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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
颯太くんの成長日記 ⑥ ー姉ー
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この世界において万能を誇る(…と、思っている)精霊パワーで建てられたばかりの離れの一室―――別名『ラブホ部屋(私命名)』の扉の隙間から覗いている存在と目が合って、マーリンの頭を撫でていた手がビクッと震えた。
一瞬、この家に住む妖怪だか妖精だか知らないが、そういった人外さんが現れたのかと思って超ビビった。しかし、私と目が合ったのを悟った存在Aは、
『ギギィ…』
と、何故か古びたホラーハウスのような音を立てて扉を開き、足音も立てずに入ってくると、幼児のくせに恨みがましい百太郎の様な表情で睨みつけてきた。
その子供を「座敷わらし」と呼ぶには、あまりにも目つきが鋭すぎる。
あれは、妖怪の中でも大概穏やかで良い子だったりするはずなのだ―――見たことないけど。
間違っても、こんな風に人間の2~3人は呪い殺してそうな目つきはしていないはず。
しかも、その幼児の足元は何故か宙に浮いており、スゥッと平行移動でこちらに近づいてくるので、古めかしいホラー漫画かチャイルド・プレイ的ホラー映画みたいでめちゃくちゃ怖い。
ていうか、その幼児の顔をよく見たら、3歳位の頃の颯太にソックリじゃないの。
しかし、薄暗い照明の中で映る3歳児になった颯太に驚いたものの、「大きくなったのね」なんて明るく成長を喜べるような雰囲気ではなかった。
瞳孔が開いてハイライトの消えた瞳で私を見つめながら微笑みを向けてくるのだが、全く目が笑っていない。
彼は何故、妻と間男を見つけて嫉妬に狂った夫の様な目つきを私向けているのだろうか?
「ひぃぃ…」
そんな颯太から漂う異様な雰囲気に気圧されて、チビリそうな位ビビってしまう。
だが、ブラックホールのような昏い目から視線をそらすこと出来ず、無意識に近くでゴロゴロ寝転んでいるマーリンのしっぽをムンズと掴んで握りしめ、向けられた圧に押しつぶされないように頑張った。
こんな状況でも『ムニュムニュ』とうわ言を言いながら、寝ぼけて頬を擦り寄せてくる猫耳美少年の姿に和むどころかイラッとする。
「姉ちゃん…そいつ、姉ちゃんの何なの?」
や、ヤダ……なんか怖い…何なの、この雰囲気…
颯太から漂う圧の強さに、咄嗟に言葉が思い浮かばず、顔を引きつらせながらイヤイヤと首を降った。
マジ、泣きそう。
「ねえ、そいつ、姉ちゃんのペットじゃなくて彼氏だったの?
………どう見ても中坊位にしか見えないんだけど」
「いや、あの、彼氏って言うか……」
流石に18歳にもなる弟に、こんな中学生みたいな外見の猫耳少年を「夫なの」と言うには、色々問題がありすぎて…言葉に詰まった。
一生隠し通すとかまでは思っていないのだが、今、この状況では言い辛い。
ていうか、何を言ってもダメな気がする。
「彼氏でもないのに、一緒に住んで…えっちしてたんだ」
颯太は可笑しそうにクククと笑いながら言葉を繋ぎ…スィっと間近に近寄って、私の耳元で囁いた。
「子供に手を出すなんて、大人としてどうなの?
姉ちゃん、オッサンスキーとか言いながら、実はショタコンだったの?」
「うっ…………」
以前から、考えないようにしていた案件だったのだが、自分と同様の倫理観を持つ社会で暮らすものからの指摘の刃は、私の急所をゾブリと抉った。
うっ…うっ…せんせぇ…心が痛いです。
なんて、思わず心の安西先生に縋りそうになってしまったものの、気を強く持ってグッと顔を上げて颯太を睨み返した。
日本の条例なんか、世界が違えば関係ない! はずっ!
それでも私は頑張って、自分の社会的地位の復活のために心が折れないよう、強い口調で言い返した。
「でもでもっ!
この子、こう見えても100歳近いから!
種族も成長度合いも全然違うし!
ていうか、日本ですらない異世界で淫行条例とか、関係ないもん!!
