春の女神の再転移――気づいたらマッパで双子の狼神獣のお姉ちゃんになっていました――

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第二章 お母様…勘弁してください(=_=;)

1.春の女神様と私の下僕(笑)

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「春はねぇ……長い眠りを大いなる風で吹き飛ばす目覚めの季節。
 そして、陽気な日差しの元、恋人たちが出会って愛を育み…生命を繁殖させていく季節でもあるの。
 私はそんな恋人たちの橋渡し……よりももっと先に進んだ大人の愛の交歓――種の繁栄に協力して頑張ってきたのぉ」

 春の女神・プリマヴェーラ様はそう言って、その美しい両腕で豊満な胸を、両手で美しい頬を挟んで「キャッ♡」と照れ笑いする。
 可愛らしい仕草で結構エゲツない事言ってる気がするけど、動く度にバインバインと震えるバストに目を奪われてスルーした。
 キラキラと光を弾く淡い金髪は腰までうねる巻髪がその魅惑的な肢体を彩っており、新緑を思わせる翠の瞳はウルウルと輝いている。正に女神様の名に恥じない、艶かしい美貌の権化。
 以前と違って現在は、同じ色彩・似たような顔を持つ私でも、あまりの違いに嫉妬する気もおこらないどころか、その色っぽさには若干崇拝の念を抱いてしまっている。
 そして、ボンッッ!!キュッ!ボンッッ!!のダイナマイツバディは多くの男達を惑わしてきたことは疑いなく、今日も派手な動きと同調してフルンフルンとたわわに揺れていた。
 その爆乳レベルの大きな胸が両脇で挟まれて押し出され、20代半ばにしか見えないエロ可愛い美貌のハニカミ笑顔はこの上なく可憐である。
 これまで見てきた女性達の中でダントツに美しく色っぽいお姉さんの可愛らしい嬌態を間近に見せられ、同性なのに…娘のはずなのに、私はドキドキしてポッと頬を赤く染めた。

「やぁん、楓ちゃん、赤くなっちゃって、かーわーいーいーーーっ♡
 もう、母様ぎゅーってしちゃうぅ~」
「え、ちょ・ちょっとまっ……ぐぅぅ」

 生命の危機を直感し、咄嗟に逃げようとするのだが、後ろに立つ自称下僕にそっと退路を阻まれて、一瞬にしてその華奢な腕の中に収められた。
 156cmしかない私より10cm近く上背はあるものの、その細い体からの締め付けは見かけ以上に強力で、母様ことプリマヴェーラ様は、私の顔をそのスイカップに挟み込んでぎゅうぎゅうと抱き締めた。
 くっそ柔らかくて弾力もある極上の感触な上、フローラル系のもの凄くいい匂いがして天国にいるみたいに気持ちいいんだけど………

「く…くるしい……乳圧で……死ぬ……」
「………プリム様、楓様が窒息しかかっていらっしゃいますので………愛情表現は程々にお願いします」

 苦しみ藻掻く私の真後ろから、何の感情も表さない、低く冷静な声が聞こえてイラッとする。

 ………だったら私の逃げ場を塞ぐんじゃねーよ……

 言ってることとやってることの違いに思わず文句も言いたくなったが、一応その(自称)下僕の発言を聞いて開放して貰えそうなので、良しとする。
 しかし、「あら、そぅお?」と、母様が漸く私の状況を認識した時は既に遅く、私の体は自分で立っていることもできなくなり……

「……え? やんっ、楓ちゃん!?」

 母様が焦る言葉を聞きながら……私は少しずつ意識を失っていったのだった。




 さて、私こと春宮 楓(20歳)が何故フェンリルであるママンや弟たちと離れ、こんなところで美女の乳圧に押し潰されているのかと言うと、それは1ヶ月程時を遡ることになる。

 とある麗らかな陽気の日、私は弟たちに無理やり引きずり出される形で、彼らの狩りの訓練につきあわされていた訳で。
 とは言え、そこは前回も行った開けた草原の狩場だったので、私は以前見つけておいた大きな木陰でピクニックセットを開けて彼らの様子をぼんやり眺めてティータイムに突入。
「がんばってー」と、肉眼では弟たちが点にしか見えない程遠くから、呑気に声を送る程度の気楽なものだった。

