婚約解消を無かったことにしたい?しませんけど

だましだまし

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不誠実な男

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「君との婚約を無かったことにして欲しい」


席に着くなりそう頭を下げられた。

ここは学園の喫茶エリア。
高位貴族の子女子息が学園だ。

この国の貴族は16歳になった翌月から19歳になる3ヶ月前まで学園の寮で暮らすことになっている。
下位貴族と高位貴族の学園は別となっており、真ん中の伯爵位の者は家の盛衰や資産などでどちらに行くのか通達がくる。

私の家、サーモリア家はその伯爵位だ。
ただ、由緒ある家柄なのとそこそこの資産家なので高位貴族の学園だろうと思っていたし、その通り通達があった。

そうして高位貴族の学園で出会い、お互いの家にとって利益もあるとのことで婚約を結ぶことになったのが、この頭を下げているリドー・コナルである。

コナル侯爵家の次男で見目もそこそこ良い彼から声をかけられ、交際し始めたのが学園に来て半年後、私が17歳になった折に婚約へと話が進んだ。

そこからまだ半年と少し、彼の18歳の誕生日を祝ってまだそんなに経っていない。


「理由を聞かせてくれる?」

冷静に返しているがショックを受けたか問われるとそりゃあそれなりにショックだった。
正直半分成り行きで交際が始まったし、そのまま結んだ婚約で燃え上がるような恋心があったわけではない。
しかしそれなりに情もあり、好きだという気持ちも持っていた。

この学園の寮制度は不倫が横行していた貴族の風紀の乱れを正すべく、家の契約より当人同士の納得で結婚に至るよう創設されたなんて噂もある場所だ。
それくらいこの学園で婚約を決める者たちは多いので溢れず早々に婚約者を得られたと安堵していたのも大きい。


「アネリア、君は何も悪くない。君は美しく優しい自慢の婚約者だった。だけど実は…」

まだ婚約者なのに『』と過去形から始めやがった話はくだらなかった。
彼には昔から憧れの君がいたのだそうだ。

その名はレミア・レシャット伯爵令嬢。

レシャット伯爵家の深窓の令嬢の話はアネリアも聞いたことがある。
レミアの双子の妹であるラミア・レシャットは交流の場に顔を出すのだがレミアは昔から顔を出さず、殆どの人がその顔を見たことがないのだという。

ただ、レシャット伯爵家に赴いたことのある者の話では漏れ聞こえた声がとても美しく、扉越しに聞こえたバイオリンは名手といえるほどだという。
そして双子のラミアはとても美しいが気の強さが顔に出ていて少し惜しい美人だった。
そのラミアにレミアと似ているのか聞いた者によると、曰く「レミアは気の弱さが顔に出ている」のだという。

ラミアから気の強そうな雰囲気をとれば浮かぶのは大変な美人。

そうして人前に出ないレミアは絶世の美女故に家族が外に出さず大事にしている深窓の令嬢なのだというのは有名な噂だ。

「そのレミアがこの学園に来るんだ!レシャット伯爵家はどちらに通うことになるか微妙だったけどこっちに決まったんだよ!」
「…だから?」
「だから婚約者のいない身に戻りたいんだ!」
「…リドーがレミア嬢に選ばれるって決まったわけじゃないのに別れるの?」
「すまない…。チャンスを逃したくないんだ」

馬鹿らしい。
心底そう思った。
考えようによれば次の女性に行く前に別れるというのだから誠実なのだろう。
しかし、あんまりだった。

「…婚約までしたのに…そんな簡単に……もう、私を…好きではないの?」

くだらない、馬鹿らしい、ひどい男だ、そう思うのに涙が出そうになる。
『好き』という言葉に少し詰まってしまった。

「今も君は美しいとは思うけど、ごめんね」

そう言うとさっさとリドーは席を立った。
あっさりしたものである。

ただ、家に手紙を書けばこの婚約は本当に無かったことになるだろう。

瑕疵にすらならない。
学生のうちの婚約は家にとって不利益が無いかの確認を互いにするくらいのものなのだ。
解消の可能性を視野に入れた仮のような婚約である。

「レミア嬢には誠実だけど…私には……」

そんな泣きそうなアネリアの様子を遠巻きに見ていた何人かの男子は内心別れ話を期待していた。

アネリアは、学園に来て半年ほどでリドーと交際したのもあり知らなかった。
艶やかなブロンドの髪に海のような深い青の大きな瞳を持つ彼女もまた、入学前に美しいと噂になっていた事を。

彼女を狙う男子学生は多数いて、牽制しあっている中で抜け駆けしたのがリドーだったという事を。

リドーにとってアネリアは本当に自慢の婚約者だったのだ。


それでも学園に何人かいる人気の令嬢とは格の違う有名人、それがレミア・レシャットである。

面食いで、自己顕示欲の高いリドーは自身のステータスとしてアネリアを婚約者にした。
しかし、社交界でも有名な彼女がどうしても欲しくなった。
しかし婚約者がいては交際申し込みはタブーなためアピールが出来ない。

それだけの理由でアネリアを捨てたのだった。
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