この子たちと一緒に暮らしてえっちしてても、別に悪いことしてないんだから!」
……もう少し言い方というものがあるような気がするが、どうも焦ると言葉が幼くなる悪癖があるようだ。
そして、アラサーに脚を踏み入れている成人女子の子供口調だけでなく、家族に「えっちしてる」なんて言い放ってしまったことに気づいて恥ずかしくなった。
すると、自分の発した言葉に赤くなったり青くなったりと忙しない私をよそに、急に颯太が驚愕したように目を見開いて震え始め、自分の体を抱きしめながら呟いた。
「『たち』って…え…、まさか、あの犬も…っ!?」
しまった! そっちもあったか!
…ショタコンだったり、乱交だったり、ケモナーだったり……思い返すとつくづくまともな生活をしていないな…と、この期に及んで後悔する。
『その通り。我らは主の番として、この家で一緒に睦み合って暮らしている』
音もなく私達の前に現れた大型犬姿のタロウの声が部屋に響き、ベッドに乗り上がってポンッと音を立てて人化にしたかと思うと、座り込んでいる私の膝に頭を載せて寝転んだ。
その姿を見た颯太がギリギリと悔しそうに歯ぎしりしている姿を見ると、あと二人いるとは口に出せず、まして、更なるケモ耳ショタっ子の候補者までいるなんて、口が裂けても言ってはいけないと直感した。
『昨夜、お前が主の乳房から魔力を吸い取って眠った後、先程の我と同様にこの猫がお前の面倒を見ていた。
その間、我々は大層情熱的に睦み合っていたのだが…ククク…お前はよく眠っていた。
そして今日はこの者の番だったので、仕方ないから主との時間を譲ってやったのだ。
我々は、主が望めば二人で奉仕することもある。
番だからな』
なーんて、タロウにドヤ顔されながら自慢気に言われている間、険しい顔で私達を見下ろしながら、ワナワナと震える颯太の姿はまるで嫉妬に狂った夫の様だった。
外見は可愛い可愛い3歳児(装備:布の腰巻き)なのに。
ニコリと無邪気な微笑みで周囲を翻弄するほど可愛かった、あの頃の天使ちゃんはもういないのだと思うと切なくなった。
「う、うそだっ!
色気もなくって如何にも処女拗らせてるような姉ちゃんが、こんなガキンチョだろうと、二人の男相手に肉欲の日々を送るビッチになったなんて、ありえねえっ!!
姉ちゃん、この魔物どもに手篭めにされちゃったの!?
ホントは異世界でありがちな媚薬とか使われたり、やたらとエロくなる術とか掛けられてんじゃないの!?」
ちょ…おまっ…!
処女拗らせたとか、…なにげに私、ディスられた?
ていうか、こいつ…私の部屋で何か変なものでも見つけて読んだの?
それとも、男子高校生たるもの、異世界エロファンタジー知識は一般常識なの?
そう思ったが、割と打ち明けづらい事実も突いていたので、下手な話題を振られる危険性のある反論は控えることにした。
特に、しつこいようだが、あと二人+1名とか―――(以下略)
「うん…まあ、そうだから…そういうことになったから…」
私はモジモジと手慰みにマーリンの耳を弄って喉を指で掻いてやりながら、しっぽを弄んだ。
『ヒャウゥっ! そこ、気持ちいのニャ…ゴロゴロ』
…マーリンさんまだ寝てますか…
…ていうか、私の腿に顔を押し付けてスリスリしないでくださいな。
よだれが生暖かいです。
なんて、膝の重みと暖かさに、日向ぼっこしながら縁側で猫を撫でているおばあちゃんのような気分になって一瞬和んで現実逃避していると、急にマーリンがふわりと宙に浮いて…ベッドの端に放り出された。
『ギャンっ! なになに? 何が起きたニャ?』
突然持ち上げられて落とされたマーリンは、ベッド上への落下とは言え寝起きを叩き起こされ、マッパで座り込んでびっくりしながらキョロキョロと当たりを見回していた。
…まるで念動力のように無造作に浮かされていた。
……やっぱり、弟の仕業なのだろうか?
『ほう…やはり魔導師だったのか?