 気分は“幼児が公園でお友達とはしゃいでいる姿を見守るお姉さん”。
 もちろん、保護者であるママンは幼い弟たちに付いてお手伝いをしながら参加中である。

「はぁ……気だるげな午後……アンニュイすぎて眠りそう……」

 目の前で開かれる肉の饗宴から微妙に視線を外しつつ、私はピクニックテーブルに突っ伏し呑気に呟いていた。
 はぁあ……木陰からの日差しが良すぎ……なんて思っていたその時、急に頭上から知らない人の声が聞こえてハッと飛び起きた。

「こんにちは、楓様…。やっと結界の外でお会いできました」

 聞こえた声の距離感から、相手はもっと遠くにいると思っていたのに、突如目の前に現れた男の姿に得体のしれない物を感じて息を飲む。
 長いストレートの黒髪はしっとりと滴るような重みのある漆黒で、よく見ると赤い瞳の瞳孔は爬虫類のそれの様に縦に長く、耳元はコウモリの羽根のような皮膜が広がっていた。

「……誰?」

 しかし、全くの初対面であるその美青年は、恐ろしいまでに整った美貌を歪めて微笑みながら……私の問いかけには答えず、言葉を続けてきたのだった。

「貴女の御母上様が、ずっと…それこそ貴女がお生まれになる前からずっと貴女をお待ちしていらっしゃいます。
 どうか私と共に来ていただきたく、お迎えに参上させていただきました」と。

「え…御母うえ……って……ママン…」
「ふふふ……フェンリルは神獣と呼ばれるほど力に溢れた存在ではありますが……まさか本当にあの神狼が貴女の母上だとは……思っていらっしゃいませんよね……?」
「そ……それは……」

 その言葉で、この慇懃無礼な口調の男が私達の事情についてほとんど把握していることを悟る。
 そして、この春の陽気の中でも暑そうな、黒いテールコートを身に纏い、涼し気な顔して直立不動する不気味な雰囲気も相まって、私はこの男から目を逸らすことも出来ずにゴクリと喉を鳴らした。

「貴方が…私の何を知って……」

 私の『御母上』って……多分、日本でのお母さんのことでもないんだろうな―――という事は直感でわかったけれども…問わずにはいられない。

 私の母親を名乗る人物が…この世界にもいるってことなんだよね? 
 地球生まれ地球育ちの私に? どういうこと?
 それに、この男も…誰? 
 なんで、初対面の私を―――まるで昔からの知り合いみたいに、懐かしそうな優しい目で見てくるの? 

「何って…全て存じ上げております。貴女がどの様に発生し、どれだけのその誕生を望まれ…
 そして、この世界から消えていくこととなったのか……貴女の知らない事の全てを…です」

 何を言っているのか皆目見当もつかないようなことばかりだったけれども、そのピクリとも動かない表情に、あながち嘘だと笑うことも出来なかった。

 …この男は、私の母親と言う存在…だけでなく、私とはどういう関係だというのだろうか?
 どうしてここに……そして、何故今更出てきたのだろう?

 様々な謎が頭に浮かび……再びゴクリと乾いた喉を上下させながらギュッと自らの手を握って、静かにこちらを見つめる男の様子を見守った。しかし、その時間も長くは続かず―――

『………ねぇちゃ―――……』

 遠くから、私の異変に気づいて駆けてくるママンや弟たちの声が響く中―――男はその気配を察して小さく舌打ちをした。

「やつらが来てからでは面倒なので、手っ取り早く跳びますよ」

 そして、大股で一歩を踏み出し距離を縮めると、考えに没頭しかかって反応の遅れた私の手をしっかりと握り込んで立ち上がらせた。

「あっ……」

 手を取られた一瞬、逃げようかと躊躇ったものの、何故か掴まれたその手を払うことも出来ず……その迷いも葛藤も包み込むような男の胸に強引に抱き込まれたまま、私達の姿はこの場から消えていく。
 いつから用意されていたのかわからないが、緊急離脱するための転移陣が、ママンの感知を掻い潜る周到さで、予め起動できるようにされていたらしい。

『ねえちゃんっ!! 待ってーーーっ!!』
『ねえさぁーーんっ!!』

 かわいい弟たちが私を呼ぶ幼い声が響く中、

『ああ……お母様……やはり、見つかってしまったのですね……ごめんなさい……』

 悲しそうに呟くママンの声が、何故か妙に耳に―――頭に響いていた。
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