲れたのでどこかで座って休もうと、中央広場にやって来たのだった。ここの広場は、中央にアレな石像が置いてあるものの、村の様子を窺うことができる上に、商店やギルドがある地域から少し離れているため、ほどほどの賑やかさも堪能できて、割とお気に入りの場所だったりするが…どうやら今日は先客がいるようだった。

 ベンチに腰を下ろして天を仰いでいるその先客は、――獣人の年齢はイマイチ把握し辛いのだが――細身で赤毛の猫っぽい獣人の成人男性で、銀糸の刺繍が入った濃いえんじ色の仕立ての良いローブを身に着けており、どこかの都会から来た貴族か裕福な商人と言った、品の有る風情だったのだが、どうもお疲れのご様子で、どこかくたびれ感を漂わせていた。

 ……やっべぇ……生活に疲れてややしょぼくれ感が見え隠れする、働き盛りの青年紳士が人知れず弱っている姿とか…ストライクですわ…
 ……表情がわかりにくい動物ヘッドなのが惜しまれますが……

 私は、素知らぬ顔をしながらベンチの左端に腰を掛け、ニヤつきそうになる表情筋を戒めながら、横に座るお兄さん? おじさん? にバレないよう、街並みを眺める振りをした。すると、青年は私に気づいて座りなおし、チラリと私の方を見ると話しかけて来たではないか。

「……とても嬉しそうに見ているんだな」

 不意にどこかで聞いたことがある声色な気がしたが、それ以上にやましい気持ちがバレたのかと内心ビクリとしつつ、笑ってごまかす様に

「ええ、人が少しずつ増えてきているなーと思って…。活気のある町って見ていて楽しいですよね」

 と、微笑みながら答えていた。―――隠遁のブレスレットの効果で私も周囲に溶け込む獣人さんになっていると思うので、笑っている様に見えているかどうかはわからないが―――
 あまりこの辺じゃ見かけない種類の猫さんなので、ギルドか商店にやって来たお客さんだろうか? そう思いながら
 笑顔を崩さずコッソリ青年の姿を窺い見る。

 いやいや、お兄さんの哀愁漂うやつれた感じも、見ていて愉しいですよ?
 男は背中で語る…至言ですな。ごちそうさまです。

 などと、口が裂けても言えないが。惜しむらくは、獣人仕様であるため、イマイチ表情からのやつれ具合がわかりにくい所だろうか。すると青年は、私の返答に柔らかく微笑みを返してくれていた(と思う)のだが、急に視線を彷徨わせると、額に手を当てて眉を顰め始めたではないか。
 さすがにここまでくると、本当に青年の具合が悪そうだということに気づき、

「大丈夫ですか?」

 と、ゲスな思考を閉ざして声を掛け、空いていたスペースを詰める様に真横に移動してその顔を覗き込んだ。

「いや、ちょっと旅の疲れがでたのかもしれない。持病みたいなものだから、気にしないでくれ」

 青年は遠慮しつつ儚げに微笑みながらそう言うが、全く大丈夫そうには見えないため、私は

「…ここじゃ日当たりが良すぎて辛いかもしれないので、ちょっと日陰で休んだ方が良さそうですよ?」

 と声をかけ、そっと若干ふらついている様子の有る青年の手を取ると、青年は抵抗もせずにされるがままになってくれたので、近くの路地に入って日陰へと誘導したのだが――――建物の影に入って周囲に人がいなくなった瞬間、突然青年の周囲からキラキラとしたものが飛び出して、私の周囲を覆いだしたではないか。
 …とは言え、私は一目でそれが精霊さんたちだと分かっていたが…なぜ突然ここでそのような動きに出たのかと驚いていると、青年もひどく驚いた顔をして私を見下ろしていて……

 え…何?

 と思う暇もなく、突然穏やかな紳士然とした様子が一変し、どこか焦っているような性急な動きで私の両腕を掴んで拘束すると、青年の姿が残像の様にぼやけ始め………あれよあれよという間にクリスティアン王子の姿へと変化していたため、それをボンヤリ見守っていた私は、突然現れた王子の姿に驚いて反応が遅れてしまい、自分の変身が解けたと気づいた時にはすでに遅く、抵抗することもできずに壁に押し付けられていた。
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