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第一章
13.王様はドMだけど、誰彼構わない訳じゃない。
しおりを挟む「うん、だからね。 こういうのって、もう少し、お互いがわかり合ってからすることだと思うのね」
現在、急激に冷静さを取り戻した私達は、いそいそと乱れた衣服を元に戻し、再び対面して話を戻すことにしたのだが…。
何故かエイリーク王は私の足元で、そうそう見かけない位に素晴らしい土下座スタイルで座り始めた。
「はいっ。 いくら理性を失っていたとは言え、無抵抗で無垢なカエデ様にこの様な狼藉をするなど、首を落とされても文句など言えません。申し訳ありませんでしたっ!」
エイリークは、大きな体を小さくさせながら、額を地面に着けたまま謝罪を繰り返している。
私と言えば、そこまでしなくても…と思うけれども、かと言って対面して冷静に話が出来るようになれているとも思えないので、そのまま上から見下ろすように声をかけている。
いや、それでもなんだかなぁ……なんなの、これ。
内心ため息をつきながら、平身低頭する立派な身なりのイケメンの後頭部を見下ろし、そこはかとなく湧き上がる居心地の悪さを噛み締めた。
ギンギンに勃起したモノをモロ出しにして迫るエイリークに怯えた私は、悲鳴を上げながら強烈な左フックをカマして彼を床に叩きつけた。
思った以上の力が籠もった強烈な一撃に理性が飛んだのか、倒れ伏したエイリークは焦点の合わない目で更に飛びかかって来ようと瞬時に起き上がった。しかし、私の「お座り!!」との叫びに反射的に土下座して、ようやく正気に返ったらしい。
そして、「お座り」の命令のまま体が勝手にこの様な、今までの人生で一度も経験のない体勢をとっていたことに驚くも、じわじわと自分の暴挙を思い出して……心の底から申し訳ないと思ったらしい。
最初は意図せず強制的にさせられていた体勢であったが、そこに謝罪の心が伴えばとても自然に受け入れた。ただ、それ以上に私にその姿を見てもらえているという事実に喜びを感じてしまったと……聞きたくなかったことまで聞かされた。
ドMか……ドM獣人なのか。
自己顕示欲の強いタイプのドMなのか!?
静かにドン引きしながら問いかける私に応えるものは、今この場にはいなかった。
「んァッ…カエデ様……っ…本当に…なんてことを……ハァハァ……」
「………うん、それはもう良いって言ってるでしょ…」
そんなに嬉しそうに言われても…ただただキモいだけだし。
気づかれてないと思ってるかも知れないけど……その股間、また大きくなってるよね……?
もう、そんなにビビったりしないけど…貴方が体を起こす度にチラチラと見え隠れしてる凶器はちょっと私の目に触れない様にしておいてほしいの。
あえて焦点を合わせず見ないように努めるも、なんだかこいつのプレイに巻き込まれてる感じしかなくなり、大人しく付き合ってる自分がバカバカしくなってきた。
「うん、まぁ、ホント、話進まないから、ちょっと顔上げて…
そろそろ、今回のお話の本題に入っていいかなぁ…」
かなり投げ遣りな態度になっていることを隠しもせず、エイリークの後頭部に声をかける。
私の許しを得た王様は、嬉しそうにハッハッと肩を揺らして見上げてくるので、なんだか近所の大型犬でこういういたなぁ…と思い出しながら話を続けた。
「私があの住処を円満に出ていくことに協力して欲しいことと、一人で自活できるよう、色々なことを教えてもらおうと思って…。魔法とか、一般常識とか。
ママンのところじゃちょっと高度過ぎて、ついていける気がしないんだよね…。
図々しいお願いで申し訳ないんだけど……だめかな?」
私の言葉にエイリークは、フサフサの尻尾をパタパタと音立てて揺らしながら、見上げて嬉しそうに笑って、
「貴女があの家を出ること事態は是非とも応援させていただきたいくらいなので、かまいません!」
勢いづいてそう言った後、何か考えるように少し首を傾けて言葉を続けた。
「ただ、神獣様をあまり悲しませたくないのも、我が国の国民の心でもあります。
我々は、神獣様ご本人に対して忠誠を捧げておりますので、あまり神獣様を悲しませないようにお願いしたいと思っています。
しかし…弟君方に対しては…少々勝手が変わるかもしれませんけどね」
最後の言葉の時にニヤッと笑った様に見えた気がしたが、すぐに収まったので気のせいかと思い直す。
「ん? ロキやヴォル? まぁ、お姉ちゃん子だし、ちょっとごねるかもしれないけど、そのうち分かってくれると思うよ。家族なら。」
「家族なら…そうでしょうねぇ……」
何やら意味深な含みをもたせた呟きであったが、あまりよく聞こえなかった上にピンと来なかったので、私は肝心な所を聞き逃していたのだった。
しかし、今後の円満な家出計画に対しては味方になってくれると言うので、今回のミッションは達成されたといえる。
その後、あるとあらゆる消臭剤、魔力消し、気配消しを駆使した上に体液のついた衣服を焼却して、着替えまで行った。そして、体についた鬱血痕をヒールで直して、痕跡を消すと、何食わぬ顔で弟たちを迎えに行ったのだったが…
それでもバレるかな…?と思ってヒヤヒヤしていた私の反応にも気づかず、弟たちは獲物の血塗れになって、毒ガスを吹きかけるイタチの最後っ屁を食らったから、鼻がきかなくて辛いとボヤいていたので、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
しかし、ママンがそんな私達の後ろから『あらら…うふふ…』と、微笑ましいものを見るような表情で微笑んでいたことなど、私は気づかなかった。
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