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第一章
14.エイリーク少年(47歳)の回想①
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私の名はエイリーク=ファング=エル=フェンテイト。
36歳の時に成人の儀を終え、その翌年に即位することとなった、フェンタスト王国の若き国王である。
即位から10年を数える現在、47歳と若輩である故に自己研鑽を惜しまず、姉や叔父や忠実な家臣達の協力を経て、それなりに我が国の治世は安定していると自負している。
私の年齢が47歳…と聞いてカエデ様は「…お父さんとタメ…?」と驚いていたが、我々の寿命が250~280歳程であることを説明すると、「…大体3分の1程度の計算ね、ナルホド」と納得はされていた様だった。
その後少し考えた後「……えっ!?16歳!?」と再び声を上げていたが、彼女が若干20歳である事を聞くと、こちらの方が驚かされた。
20歳なんて…私達にとっては、親元から離すことなどとんでもない程の幼女である。しかし、彼女達の世界では成人する年齢であると聞いて、お互いの成長速度の違いを思い知った。
…それにしたって、カエデ様の小さなお姿を拝見した時には、40歳(14歳)位かと思っていたのだが、あちらの世界では私よりも年上の外見であると言われてもピンと来ない。
髪も大人の女性…と言うには短すぎ、少女の様だったし。…彼女にはとても似合っているし、文化の違いだと分かっているのだが、肩程度までしかない髪というのも、こちらの常識としては成人女性がするには幼すぎるのである。
ただ、その程度の年齢差であれば、私の相手として何も難はないけれども。
まぁ、それはともかく……。
私が安定した治世をしいていた折に、我が国の神獣様が出産されると言う慶事に恵まれる事態となり、我々は国を上げてその祝祭を開いた。
その知らせを受ける1ヶ月程前までは、急に神獣様のお姿もお声も確認できなくなって沈んでいただけに、その祝は盛大なものとなり、王都から離れた住処で過ごされていたご一家はご存じなかったと思われるが、その興奮の宴は10日もの間続いたのだった。
『機会があったら会わせてあげるわね。
うちの子、3匹もいるのだけれど、すっごく可愛いのよ』
1ヶ月毎の奉納の際、神獣様のご出産の後初めての通信で確かにそう告げられ、そのお優しい気遣いを受けた我々は歓喜に震えた。
そして、日々の感謝をお伝えし、初めての子育てを行う神獣様のお力になれるようにと、再び月に1回の貢物を全力で組み上げていったのだが……
出産後2ヶ月目の奉納時から、窓口は神獣様ご本人ではなく神獣様のご息女…カエデ様となっており、もったいなくも直々にお声を掛けていただける様になった。
『いつもありがとうございます。
私は大変助かっていますが、こんなにいただけるなんて…そちらはお困りではないでしょうか?』
カエデ様は生後1ヶ月とは思えない程流暢な言葉を操り、毎回我々に労いの言葉をかけていただける様なお優しい方だった。
神獣であるフェンリル様は、生後何週間かの内に親や先祖からの生存に必要な基礎知識が遺伝・伝達されるため、異種族との会話や生活行動に困ることはないと、家庭教師であった老博士から教授されたことがある。
その基礎知識を現状となじませながら親と共に生活する1年の内に体を成長させ、実地訓練として魔力や体の使い方を学んでいくのがフェンリルの生態であるそうだ。
しかし、丁寧な口調で我々の様な他種族への労いや気遣いを伝えてくれる彼女の心根は、それを差し引いたとしても、得難く稀有な気質であると思い、彼女らに対する敬意が留まることを知らなかった。
その声も、少女の様に高い声だったが、柔らかい口調でありながら何処か芯のようなものを感じさせる、いつまででも会話をしていたいと思わせる様な…心地よい響きのものだった。
母君である神獣様は、処女雪のような輝くばかりに美しい真っ白い毛皮の持ち主であるが、この姫御子様はどの様なお色なのだろうか……?
