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第二章 月の国
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しおりを挟む「ソウマさん」
「はい」
夕方。そろそろ定時の時刻。デスクをぼちぼち片付けて、残りの仕事を処理して。廊下を歩いているとウィルフリードが声をかけてきた。
「今日なんだけど、一緒に晩御飯でもどうかな?」
んん?
にこりと笑顔のウィルフリード。けれど結慧はそう言われる理由がまったく分からない。だって陽菜の触手が……
(あ、なるほど。陽菜ちゃんね)
初めて食事に誘うのに二人きりとはどうなのだろうという配慮だろう。こんな時でも気配りを忘れないウィルフリードには頭が下がる。陽菜はそういうの気にしないと思うけど、真面目なこの人のほうが気にするんだろう。
「では、一度帰って予定を聞いてみます」
「ああ、そっか。太陽の国の人たちがいるのか。いきなりごめんね」
「特に予定もないと思うので大丈夫だと思いますよ」
遊んでいるだけだし。陽菜は言えば乗ってくると思うから平気じゃないかしら。
ウィルフリードは、触手のせいだけれど嫌っている結慧に対しても穏やか。嫌いな人にもそんな風に接することができる。
そういうところ、本当に尊敬する。優しくて、真面目で、仕事ができて。そんないい人が陽菜のことを食事に誘いたいだなんて、その程度の事ならば喜んで協力する。
なんとなく、胸の辺りが重苦しくなるような気がしたけれど。
***
「ごはん楽しみ~!」
「……ええと、」
待ち合わせ、中央広場に十九時。時間通りに現れたウィルフリードが少しだけ眉根を寄せた。
ああ、そうよね。そうは言ってもやっぱり二人で行きたかったわよね。
少し悩んだのだ。予定ができたふりでもしたほうがいいのかしら、なんて。
「ごめんなさい、ついてきてしまって……」
「ううん、大丈夫だよ」
前方でスキップしている陽菜に聞こえないようにこっそりと謝る。苦笑いしながらも受け入れてくれるあたり、本当に優しい。
それは入ったレストランでも、
「ここ?わぁ、普通~」
「ちょっと陽菜ちゃん」
「えぇ~やっすぅ~い!あたしこんなに安いお店はじめてぇ」
「そんなこと言うものじゃないわよ」
「へぇ~!味は美味しいんだねぇ。でもちょっと薄くない?あ、これとこれ混ぜちゃお~」
「勝手に人のものをとらないの!」
失礼!!!!
思ったことすべてを口に出す、行動に移す。時と場合によっては美徳と言われるかもしれないけれど、すべてにおいてそれでいいはずがない。
そもそもこのお店、雰囲気はいいしそんなに安くないし味も薄くないわよ!
極めつけに、お金は当然のごとく払う素振りもなく店を出て、道の向こうにいつもの旅メンバーをみつけ。
「あんまり食べた気がしないからぁ、何か買ってもらお~。じゃぁねぇ!」
と、お礼も言わずに行ってしまった……。
いくらなんでも許されるものじゃなくない?さすがにこんなことされちゃどんな恋でも冷めるわよ。
「あの……本当にすみません……」
「君が謝ることではないと思うけどね」
それは本当にそうなんだけど。それでも。
「じゃあさ、二人で飲みなおさない?」
「え?私と?」
「他に誰がいるのさ」
「いや、だって私のこと嫌ってるのにどうして」
「嫌ってるって何で……?」
言われて気付く。
そういえばいつだって視界の隅、眼鏡の隙間からチラチラ見えるピンク色がない……。眼鏡をちょっとずらしてウィルフリードを見ても、ピンク色なんて一切絡まっていない。
次に視線を向けたのは陽菜の去っていった方。まだいる。すごくピンク。
ということは……
「触手が消えてる!!」
「触手ってなに!?」
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