婚約解消を無かったことにしたい?しませんけど

だましだまし

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優しいに癒やされる

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何日か、澱んだ気持ちだった。

寮の食事は実家と遜色なく美味しいがあまり喉を通らなかった。
心配した友人が遊びに誘ってくれるがいつものように楽しめない。
ショックなのか不安なのか分からないけどとにかく気持ちが沈んでいた。

そんな日々だったので勉強も身が入らず、ある課題をうっかり忘れてしまった。 

「その課題、面倒よね。良い本が図書室にあったわよ。その資料があればまとめて写すだけで済んじゃうわ」
アネリアと仲良しの侯爵令嬢フュリーがそう教えてくれた。

「本当は手伝えればいいんだけど…」
そう口ごもり迷っている。
「本を教えてくれただけでも助かるわ。遅れたら大変よ!楽しんできてね」
フュリーは今日、想い人と約束があるのだ。

前々からとても楽しみにしていたのを知っているのに邪魔など出来ない。
本当は少しでも早く帰っておめかししたいところだろう。

「うん…でもまだ時間があるから少しなら手伝えるわ!一緒に図書室に行きましょ」
何かを決心したようにそう言うではないか。
「だめよ。今日オペラを観に行くのよね?早く部屋に戻ってオシャレしなきゃ!侍女が寮の部屋に来てくれてるんでしょう?待ってるわよ」

本当に優しい友人である。
是非とも想い人である彼と交際に発展してもらいたい。
アネリアを気にかけるフュリーの背をぐいぐい押して心配無用と全力の笑顔で見送った。

そうして自分は図書室に向かう途中でふと気付く。

(リド…コナル様の事が頭から抜けたのと笑顔を作ったの、久しぶりだわ)

まだ名前を呼び捨ててしまいそうになる自分もいるが、笑顔を作れたのが嬉しくて思わず微笑みが浮かぶ。

(フュリーの優しさに感謝ね)

そう思いつつ窓の外を見ると日差しまで優しい、とても良い天気の午後だった。

(フュリー、楽しめると良いわね。早く帰ってオシャレしてくれていいのにいつも優しいんだから…って私は課題をしなくちゃだわ)

微笑みと同時に気持ちも前を向いたらしい。

何故こんな数日かけてするような課題を忘れてしまったのかと自分でも不思議な気持ちになるほど、最近の空虚な感覚が無くなり我に返ったような思いだ。



図書室はほとんど人がいなかった。

天気が良いのと、フュリーも観に行く人気オペラの上演期間だからだろうか。
特にアネリアの学年は面倒な課題の提出が終わったところだからいないというのもあるかもしれない。


教えられた本を集めて課題を進めていくうちに、追加の資料が欲しくなった。

(ちょっと高いところにあるわぁ…)
アネリアは少し小柄なため高いところの本は踏み台を持ってきて取ることになる。
完全に届かないような位置ならば素直に踏み台を取りに行くのだが頑張れば届きそうな、微妙な高さにあるのだ。

(指先は届く…し、このまま取れ…ないか…くっ!)

頑張っていると少しづつ出てくる本。
だがヒョイと誰かがそれを取った。

「はい」
取った、でなく、取ってくれた、である。
「!  ありがとうございます」
優しさが嬉しくてつい少し声が大きくなってしまった。
「本、落ちたら困るから」

そう言いつつ唇に人差し指を当てて静かにと示してくる本を取ってくれた人物は公爵令息のハリス・レーモンドだった。

何故知っているかというと女生徒の中でも人気の公爵令息だから有名なのだ。
今学園にいる公爵令息は彼ともう一人、既に婚約者がいて卒業間近の人しかいない。
そのため玉の輿を狙う人達の一番の狙いは彼だった。

ただ、彼の人柄も有名だ。
誰が頑張ってもスンとした反応しかくれない、と。
そのため一部では彫像の君だなんて言われている。


彫像の君といわれるだけあってハリスは美しかった。
ほんのりカールした美しい銀髪、切れ長のアメジストのような目を縁取る睫毛も長く、まさに人形や彫刻のようだった。

ペコリと頭を下げて席に戻る。
ハリスは図書委員だったようだ。
司書席の近く、委員の席に座った。

遠目でチラリと、もう一度ハリスを観察すると読みかけの本のページをめくっている。

(私が取るのに苦戦していたのに気付いて読書中だったのに助けてくれたんだ…)

『彫像』と、感情を持たない、情が無いなどの揶揄も含まれる二つ名のハリスが助けてくれたのが意外だった。
(優しい人じゃない…)


課題を終え、本を片付けていると再びハリスが傍にやってきた。
「さっきの高い位置の本、とその近くのは私が片付けるよ」
淡々と言い、抱えていた本の半分を取るとさっさと去ってしまう。
「あの!ありがとうございます」
その背に向かって大きくなりすぎない声でお礼を言う。
「委員の仕事だよー」

チラリと振り返ってやはり感情の乗らない言い方で返された。

しかしアネリアにはその無表情が少し微笑んでいるように感じた。
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