きっと、ピンと立った耳や尻尾が凛々しくも、まだまだ小さくて可愛らしいお姿なのだろう。
我々は彼女達が神獣様よりお披露目されるその時を、心浮き立つ予想を語り合いながら心待ちにしていたのだ。
しかし、その期待はある日裏切られることとなった。もちろん、私にとっては良い意味で。
初めて出会ったカエデ様は…全く思っていた姿ではなかったけれども、それはそれは可愛らしい方だったから。
その日、私は日課である献上台の確認をするべく、奉納の間に訪れていた。
先日の献上物はカエデ様に喜んでいただけただろうか?
今までの神獣様は、我々が献上する物に対して要望を仰ったりすることなく、時々礼を述べられる程度のあっさりしたものだったが、カエデ様はこちらが嬉しくなるほど喜んでくださるのだ。
これでは、貢物によって愛情を示したがる我々が、天にも昇ってしまいそうな程喜んでしまっても仕方のないことである。なので、最近は献上物の選定にも常ならぬ気合が入る。
カエデ様は美しい織物や珍しい海の加工物などをお好みになられるようなので、私が直々に織りや刺繍の美しさだけでなく手触りや肌にあたる質感も確認して、これ以上ない程に質の良い物を手配しておかなくてはならない。
忙しい政務の合間合間に選定を進めつつ、ふとした時にそんなことを考えながら部屋に入った時だった。
献上台を使用する際に鳴らされる『ピンポーン』という召喚鈴の音が微かに響いた様な気がして台に近づくと、いつもなら自然の光を反射する程度に、慎ましやかに光を湛えている魔石がチカチカと点滅していることに気付いた。
…あちらから、何か来るのだろうか?
この台は、王宮の背後にそびえ立つ山の中腹にある神獣様の住処とここの双方向でしか行き来ができない。
転移陣そのものが、国家機密でもあり高度な魔法技術を織り込んでいるため、それ以外では、軍事的・政治的に重要な拠点でしか使用することは許されていないからである。
そのため、私は疑いもなく神獣様側から何かが移動してくると思って、心が沸き立ち―――思いもしない存在が転移してきたことに驚愕した。
それは、見覚えのある柄のボロ布を纏った全裸に近い姿の少女……しかも、神獣様の様な獣身ではなく、どう見ても我々と同じ2足歩行の人間の女性だった。
身長も小さく、私の胸あたりまでしかないと思われる。
しかし、その体躯もほっそりとしていて華奢な作りであったが、幼い顔貌の割に出るとこは立派に出ているようだと、一瞬にして全体を確認する―――オスの本能として。
そのあどけない様子からすると、年齢的には私より少し下…40代前半という所だろうか。
肩に触れる程度に短く整えられた艷やかな黒髪は丁寧に手入れされ、黄みがかった白い肌はまるで南方の海で採れる上質な真珠を思わせた。
この辺りでは髪や瞳も色素の薄い者が多く、顔も彫りが深いのが特徴的だ。故に、彼女の持つ色彩だけでなく、整っているものの凹凸に乏しい顔立ちは珍しいものだった。しかし、
可愛い娘だな…ふと漂ってくる香りも微かに甘い。それに小さくて華奢で柔らかそうな体も私好みだ。
不信感も疑念もすっ飛ばして、そんな感想がすとんと心に落ちてきた。
我々狼獣人は、鼻が利く分外見的美醜以上に、匂いの好みにうるさい。
その点からも、見たこともない彼女の存在は私の好みにドンピシャだった。
ただ、その容姿の特徴には全く馴染みはなかったのだが、しかし、微かに耳に届いた「ひっ!?」という悲鳴が、どこかで聞いたことのある…好ましい者の声だったような気がして内心首を傾げた。
あちらも、私の存在が想定外だったようで、その黒くて大きな瞳はより丸く開かれて、瞬きもせずに私の動きを映しながら、私と同様に現状認識が追いつかず、全身の機能が止まっているようだった。
「「…………」」
互いに思考が停止して見つめ合ったまま数秒が過ぎ…ハッと我に返ったのは私のほうが先だった。
