2 / 12
優しいに癒やされる
しおりを挟む
何日か、澱んだ気持ちだった。
寮の食事は実家と遜色なく美味しいがあまり喉を通らなかった。
心配した友人が遊びに誘ってくれるがいつものように楽しめない。
ショックなのか不安なのか分からないけどとにかく気持ちが沈んでいた。
そんな日々だったので勉強も身が入らず、ある課題をうっかり忘れてしまった。
「その課題、面倒よね。良い本が図書室にあったわよ。その資料があればまとめて写すだけで済んじゃうわ」
アネリアと仲良しの侯爵令嬢フュリーがそう教えてくれた。
「本当は手伝えればいいんだけど…」
そう口ごもり迷っている。
「本を教えてくれただけでも助かるわ。遅れたら大変よ!楽しんできてね」
フュリーは今日、想い人と約束があるのだ。
前々からとても楽しみにしていたのを知っているのに邪魔など出来ない。
本当は少しでも早く帰っておめかししたいところだろう。
「うん…でもまだ時間があるから少しなら手伝えるわ!一緒に図書室に行きましょ」
何かを決心したようにそう言うではないか。
「だめよ。今日オペラを観に行くのよね?早く部屋に戻ってオシャレしなきゃ!侍女が寮の部屋に来てくれてるんでしょう?待ってるわよ」
本当に優しい友人である。
是非とも想い人である彼と交際に発展してもらいたい。
アネリアを気にかけるフュリーの背をぐいぐい押して心配無用と全力の笑顔で見送った。
そうして自分は図書室に向かう途中でふと気付く。
(リド…コナル様の事が頭から抜けたのと笑顔を作ったの、久しぶりだわ)
まだ名前を呼び捨ててしまいそうになる自分もいるが、笑顔を作れたのが嬉しくて思わず微笑みが浮かぶ。
(フュリーの優しさに感謝ね)
そう思いつつ窓の外を見ると日差しまで優しい、とても良い天気の午後だった。
(フュリー、楽しめると良いわね。早く帰ってオシャレしてくれていいのにいつも優しいんだから…って私は課題をしなくちゃだわ)
微笑みと同時に気持ちも前を向いたらしい。
何故こんな数日かけてするような課題を忘れてしまったのかと自分でも不思議な気持ちになるほど、最近の空虚な感覚が無くなり我に返ったような思いだ。
図書室はほとんど人がいなかった。
天気が良いのと、フュリーも観に行く人気オペラの上演期間だからだろうか。
特にアネリアの学年は面倒な課題の提出が終わったところだからいないというのもあるかもしれない。
教えられた本を集めて課題を進めていくうちに、追加の資料が欲しくなった。
(ちょっと高いところにあるわぁ…)
アネリアは少し小柄なため高いところの本は踏み台を持ってきて取ることになる。
完全に届かないような位置ならば素直に踏み台を取りに行くのだが頑張れば届きそうな、微妙な高さにあるのだ。
(指先は届く…し、このまま取れ…ないか…くっ!)
