月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

文字の大きさ
70 / 91
第三章 月の神殿

3-5

しおりを挟む
「おはようございます、ヘカテー様」
「おはようございます。ごめんなさい、だいぶ寝坊してしまったわ」
「疲れていらっしゃるんですよ」

 翌朝。起きて時計を確認して驚いた。こんなに寝坊したのはいつぶりだろう。会社であれば遅刻確定。走ったところで始業に間に合わない、そんな時間だった。
 急いで身支度を整えて部屋を出れば、そんなに急がなくてもいいと優しく笑われてしまった。

 ドロリスに作ってあったものを温めてもらい、三人で少し遅めの朝食をとる。二人とも食べずに待ってくれていたみたいだ。

「夜にね、ウトゥが来ていたのよ」
「ウトゥ?」
「太陽神の息子」

 かしゃん、とドロリスの手からカトラリーが落ちた。スミティもポカンと口を開けている。

「何もされませんでしたか!?」
「ええ、話をしただけよ」
「よかった……!」

 太陽神の息子というだけで随分な反応だけれど仕方がない。二人にとって太陽神とは恐ろしい存在だろうから。
 昨日話した事を二人へと伝える。太陽側であった事を。太陽神の思惑を。ウトゥの決意を。

「信用できますか、その男は」
「ええ。大丈夫だと思うわ」
「……そうですか。ヘカテー様がそう仰るのなら」

 いつの間にか食事が終わり、紅茶が出てくる。それにミルクと砂糖をたっぷりと。なんとなく今日は、そういう気分。

「それとね、もうひとつ。これは私からのお願いなのだけれど」
「はい、なんでしょう」
「私の事、ユエと呼んで欲しいのよ」

 あちらの世界での事をかい摘まんで話す。孤児だった事も、一般人として仕事をして生きていたことも。スミティとドロリスは驚いていた。どうやらもっときちんとした生活ができていると思っていたらしい。流石に家と会社の往復生活は想像していなかったようだ。
 結慧がこちらの世界の事を知らないのと同じで、二人だって向こうの世界の事を知らない。

「今ある問題を全部解決できたら、どうするか考えるわ。だから、お願い」
 
 ヘカテー。ギリシア神話における月と魔術の女神。
 神には倒せないはずの巨人を松明ひとつで殴り飛ばした、無敵の女王。

 その名を名乗る勇気も覚悟もまだ、ない。
 今はまだ、ただのユエのままがいい。

「ええ、わかりましたユエ様」
「本当は様だっていらないのよ」
「それは流石にご勘弁を」

 三人で顔を見合わせて笑う。寝る間際にベッドの中で考えていたことを話せて少しすっきりした。

「ああ、それから。次からは何かありましたらお呼びください。その為に我々がいるのですから。あなた様に何かあっては大変どころの騒ぎではないのですよ」
「そうですよ、夜に男性を部屋に入れるなどとんでもない!昼間でも二人きりになるなどいけませんのに」
「それウトゥにも言われたわ」
「絶対でございますよ。お約束くださいませ」
「ええ。ごめんなさい、もうしないわ」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜

自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

処理中です...