微かに漏れ聞こえた声が誰のものだったのかを脳内で検索して、この数秒の間に、彼女が献上台の向こう側から現れた現実と照らし合わせることに成功したのだ。
「……まさかその声…カエデ…様……?」
恐る恐るといった気持ちで声をかけると、彼女はビクッと体を揺らし、信じられない物を見るような目で私を見つめた。
その姿があまりも可愛らしく、妙に艶かしく感じ…私はその時初めて、彼女がなんとも扇情的な姿で立っていることを認識して息を呑む。
申し訳程度に体に纏う布は、私が糸や染色素材から選定し、自分の頬を擦り寄せて、完成品の質感まで確認したという、特別なものなのですぐに分かった。
しかしその布は、最初は衣服として体に巻き付けられていたと思われるのだが、まるで紐状になるほど無残に引き裂かれ、程よく大きな胸や薄い腹、滑らかな背中やすんなり伸びた脚など…彼女の体をほとんど露わにしてしまっている。
羞恥に頬を染めながら、なるべく自らの細い腕で胸や股間などを隠そうと覆ってはいたが、華奢な腕から溢れるように顕になる豊かな乳房は、薄い紅色の乳首を見え隠れさせており、オスの性サガとして思わず視線を集中させた。
細いながらも肉付きの良い太股なんか完全に丸出しとなっていて、年齢の割に色っぽい風情に思わずゴクリと唾液を嚥下する。
そして、その手で覆っている股間にも、下着と思われる桃色の布がチラチラと見え隠れしており…余計にそちらも気になって仕方……ないだろっ、こんなの!!
好みのエロい美少女前にして、冷静になんて語れんわ!
これまで、国王という立場上、群がってくる女性たちとのふれあいもそこそこに必死に頑張ってきたご褒美だろうか。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。そうなると、都合のいい妄想が止まらなくなるのもご馳走を前にした男の性である。
これはきっとご褒美……というか、神獣様のご加護かもしれない。そうに違いない。
あ り が と う ご ざ い ま す。
私も幼い頃…というか精通が来るか来ないかの時点から、世継ぎを残すための閨教育は受けていたし、これまでもそれなりに女性には言い寄られてきた。
若くして国王になったため、色恋以上に他にやることも多く、のめり込むには幼すぎるということもあり女性との関係などは淡泊なものだったが…それは自分が興味を抱けていなかったからだと、今気付いた…というか、気付かされた。
何故なら、一見してしまえば痴女にしか見えないはずなのだが、その身から立ち上る芳しい少女の甘い香りが、彼女の色香を際立たせ、私の脳髄の奥から欲情を掻き立てているから。
なんだ、このソワソワと落ち着かない気持ち…。
それに、やけに体の奥が熱い…
…気づけば私は、頭に血が登っていく様な高揚感と、口や鼻から何か飛び出そうな危機感から口元に手をあて……彼女の姿を目に焼き付けるように、まんじりともせずに凝視していた。
彼女はそんな私の姿から何かを感じ取ったのだろうか…私の強い視線を認識すると、
「いぃ…いやーーーーっ!! やだっ!! こっち見ないでっ!!」
と言って、献上台に駆け寄り、母である神獣様に助けを求める声にハッと我に返ったが―――
…そんな風に取り乱す彼女を逃げ出せないように取り押さえて、唇を塞いで小さな舌を悲鳴ごと吸い上げてしまいたいと思って目を細める。
何かしらの軍事訓練を受けたこともなさそうな、大して俊敏でもない華奢な彼女の動きを封じることなど容易いことの様に思えた。……尤も、神獣様の眷属と思われる彼女にそのような狼藉などできようはずもないのだが。
しかしその結果、身動きがとれないなりに、腕からこぼれ落ちてフルンフルンと揺れる乳房や、屈んで顕になった柔らかくて張りのある尻から目が離すこともできず、かと言って下手に触れるわけにも行かなかったため、逃げようとする彼女を見守りながら「あ……」と、小さく呟いたにとどまった。