頑張っていると少しづつ出てくる本。
だがヒョイと誰かがそれを取った。
「はい」
取った、でなく、取ってくれた、である。
「! ありがとうございます」
優しさが嬉しくてつい少し声が大きくなってしまった。
「本、落ちたら困るから」
そう言いつつ唇に人差し指を当てて静かにと示してくる本を取ってくれた人物は公爵令息のハリス・レーモンドだった。
何故知っているかというと女生徒の中でも人気の公爵令息だから有名なのだ。
今学園にいる公爵令息は彼ともう一人、既に婚約者がいて卒業間近の人しかいない。
そのため玉の輿を狙う人達の一番の狙いは彼だった。
ただ、彼の人柄も有名だ。
誰が頑張ってもスンとした反応しかくれない、と。
そのため一部では彫像の君だなんて言われている。
彫像の君といわれるだけあってハリスは美しかった。
ほんのりカールした美しい銀髪、切れ長のアメジストのような目を縁取る睫毛も長く、まさに人形や彫刻のようだった。
ペコリと頭を下げて席に戻る。
ハリスは図書委員だったようだ。
司書席の近く、委員の席に座った。
遠目でチラリと、もう一度ハリスを観察すると読みかけの本のページをめくっている。
(私が取るのに苦戦していたのに気付いて読書中だったのに助けてくれたんだ…)
『彫像』と、感情を持たない、情が無いなどの揶揄も含まれる二つ名のハリスが助けてくれたのが意外だった。
(優しい人じゃない…)
課題を終え、本を片付けていると再びハリスが傍にやってきた。
「さっきの高い位置の本、とその近くのは私が片付けるよ」
淡々と言い、抱えていた本の半分を取るとさっさと去ってしまう。
「あの!ありがとうございます」
その背に向かって大きくなりすぎない声でお礼を言う。
「委員の仕事だよー」
チラリと振り返ってやはり感情の乗らない言い方で返された。
しかしアネリアにはその無表情が少し微笑んでいるように感じた。
寮の食事は実家と遜色なく美味しいがあまり喉を通らなかった。
心配した友人が遊びに誘ってくれるがいつものように楽しめない。
ショックなのか不安なのか分からないけどとにかく気持ちが沈んでいた。
そんな日々だったので勉強も身が入らず、ある課題をうっかり忘れてしまった。
「その課題、面倒よね。良い本が図書室にあったわよ。その資料があればまとめて写すだけで済んじゃうわ」
アネリアと仲良しの侯爵令嬢フュリーがそう教えてくれた。
「本当は手伝えればいいんだけど…」
そう口ごもり迷っている。
「本を教えてくれただけでも助かるわ。遅れたら大変よ!楽しんできてね」
フュリーは今日、想い人と約束があるのだ。
前々からとても楽しみにしていたのを知っているのに邪魔など出来ない。
本当は少しでも早く帰っておめかししたいところだろう。
「うん…でもまだ時間があるから少しなら手伝えるわ!一緒に図書室に行きましょ」
何かを決心したようにそう言うではないか。
「だめよ。今日オペラを観に行くのよね?早く部屋に戻ってオシャレしなきゃ!侍女が寮の部屋に来てくれてるんでしょう?待ってるわよ」
本当に優しい友人である。
是非とも想い人である彼と交際に発展してもらいたい。
アネリアを気にかけるフュリーの背をぐいぐい押して心配無用と全力の笑顔で見送った。
そうして自分は図書室に向かう途中でふと気付く。
(リド…コナル様の事が頭から抜けたのと笑顔を作ったの、久しぶりだわ)
まだ名前を呼び捨ててしまいそうになる自分もいるが、笑顔を作れたのが嬉しくて思わず微笑みが浮かぶ。
(フュリーの優しさに感謝ね)
そう思いつつ窓の外を見ると日差しまで優しい、とても良い天気の午後だった。
(フュリー、楽しめると良いわね。早く帰ってオシャレしてくれていいのにいつも優しいんだから…って私は課題をしなくちゃだわ)
微笑みと同時に気持ちも前を向いたらしい。
何故こんな数日かけてするような課題を忘れてしまったのかと自分でも不思議な気持ちになるほど、最近の空虚な感覚が無くなり我に返ったような思いだ。
図書室はほとんど人がいなかった。
天気が良いのと、フュリーも観に行く人気オペラの上演期間だからだろうか。
特にアネリアの学年は面倒な課題の提出が終わったところだからいないというのもあるかもしれない。
教えられた本を集めて課題を進めていくうちに、追加の資料が欲しくなった。
(ちょっと高いところにあるわぁ…)
アネリアは少し小柄なため高いところの本は踏み台を持ってきて取ることになる。
完全に届かないような位置ならば素直に踏み台を取りに行くのだが頑張れば届きそうな、微妙な高さにあるのだ。
(指先は届く…し、このまま取れ…ないか…くっ!)