その魔力の大半を失った体で、修行したこともないのに無詠唱とは、恐れ入るな。
しかも、主の弟だけあって、変質的ではあるものの、人にしては見たこともない程の力を感じるが…
幼い体に見合わぬ魔力の濃度…姉の魔力は余程体に合ってたように見える』
タロウが関心したようにニヤリと笑いながら、フヨフヨと体を浮かして漂う颯太を見上げて声を掛けた。
「ええっ……魔導師…いいなぁ…」
自分で魔法を使うことができない私は、そんな状況でもないのに、羨ましい気持ちで颯太を見上げて呟いた。
『ふぁあ、びっくりしたニャ。いい夢見てたのに…。
ああ、ご主人の魔力が程よく浸透して、自分でも使えるようになったのニャ。
でも、まだまだ全身に行き渡るほどの量には程遠いから、あんまりハッちゃけない方がいいと思うニャ』
猫科の動物じみた動きでググッと背中を反らして伸びをすると、ベッドの端から四つん這いでノソノソと近づき、マーリンはあくびをしながら口を挟んできた。
「へぇ…俺、魔導師――魔法使いなんだ…。
30歳オーバーの童貞じゃないけど…クククっ」
…かつて自宅でこいつの乱行を見て逃げ帰った身としては、そのセリフは面白くもなんともないと思った。
しかし、俯いて表情が見えなくなりながら、やたらと闇を感じさせるようなくぐもった笑いをこぼす弟の姿に危険な気配を感じて目を離せない。
タロウはそっと私の前に移動して私と颯太との間に入り、マーリンは後ろから私の体を抱き寄せた。
颯太は、そんな私達の姿を見て、口の端を吊り上げて剣呑な笑みを浮かべると、目を細めて二人を見下ろす。
「何? 俺から姉ちゃんを守ろうっていうの?
ひどいな、俺、弟なのに?
お前たちが姉ちゃんの何であろうと、俺はレッキとした血の繋がった弟なんだよ。
こっからは家族同士の話があるから、ちょっとおまえら……どっか行ってくれないかな?」
この場にはそぐわない、とても穏やかで優しそうな口調だった。
しかし、優しそうに微笑んで不意に首を横にふると、
『ニャッ!?』
『まさか!!』
私を取り囲んで守ろうとしていた二人の姿がスッとかき消える。
上位魔獣としての力も確かな二人が一声上げただけで消されたことに、私は驚愕して声も出ない。
「ふふふ、すごいな、俺。
ねえ、やっぱり俺、死んじゃったのかな?
こんな事できるなんて、まるで夢見てるみたいだ…
でも、こんな風に姉ちゃんを独占できるなら…ここにいてもいいな。
姉ちゃんのいないあっちの世界に帰る必要ってないよね?」
そう言いながら、ポスっと私の腕の中に潜り込んでくる弟が、得体のしれない生き物のように見えた。
一瞬、この家に住む妖怪だか妖精だか知らないが、そういった人外さんが現れたのかと思って超ビビった。しかし、私と目が合ったのを悟った存在Aは、
『ギギィ…』
と、何故か古びたホラーハウスのような音を立てて扉を開き、足音も立てずに入ってくると、幼児のくせに恨みがましい百太郎の様な表情で睨みつけてきた。
その子供を「座敷わらし」と呼ぶには、あまりにも目つきが鋭すぎる。
あれは、妖怪の中でも大概穏やかで良い子だったりするはずなのだ―――見たことないけど。
間違っても、こんな風に人間の2~3人は呪い殺してそうな目つきはしていないはず。
しかも、その幼児の足元は何故か宙に浮いており、スゥッと平行移動でこちらに近づいてくるので、古めかしいホラー漫画かチャイルド・プレイ的ホラー映画みたいでめちゃくちゃ怖い。
ていうか、その幼児の顔をよく見たら、3歳位の頃の颯太にソックリじゃないの。
しかし、薄暗い照明の中で映る3歳児になった颯太に驚いたものの、「大きくなったのね」なんて明るく成長を喜べるような雰囲気ではなかった。
瞳孔が開いてハイライトの消えた瞳で私を見つめながら微笑みを向けてくるのだが、全く目が笑っていない。
彼は何故、妻と間男を見つけて嫉妬に狂った夫の様な目つきを私向けているのだろうか?
「ひぃぃ…」
そんな颯太から漂う異様な雰囲気に気圧されて、チビリそうな位ビビってしまう。
だが、ブラックホールのような昏い目から視線をそらすこと出来ず、無意識に近くでゴロゴロ寝転んでいるマーリンのしっぽをムンズと掴んで握りしめ、向けられた圧に押しつぶされないように頑張った。
こんな状況でも『ムニュムニュ』とうわ言を言いながら、寝ぼけて頬を擦り寄せてくる猫耳美少年の姿に和むどころかイラッとする。
「姉ちゃん…そいつ、姉ちゃんの何なの?」
や、ヤダ……なんか怖い…何なの、この雰囲気…
颯太から漂う圧の強さに、咄嗟に言葉が思い浮かばず、顔を引きつらせながらイヤイヤと首を降った。
マジ、泣きそう。
「ねえ、そいつ、姉ちゃんのペットじゃなくて彼氏だったの?