そして、消えゆく彼女の姿を認めて初めて、何やら胸が締め付けられる様な気がして声をかけた。
「カエデ様っ…待って…」
ようやく掛けられた言葉も届くことはなく、力なく引き留めようと伸ばした手をギュッと握った。
36歳の時に成人の儀を終え、その翌年に即位することとなった、フェンタスト王国の若き国王である。
即位から10年を数える現在、47歳と若輩である故に自己研鑽を惜しまず、姉や叔父や忠実な家臣達の協力を経て、それなりに我が国の治世は安定していると自負している。
私の年齢が47歳…と聞いてカエデ様は「…お父さんとタメ…?」と驚いていたが、我々の寿命が250~280歳程であることを説明すると、「…大体3分の1程度の計算ね、ナルホド」と納得はされていた様だった。
その後少し考えた後「……えっ!?16歳!?」と再び声を上げていたが、彼女が若干20歳である事を聞くと、こちらの方が驚かされた。
20歳なんて…私達にとっては、親元から離すことなどとんでもない程の幼女である。しかし、彼女達の世界では成人する年齢であると聞いて、お互いの成長速度の違いを思い知った。
…それにしたって、カエデ様の小さなお姿を拝見した時には、40歳(14歳)位かと思っていたのだが、あちらの世界では私よりも年上の外見であると言われてもピンと来ない。
髪も大人の女性…と言うには短すぎ、少女の様だったし。…彼女にはとても似合っているし、文化の違いだと分かっているのだが、肩程度までしかない髪というのも、こちらの常識としては成人女性がするには幼すぎるのである。
ただ、その程度の年齢差であれば、私の相手として何も難はないけれども。
まぁ、それはともかく……。
私が安定した治世をしいていた折に、我が国の神獣様が出産されると言う慶事に恵まれる事態となり、我々は国を上げてその祝祭を開いた。
その知らせを受ける1ヶ月程前までは、急に神獣様のお姿もお声も確認できなくなって沈んでいただけに、その祝は盛大なものとなり、王都から離れた住処で過ごされていたご一家はご存じなかったと思われるが、その興奮の宴は10日もの間続いたのだった。
『機会があったら会わせてあげるわね。
うちの子、3匹もいるのだけれど、すっごく可愛いのよ』
1ヶ月毎の奉納の際、神獣様のご出産の後初めての通信で確かにそう告げられ、そのお優しい気遣いを受けた我々は歓喜に震えた。
そして、日々の感謝をお伝えし、初めての子育てを行う神獣様のお力になれるようにと、再び月に1回の貢物を全力で組み上げていったのだが……
出産後2ヶ月目の奉納時から、窓口は神獣様ご本人ではなく神獣様のご息女…カエデ様となっており、もったいなくも直々にお声を掛けていただける様になった。
『いつもありがとうございます。
私は大変助かっていますが、こんなにいただけるなんて…そちらはお困りではないでしょうか?』
カエデ様は生後1ヶ月とは思えない程流暢な言葉を操り、毎回我々に労いの言葉をかけていただける様なお優しい方だった。
神獣であるフェンリル様は、生後何週間かの内に親や先祖からの生存に必要な基礎知識が遺伝・伝達されるため、異種族との会話や生活行動に困ることはないと、家庭教師であった老博士から教授されたことがある。
その基礎知識を現状となじませながら親と共に生活する1年の内に体を成長させ、実地訓練として魔力や体の使い方を学んでいくのがフェンリルの生態であるそうだ。
しかし、丁寧な口調で我々の様な他種族への労いや気遣いを伝えてくれる彼女の心根は、それを差し引いたとしても、得難く稀有な気質であると思い、彼女らに対する敬意が留まることを知らなかった。
その声も、少女の様に高い声だったが、柔らかい口調でありながら何処か芯のようなものを感じさせる、いつまででも会話をしていたいと思わせる様な…心地よい響きのものだった。
母君である神獣様は、処女雪のような輝くばかりに美しい真っ白い毛皮の持ち主であるが、この姫御子様はどの様なお色なのだろうか……?
