【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ

エ□フ編その きゅう-上:本来電話なわけなんですよ、スマホって

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<まんなかのしまのこっちがわ、おおきなおやまにもなかまがいるよ>
<おやまにたくさんのひとがすんでてね>
<ときどきあそこのどうほうとおしゃべりしてすごしてるみたい>

<キリアン山脈に暮らす全人種たちは、あの地に国家ができる遥か昔から、我々に寄り添い、我々を敬い生きて来た>
<だから、あそこの人の子は勘がいい。その中でも突出した子はみんなお山に集まってくる>
<彼らは仲良く暮らしてる>

<やっぱりうわさになりはじめたね>
<いっしょうけんめいかくしても、ひめのちからはかくせないよ>
<あっちのなかまがきづいたみたい>
<最近、ここから何だかいい風が吹いているって>
<こないだ、あっちのほうからだれかがみてたから>
<おもっくそじまんしてやったwww>

<ふふふふ>
<へへへへ>

<こらこら、あんまり挑発するもんじゃないぞ、同胞たちよ>
<でもね、なんかおもしろかったよ>
<うんうん、姫がぶわぁーーーっと魔力を放出させたら、なんかビックリしてたよね。絶対>
<ひめは、きもちよくなると、たくさんたくさんまりょくをあふれさす>
<いきかえるいっぱい。そのいっぱいのためにがんばれる>

<我々が姫を隠し続け、その魔力を島に閉じ込めて来たため、今やこの地は、我々が生れし原始の地の如き魔素に満ちている>
<そろそろ隠すのも限界かな……でも、急に解放すると世界がビックリ>
<みんながねらってとりにくる>
<力に溢れた今や、姫一人を守るのは容易いが……我々の棲み処で余計な争いは困る>
<わたしたちはもりのごとく、しずかなくらしをいとおしむ>
<かってにちょっかいかけられたくないよね>
<山の子たちは、興味津々でこちらを窺ってるね>
<あそこの同胞を束ねる者が、何度も探ろうとしている気配を感じるのだが…>
<おっきい同胞は、力の方向を決める者>
<おねだりされたら、ことわれない>
<可愛がっている人の子も、きっとそれを望むだろう>

<さてさて、どうするか…>
<はてさて、どうしようか……>



 …………………。

 というような精霊さんたちのやり取りを、スマホのメッセージアプリを覗きながら流し読みしていたのだが。
 どうにも不穏な気配をビンビン感じるのは、多分気のせいではないだろう。

 私はただ、普通に静かに暮らしていきたいと思ってるだけなんだけど……

 中央大陸の方から精霊さんたちが守る結界に接触してきた存在がいると、この間の報告メールで家精霊さんたちが教えてくれたことで、最近ロビンやレオーネ、王子たちと話した他国の存在をようやく実感した。

 …いや、話してはいたんだけど、あんまりピンときていなかったと言うべきだろうか。
 想像力や危機感の欠如というか何と言うか……
 あんなに、「この国が最近ちょっとおかしいと話題にされつつある」って話してたのにね。

 …まあ、あの後の出来事で、ちょっと頭パーンになってしまっていたのかもしれないけど……


 とりあえず、一応IPアドレス…じゃないけど、発信先は特定できたらしいので尋ねてみたら、中央大陸は東側に位置する大国の1つ、アレフハイム共和国からだったという。

 なんかどっかで聞いた名前だな…と思ってマーリンに尋ねてみると、あの、例の全人種…エルフたちの国ではないですか。
 ほら、善五郎先輩がエロい接待受けた (多分)っていう、あの。 他にも何か話してた気もするが、…正直、私のこの世界の全人種に対するイメージなど、この程度である。

 それにしても……全人種(エルフ)かぁ……。

 思わず危機感もそっちのけで、「ほゎぁ…」っと、憧れのため息をついてしまうのは許してほしい。

 だって、やっぱりちょっと気になるではないですか。
 指輪物語の昔から、ファンタジー人種のド定番。――――…いや、獣人も大概だけども、それはそれ。
 みんなの憧れ、エロ…じゃなくて、エルフたんですよ?
 耳が長くて、すらっとしてて、キラキラしてて、美形ばっかりの……貧困な発想で申し訳ない(語彙)

 そんな人たちがいるなんて、そら想像するだけでもテンションも上がろうってもんじゃないですかね…?

