春の女神の再転移――気づいたらマッパで双子の狼神獣のお姉ちゃんになっていました――

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第一章

16.エイリーク少年(47歳)の回想③

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『エイリーク王、そちらにいらっしゃいますか?』



 恐る恐ると言った様子の小さな声で、通信台から可愛らしい少女の声が響いてくる。



 カエデ様が指定した時間から1時間も早く待機していたので、もちろんいますとも。



 ようやくこの時が来た…そう思ってゴクリと唾液を嚥下する。

 身支度も、素朴な物を好むカエデ様に引かれない様、余りキメすぎない…それでいて趣味の良い感じにまとめるよう女官長に告げて、全身をコーディネートさせたのだ。

 女官長が言うには「おうちデートみたいなものですから、何気ない普段着のほうが距離が縮まってよろしいかと存じます」ということなので、それほどあえて普段着ているような衣装を心がけたらしい。

そのことについて、心配はしていないが……幼い頃から私の面倒を見てきた女官長に完全に見透かされている感じが落ち着かなかった。





 そのようなことを思い出しながら、私はカエデ様に返答すべく、通信魔具に魔力を流して応答した。

 すると、間もなくあちら側から何かが転送されて来るために魔石が青く点滅するので、私は居住まいを正して待つこと数秒。

 夢にまで見た、想い人が目の前にスッと姿を現し…



「ああ、お久しぶりで……って、……あの、そのお姿は……」



 反射的に笑顔を浮かべながらも、その刺激的な姿を目にして思わず言い淀んだ。



 あ、あの衣装は…姉上オススメの、私が頬を擦り寄せて感触まで確認した、魅惑の夜着ではないか。

 我々狼獣人の色情を煽る薄紫色は、透けそうで透けないオーロラスパイダーの糸を丁寧に紡いだ天然の発色。それでいて、軽やかで耐久性にも優れる一級品であるが―――夜着の耐久性ってなんだ。



 そして、そんな薄衣であれば、もちろん柔らかそうな体のラインもくっきりハッキリ露わにするものの、上着としているナイトガウンで可愛らしく覆い隠して、彼女の華奢な体躯を一層儚げなものに魅せている。

 それにしても、こんな真っ昼間から夜着にスノウラビットのナイトガウンを合わせた姿で二人きりで会いたいとは……私は誘われて―――



「あ、あの、何か失礼でしたら、私、出直して来ますから……」



 彼女のおずおずとした台詞が耳に入ると、自分がまるで乙女の様にモジモジしながらガン見していたことに気がつき、はっと我に返った。



 いやいやいや、落ち着け、落ち着くんだエイリーク。彼女の体じゃなくて、顔を…表情をよく見るんだ。

 私の動揺に煽られて、彼女が心細そうにこっちを見てるだろ?

 いくら彼女がエロ可愛いからって、ゲス貴族のように全身ガン見した挙げ句、即飛びつく様な獣じみた振る舞いなんかしたら、彼女はそのまま怒って帰ってしまうぞ!?

 ここは、王として君臨してきた経験を活かして、彼女を怯えさせないように饗すんだ!



 私は自分の客観的姿にハッと気づき、それを取り繕うかの如く、平常心を取り戻した―――様に振る舞うことを思い出した。



「い、いえ……大丈夫ですよ、何も間違えてはいらっしゃいません。

 幸い、他の者はここに来ないよう命じてありますので、貴方のお姿に、何も問題はありません。

 ただ……カエデ様があんまりお可愛らしくて、私が少し見とれてしまっただけですから……」



 カエデ様のお姿は、私一人が十分堪能させていただきますので、お気になさらないでください。

 こんなにエロ可愛いカエデ様の姿を見るようなオスは、王の強権発動して残らずあの世に送ってやりますので、問題ありません。



 そんな意味を言外に含んで微笑むと、無意識にピコピコと耳を動かしながら尻尾をワッサワッサと振りたくった。

 カエデ様は、そんな私の言葉の裏を理解することなく、はにかむような照れ笑いで頬を染め、恥じらう様に微笑み返してくれたのだった。

 可愛い…。







 その後、奉納台のある広間の横にある控室にカエデ様を案内すると、二人がけの小さなソファに座っていただき、私は対面の椅子に座る。

 誰の目にも…それこそ侍従長にすら触れさせないために、お茶は最初から用意させてあったので、私が自らポットにお湯を注いで紅茶を淹れる。

 今は王であっても、かつては戦士として野戦に参加したこともあるので、この程度のことは出来るのだ。

 彼女は、王である私にお茶を淹れてもらうなんて…と、恐縮していたが、改めて話したいと言っていた内容を伺うと、キュッと唇を噛んで、膝の上に置かれた手を握り込み……心を決めたように私の目を見つめ返した。



「あの……私って………何に見えますか?」



 言われた一瞬、余りにも直球すぎて、思わず何か裏があるのかと勘ぐってしまいそうになって、「ん?」と首を傾げたが、その眼差しが余りにも真剣だったので、私は問われたままをそのまま返した。



「…貴女、人間ですよね?」



 その言葉が、彼女にとっての正解だったのだろう。

 私の言葉を耳にして、大きな大きな安堵のため息をついた彼女は、



「…良かった…。私の目がおかしかった訳じゃないんだ……。やっぱり、人間だったんだ」



 そう言いながら、その美しい黒い瞳に浮かんだ涙を拭って微笑んだ。



 その涙を舐め取りたい……



 思わず彼女の姿に目を奪われながらそんなことを考えていたのだが、その呟きを聞き咎めると見とれてばかりでいられない。



「あの……事情をお伺いしても…よろしいでしょうか?」



 そう尋ねると、彼女は意を決したように口を開いた。

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