きっと、ピンと立った耳や尻尾が凛々しくも、まだまだ小さくて可愛らしいお姿なのだろう。
我々は彼女達が神獣様よりお披露目されるその時を、心浮き立つ予想を語り合いながら心待ちにしていたのだ。
しかし、その期待はある日裏切られることとなった。もちろん、私にとっては良い意味で。
初めて出会ったカエデ様は…全く思っていた姿ではなかったけれども、それはそれは可愛らしい方だったから。
その日、私は日課である献上台の確認をするべく、奉納の間に訪れていた。
先日の献上物はカエデ様に喜んでいただけただろうか?
今までの神獣様は、我々が献上する物に対して要望を仰ったりすることなく、時々礼を述べられる程度のあっさりしたものだったが、カエデ様はこちらが嬉しくなるほど喜んでくださるのだ。
これでは、貢物によって愛情を示したがる我々が、天にも昇ってしまいそうな程喜んでしまっても仕方のないことである。なので、最近は献上物の選定にも常ならぬ気合が入る。
カエデ様は美しい織物や珍しい海の加工物などをお好みになられるようなので、私が直々に織りや刺繍の美しさだけでなく手触りや肌にあたる質感も確認して、これ以上ない程に質の良い物を手配しておかなくてはならない。
忙しい政務の合間合間に選定を進めつつ、ふとした時にそんなことを考えながら部屋に入った時だった。
献上台を使用する際に鳴らされる『ピンポーン』という召喚鈴の音が微かに響いた様な気がして台に近づくと、いつもなら自然の光を反射する程度に、慎ましやかに光を湛えている魔石がチカチカと点滅していることに気付いた。
…あちらから、何か来るのだろうか?
この台は、王宮の背後にそびえ立つ山の中腹にある神獣様の住処とここの双方向でしか行き来ができない。
転移陣そのものが、国家機密でもあり高度な魔法技術を織り込んでいるため、それ以外では、軍事的・政治的に重要な拠点でしか使用することは許されていないからである。
そのため、私は疑いもなく神獣様側から何かが移動してくると思って、心が沸き立ち―――思いもしない存在が転移してきたことに驚愕した。
それは、見覚えのある柄のボロ布を纏った全裸に近い姿の少女……しかも、神獣様の様な獣身ではなく、どう見ても我々と同じ2足歩行の人間の女性だった。
身長も小さく、私の胸あたりまでしかないと思われる。
しかし、その体躯もほっそりとしていて華奢な作りであったが、幼い顔貌の割に出るとこは立派に出ているようだと、一瞬にして全体を確認する―――オスの本能として。
そのあどけない様子からすると、年齢的には私より少し下…40代前半という所だろうか。
肩に触れる程度に短く整えられた艷やかな黒髪は丁寧に手入れされ、黄みがかった白い肌はまるで南方の海で採れる上質な真珠を思わせた。
この辺りでは髪や瞳も色素の薄い者が多く、顔も彫りが深いのが特徴的だ。故に、彼女の持つ色彩だけでなく、整っているものの凹凸に乏しい顔立ちは珍しいものだった。しかし、
可愛い娘だな…ふと漂ってくる香りも微かに甘い。それに小さくて華奢で柔らかそうな体も私好みだ。
不信感も疑念もすっ飛ばして、そんな感想がすとんと心に落ちてきた。
我々狼獣人は、鼻が利く分外見的美醜以上に、匂いの好みにうるさい。
その点からも、見たこともない彼女の存在は私の好みにドンピシャだった。
ただ、その容姿の特徴には全く馴染みはなかったのだが、しかし、微かに耳に届いた「ひっ!?」という悲鳴が、どこかで聞いたことのある…好ましい者の声だったような気がして内心首を傾げた。
あちらも、私の存在が想定外だったようで、その黒くて大きな瞳はより丸く開かれて、瞬きもせずに私の動きを映しながら、私と同様に現状認識が追いつかず、全身の機能が止まっているようだった。
「「…………」」
互いに思考が停止して見つめ合ったまま数秒が過ぎ…ハッと我に返ったのは私のほうが先だった。
微かに漏れ聞こえた声が誰のものだったのかを脳内で検索して、この数秒の間に、彼女が献上台の向こう側から現れた現実と照らし合わせることに成功したのだ。