………どう見ても中坊位にしか見えないんだけど」
「いや、あの、彼氏って言うか……」
流石に18歳にもなる弟に、こんな中学生みたいな外見の猫耳少年を「夫なの」と言うには、色々問題がありすぎて…言葉に詰まった。
一生隠し通すとかまでは思っていないのだが、今、この状況では言い辛い。
ていうか、何を言ってもダメな気がする。
「彼氏でもないのに、一緒に住んで…えっちしてたんだ」
颯太は可笑しそうにクククと笑いながら言葉を繋ぎ…スィっと間近に近寄って、私の耳元で囁いた。
「子供に手を出すなんて、大人としてどうなの?
姉ちゃん、オッサンスキーとか言いながら、実はショタコンだったの?」
「うっ…………」
以前から、考えないようにしていた案件だったのだが、自分と同様の倫理観を持つ社会で暮らすものからの指摘の刃は、私の急所をゾブリと抉った。
うっ…うっ…せんせぇ…心が痛いです。
なんて、思わず心の安西先生に縋りそうになってしまったものの、気を強く持ってグッと顔を上げて颯太を睨み返した。
日本の条例なんか、世界が違えば関係ない! はずっ!
それでも私は頑張って、自分の社会的地位の復活のために心が折れないよう、強い口調で言い返した。
「でもでもっ!
この子、こう見えても100歳近いから!
種族も成長度合いも全然違うし!
ていうか、日本ですらない異世界で淫行条例とか、関係ないもん!!
この子たちと一緒に暮らしてえっちしてても、別に悪いことしてないんだから!」
……もう少し言い方というものがあるような気がするが、どうも焦ると言葉が幼くなる悪癖があるようだ。
そして、アラサーに脚を踏み入れている成人女子の子供口調だけでなく、家族に「えっちしてる」なんて言い放ってしまったことに気づいて恥ずかしくなった。
すると、自分の発した言葉に赤くなったり青くなったりと忙しない私をよそに、急に颯太が驚愕したように目を見開いて震え始め、自分の体を抱きしめながら呟いた。
「『たち』って…え…、まさか、あの犬も…っ!?」
しまった! そっちもあったか!
…ショタコンだったり、乱交だったり、ケモナーだったり……思い返すとつくづくまともな生活をしていないな…と、この期に及んで後悔する。
『その通り。我らは主の番として、この家で一緒に睦み合って暮らしている』
音もなく私達の前に現れた大型犬姿のタロウの声が部屋に響き、ベッドに乗り上がってポンッと音を立てて人化にしたかと思うと、座り込んでいる私の膝に頭を載せて寝転んだ。
その姿を見た颯太がギリギリと悔しそうに歯ぎしりしている姿を見ると、あと二人いるとは口に出せず、まして、更なるケモ耳ショタっ子の候補者までいるなんて、口が裂けても言ってはいけないと直感した。
『昨夜、お前が主の乳房から魔力を吸い取って眠った後、先程の我と同様にこの猫がお前の面倒を見ていた。
その間、我々は大層情熱的に睦み合っていたのだが…ククク…お前はよく眠っていた。
そして今日はこの者の番だったので、仕方ないから主との時間を譲ってやったのだ。
我々は、主が望めば二人で奉仕することもある。
番だからな』
なーんて、タロウにドヤ顔されながら自慢気に言われている間、険しい顔で私達を見下ろしながら、ワナワナと震える颯太の姿はまるで嫉妬に狂った夫の様だった。
外見は可愛い可愛い3歳児(装備:布の腰巻き)なのに。
ニコリと無邪気な微笑みで周囲を翻弄するほど可愛かった、あの頃の天使ちゃんはもういないのだと思うと切なくなった。
「う、うそだっ!
色気もなくって如何にも処女拗らせてるような姉ちゃんが、こんなガキンチョだろうと、二人の男相手に肉欲の日々を送るビッチになったなんて、ありえねえっ!!
