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第三章 月の神殿
3-6
しおりを挟む二人との約束はすぐに実行されることになった。
昼過ぎにまたベランダからウトゥが顔を出したから。
「昨日の今日よ」
「時間がないからな」
駆けつけた二人はとても驚いていた。ウトゥが二人に頭を下げたから。後継者とはいえ、神が下の者に、しかも他国の者に頭を下げるなど本来ならばしてはならない事だ。それを平然と、当然の事だとやってしまったウトゥに。
「とにかく情報の擦り合わせが必要ね」
ドロリスに紙とペン、それから飲み物を用意してもらう。スミティには後ろに控えてもらい、月側の情報を。結慧が話すよりも余程正確だ。
まず、経緯の確認。
太陽神はまず自国で先代と妻をはじめとした邪魔者を殺害。その足で月の神殿へ。月神他多数を殺害し、月の宝珠を奪う。
結慧はその直前、危険を察知した月神により別世界へと送られている。
「そうなのか!だから今までいなかったんだな」
「ええ。こちらに来たのは最近よ」
約二十年、期をみた太陽神だったが思うように月への信仰は減らなかった。月の国の上層部が月神との音信不通を隠蔽したからだ。大多数の人間からすれば何の変化もなかった事になる。それでついに強行手段に出た。
太陽の宝珠を使い地上から太陽を消し、月の宝珠で闇の眷属たる魔獣を作り出し人々を襲わせた。これが約三年前から。
「月神がやったという事にして、月信仰を減らすのが目的よね」
「ああ。そうやって月の力を弱めたかったんだろうな」
太陽神は太陽の聖女を召喚するよう人間に命じた。
月神が太陽の宝珠を奪い太陽を消したと、そして自らも姿を隠していると吹聴して。太陽神が現状を憂い、世界を救おうとしている。聖女を遣わし、人々を救おうとしている。そう思わせるために。
この時点で月の国は月神がいない事を隠しておけなくなり公表。ただしいつからというのは伏せたまま。
それと、ここでもうひとつ。太陽の聖女と偶然にも同じ世界にいた結慧が召喚に巻き込まれる形で共に世界を渡ってきた。
「秋のはじめくらいだったか?」
「そんなに前にはもうこちらにいらっしゃっていたのですか」
「しばらく聖女と一緒にいたのよ」
聖女は思惑通り(一時的ではあるが)月信仰の者たちを改宗させていった。太陽の聖女の噂は広がり、太陽神への祈りも増えた。
「そうなの?」
「ああ、月の国ではあまり感じないかもしれないが他国にも太陽の聖女の噂は広まっているからな。月の国以外からの祈りは増える一方だ」
聖女が旅をはじめてしばらくした頃。一瞬ではあったけれど月の力を感じたことがあった。それを不信に思った太陽神はティカに魔獣を大量に投入。結果、月の力を使用する者が発見された。部下を使って市民を煽動し、街から結慧を廃除させた。
「ああ、あれはそういう……」
「お前を潰すのが目的だろうな。神の力は人間からの信仰、つまり心だ。心が離れればお前はどんどん弱くなっていくから」
なるほど、それはなかなかに有効的な手段に思える。
「陽菜ちゃん……太陽の聖女が魅了を使っていたのよ。しかも、魅了にかかると私の事を嫌いになるっていうオマケ付きで。それも太陽神が?」
「んー……聖女の能力はこっちで与えるものじゃないハズだからそれは聖女の元々の能力だろうな。ただ、そういう力の持ち主を選んだって可能性は、なくはない」
「そうなの」
「でも大変だったろ、人に嫌われるってのは。力が削がれていくからな。精神的にも不安定になるし、気力もなくなる」
「そういうもの?」
「そういうもの」
ならば結慧のこれまで生きてきた殆どは。向こうの世界でこの法則が適用されるかは不明だが、そうだとしたら。下を向いて生きてきたこれまでは。
ああ、だから神というのは人と関わらずにいるのかもしれない。関わらねば、直接的な感情に左右されることはない。
「今は大丈夫そうだな」
「……そう見える?」
「ここへの転移だって問題なくできただろ?」
結慧が力を使った時。
陽菜と共に立て籠り犯に人質にとられた時。ティコの街で魔獣相手に大立ち回りをした時。それから、ここへの転移の時。
力が出せた時にはいつだって。
(あの人がいた)
ウィルフリードが結慧を想ってくれていたから。だからあんなに力が出せた。だからあんなに頑張れた。
そして今も、力が衰えていないのなら。
きっと、今も。
ブレスレットにそっと触れる。
小さな石が変わらずにそこにある。
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