「……まさかその声…カエデ…様……?」
恐る恐るといった気持ちで声をかけると、彼女はビクッと体を揺らし、信じられない物を見るような目で私を見つめた。
その姿があまりも可愛らしく、妙に艶かしく感じ…私はその時初めて、彼女がなんとも扇情的な姿で立っていることを認識して息を呑む。
申し訳程度に体に纏う布は、私が糸や染色素材から選定し、自分の頬を擦り寄せて、完成品の質感まで確認したという、特別なものなのですぐに分かった。
しかしその布は、最初は衣服として体に巻き付けられていたと思われるのだが、まるで紐状になるほど無残に引き裂かれ、程よく大きな胸や薄い腹、滑らかな背中やすんなり伸びた脚など…彼女の体をほとんど露わにしてしまっている。
羞恥に頬を染めながら、なるべく自らの細い腕で胸や股間などを隠そうと覆ってはいたが、華奢な腕から溢れるように顕になる豊かな乳房は、薄い紅色の乳首を見え隠れさせており、オスの性サガとして思わず視線を集中させた。
細いながらも肉付きの良い太股なんか完全に丸出しとなっていて、年齢の割に色っぽい風情に思わずゴクリと唾液を嚥下する。
そして、その手で覆っている股間にも、下着と思われる桃色の布がチラチラと見え隠れしており…余計にそちらも気になって仕方……ないだろっ、こんなの!!
好みのエロい美少女前にして、冷静になんて語れんわ!
これまで、国王という立場上、群がってくる女性たちとのふれあいもそこそこに必死に頑張ってきたご褒美だろうか。
ふと、そんな考えが頭をよぎった。そうなると、都合のいい妄想が止まらなくなるのもご馳走を前にした男の性である。
これはきっとご褒美……というか、神獣様のご加護かもしれない。そうに違いない。
あ り が と う ご ざ い ま す。
私も幼い頃…というか精通が来るか来ないかの時点から、世継ぎを残すための閨教育は受けていたし、これまでもそれなりに女性には言い寄られてきた。
若くして国王になったため、色恋以上に他にやることも多く、のめり込むには幼すぎるということもあり女性との関係などは淡泊なものだったが…それは自分が興味を抱けていなかったからだと、今気付いた…というか、気付かされた。
何故なら、一見してしまえば痴女にしか見えないはずなのだが、その身から立ち上る芳しい少女の甘い香りが、彼女の色香を際立たせ、私の脳髄の奥から欲情を掻き立てているから。
なんだ、このソワソワと落ち着かない気持ち…。
それに、やけに体の奥が熱い…
…気づけば私は、頭に血が登っていく様な高揚感と、口や鼻から何か飛び出そうな危機感から口元に手をあて……彼女の姿を目に焼き付けるように、まんじりともせずに凝視していた。
彼女はそんな私の姿から何かを感じ取ったのだろうか…私の強い視線を認識すると、
「いぃ…いやーーーーっ!! やだっ!! こっち見ないでっ!!」
と言って、献上台に駆け寄り、母である神獣様に助けを求める声にハッと我に返ったが―――
…そんな風に取り乱す彼女を逃げ出せないように取り押さえて、唇を塞いで小さな舌を悲鳴ごと吸い上げてしまいたいと思って目を細める。
何かしらの軍事訓練を受けたこともなさそうな、大して俊敏でもない華奢な彼女の動きを封じることなど容易いことの様に思えた。……尤も、神獣様の眷属と思われる彼女にそのような狼藉などできようはずもないのだが。
しかしその結果、身動きがとれないなりに、腕からこぼれ落ちてフルンフルンと揺れる乳房や、屈んで顕になった柔らかくて張りのある尻から目が離すこともできず、かと言って下手に触れるわけにも行かなかったため、逃げようとする彼女を見守りながら「あ……」と、小さく呟いたにとどまった。
そして、消えゆく彼女の姿を認めて初めて、何やら胸が締め付けられる様な気がして声をかけた。
「カエデ様っ…待って…」
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