姉ちゃん、この魔物どもに手篭めにされちゃったの!?
ホントは異世界でありがちな媚薬とか使われたり、やたらとエロくなる術とか掛けられてんじゃないの!?」
ちょ…おまっ…!
処女拗らせたとか、…なにげに私、ディスられた?
ていうか、こいつ…私の部屋で何か変なものでも見つけて読んだの?
それとも、男子高校生たるもの、異世界エロファンタジー知識は一般常識なの?
そう思ったが、割と打ち明けづらい事実も突いていたので、下手な話題を振られる危険性のある反論は控えることにした。
特に、しつこいようだが、あと二人+1名とか―――(以下略)
「うん…まあ、そうだから…そういうことになったから…」
私はモジモジと手慰みにマーリンの耳を弄って喉を指で掻いてやりながら、しっぽを弄んだ。
『ヒャウゥっ! そこ、気持ちいのニャ…ゴロゴロ』
…マーリンさんまだ寝てますか…
…ていうか、私の腿に顔を押し付けてスリスリしないでくださいな。
よだれが生暖かいです。
なんて、膝の重みと暖かさに、日向ぼっこしながら縁側で猫を撫でているおばあちゃんのような気分になって一瞬和んで現実逃避していると、急にマーリンがふわりと宙に浮いて…ベッドの端に放り出された。
『ギャンっ! なになに? 何が起きたニャ?』
突然持ち上げられて落とされたマーリンは、ベッド上への落下とは言え寝起きを叩き起こされ、マッパで座り込んでびっくりしながらキョロキョロと当たりを見回していた。
…まるで念動力のように無造作に浮かされていた。
……やっぱり、弟の仕業なのだろうか?
『ほう…やはり魔導師だったのか?
その魔力の大半を失った体で、修行したこともないのに無詠唱とは、恐れ入るな。
しかも、主の弟だけあって、変質的ではあるものの、人にしては見たこともない程の力を感じるが…
幼い体に見合わぬ魔力の濃度…姉の魔力は余程体に合ってたように見える』
タロウが関心したようにニヤリと笑いながら、フヨフヨと体を浮かして漂う颯太を見上げて声を掛けた。
「ええっ……魔導師…いいなぁ…」
自分で魔法を使うことができない私は、そんな状況でもないのに、羨ましい気持ちで颯太を見上げて呟いた。
『ふぁあ、びっくりしたニャ。いい夢見てたのに…。
ああ、ご主人の魔力が程よく浸透して、自分でも使えるようになったのニャ。
でも、まだまだ全身に行き渡るほどの量には程遠いから、あんまりハッちゃけない方がいいと思うニャ』
猫科の動物じみた動きでググッと背中を反らして伸びをすると、ベッドの端から四つん這いでノソノソと近づき、マーリンはあくびをしながら口を挟んできた。
「へぇ…俺、魔導師――魔法使いなんだ…。
30歳オーバーの童貞じゃないけど…クククっ」
…かつて自宅でこいつの乱行を見て逃げ帰った身としては、そのセリフは面白くもなんともないと思った。
しかし、俯いて表情が見えなくなりながら、やたらと闇を感じさせるようなくぐもった笑いをこぼす弟の姿に危険な気配を感じて目を離せない。
タロウはそっと私の前に移動して私と颯太との間に入り、マーリンは後ろから私の体を抱き寄せた。
颯太は、そんな私達の姿を見て、口の端を吊り上げて剣呑な笑みを浮かべると、目を細めて二人を見下ろす。
「何? 俺から姉ちゃんを守ろうっていうの?
ひどいな、俺、弟なのに?
お前たちが姉ちゃんの何であろうと、俺はレッキとした血の繋がった弟なんだよ。
こっからは家族同士の話があるから、ちょっとおまえら……どっか行ってくれないかな?」
この場にはそぐわない、とても穏やかで優しそうな口調だった。
しかし、優しそうに微笑んで不意に首を横にふると、
『ニャッ!?』
『まさか!!』
私を取り囲んで守ろうとしていた二人の姿がスッとかき消える。
上位魔獣としての力も確かな二人が一声上げただけで消されたことに、私は驚愕して声も出ない。
「ふふふ、すごいな、俺。
ねえ、やっぱり俺、死んじゃったのかな?
こんな事できるなんて、まるで夢見てるみたいだ…
でも、こんな風に姉ちゃんを独占できるなら…ここにいてもいいな。
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