 なんて、ちょっとかつての自分(厨二の魂)が刺激され、一瞬トキメイちゃったりもしたわけであるが、あちらも興味津々でこちらを窺い、不正アクセスまで試みて来たと言われると、ちょっと話はガラリと変わる。

 こちらの世界でのエルフさんたちは、魔力特化のエリート種族にして、大して多くない人口の一民族で一大国家を形成する強力な民族としても知られている。
 その上、ヒマラヤ山脈…程じゃないにしても、アルプス山脈程度の標高はありそうな山岳地帯に神殿を構え、ここにいる数と同程度…もしくはそれ以上の数と力を誇る精霊さんたちと共存しているなんて聞くと、店子の自分としては、ちと不安もよぎるというもので。
 幸い攻撃的な種族というわけではないらしいが、一族で固まって生活している程仲間意識が強い反面、割と排他的な部分もみられるとか………まあ、その点に関しては、それ程意外な感じはないのだが…

 そっか……そんな人たちが、興味津々に窺ってるんだぁ……

 ……だだだ、大丈夫だよね? 
 “一族大事” な血統主義っぽい人たちだっていうし…いきなり奴隷みたいにひっ捕まえようとしないよね?
 イキナリ「こいつ、おかしいぞ!」って言って、襲ってきたりしないよね?

 なんて考えだした私が急に顔色を変えて怯えだしたのを感じたのか、タロウはスリスリと頬を寄せて

『いや、主が奴らに攫われたりしないよう、我らも警備を厳重にするので、安心してほしい』

 なんて慰めてくれるので、私はそのモフモフの首にギュッと抱き着いた。 マーリンは

『そうそう、ご主人は家でのんびりしていればいいのニャ。ここに踏み込める者なんて、存在しないのニャ』

 と言って、タロウと私に挟まれながらも、頬をペロペロ舐めて宥めてくれた。


 普段から、ペットたちや精霊さんたちに乳母日傘で甘やかされている自覚のある私は、それでもやっぱり、ちょっと先行き不安になってしまうのだった。




 そんなある日のことだった。
 とある昼下がりの午後、大型狼獣姿のタロウのフカフカ胸毛に埋まりながらウトウトと昼寝を楽しんでいた時。

 トゥルルルルルル! トゥルルルルルル!

 と、間近から懐かしい我が家の固定電話の着信音のような音と、バイブ機能でガタガタと板の床で振動するが聞こえてきて、私は思わず飛び起きた。
 タロウも、胸毛にしがみ付く私を守るかのように前足で囲い込みながら、何かよくわからない大きな音と動くスマホに対して、『ウウゥ…』と鼻にしわを寄せつつ、警戒の唸り声を上げている。

「ちょ、なになになに!? 急に鳴り響いて来るから、すっごい心臓バクバクするんだけど!」

 そう言いながら胸毛から顔を起こし、視線を彷徨わせて音源を探ると、頭元に置いていたスマホから鳴り響いているではないか。

「…………やっぱこれかーーー………」

 電話着信音だし、そうじゃないかとは思ったけど…

 最初は咄嗟に手に取るのを躊躇してしまったものの、止むことなくいつまでも鳴り続け、床の上で振動を続けるスマホを見つめると、何やら出なければいけないだろうかという気になってしまうのは、私だけだろうか?

 思わず強迫観念のようなものに駆られ、私はその発信元を確認するべく恐る恐るスマホを手に取って、画面を覗きこみ……

【みみながさん(^-^)】

 と、表示された着信名に 「?」 となって、首を傾げた。

 ……なんぞ、それ?

 手の中で暴れ回るスマホから聞こえる家電着信音とバイブの振動音が、静かな家の中で木霊するのを聞きながら、私はただただその画面表示に目を奪われたまま――――スルーした。

 私、非表示の番号とか、知らない番号は出ない主義なんで。
 しかも、日本語でちゃんと書かれた着信……怪しさしか感じない。

 そうして、私は手の中で悲しく鳴きながら体を震わせている、 【みみながさん(^-^)】 からの電波を受信するスマホを、そっとクッションの下に差し入れて、再び昼寝を再開したのだった。

 君子危うきに近寄らず

 昔の人は、良い事言うよね~と、思いながら、私は眠りのふちに沈み込んで行ったのだった。
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