頑張っていると少しづつ出てくる本。
だがヒョイと誰かがそれを取った。
「はい」
取った、でなく、取ってくれた、である。
「! ありがとうございます」
優しさが嬉しくてつい少し声が大きくなってしまった。
「本、落ちたら困るから」
そう言いつつ唇に人差し指を当てて静かにと示してくる本を取ってくれた人物は公爵令息のハリス・レーモンドだった。
何故知っているかというと女生徒の中でも人気の公爵令息だから有名なのだ。
今学園にいる公爵令息は彼ともう一人、既に婚約者がいて卒業間近の人しかいない。
そのため玉の輿を狙う人達の一番の狙いは彼だった。
ただ、彼の人柄も有名だ。
誰が頑張ってもスンとした反応しかくれない、と。
そのため一部では彫像の君だなんて言われている。
彫像の君といわれるだけあってハリスは美しかった。
ほんのりカールした美しい銀髪、切れ長のアメジストのような目を縁取る睫毛も長く、まさに人形や彫刻のようだった。
ペコリと頭を下げて席に戻る。
ハリスは図書委員だったようだ。
司書席の近く、委員の席に座った。
遠目でチラリと、もう一度ハリスを観察すると読みかけの本のページをめくっている。
(私が取るのに苦戦していたのに気付いて読書中だったのに助けてくれたんだ…)
『彫像』と、感情を持たない、情が無いなどの揶揄も含まれる二つ名のハリスが助けてくれたのが意外だった。
(優しい人じゃない…)
課題を終え、本を片付けていると再びハリスが傍にやってきた。
「さっきの高い位置の本、とその近くのは私が片付けるよ」
淡々と言い、抱えていた本の半分を取るとさっさと去ってしまう。
「あの!ありがとうございます」
その背に向かって大きくなりすぎない声でお礼を言う。
「委員の仕事だよー」
チラリと振り返ってやはり感情の乗らない言い方で返された。
しかしアネリアにはその無表情が少し微笑んでいるように感じた。
344
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
ジルの身の丈
ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。
身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。
ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。
同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。
そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で───
※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。
『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』
ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。
だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。
「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」
王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、
干渉しない・依存しない・無理をしない
ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。
一方、王となったアルベルトもまた、
彼女に頼らないことを選び、
「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。
復縁もしない。
恋にすがらない。
それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。
これは、
交わらないことを選んだ二人が、
それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。
派手なざまぁも、甘い溺愛もない。
けれど、静かに積み重なる判断と選択が、
やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー
ゲーム世界といえど、現実は厳しい
饕餮
恋愛
結婚間近に病を得て、その病気で亡くなった主人公。
家族が嘆くだろうなあ……と心配しながらも、好きだった人とも結ばれることもなく、この世を去った。
そして転生した先は、友人に勧められてはまったとあるゲーム。いわゆる〝乙女ゲーム〟の世界観を持つところだった。
ゲームの名前は憶えていないが、登場人物や世界観を覚えていたのが運の尽き。
主人公は悪役令嬢ポジションだったのだ。
「あら……?名前は悪役令嬢ですけれど、いろいろと違いますわね……」
ふとした拍子と高熱に魘されて見た夢で思い出した、自分の前世。それと当時に思い出した、乙女ゲームの内容。
だが、その内容は現実とはかなりゲームとかけ離れていて……。
悪役令嬢の名前を持つ主人公が悪役にならず、山も谷もオチもなく、幸せに暮らす話。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
死んで初めて分かったこと
ルーシャオ
恋愛
ヴィリジアの王女ロザリアは、大国アルデラ王国のエアル王子の婚約者として王城で暮らしていたが、エアル王子には罵倒され遠ざけられ続け、次第に周辺の人々も近づかなくなっていた。
しかし、エアル王子が故郷ヴィリジアを滅ぼしたことをきっかけに、ロザリアは何もかもを諦める。「殿下。あなた様との婚約は、破棄いたします」、そう宣言して、ロザリアは——。
攻略対象の王子様は放置されました
蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる