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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
異世界お宅訪問編 エルフさんのお宅から ①
しおりを挟む「初めまして、ソータ様。私はヨナと申します。
マイカ様の夫の一人であり、このアムリア神殿で神官長を務めさせて頂いております。
女神とも呼ばれる方のご親族にお会いできて、光栄でございます」
人外的美しさを誇る我が夫はそう言って一礼した後、当社比3倍位に輝かんばかりの笑顔で颯太の手を取った。
挨拶を受けていた弟は、その笑顔溢れる美貌に…微かに揺れる長い耳に見とれていたものの、手を取られた瞬間ハッと我に返った。
「あ、ど、どうも」
しかし、ぎこちないながらも咄嗟に言葉を絞り出した様子を見ていれば、昨日のムッツリとした無愛想な態度も鳴りを潜め、多少は交流しようとの意志を感じる。
しかし、それ以上にヨナの美貌と謎のハイテンションに気圧されていくのか、取られた手を引き剥がすこともできないままとはいえ、体は少しずつヨナから距離を取ろうと試みている様だった。
そして、ヨナと対峙する表情そのままに、そっと横にいる私に目配せした。
え、マジか?
今回もイケメンだろうとは思ってたけど、ちょっとここまで人外レベルの美しさは想定してなかったんだが。
この人、ホントにお前の夫なわけ? 騙されてない?
そう問いたげな弟の視線に「私も未だに信じられないよ」との思いを込めて、首を振って苦笑を返した。
まぁ、弟が戸惑い、疑惑の眼差しを向けてくるのも致し方ないと思う。
一般的な大和民族のいち平民でしかない私などが、『夫』と呼ぶのも烏滸がましい程に、ヨナは美しいのだ。
背中を覆うほど長くて艶めく淡い銀緑の髪は、彼が動く度にサラサラと流れ、淡い紫水晶の様な瞳が白皙の美貌を彩っている。
加えて、クリスティアンに比べれば細身のため小柄に見えるけれども実は、しっかり締まった筋肉がついており、それでいて肢体は欧米の一流モデルと言われても疑いない程均整が取れている。
そして、何よりも……そのエルフの象徴とも言える長い耳は、世のファンタジーオタクども垂涎の逸品であり、感情に合わせてピコピコと動く可愛らしさに、私は何度欲望に負け―――ゲフゲフ。
いや、まぁ、そういうことなので。
地球広しと言えども、生でこのレベルの美貌に出会うことなど滅多に無く、ましてやその美貌の真横にエルフ耳なんて至宝までついてしまったとあれば、未知との遭遇に弟がキョドってしまうのも無理はないのである。
しかし、流石は精霊さん達に『まおう』と呼ばれる男である。
反射的に表情筋だけを取り繕った笑いを辛うじて浮かべていたものの、直ぐに気持ちを立て直して表情を取り繕い、今度は営業的に微笑んだ。
「…す、すみませんボウッとして…。初めまして。弟のソータです…」
流石、地元最強のコミュ力を誇る、おばさまたちのアイドルである。
年上年下関わりなく、老若男女に受けが良いと評判の至近距離での上目遣いも堂に入っている。
それに昨日の対応を繰り返す気もなかったのか、反射的とは言え一応握られた手を軽く握り、小さく礼を返したのだった。
弟よ……。昨日とは大違いじゃないですか。
今日はちゃんと挨拶を返してくれるのね。
お姉ちゃん、嬉しいです。
私と言えば、そんな些細な成長を見せる弟の姿を、まるで子育てに苦しむ母親の様に見守りながら、目を潤ませて感動に浸っていた―――のだけれども。
感動の涙に曇った眼は、肝心の颯太が、ヨナから発する謎の歓迎モードの熱に押されて更に半歩下がろうとしていたり、互いに笑顔ながらも半ば強引に握り込まれた手を必死に引き剥がそうとしている姿を映してはいなかったのだった。
そして私達は、互いの挨拶もそこそこに、3人で話をするため神殿の最奥にあるヨナの書斎へと移動していったのだが―――座席配置に、何か意図的なものがあるのだろうかと、内心首を撚っていた。すると―――
「おい、何で俺とあんたが隣り合って座ってんだ?」
対面に座っている弟が、「何これ?」と言わんばかりに訝しげな表情で真横のヨナに問いかけた。
慣れていなかったとは言え、それでも辛うじて使っていた敬語もどこへやら、すっかりいつもどおりの口調である。
あ、よかった。おかしいと思ったの、私だけじゃなかったんだ。
自分の疑問への賛同者がいると知って、年長者に対する弟の失礼な口の訊き方を咎めもせず、思わず安堵の息をついた。
というのも、質素にして高価そうな2つの3人掛けのソファにそれぞれ2:1で座る様に誘導されたのだが、奥の側の座席に手を握られたまま誘導された颯太とヨナが座る対面に、私一人座っているという謎の配置となっていたのである。
普通、家族として私と颯太か、夫婦として私とヨナが隣り合うもんじゃない?
そう思って口を開こうとしたのだが、言葉が出るより先に申し訳無さそうに謝るヨナの言葉に口をつぐんだ。
「あぁ、申し訳ありません。
そうですね、そちらの習慣では、お客様はホストと隣り合って座られないのでしたね?
すみません、側近の者もいつもと同じ様に茶器を配置してしまい、私も気が付きませんでした」
―――羞恥に頬染めながら、シュンとするエルフ可愛い。恥ずかしくてピコピコする耳、超カワユス。
私は内心の興奮を悟られないよう平静を装いながら、夫のあざと可愛い姿を舐めるように眺め、そっと…しかし鼻息荒くお茶を啜る。
何度見ても、ヨナの耳には萌えが溢れていると思うのである。
そうとなれば、最初は疑問に思ったものの、まぁ、別にこんな配置もあるのかなと思い直そうとしている自分がいるわけで。
「そうだね。社会的マナーって、国によって違ってたりするから、難しいよね」
揺れる長い耳にこっそり目を奪われつつ、私はニッコリと夫へ微笑みを返す。
そして、静かに不満を顕にする弟へもそのままの笑顔で目線を配ると、「ちっ」と舌打ちを返されはしたものの、それ以上の言及はなかった。
未だ反抗期が抜けきれない子供っぽい所も可愛い弟である。
「てかさ、座席云々はいいよ。良くないけど、まぁいいとしよう。
ただ………いい加減その手、放してくれない?
あんたたちの習慣はよく知らないけど、流石に俺よりガタイのいい男にいつまでも握られてるの、ちょっと嫌なんだけど」
そう言って、弟は挨拶当初からずっと握りしめられていた手を激しく振り回してく振り解くと、名残惜しそうなヨナを無視して、サッと素早くソファの端まで身を離して距離をとった。
まるで懐かない野良猫の様である。
でもさ、途中で無理やり引き払って握られた手を外すことだってできただろうに、そのままソファに相席しちゃうまで振りほどかないんだ…。
なんて思ったけれども、それを口に出してしまえばビシッと空気が凍りそうな気がしたので、私は賢明にも内心の思いは口に出さずにやり過ごす。
そして、口を開く代わりというわけではないが、再びお茶の香りを楽しみ、静かに啜りながら二人を見守るのだった。
側に仕える近侍の人が用意して、ヨナが淹れてくれたお茶は、コアントローかブランデーでも入ってるのか、ほんのり漂う洋酒の香りが芳しく、蜜を垂らさなくても微かな甘みがあって美味しかった。
この地域では、レモンなどの果実よりも、花の蜜や洋酒などを紅茶にひと差し垂らして、お茶の香りと甘みを楽しむ文化があり、私もここへ来るたびに楽しませてもらっている。
颯太も同じ様に思ったのか、一口飲んでは目を輝かせると、私よりも多めに琥珀色の液体を入れてもらって、洋酒の香りを楽しんでいるようだった。
それにしても…ちょっと、らしくないかな…? とは思ったけれども、ヨナにどんな意図があるのかまでは分からず、私はカップを口につけたまま、そっと対面の二人を眺める。
ちなみに、クリスティアンとの対面時とは違って、今回は部屋の中に侍従の役割をする従神官が一人だけ扉の脇に控えているので、今日は颯太のご挨拶周りの意味合いからも、異世界云々のあたりをボカし、込み入った話はせずお話しなければならない。
とは言え、ヨナとの婚姻を内々でお披露目した時に紹介された4人の内の一人だったから、問題はないと答えたのだけども―――何故彼が?……と、思う程度には違和感があった。
この人―――コンスタン神官もヨナ程ではないにしても、日本では滅多に見ることができないレベルの美貌と肉体美を誇る美丈夫ではあるのだが―――それにしては、普段よりも目つきが妙に熱い気がして、意図的に見るのを避けてしまっていた。
その熱視線にこちらが焦がされそうな気がして、「なんかこいつヤバい」と思ってしまったのだ。
この人って、軍務の責任者だって言ってなかったっけ?
なんで、コンスタンさんが侍従みたいなことしてんの?
いや、デキる人みたいだし、今でも卒なく控えててくれるし、別に問題はないんだけど……圧が…目の圧が……。
………いつも穏やかな微笑みで控えててくれる、癒やし系中年のイシュト神官はどこへ行ったのだろう。
思わず遠い目をしながら、何度目かの小さなため息をつく。
気の所為だと思いたいんだけども……私以上に場の空気を察する事に長けた颯太も、二人の熱気を感じて微妙にやり辛そうにしている様に見えるので、やっぱり何かがおかしいのだと理解した。
鼻息荒くガン見してくる側近と、少女の様に浮き立っている夫の視線に晒されながら―――姉弟二人して、一定の温度を保たれた室内にいるとは思えない程、妙に熱い空気の中、夫と弟の初対面の場は始まっていったのだった。
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